オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディング(ASML)は14日、2026年7〜9月期の売上高が過去最高の116億6,200万ユーロだったと発表した。2026年通期の売上高予想は440億〜450億ユーロに引き上げ、2027年と2028年は「現在計画している供給では顧客の需要を満たしきれない」と書いた。発表が伝わったのは日本時間14時ごろである。その前に600円超上げていた日経平均株価は、終値で33円23銭安の6万7,744円29銭と5日続落になり、東京エレクトロンは2.73%安で引けた。まず下の数字を見てほしい。
売上高は1年で1.55倍、10〜12月期はさらに26%増の見通し
ASMLの四半期売上高(億ユーロ)
読み方:最後の棒だけが会社の予想で、142億〜152億ユーロの中央値を描いた。7〜9月期は前年同期の1.55倍、10〜12月期の予想はそこからさらに26%増である。出所:ASMLの各四半期の決算発表資料。
7〜9月期の売上高116億6,200万ユーロは、前年同期の75億1,600万ユーロから55%増え、直前の4〜6月期(93億2,600万ユーロ)からも25%増えた。会社が7月に示していた予想は110億〜120億ユーロで、その上半分に入った。売上総利益率は57.5%と、予想の55〜57%を上回った。純利益は49億6,000万ユーロで、前年同期の21億2,500万ユーロの2.3倍になった。会社は利益率が予想を上回った理由として、保守・改造など据え付け済み装置向けの売上高(32億8,900万ユーロ)が予想より多かったことを挙げている。
伸びはここで止まらない見通しだ。10〜12月期の売上高予想は142億〜152億ユーロで、中央値の147億ユーロは7〜9月期の26%増にあたる。売上総利益率は57%前後を見込む。7〜9月期には約41億ユーロの自社株買いを実施した(4〜6月期は約11億ユーロ)。1株1.88ユーロの中間配当を11月4日に支払う。
通期予想は年初の340億〜390億ユーロから440億〜450億ユーロへ
ASMLの2026年通期売上高予想の推移(中央値、億ユーロ)
読み方:棒は予想の幅の中央値。年初の365億ユーロから445億ユーロへ80億ユーロ上がった。今回の予想は2025年実績の35〜38%増にあたる。出所:ASMLの2025年10〜12月期、2026年4〜6月期、7〜9月期の決算発表資料。
1月の時点でASMLは、2026年の売上高を340億〜390億ユーロと見込んでいた。7月に430億〜450億ユーロへ引き上げ、今回は下限を440億ユーロに上げて幅を狭めた。中央値で比べると、年初の365億ユーロから445億ユーロへ80億ユーロ増えたことになる。2025年の実績は326億6,700万ユーロなので、今回の予想は前年比35〜38%の増収を意味する。
注意したいのは、1年前まで発表資料に載っていた四半期ごとの受注額(ネット・ブッキング)が、4〜6月期と7〜9月期の発表資料の表には見当たらないことだ。2025年10〜12月期の受注額は131億5,800万ユーロ、2025年末の受注残は387億9,700万ユーロだった。今回の需要の強さは、受注の勢いは今年、四半期を追うごとに強まっているというフーケ最高経営責任者(CEO)の説明と、供給が足りないという見通しで示されている。数字ではなく言葉で語られた需要である。
「2027年も2028年も足りない」が意味すること
ASMLは7月の時点で、2026年に年65台前後とする低NA(開口数)のEUV露光装置の生産能力を2027年に30%増やす計画を示し、2028年にもさらに30%の上積みを検討するとしていた。液浸のDUV露光装置も年130台前後から同じく30%増やす計画だった。今回の発表は、この計画でも2027年と2028年の需要に届かないと述べ、2028年の能力をさらに積み増す方法を探っているとした。一部の顧客は2029年、さらに2030年分の発注にも関心を示しているという。ただし、これは「関心」であり、確定した受注ではない。
フーケ氏は、顧客が需要見通しを引き上げた主な理由を、AI関連投資の規模と期間についての見方の変化だと説明した。露光装置は半導体工場の中でも最も高価で、最も納期の長い装置である。それが足りないということは、顧客の工場の立ち上げ時期そのものがASMLの出荷ペースに縛られうるということでもある。強い需要の証拠であると同時に、ほかの装置メーカーの売上の伸びにも上限をかけうる話だ。
東京の後場、14時から何が起きたか
10月14日の東京市場とASMLの発表(日本時間)
読み方:日経平均は高値から終値までに664円下げた。ASMLの発表は後場の下げのきっかけのひとつだが、米CPIを控えた手じまいも重なっている。出所:株探(指数の時刻と値)、日本経済新聞(14時の値動き)、ASML。
14日の日経平均は前日の大幅安から反発して始まり、13時31分に6万8,408円14銭(前日比630円高)の高値を付けた。日本経済新聞によれば、14時ごろにASMLの決算が伝わるとレーザーテックや東京エレクトロンなど一部の関連銘柄が下落に転じ、指数にも影響した。日経平均は15時05分に6万7,533円10銭まで下げ、終値は33円安。TOPIXも0.34%安の4,096.78で引けた。前日に1,253円下げた流れを止めきれず、5日続落となった。
