原油相場は10月、4カ月連続の上昇で終わろうとしている。29日にはイエメンの親イラン武装組織フーシ派がサウジアラビアの製油所や石油施設を攻撃したと主張し、ホルムズ海峡ではタンカーが爆発物の被害を受けた。ロイター通信によると、日本時間30日12時23分の時点でWTI原油先物は1バレル103.37ドル、期近のブレント原油先物は116.08ドルまで上げた。まず下の4枚で、何が値段を押し上げているのかを見てほしい。
1枚目:ブレントは「116ドル」と「112ドル」の2つの顔を持つ
日本のニュースで目にするブレント原油の価格は、どの限月(受け渡し月)を指しているかで4ドル近く違う。きょう30日に取引最終日を迎えた12月限は116.08ドル、より売買の多い1月限は112.19ドルだった(いずれも日本時間12時23分、ロイター)。
原油価格の位置関係(ドル/バレル、日本時間30日12時23分)
読み方:ブレントの12月限と1月限の差は3.89ドル。近い限月ほど高い逆ざやで、足元の供給不安の強さを示す。橙色の105ドルと120ドルは、本誌が見方を変える線。出所:ロイター、本誌。
近い限月ほど高い状態を「逆ざや(バックワーデーション)」と呼ぶ。今すぐ手に入る原油に3.89ドルの上乗せが払われているということで、足元の供給不安が先の供給不安より強いことを示す。週明けからは1月限が期近になるため、表示上のブレント価格は何もしなくても4ドル近く下がって見える可能性がある。値下がりと読み違えないよう注意したい。
2枚目:48時間で何が起きたか
上げの材料は、2日足らずの間に立て続けに出た。順番に並べると次のとおりだ。
上げ材料の時系列(日本時間)
読み方:攻撃の対象が海上輸送からサウジの生産・精製施設へ広がったことが、きのうまでとの違い。サウジの被害の有無が次の分岐になる。出所:ロイター、UKMTO。
ここで区別しておきたいのは、確認された事実と主張の違いである。ラス・タヌラ製油所、ラービグ製油所、アブカイクのサウジアラムコ施設への攻撃は、フーシ派の主張であり、サウジ当局は被害を確認していない。サウジ主導の連合軍は、同国西部を狙った巡航ミサイル1発を迎撃したと発表している。タンカーの被害は英国海事貿易機関(UKMTO)が伝えたもので、小型船が取り付けた爆発物によるとされるが、実行者は明らかになっていない。
外交の動きもある。トランプ米大統領は、バンス副大統領が医療物資をめぐってイランに接触したと述べた。米メディアは、バンス氏がイランの安全保障当局トップに和平協議の再開を求める書簡を送ったと報じ、イランのタスニム通信は書簡を受け取ったが返答していないと伝えた。ただし、相場は今のところ外交より攻撃の報道に反応している。ロイターによると、エクソンモービルとシェブロンは来週アラブ首長国連邦(UAE)で開かれる石油業界の大型会議への幹部の出張を取りやめた。業界の大手自身が地域の安全を慎重に見ていることがうかがえる。
3枚目:円に直すと、原油1リットルはいくらか
日本の家計や企業にとって意味があるのは、ドル建ての価格ではなく円建ての価格である。1バレルは約158.987リットル。日本時間30日15時30分前後の価格と、同じ時間帯のドル円157.58円を使って換算すると、次のようになる。
円建てにした原油1リットルの価格(円)
読み方:ドル建て価格×ドル円157.58円÷158.987リットルで本誌が換算。原油そのものの値段で、ガソリンの店頭価格には税や精製・流通の費用が加わる。出所:Google Finance、ロイター、本誌計算。
WTIで約102円、ブレント12月限で約115円。これは原油そのものの値段で、ガソリンの店頭価格には精製費や流通費、ガソリン税、補助金などが加わる。補助金の縮小日程はけさのガソリン補助金の記事で整理した。店頭価格が1リットル数円動いたとき、自分の車の燃費と月の走行距離で負担がいくら変わるかは、燃料費計算ツールで確かめられる。円安が1円進むと、ブレント12月限の円建て価格は1リットル約0.7円上がる。日銀が30日に政策金利を据え置いた後もドル円は157円台にあり、原油高と円安が重なる構図は変わっていない。
4枚目:今後2週間のシナリオ
