米エクソンモービルは10月30日、7〜9月期の調整後利益(一時的な損益を除いた利益)が175億ドルだったと発表した。同じ日に米シェブロンと英BPも決算を出し、3社とも市場予想を上回った。ブレント原油は同日の米中部時間午前1時20分(日本時間15時20分)時点で1バレル116.56ドル。中東の緊張で油価が高止まりし、石油メジャーが空前の利益を上げる、という分かりやすい構図に見える。
市場はこう信じている——原油が高い限り、石油メジャーの稼ぎは続く。だから石油株はまだ買える。今日はこの通説を尋問する。証拠は各社の決算資料にある。
通説の最も強い形
公平のために、通説の側の証拠から並べる。エクソンの調整後1株利益は4.23ドルで、ロイターが伝えたLSEG集計の市場予想4.08ドルを上回った。シェブロンの調整後1株利益は5.28ドルで、予想の4.89ドルを上回った。BPの基礎的利益(取替原価ベース)は84.6億ドルで、前年同期の22.1億ドルからほぼ4倍、会社がまとめた市場予想73.3億ドルも超えた。前日に発表した英シェルと仏トタルエナジーズも、調整後利益が前年同期の約2倍に膨らんでいる。
株価も追認している。米株の日足終値で9月30日から10月29日までを比べると、シェブロンが13.3%高、エクソンが12.6%高、BPの米国預託証券(ADR)が14.5%高だった。ここまでは通説に分がある。
尋問1:利益を押し上げたのは原油なのか
だが、本当か。通説は「原油が高いから儲かる」と言う。証拠を見よう。7〜9月期のブレント平均価格は、トタルエナジーズの資料で1バレル97.0ドル。4〜6月期の103.8ドルより下がっている。原油を掘って売る上流部門の利益も、実際に減った。
部門別利益の前四半期比(7〜9月期/4〜6月期)
読み方:原油を掘る上流部門は2社とも減益で、利益を押し上げたのは燃料を作って売る部門だった。エクソンは調整後利益(91億ドル/41億ドル、73億ドル/92億ドル)、シェブロンは部門利益(49.3億/48.7億ドル、57.0億/81.8億ドル)から本誌計算。出所:両社の決算資料。
エクソンの上流部門の調整後利益は73億ドルで、4〜6月期の92億ドルから約21%減った。会社は理由に価格の低下を挙げている。シェブロンの上流部門も81.8億ドルから57.0億ドルに減った。代わりに膨らんだのが、原油を燃料に加工して売る下流部門である。エクソンの燃料・化学品(エナジープロダクツ)部門の調整後利益は91億ドルで、前の四半期の41億ドルから2倍以上になった。BPの精製・トレーディング部門の基礎的利益は前年同期の5.49億ドルから57.3億ドルに跳ね上がった。シェブロンの下流部門は49.3億ドルと前の四半期並みだったが、前年同期の11.4億ドルと比べれば4倍を超える高い水準にある。
この説明には穴がある。7〜9月期の好決算の主役は原油価格ではなく、精製マージン(原油を仕入れて燃料を売る際の差益)だった。BPの精製マージン指標は1バレル46.7ドルで、4〜6月期の29.6ドルから6割近く上がった。トタルエナジーズの欧州精製マージンは33.2ドルで、前年同期の8.4ドルの約4倍である。ホルムズ海峡やサウジアラビアの製油所をめぐる混乱で、原油よりもガソリンや軽油の方が不足しやすくなったことが背景にある。
尋問2:精製の稼ぎは続くのか
利益の源泉が精製なら、次に問うべきは精製マージンの持続性である。精製マージンは原油価格よりも振れが大きい。製油所の停止が解消され、輸送が正常に近づけば、燃料の不足は原油の不足より早く解ける。BPの経営陣は決算発表の場で、足元の精製マージンにやや軟化の兆しがあると述べたとCNBCが報じている。
一方で、原油価格そのものへの見方は大きく割れている。スイスのUBSは10月28日、2026年末のブレント予想を100ドルから110ドルに引き上げた。米シティは9月時点で、2027年のブレントを65ドルと見込んでいた。年末110ドルと来年65ドルという開きは、市場が地政学の行方をまだ値付けできていないことを示す。
ブレント原油:足元の価格と見通し(1バレル、ドル)
読み方:年末110ドルと来年65ドル。銀行の見通しは2倍近く開いており、油価の先行きは地政学次第である。出所:OilPrice.com、トタルエナジーズ、investingLive。
通説側の再反論も記しておく。シェブロンは米国の精製で日量100万バレル超、稼働率98%という記録的な処理量を出したとされる。エクソンも米メキシコ湾岸の製油所がフル稼働だった。マージンが多少下がっても、処理量が多ければ利益の水準は高く保てる。これは正しい。ただし「7〜9月期と同じ伸び」を前提に株価を評価するのは、別の話である。
尋問3:株主への還元は追いついているか
利益が一時的かもしれないなら、各社がそれをどう使うかが株主にとっての本当の答えになる。ここで各社の姿勢ははっきり分かれた。エクソンは7〜9月期に51億ドルの自社株買いを実施し、2027年も200億ドルの自社株買いを計画する。シェルは次の決算までに50億ドルの自社株買いを新たに決めた。シェブロンの自社株買いは25億ドルで、前年同期とほぼ同じだった。
