原油が1日で7%を超えて下げれば、産油国カナダの通貨は売られる。教科書どおりならそうなる。だが11月2日、カナダ銀行(中央銀行)が公表した米ドル・カナダドルの参照レートは1.3978カナダドルで、前営業日の1.3960カナダドルからほとんど動かなかった。まず下の4つの数字を見てほしい。カナダドルを支えているのは原油ではなく、金利差である。
1枚目:原油が崩れても、カナダドルは崩れなかった
CNBCによると、米国産標準油種WTIは11月2日に7.4%安の1バレル96.46ドルで取引を終えた。北海ブレントも7.6%下げた。米国とイランの戦争終結に向けた合意案の草稿が回覧されていると伝わり、10月に積み上がった戦争リスク分の上乗せが一気にはがれた。原油の値動きの詳細はOPECプラスの記事などで追っている。
米ドル・カナダドルの参照レート(2026年10月1日〜11月2日)
読み方:線が下がるほどカナダドル高。10月9日を天井に下げ続け、原油が急落した11月2日もほとんど戻っていない。出所:カナダ銀行の日次参照レート。
カナダ銀行の参照レートで見ると、米ドル・カナダドルは10月9日の1.4271カナダドルを天井に下げ続け、10月30日には1.3960カナダドルまで下がった。カナダドル高・米ドル安の流れである。10月9日の水準は、過去1年の参照レートでも最も高い。原油が急落した11月2日も、この流れは崩れていない。
2枚目:金利差が縮むと、カナダドルが買われる
米国とカナダの2年債利回り差(ポイント)
読み方:差が縮むほど、米ドルを持つ利点が小さくなる。3週間で0.34ポイント縮み、同じ期間に米ドル・カナダドルは1.4271から1.3960へ下げた。出所:米財務省、カナダ銀行の公表値から本誌計算。
10月の下げを説明するのは金利差である。米財務省とカナダ銀行のデータで2年債利回りの差を取ると、10月9日は1.62ポイント(米国4.80%、カナダ3.18%)だった。10月30日には1.28ポイント(米国4.56%、カナダ3.28%)まで縮んでいる。米国の金利が下がり、カナダの金利が上がった。米ドルを持つ利点がその分だけ小さくなった。
カナダの金利を押し上げたのは中央銀行である。カナダ銀行は10月28日、政策金利を0.25%引き上げて2.5%とした。声明では、物価上昇率が4月以降およそ3%で推移し、年末には約3.5%に達すると見込んだ。そのうえで「政策金利をさらに引き上げる必要が生じる可能性がある」と書いた。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は同じ日に政策金利を3.75〜4.00%で据え置いている。
3枚目:原油安は、カナダの利上げ理由も削る
ここに今回の原油安の二面性がある。カナダ銀行の声明は、利上げの理由として「高止まりするエネルギー価格」が物価上昇を長引かせることを挙げていた。原油が下がれば、その理由が弱まる。つまり原油安は、輸出代金の減少という直接の経路と、追加利上げ観測の後退という間接の経路の2つで、カナダドルの重しになりうる。
ただし、どちらの経路も1日では効かない。輸出代金は原油安が続いて初めて減る。利上げ観測は、次の物価統計や中央銀行の発言を見て修正される。11月2日にカナダドルが崩れなかったのは、市場がまだ1日の急落を「続く原油安」とは見ていないことの表れと読める。
図の読み方のまとめ:原油が7%下げた日も、米ドル・カナダドルは0.1%しか動いていない。10月の動きを決めたのは2年債の金利差で、この差が縮む限りカナダドル高の流れは続く。原油安が効いてくるのは、それがカナダの利上げ観測を削り始めたときである。
4枚目:注目の水準
米ドル・カナダドルの注目水準(カナダ銀行参照レート)
読み方:1.3960を割ればカナダドル高の継続、1.4050を上回って定着すればカナダドル高の流れは終わったと見る。出所:カナダ銀行の参照レート。1.4050は本誌が置いた見直しの線。11月2日は1.3978で、直近の安値のすぐ上にある。
下の節目は10月30日の1.3960カナダドルである。ここを割り込めば、金利差の縮小が原油安に勝ち続けていることになる。その下には、過去1年の最低だった1月29日の1.3515カナダドルがある。上の節目は心理的な1.40カナダドルと、10月9日の1.4271カナダドルだ。
短期・中期の見通し
| 期間 | シナリオ | 確率 | 米ドル・カナダドルの目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|---|
| 短期(1〜2週間) | もみ合い | 55% | 1.39〜1.41 | 原油が100ドル前後で落ち着き、金利差も横ばい |
| 短期(1〜2週間) | カナダドル高が続く | 25% | 1.38台 | 米雇用統計が弱く、米金利がさらに低下 |
| 短期(1〜2週間) | カナダドル安に反転 | 20% | 1.41超 | 原油安が続き、カナダの追加利上げ観測が後退 |
| 中期(12月9日のカナダ銀行会合まで) | 中心シナリオ | 60% | 1.37〜1.42 | カナダ銀行が追加利上げの可能性を残すかどうか |
中心をもみ合いに置くのは、2つの力が拮抗しているからである。金利差の縮小はカナダドル高、原油安はカナダドル安に働く。どちらが勝つかは、原油安が続くかどうかで決まる。合意案の行方は不透明で、イラン側は制裁と海上封鎖の解除を条件に挙げている。原油が戻れば、カナダドル安の筋書きは消える。
今週のチェックリスト
- 11月3日:米中間選挙。選挙後に対イラン攻撃の観測が出れば、原油が戻り、カナダドル安の筋書きは後退する。
- 11月4日:米供給管理協会(ISM)の非製造業景況感指数。2日の製造業は55.5と強かった。米金利の方向を左右する。
- 11月6日:米雇用統計(10月)。米2年債利回りが動けば、金利差の線がそのまま動く。
- 毎日:カナダの2年債利回り。原油安でカナダの利上げ観測が後退すると、ここに最初に表れる。
- 12月9日:カナダ銀行の次回会合。追加利上げの有無が、中期の方向を決める。
日本の投資家にとって、カナダドルは高金利通貨の一つとして円との組み合わせで取引されることが多い。円から見たカナダドルの値動きは、米ドル・カナダドルとドル円の掛け算で決まる。ドル円の見方はドル円見通しの記事に、豪ドルの利上げ観測は豪ドルの記事にまとめた。海外の取引業者の選び方はFX解説ページで扱っている。
主な参照
- 米ドル・カナダドルの参照レート、カナダ2年債利回り/カナダ銀行
- 政策金利の引き上げと声明(10月28日)/カナダ銀行
- 米2年債利回り/米財務省
- FOMCの決定(10月28日)/米連邦準備制度理事会
- 原油の清算値と合意案の報道(11月2日)/CNBC
- 今週の米国の経済指標の日程/コインデスク
データ基準日:米ドル・カナダドルはカナダ銀行の参照レート(2026年11月2日公表分)、利回りは10月30日までの終値ベースの公表値、原油は11月2日の清算値。取引時間中の値ではない。カナダ銀行の参照レートは1日1本の指標値で、市場の実勢値とは差がある。11月2日のカナダ2年債利回りは本稿の執筆時点で未公表のため、金利差は10月30日までで比べた。金利差は本誌が両国の公表値から計算した。見通しの確率は本誌の判断である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














