市場はこう信じている——AI投資の回収に疑いが出た以上、AMDの決算は数字が良くても売られる。株価は10月28日の578.44ドルから11月2日の466.84ドルまで、3営業日で19.3%下げた。10月6日の終値の最高値649.42ドルからは28.1%安である。その状態で、AMDは11月3日の米国の大引け後に7〜9月期決算を発表する。
だが、本当か。今日はこの通説を尋問する。証拠は3つある。株価が下げた理由、会社の見通しと市場予想の距離、そしてオプション市場が値付けしている変動幅である。
尋問1:3日で19%の下げは、AMD自身の数字のせいか
証拠を見よう。下げの内訳は、10月29日が2.08%安、30日が10.88%安、11月2日が7.52%安である。30日の急落は、インテルが市場予想を下回る売上見通しを示した直後で、インテル自身はこの日に28%を超えて下げた。半導体株指数(SOX)も7.20%安だった。11月2日にはマーベル・テクノロジーが光通信のルメンタム買収を発表して12.72%安となり、ナスダック100は10月6日の最高値から10.4%下げて調整局面に入った。
この間、AMD自身は業績見通しを変えていない。新しい悪材料を出したのは他社である。つまり3日間の下げの大部分は、セクター全体の持ち高を減らす売りと読むのが自然だ。この説明には穴がある、という反論もありうる。インテルの弱い見通しは、AMDのパソコン向けCPUの需要にも同じ影を落とすからだ。公平のために言えば、その点は通説の側に分がある。
ただし、AMDの売上の柱はすでにパソコンではない。4〜6月期の売上高115億3,600万ドルのうち、データセンター部門が67億ドルで前年同期比107%増、全体の58%を占めた。クライアント部門は31億ドルで23%増、ゲーム部門は7億7,900万ドルで31%減である。インテルの見通しが直接響くのは、売上の3割に満たない部分にとどまる。
尋問2:市場予想は、会社の見通しより高すぎるか
AMDは8月4日、7〜9月期の売上高を約130億ドル(上下3億ドル)と見通した。中央値で前年同期比約41%増、前四半期比約13%増である。非GAAPの粗利益率は約56%とした。これに対し、市場予想は売上高131億ドル前後、調整後1株利益1.94〜1.95ドルに集まっている。予想は会社の中央値を1%弱上回るだけで、上限の133億ドルには届かない。
前の四半期と比べよう。AMDは5月に4〜6月期の売上高を約112億ドル(上下3億ドル)と見通し、実績は115億3,600万ドルだった。中央値を3.0%上回り、見通しの上限も超えている。同じ幅で上振れすれば、7〜9月期の売上高は約134億ドルになる計算だ。市場予想の131億ドルは、この実績から見て高すぎる水準ではない。
だが、ここで通説側の再反論が効いてくる。8月4日の決算は上限超えの売上だったにもかかわらず、翌5日の株価は7.04%下げた。数字が予想を上回っても売られることは、この半年で実際に起きている。問われるのは7〜9月期の実績よりも、10〜12月期の見通しと、データセンター部門が「下期に加速する」という会社の説明が数字で確認できるかどうかである。
尋問3:オプション市場は、変動を小さく見積もっていないか
AMD:過去4回の決算翌日の騰落率と、今回オプションが示す変動幅(%)
読み方:上の4本が実際の決算翌日の動き、下の3本が今回の比較対象である。過去4回の絶対値の平均は11.37%で、オプションが示す約9%を上回る。決算前の3日間だけで株価は19.30%下げた。出所:stockanalysis.comの終値から本誌計算、変動幅はTipRanks(11月2日付)。
オプション市場が示す決算後の変動幅は、TipRanksの集計で上下約8.95%、CMEグループの解説では10月30日時点で約8.6%である。一方、過去4回の決算翌日の値動きは、2025年11月が2.51%高、2026年2月が17.31%安、5月が18.61%高、8月が7.04%安だった。絶対値の平均は11.37%で、オプションが示す幅を上回る。4回のうち2回は15%を超えて動いている。
この証拠は通説を直接は否定しない。だが、通説が見落としている点を示している。オプション市場は「下げる」とは値付けしていない。値付けしているのは「大きく動く」ことであり、方向ではない。しかも直近3日の19%の下げで、株価はすでに過去の決算で1回分の変動に相当する幅を先に動いた。売られると決めつけるには、すでに売られすぎている可能性がある。
