2025年11月、米国のイーサリアム現物ETFから1カ月で14億2,360万ドルが流出した。当時としては上場以来最大の資金流出で、月末のイーサリアムは2,992ドル。月初から22.2%下げていた。「売りは出尽くした」という声もあったが、価格が底を打ったのは7カ月後の2026年6月で、安値は1,507ドルだった。
1年後のきょう、同じ記録が塗り替えられた。SoSoValueの集計を引用したトークンポストの報道によると、2026年10月の流出額は16億720万ドルで、2025年11月を上回る月間最大となった。イーサリアムの10月の下落率は16.1%で、ビットコインの7.3%の2倍を超える。11月3日の米東部時間8時45分(日本時間22時45分)時点の価格は2,291ドル。記録的な流出は、底が近い合図なのか、それとも長い下げの入り口なのか。前回の記録を鏡にして考える。
2025年11月と2026年10月、何が同じで何が違うか
二つの月を並べると、似ているのは流出の規模と下落率だけだ。価格の水準も、その前に何が起きていたかも大きく違う。
| 項目 | 2025年11月(前回の記録) | 2026年10月(今回) |
|---|---|---|
| 現物ETFの月間純流出 | 14億2,360万ドル | 16億720万ドル |
| 月間の値動き | 3,847ドル→2,992ドル(−22.2%) | 2,684ドル→2,253ドル(−16.1%) |
| その前の局面 | 4,700ドル台の高値圏から下げ始めた直後 | 6月の1,507ドルから9月の2,805ドルまで86%上げた後 |
| 月中の安値 | 2,627ドル | 2,173ドル(10月30日) |
| ビットコインの同月の値動き | −17.5%(イーサリアムの約0.8倍) | −7.3%(イーサリアムの半分以下) |
| 上場来の累計純流入 | 報道なし | 123億1,630万ドル(10月30日時点) |
同じ点は、ETFという「買い持ちの器」から大口の資金が逃げたことだ。今回はブラックロックの「iシェアーズ・イーサリアム・トラスト(ETHA)」が流出の大半を占めたと複数のメディアが伝えている。
違う点のほうが重い。2025年11月は、4,700ドル台の高値から崩れ始めた最初の大きな月だった。今回は、1,500ドル台から2,800ドル台まで86%上げた反発局面が終わった月にあたる。前回は高値圏からの最初の売り、今回は戻り局面の利益確定と損切りが重なった売りである。
当時、その後に起きたこと
前回の記録的流出の後を月ごとにたどると、「出尽くし」は来なかった。12月は0.8%安とほぼ横ばいで、ここで底入れを期待した投資家は多かったはずだ。だが2026年1月に17.6%、2月に19.6%下げた。3月と4月に7%ずつ戻した後、5月に11.2%、6月に21.7%下げ、6月に1,507ドルの安値を付けた。2025年11月末の2,992ドルからは49.6%安である。
イーサリアムの月末値(2025年10月〜2026年10月、ドル)
読み方:前回の記録的流出(2025年11月)の後、月末値はさらに7カ月下げ続けた。6月の月中安値は1,507ドル。今回の記録(2026年10月)は、86%反発した後の最初の大きな下げで出た。出所:Yahoo Financeの月次データ(UTC月末)。
前回の記録的流出の後、月ごとの騰落率(%)
読み方:12月の小動きの後に大きな下げが2カ月続いた。底は記録の7カ月後。出所:Yahoo Financeの月次データから本誌計算。
当時の教訓は単純だ。ETFからの記録的な流出は、売りの終わりを示す信号として機能しなかった。流出は「価格が下がったから売られた」結果でもあり、価格の先行きを示す材料にはなりにくい。底は流出の記録とは別のところ、つまり新たな買い手が現れた時点で付いた。2026年7〜8月の反発は、流出が止まったからではなく、価格が下がりきった後に買いが戻ったことで始まっている。
「今回は違う」論を検証する
今回は違う、という主張には二つの根拠が考えられる。一つ目は値位置だ。今回の起点は2,684ドルで、前回の3,847ドルより3割ほど低い。すでに一度1,507ドルまで下げた後の相場であり、高値づかみの残高は前回より少ないはずだ、という見方である。
この説明には一理あるが、検証すると弱い。9月21日の高値2,805ドル近くで買った資金は、現在の2,291ドルで18%の含み損を抱えている。6月以降の反発で入った資金も、その一部は含み益を失い始めている。値位置が低いことは、売り手がいないことを意味しない。
二つ目は、ETF全体ではまだ資金が残っていることだ。上場来の累計純流入は10月30日時点で123億1,630万ドルあり、9月末の約139億ドルからは減ったものの、プラス圏にある。器の中にはまだ大きな資金が残っている。ただし、これは裏を返せば、まだ流出し得る資金が残っているということでもある。報道によると、11月2日まで6営業日連続の流出が続いた。