今後2週間の方向を決めるのは、攻撃が施設の実害に広がるかどうかと、米国とイランの協議が動くかどうかの2点である。サクソバンクのオーレ・ハンセン氏は、イスラエルの議会選挙と米国の中間選挙(11月3日)を挟む今後2週間は値動きが荒くなりうると指摘した。同氏は、戦闘が終わった後も原油は1バレル70〜90ドルで推移するとみており、開戦前の60〜70ドルには戻らないという見方だ。MSTマーキーのソール・カボニック氏は、ホルムズ海峡周辺での攻撃が続き、外交の道筋が見えないことが価格を高止まりさせていると述べ、数週間のうちに緊張がさらに高まる可能性を挙げた。
今後2週間のシナリオ確率(本誌の判断)
読み方:基本はBの高止まり。攻撃対象が施設に移りつつあるためAを高めに置き、イランの返答がないためCは低めにした。
| シナリオ | 確率(本誌) | 想定する展開 | ブレント1月限の目安 |
|---|---|---|---|
| A:緊張の拡大 | 30% | サウジの施設で実害が確認される、またはタンカー被害が続く | 120ドル超 |
| B:高止まり | 50% | 攻撃と外交の報道が交互に出て、決定打がない | 105〜120ドル |
| C:緊張の緩和 | 20% | 米国とイランの協議が再開し、攻撃が止まる | 105ドル割れ |
本誌の基本シナリオはBである。Aを30%と高めに置いたのは、攻撃の対象が輸送路から生産・精製施設へ移りつつあるためだ。反対に、Cの確率を下げているのは、書簡への返答がまだないからである。Bの見方を取り下げる線は、ブレント1月限の終値が120ドルを上回るか、105ドルを下回ったときとする。
個人投資家向けチェックリスト
- 限月の切り替え:週明けのブレント価格は1月限が基準になる。116ドルから112ドル台への「下落」は、限月の違いである可能性が高い。
- サウジの被害確認:サウジアラムコや同国政府が施設の被害や操業停止を発表するかどうか。主張の段階と確認の段階では、相場の反応の大きさが違う。
- タンカーの被害:UKMTOの発表件数が増えるか。増えれば輸送保険料と運賃が上がり、日本向けの調達費も上がる。
- イランの返答:バンス副大統領の書簡への回答が出れば、Cシナリオの確率が上がる。
- 11月3日の米中間選挙:選挙の結果は米国の対イラン政策の見通しを変えうる。
- ドル円:円建ての原油価格は為替でも動く。原油が横ばいでも、円安が進めば国内の負担は増える。
原油関連の材料は29日のWTI原油の記事でも追っている。きのうは米国のイラン作戦準備の報道が主な材料だったが、きょうはサウジの施設とホルムズ海峡のタンカーという、供給そのものに近い場所に焦点が移った。
30秒まとめ:原油は10月に4カ月連続の上昇となる見込みで、ブレント期近の12月限は116ドル台、売買の多い1月限は112ドル台にある。フーシ派はサウジの製油所への攻撃を主張しているが、被害は確認されていない。本誌は今後2週間を高止まり50%、拡大30%、緩和20%と置き、1月限の120ドル超えと105ドル割れを見方を変える線とする。
主な参照
- 原油先物の価格(12月限・1月限・WTI)、月間の上昇率、フーシ派の攻撃主張、タンカーの被害、バンス副大統領の書簡、エクソンモービルとシェブロンの出張中止、アナリストの見方/ロイター(Global Banking & Finance Review 転載)
- 原油先物とドル円の日本時間15時30分前後の価格/Google Finance
- タンカーの被害報告/英国海事貿易機関(UKMTO)
- 日銀の政策金利の据え置き(10月30日)/日本銀行
- バレルとリットルの換算(1バレル=158.987リットル)/米エネルギー情報局(EIA)
データ基準日:2026年10月30日(金)。先物価格はいずれも取引時間中の値で、終値ではない。ロイターの値は日本時間12時23分(グリニッジ標準時3時23分)、Google Financeの値はWTIが日本時間15時31分、ブレント12月限が15時29分、ドル円は15時47分の値である。月間の上昇率は報道時点の見込みで、確定値ではない。フーシ派による攻撃の対象と規模は同派の主張であり、サウジ当局は被害を確認していない。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















