原油の景色が1週間で一変した。ブレントは21日に90.41ドル(+1.34%)と、20日に付けた一時91ドル超に続く5週間ぶりの高値圏で推移。月間では+16%と2年超ぶりのペースの上昇になっている。転機は「停戦の死」だ。イランは米国との停戦が「事実上崩壊した」と宣言し、ホルムズ海峡を通航中の商船4隻を拿捕。米軍は17日に「7夜連続」の対イラン攻撃キャンペーン完了を発表した後も攻撃を続け、イラン側もミサイル・ドローンで応酬、米国はイラン港湾の海上封鎖を再開した。さらにイエメンのフーシ派が紅海のサウジ向け海上交通の封鎖を警告し、中東の二大原油動脈が同時に脅かされる構図になっている(基準日2026年7月21日)。
それでも21日の市場が+1%台の上昇にとどまるのは、水面下で外交の糸が切れていないからだ。停戦協議再開の可能性も同時に報じられており、トレーダーは「拡戦」と「再交渉」を天秤にかけている。本稿は①今回の上げの分解②「実質封鎖」の実態③日本の家計・株式への波及——の順で、90ドル台の原油を整理する。
ブレントの1カ月:78ドル→90ドルへの階段
一段ごとに「軍事の見出し」が付いている。needsの相場ではなくfearの相場だ。
出所:Trading Economics(7/21)・CNBC。約1カ月前の水準は月間騰落率からの逆算概数。
「実質封鎖」の実態:船が消えたホルムズ
世界の海上輸送原油の約2割が通るホルムズ海峡は、法的には封鎖されていないが、実態として船が消えつつある。Kplerのデータでは7月12日に確認された通航商船はわずか6隻と5週間ぶりの低水準(単一ソース)、LNG船は7月11日以降通航が確認されていない(同)。拿捕リスクを織り込む戦争保険料は船体価額の約5%へ急騰しており、保険料だけで大型タンカー1隻あたり数百万ドル——「通れるが、通らない」状態だ。86ドル時点で整理した3つの緩衝材(OPEC+の余剰能力・戦略備蓄・迂回パイプライン)は健在だが、緩衝材は「時間を買う」道具であって「価格を戻す」道具ではない。市場が90ドルで止まっているのは、緩衝材への信頼と拡戦への恐怖がちょうど釣り合っている点がそこだからである。
日本への波及:家計・物価・株式の3経路
| 経路 | 何が起きるか | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 家計(ガソリン・電気) | 原油+16%×162円の円安の掛け算で輸入コストは二重に膨張。燃料補助金が小売価格への転嫁を遅らせている | 補助金の延長・拡充の議論。剥落すれば店頭価格へ一気に波及 |
| 物価・日銀 | 企業物価+7.1%の上流圧力がさらに強まる。7/24の全国CPI(コア+1.6%予想)は原油再上昇の反映前 | 日銀会合(7/30-31)の展望レポートがエネルギーをどう語るか |
| 株式 | 21日はINPEXが一時+4%と急落相場からの反発局面で逆行高。資源・商社・海運に物色、電力・空運・化学はコスト逆風 | ブレント90ドル台の定着。定着ならセクター間の格差が拡大 |
マクロの含意は円環する。原油高→米インフレ再燃観測→FRBのタカ派化→ドル高・円安→円建て輸入コスト増→日本のインフレ→日銀への利上げ圧力——金が「金利の人質」になった構図と同じ回路が、原油から出発して日米の中央銀行を順に締め上げる。ゴールドマンが10-12月期の価格見通しを引き上げたのは供給リスクの長期化を織り込み始めた証左であり、8月12日発表の米7月CPI(エネルギーの逆回転が数字に出る最初の月)が、この回路の最初の検証点になる。
チェックリスト:90ドルの次を測る計器
- 拿捕の続報と保険料。4隻で止まるか、常態化するか。戦争保険料の一段の上昇は「実質封鎖」の深化を意味する。
- 紅海のフーシ派。サウジ航路への攻撃が実行されれば、ホルムズ迂回路の一つが同時に閉じる——90ドル台後半シナリオの引き金。
- 停戦協議のヘッドライン。この相場は軍事の見出しで作られた。外交の見出し一本で5ドル下がる往復リスクも同じだけある。
- 燃料補助金と7/24 CPI。家計への波及は「補助金の蓋」の持続力次第。蓋の議論が国会の焦点になる。
- 価格:Trading Economics(ブレント)、CNBC
- 拿捕・封鎖再開:CNBC(タンカー攻撃・許可取消)、Al Jazeera
- 米軍の攻撃完了:共同通信(7/18)、Bloomberg日本版(7/18)
- 東京市場:日本経済新聞(INPEX)
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。軍事・外交情勢は急変し得るため、価格・状況は必ず最新の一次情報で確認されたい。通航隻数・保険料等の一部は単一ソースでありその旨を明記した。数値は2026年7月21日時点。投資判断はご自身の責任で行われたい。
原油はなぜ再び急騰しているのか?
停戦が事実上崩壊したためだ。イランは米国との停戦崩壊を宣言してホルムズ海峡の商船4隻を拿捕し、米軍は7夜連続の攻撃キャンペーン後も攻撃を継続、イラン港湾の海上封鎖も再開した。フーシ派による紅海のサウジ航路封鎖警告も重なり、ブレントは月間+16%の90ドル台へ上昇した。
ホルムズ海峡は封鎖されているのか?
法的な封鎖ではないが実質的に近い状態だ。確認された通航商船は7月12日時点でわずか6隻と5週間ぶりの低水準、LNG船は7月11日以降通航が確認されていない(いずれも単一ソース)。戦争保険料が船体価額の約5%へ急騰し、「通れるが通らない」状態が続いている。
ガソリン価格はすぐ上がるのか?
燃料補助金が小売価格への転嫁を遅らせているため、店頭価格の反応は原油市況より緩やかだ。ただし原油+16%と162円台の円安の掛け算で輸入コストは二重に膨らんでおり、補助金の縮小・剥落があれば一気に波及する。補助金延長の議論が家計にとって最大の確認ポイントになる。
日本株への影響は?
セクターで明暗が分かれる。21日はINPEXが一時+4%と、暴落からの反発相場の中でエネルギー株に物色が向かった。資源・商社・海運が追い風側、電力・空運・化学など燃料コスト比率の高い業種は逆風側だ。ブレント90ドル台が定着するかで格差の拡大度合いが決まる。
原油高は金利や為替にどうつながるか?
原油高→米インフレ再燃観測→FRBのタカ派化→ドル高・円安→輸入コスト増→日本のインフレ→日銀への利上げ圧力、という回路で日米の金融政策を順に締める。7月24日の全国CPIは原油再上昇の反映前であり、8月12日の米7月CPIがこの回路の最初の本格的な検証点になる。
