アナリストの見方も割れている。モルガン・スタンレーは投資判断を中立に据え置いたまま、目標株価を465ドルから510ドルに引き上げた。BMOキャピタルは買いで、目標株価は550ドルである。どちらも2日の終値を上回る。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 3日の下げはAMD自身の悪材料による | 死亡 | 見通しの変更はない。下げはインテルの見通しとマーベルの買収発表の日に集中 |
| インテルの弱さはAMDにも響く | 重傷 | 響くのはパソコン向け。データセンターが売上の58%で、影響は限定的 |
| 市場予想が高すぎる | 死亡 | 予想131億ドルは会社の中央値を1%弱上回るだけ。前期は中央値を3.0%上回った |
| 上振れでも売られることがある | 生存 | 8月は見通しの上限を超えたが、翌日7.04%安 |
| オプションは下げを織り込んでいる | 死亡 | 値付けは方向でなく変動幅。約9%は過去4回の平均11.37%より小さい |
評決
通説は、半分以上が崩れた。
3日間の下げはAMD自身の数字が原因ではなく、市場予想も会社の見通しから無理のない距離にある。生き残ったのは「上振れでも売られることがある」という一点だけだ。ただしその一点は軽くない。8月がそうだったように、焦点は7〜9月期の実績ではなく10〜12月期の見通しに移っている。
本誌は決算翌日4日の値動きを次のように見る。5%を超える上昇が40%、上下5%以内が25%、5%を超える下落が35%である。わずかに上昇側へ傾けたのは、決算前の3日間で19%下げ、期待のハードルがすでに下がっているためだ。下落側の35%は、10〜12月期の見通しがデータセンター部門の加速を示せなかった場合の確率である。どちらに転んでも、動きの大きさはオプションが示す約9%に近いか、それを上回るとみる。
なお米国は11月1日に夏時間が終わり、日本との時差は14時間に広がった。米東部時間17時に始まる決算説明会は、日本時間では4日午前7時になる。ほかの決算や経済指標の発表時刻を自分で換算するなら、タイムゾーン変換ツールが手早い。
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- 売上高が会社の中央値130億ドルを下回ったら。前期の3.0%上振れが続かなかったことになり、通説の「数字の弱さ」が復活する。
- データセンター部門の伸びが4〜6月期の107%から大きく鈍ったら。会社の言う下期の加速が確認できず、下落側の確率は高まる。
- 非GAAPの粗利益率が56%を下回ったら。AI向け製品の値引きや構成の悪化を疑う声が強まる。
- 3日の米国市場で半導体株指数がさらに大きく下げたら。決算の中身とは別に、セクターの売りが値動きを支配する。
日本の読者にとっての接点も記しておく。AMDの決算は、東京の現物市場が文化の日の休場から再開する4日の朝に届く。東京エレクトロンやアドバンテストなど装置株への波及は東京再開の宿題の記事で、今週のほかの決算は今週の決算の予習で扱った。
主な参照
- 4〜6月期決算と7〜9月期の見通し(8月4日発表)/米証券取引委員会への提出書類
- 1〜3月期決算と4〜6月期の見通し(5月5日発表)/米証券取引委員会への提出書類
- 7〜9月期決算の発表日と説明会の時刻/AMD
- 株価の日足終値/stockanalysis.com
- オプションが示す変動幅、アナリストの目標株価、市場予想/TipRanks
- 変動幅(10月30日時点)と見通しの整理/CMEグループ
- 市場予想(売上高・1株利益)/MarketBeat
- ナスダック100の調整入りと半導体株の下落/TheStreet
データ基準日:2026年11月3日(日本時間16時)。株価は11月2日の米国の終値で、決算発表後の値動きは反映していない。過去4回の決算翌日の騰落率は、発表日の終値と翌営業日の終値から本誌が計算した。市場予想とオプションの変動幅は調査会社ごとに差がある。評決の確率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