違いとして確かなのは、ビットコインとの差である。2025年11月はイーサリアム22.2%安に対しビットコイン17.5%安で、差は小さかった。今回の10月はイーサリアムが16.1%、ビットコインが7.3%で、下落率は2倍を超える。ビットコインに対するイーサリアムの比率(ETH/BTC)は、9月末の0.0321から10月末の0.0291へ約9%下がった。暗号資産全体からの資金流出というより、イーサリアムが選ばれて売られている。この構造はETH/BTC比率の解説で扱った問題が、今も解決していないことを示す。
歴史が示す3つの教訓
- 記録的流出は底の合図ではない。2025年11月の記録の後、イーサリアムはさらに5割下げた。今回も「記録=出尽くし」と決めつけない。
- 流出が止まる前に価格は止まる。2026年6月の底は、資金流出が止まったことを確かめてから付いたわけではない。流出統計は遅れて動く。
- 横ばいの1カ月は罠になり得る。前回は12月の0.8%安で落ち着いたように見えた後、1〜2月に大きく下げた。11月が静かでも安心材料にはならない。
ただし、韻と反復は区別したい。前回の下げが5割に達したのは、4,000ドル台からの調整という長い下げの序盤だったからでもある。今回の起点はすでに安く、同じ率で下げると考える根拠はない。歴史が教えるのは下げ幅ではなく、「流出の記録を底値の根拠にしない」という姿勢である。
11月末までの3つの筋書き
本誌は11月末までの筋書きを次の3つとみる。確率は本誌の見立てで、前回の推移と現在の値位置から置いた。
| 筋書き | 確率 | 11月末の価格帯 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 下値試し(前回型) | 40% | 2,000ドル前後 | 10月30日の安値2,173ドルを割り込み、ETF流出が続く |
| 持ち合い | 40% | 2,150〜2,450ドル | 流出は細るが買い手も戻らず、ビットコイン次第の展開 |
| 戻り | 20% | 2,450ドル超 | ETFが純流入に転じ、ETH/BTC比率が0.031台を回復 |
下値試しを40%と最も重く見るのは、前回の記録的流出の翌々月から下げが加速したことに加え、今回はビットコインに対しても負けているからだ。逆に、2,173ドルを割らずに11月の半ばを越え、ETFの日次統計で流入の日が増えてくれば、持ち合いの確率を上げる。下値の見方は10月27日の見通し記事で2,100ドルとしていたが、10月30日に2,173ドルまで下げ、そこに近づいている。
今回固有の監視点
- 2,173ドル。10月30日の安値。終値で割り込めば、下値試しの筋書きが本線になる。
- ETFの日次流出入。連続流出が途切れ、流入の日が週に2日以上出てくるかどうか。
- ETH/BTC比率0.029。10月末の水準。これを割り込むと、イーサリアムだけが売られる構図が続いていることになる。
- 取引所の流出事件。バイナンスやメルカド・ビットコインの不正流出を受けた資金の動きは、けさのビットコイン速報で整理した。追加の事件が出れば、暗号資産全体のリスク回避が強まる。
- 米中間選挙の結果。開票は日本時間4日朝から。暗号資産の規制方針に関わるため、結果次第で値動きが荒くなり得る。
日本の個人投資家が国内の取引所でイーサリアムを持つ場合、円建ての価格はドル円の動きも受ける。ドル円が158円前後にある今、円建てでは1ETHあたりおよそ36万円になる。ドル建ての下値試しと円高が重なると、円建ての下げは大きくなる点にも注意したい。
主な参照
- 米イーサリアム現物ETFの10月の純流出額と前回記録/トークンポスト(SoSoValueの集計を引用、11月2日)
- 10月の流出とETHAの比率/クリプトポリタン
- 10月の流出額の途中経過/コインテレグラフ
- イーサリアムとビットコインの月次・日次価格/Yahoo Finance
- 現在値の照合(11月3日22時46分=日本時間)/コインベース
データ基準日:2026年11月3日(日本時間22時45分)。イーサリアムとビットコインの価格は24時間取引の時点値で、終値ではない。月次の値はYahoo Financeの月末値(UTC基準)。ETFの資金流出入はSoSoValueの集計を報じたトークンポストなどの報道によるもので、本誌は各ETFの発行体の開示と照合していない。11月2日までの連続流出は報じられている内容であり、本誌では確認していない。9月末の累計純流入(約139億ドル)も報道ベースの数値。筋書きの確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではない。暗号資産は価格変動が大きく、元本を失うおそれがある。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














