2013年4月15日、金は1日でおよそ9%下げた。ブルームバーグは1983年以来の大幅安と伝え、ロイターはドル建ての下げ幅として過去最大と報じた。12年続いた上げ相場が終わった日として、この日は今も語られる。それから13年。2026年10月30日、金のスポット価格は一時3,870ドル前後まで下げ、約1年ぶりの安値を付けた。1月29日に付けたロンドン市場の最高値5,405ドル(午後の値決め価格)からは3割近い下げになる。週明け11月2日のニューヨーク先物は小反発したが、市場が問うているのは反発の幅ではない。金の上げ相場は終わったのか、である。
当時と今:鏡に映る点、映らない点
2013年と2026年を並べると、似ている点は金利だ。2013年は米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和の縮小を探り始めた年で、米10年物価連動債の利回り、つまり物価の上昇分を差し引いた実質金利は、4月5日のマイナス0.74%から9月5日のプラス0.92%まで1.66ポイント上がった。利息を生まない金にとって、実質金利の上昇は持つことのコストの上昇である。
2026年も同じ方向に動いている。米財務省のデータでは、10年の実質金利は最高値の1月29日に1.89%だった。10月30日は2.60%で、0.71ポイント高い。FRBは9月に利上げし、10月28日の会合では政策金利を3.75〜4.00%に据え置いたが、2人の委員が追加の利上げを主張した。
| 項目 | 2013年 | 2026年 |
|---|---|---|
| FRBの向き | 量的緩和の縮小を探る | 9月に利上げ。10月は据え置きも利上げ主張が2人 |
| 実質金利(米10年) | −0.74%→+0.92%(4月→9月、+1.66ポイント) | 1.89%→2.60%(1月29日→10月30日、+0.71ポイント) |
| 象徴的な1日 | 4月15日に約9%安(1983年以来) | 10月30日に約3.5%安で1年ぶり安値 |
| 原油 | 大きな供給途絶はなかった | 中東の紛争でWTIは100ドル前後 |
| 下げの引き金 | 緩和縮小への思惑と投資資金の流出 | 利上げ観測に加え、ハイテク株急落に伴う換金売り |
違う点もはっきりしている。2013年の実質金利の上げ幅は今回の2倍を超え、しかもマイナス圏からの浮上だった。今回はすでに高い水準からの上昇で、10月5日の2.95%を天井に、10月30日にかけてはむしろ下がっている。貴金属の情報サイト、キトコは、金利の低下とドル安が金を支えなかった点を指摘し、金と金利の関係が「壊れた」と書いた。今回の下げは、金利だけでは説明しきれない。
当時その後に起きたこと:過去の大きな下げの長さ
金の大きな下げ局面:下落率(%)と期間
読み方:過去の大きな下げは最短でも21カ月続いた。今回は9カ月で3割近く下げており、速さが際立つ。出所:ワールド・ゴールド・カウンシル(月末価格)。2026年は本誌の概算で、基準が異なる。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は、月末の値決め価格を使って過去の大きな下げ局面を整理している。2011年8月の1,814ドルから2015年12月の1,060ドルまでの下げは42%で、52カ月かかった。1980年9月の667ドルから1982年6月の318ドルまでは52%で21カ月。1983年1月からの局面は42%で25カ月だった。1987年11月から1999年8月の局面は48%の下げに12年近くを要している。
今回は1月29日の最高値から9カ月で3割近く下げた。速さは過去の局面を上回る。2013年4月の急落も、2011年の天井から1年半以上たってからの出来事だった。歴史が示すのは、大きな下げ局面は一度の急落で終わらず、年単位で続くことが多いという点である。一方で、今回の下げは過去の局面よりはるかに速い速度で進んだため、時間をかけて削るはずの部分を前倒しで済ませたという見方も成り立つ。
「今回は違う」論の検証
SPDRゴールド・シェアの金保有量(トン)
読み方:夏に底を打った保有量は、10月に再び減り始めた。投資家の資金が戻らない限り、上値は重い。出所:SPDRゴールド・シェア。
「今回は違う」と言う側の最大の根拠は、中央銀行の買いである。WGCによると、4〜6月期の中央銀行の金購入は289トンで、前年同期比62%増えた。8月単月でも39トンを買い、年初からの合計は170トンに達している。2013年当時と比べ、価格に関係なく買い続ける大口の買い手が市場にいる。7〜9月期の統計はまだ公表されていない。