ただ、後場の下げをすべてASMLのせいにするのは正確ではない。今夜21時30分には米国の9月の消費者物価指数(CPI)の発表を控えていた。半導体株には、国際通貨基金(IMF)が13日に示したAI投資の調整リスクへの警告や、中国メモリー大手の新型DRAMの報道で、すでに売りが出ていた。ASMLの決算は、その上に置かれた材料のひとつである。
装置株は軒並み安、アドバンテストは横ばい
14日の終値の騰落率(前日比)
読み方:前工程の装置株は2%前後の下げにそろった。後工程の検査装置のアドバンテストは横ばいで、指数への影響は小さかった。出所:株探(14日15時30分の終値)。
終値で見ると、露光の前後の工程を担う装置株の下げが目立った。東京エレクトロンは315円安の1万1,240円(2.73%安)、コクサイエレクトリックは2.30%安、SCREENホールディングスは2.13%安、レーザーテックは720円安の4万5,370円(1.56%安)だった。日刊工業新聞の報道によれば、東京エレクトロンはEUV露光装置と組み合わせて使う塗布現像装置(コータ・デベロッパ)で100%のシェアを握る。レーザーテックはEUV向けのマスク検査装置を手がける。ASMLの出荷台数は、両社にとって需要の物差しになる。
一方、検査装置のアドバンテストは20円安のほぼ横ばいだった。メモリーのキオクシアホールディングスは3.23%安と、装置株より大きく下げている。東京エレクトロンの終値は、Yahoo!ファイナンスの日足で見て10月6日の1万2,805円から5営業日で12.2%下げ、52週高値の1万6,252円からは30.8%下にある。ASML自身もアムステルダム市場で13日に4.20%安の1,509.60ユーロで引けており、決算への市場の反応は日本時間16時の取引開始以降に出る。
3つのシナリオ
| シナリオ | 何が起きるか | 確かめる材料 |
|---|---|---|
| 強気 | 今夜の説明会で2027年の売上高の目安や増産の具体策が示され、「供給不足=需要の確かさ」と受け止められる。東京の装置株は今回の下げを取り戻す | 日本時間22時からの説明会で、2027年の成長率や2028年の能力の数字が出るか。米国市場でのASML株の終値 |
| 基本 | 決算は良いが受注額の数字がないため、需要の強さは確認しきれない。装置株は米金利とAI投資をめぐる報道に振られる展開が続く | 今夜の米9月CPI、米長期金利。主要顧客の設備投資計画の更新 |
| 弱気 | 「供給が足りない」が、顧客の工場立ち上げの遅れや装置全体の出荷の頭打ちと読まれる。AI投資の調整懸念と重なり、装置株の下げが続く | 説明会での納期や出荷計画への言及。大手半導体メーカーの設備投資の下方修正の有無 |
個人投資家のためのチェックリスト
- 今夜は材料が2つ重なる。21時30分に米9月CPI、22時にASMLの説明会がある。明日の東京の装置株は、両方の結果を織り込んで始まる。
- 「関心」と「受注」を区別する。2029〜2030年分は顧客が関心を示した段階で、受注額としては開示されていない。
- 供給不足は両刃である。需要の強さを示す一方、顧客の工場の立ち上げ時期を縛りうる。露光以外の装置の出荷ペースにも影響しうる。
- 銘柄ごとの差を見る。14日は前工程の装置株が2%前後下げたが、アドバンテストは横ばいだった。ひとくくりに「半導体株」とせず、どの工程の装置かを確かめたい。
- 52週高値と最高値は別物である。東京エレクトロンの1万6,252円は52週高値で、上場来高値ではない。下落率の物差しを取り違えないようにしたい。
半導体株が売られた背景は、IMFがAIの調整リスクを指摘した記事と、中国CXMTの新型DRAMとメモリー株安の記事で扱った。7月の決算でも好業績のASMLとTSMCの株価が下げた経緯はこの記事にまとめている。今夜の米CPIの読み方はこちら。
主な参照
- 2026年7〜9月期決算(2026年10月14日、日本時間14時)/ASML、同文の配信/Yahoo Finance
- 2026年4〜6月期決算と7〜9月期予想、生産能力の計画(2026年7月15日)/ASML(米証券取引委員会への提出資料)
- 2025年10〜12月期・通期決算と2026年の当初予想、受注額・受注残(2026年1月28日)/ASML(同)
- 2025年7〜9月期決算/ASML(同)
- 14日の後場の値動きとASML決算の影響(14時18分)/日本経済新聞
- 日経平均・TOPIX・個別銘柄の始値・高値・安値・終値(14日15時30分)/株探、日足終値/Yahoo!ファイナンス
- 東京エレクトロンのEUV向けコータ・デベロッパのシェア/ニュースイッチ(日刊工業新聞)
データ基準日:2026年10月14日15時30分(日本時間)の東京市場終値。ASMLの株価は10月13日のアムステルダム市場終値。ASMLの決算発表後のアムステルダム・米国市場での株価の反応は、本記事の執筆時点では反映していない。アナリスト予想の平均は集計元によって数字が大きく異なるため、本記事では会社自身の予想との比較のみを示した。「受注の勢い」「2029〜2030年分への関心」はASMLの説明であり、受注額は開示されていない。後場の下げとASML決算の関係は日本経済新聞の報道に基づき、ほかの要因も重なっている。東京エレクトロンのシェアは報道によるもので、会社の開示資料では確認していない。シナリオは本誌の整理であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