BPは違う道を選んだ。7〜9月期の純ベースの自社株買いはゼロで、余った現金を借金の返済に回した。純有利子負債は6月末の222.5億ドルから138.7億ドルへ、3カ月で約84億ドル減った。好況の利益を「一時的なもの」と見て財務の立て直しに使う判断であり、会社自身が今の稼ぎの持続性に慎重であることを示していると読める。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 石油メジャーの7〜9月期は好決算だった | 生存 | エクソン、シェブロン、BPとも市場予想を上回った |
| 利益を押し上げたのは原油高 | 死亡 | ブレント平均は97.0ドルと前期の103.8ドルから低下。上流の利益は2社とも減益 |
| 精製マージンが利益の主役 | 生存 | エクソンの燃料部門は前期比2倍超。BPの精製マージン指標は46.7ドル |
| 高い利益は来期以降も同じペースで続く | 重傷 | 精製マージンは振れが大きく、BP経営陣も軟化の兆しに言及したと報じられている |
| 利益は株主に十分還元される | 会社次第 | エクソン・シェルは増額、BPは自社株買いゼロで借金返済を優先 |
評決
通説は、前提の半分が入れ替わっている。石油メジャーが今稼いでいるのは事実だが、その稼ぎの主役は原油ではなく精製であり、精製は原油よりも早く平常に戻り得る。本誌の評決は、10〜12月期の利益が高水準を保つ確率を65%とみる一方、7〜9月期のような前期比での大幅増益が続く確率は30%にとどまるとみる。評決は慎重側に6割傾いた。
実務的には、原油価格のニュースだけを見て石油株を追うのは危うい。見るべきは精製マージンと、各社の還元の約束である。来年分まで自社株買いの額を示したエクソンと、借金返済を優先したBPとでは、マージンが落ちたときの株価の下支えが違う。10月26日の決算前の展望記事で精製が焦点になると書いたが、その見立ては決算で裏付けられた。
日本の投資家への接点
東京市場の石油株は、米欧のメジャーほど上がっていない。10月30日の終値を9月30日と比べると、原油・ガス開発のINPEXは10.9%高だが、ENEOSホールディングスは3.0%高、出光興産は4.7%安だった。精製で稼ぐ構図が日本の石油元売りには同じようには表れていない。ガソリンの小売価格は資源エネルギー庁の調査で10月26日時点のレギュラー1リットル170.1円、政府の補助は10月29日から1リットル52.4円と過去最大になっている。補助の行方はこちらの記事で詳しく扱った。原油相場の足元の動きはブレント116ドルの記事を参照してほしい。
再審条件
- 精製マージンが7〜9月期の水準を保てば。BPやトタルの次の四半期の取引概況で精製マージン指標が下がらなければ、「高い利益が続く」側に評決を戻す。
- ブレントが120ドルを超えて定着すれば。上流部門の利益が再び伸び、利益の主役が原油に戻る。
- 米国による対イラン攻撃が現実になれば。11月3日の中間選挙後の攻撃の可能性が報じられており、供給の混乱が長引けば精製マージンも高止まりしやすい。
- 中東の輸送が正常化に向かえば。タンカー攻撃や製油所攻撃が止まれば、精製マージンの低下は早まり、評決はさらに慎重側へ傾く。
主な参照
- 2026年7〜9月期決算(10月30日)/エクソンモービル
- 2026年7〜9月期決算(10月30日)/シェブロン
- エクソンの市場予想(LSEG集計)/ロイター配信記事
- BPの7〜9月期決算と会社集計の市場予想/インベスティング・ドットコム
- BPの7〜9月期取引概況(精製マージン指標)/米証券取引委員会への提出書類
- シェルの7〜9月期決算/米証券取引委員会への提出書類
- トタルエナジーズの7〜9月期決算/米証券取引委員会への提出書類
- シェブロンの市場予想と米国の精製処理量/TokenPost(CNBC報道の引用)
- ブレント・WTIの気配値(10月30日午前1時20分=米中部時間)/OilPrice.com
- UBSのブレント予想(10月28日)/OilPrice.com
- シティのブレント予想(9月)/investingLive
- 株価の日足終値/stockanalysis.com
- ガソリン小売価格(10月26日時点)/資源エネルギー庁(燃料油価格定額引下げ措置)
データ基準日:2026年10月30日。原油価格は10月30日午前1時20分(米中部時間)時点の取引時間中の値で、終値ではない。米国株は10月29日の終値、東京市場の株価は10月30日の終値を使った。BPの市場予想は会社がまとめた数字で、LSEG集計(約62億ドル)とは異なる。BP経営陣の精製マージンに関する発言はCNBCの報道によるもので、本誌は原文を確認できていない。評決の確率は本誌の見立てである。本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を勧めるものではない。投資判断はご自身の責任で行ってほしい。