ただし、投資家の資金は逃げている。世界最大の金ETF、SPDRゴールド・シェアの保有量は10月30日に1,041.65トンで、10月の1カ月で14.05トン減った。今年の最大だった2月27日の1,101.33トンからは約60トン少ない。運用会社が公表するこの数字は毎日更新されるため、投資家の動きを最も早く映す。中央銀行の買いが床を作り、投資家の売りが天井を押さえる。これが今回固有の構図である。
円建てで見る:田中貴金属の店頭価格
日本の個人投資家にとっての値段は、円建ての店頭価格である。田中貴金属工業の金の小売価格(税込み、1グラム)は11月2日、前日比536円安の2万2,016円だった。同日9時30分の公表価格2万1,961円は、9時30分の価格として今年最も安い。1月29日に初めて3万円台に乗せた3万248円と比べると、約27%低い。円建ての下げ率は、ドル建てとほぼ同じである。
歴史が示す3つの教訓
- 教訓1:急落の日は底を意味しない。2013年4月15日の9%安の後も、金は同じ年のうちに安値を更新した。10月30日の1年ぶり安値が底と決まったわけではない。
- 教訓2:実質金利の天井が、金の底の目安になる。今回の実質金利は10月5日の2.95%を付けた後に下がっている。この天井が保たれるなら、金を押し下げる力は弱まる。
- 教訓3:下げ局面は年単位で考える。WGCが整理した4つの局面は、最短でも21カ月続いた。短期の反発を、上げ相場への復帰と取り違えないことが大切だ。
今回固有の監視点と筋書き
ニューヨーク金先物の期近物は日本時間11月2日15時41分に1オンス3,915.0ドルで、10月30日の清算値3,898.9ドルから0.41%高い。この日の値幅は3,889〜3,928.1ドルだった。今後1〜2週間について、本誌は3つの筋書きを置く。4,000ドルを回復し、下げ局面の一服を示す筋書きを30%とする。3,850〜4,000ドルでもみ合う筋書きを45%で基本とする。3,850ドルを割り込み、3,800ドルを試す筋書きを25%と見る。キトコによると、ギブトレードのワリード・サイード氏は3,800ドルを試すと見ている。
今週の日程は、日本時間で11月3日0時の米10月ISM製造業景況指数、3日の米中間選挙、6日22時30分の米10月雇用統計である。雇用が強ければ12月8〜9日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測が強まり、金には逆風になる。雇用統計の論点は雇用統計の記事にまとめた。もう一つの監視点は原油だ。キトコによると、ブルーラインフューチャーズのフィリップ・ストライブル氏は「今は原油がインフレだ」と述べている。原油が中東の協議で下がれば、物価と利上げの観測が和らぎ、金には追い風になりうる。4,000ドルの床が割れた経緯は10月30日の記事で検証している。
撤退線を示しておく。終値で4,000ドルを回復すれば、「速い下げが年単位の調整を前倒しした」という見方が強まり、本誌は基本シナリオを上に修正する。3,800ドルを終値で割り込めば、2011〜2015年型の長い下げ局面に入ったと判断する。
主な参照
- 2013年4月15日の急落/ビジネス・スタンダード(ロイター)、ブルームバーグ
- 米10年物価連動債の利回り(2013年・2026年)/米財務省
- 過去の下げ局面の整理、中央銀行の購入/ワールド・ゴールド・カウンシル、4〜6月期の需要動向
- 10月30日の急落と市場関係者の見方/キトコ
- 1年ぶり安値の水準/FX Leaders
- 最高値(ロンドン午後の値決め、1月29日)/田中貴金属工業(月次データ)、SD Bullion
- SPDRゴールド・シェアの保有量/SPDRゴールド・シェア
- 国内の金価格/田中貴金属工業
- FOMCの声明と日程/米連邦準備制度理事会
- 金先物の気配値(11月2日15時41分)/Google Finance
データ基準日:2026年11月2日(日本時間15時41分)。金先物の3,915.0ドルは取引時間中の気配値であり、終値ではない。最高値の5,405ドルはロンドン市場の午後の値決め価格で、取引時間中の最高値は情報源によって5,595〜5,608ドルと幅があるため採用していない。最高値からの下落率はロンドンの値決め価格と先物の気配値を比べた概算である。10月30日の安値3,870ドル前後と下落率3.5%は報道によるもので、時刻は確認できていない。過去の下げ局面はWGCの月末価格に基づき、日中の高値・安値とは異なる。田中貴金属の3万248円は報道に基づく。筋書きの確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












