市場はこう信じている——アドバンテストは上方修正の常連であり、決算をきっかけに反発する。同社は10月28日(水)15時30分、2026年7〜9月期(第2四半期)の決算を発表する。株価は26日の終値で3万1,070円と、10月6日に付けた終値ベースの最高値4万1,850円から25.8%下にある。人工知能(AI)向け投資の先行き不安で半導体株が売られてきただけに、決算で流れが変わるという期待は根強い。
だが、本当か。今日はこの通説を尋問する。証拠は過去12回の決算翌日の値動き、会社計画と市場予想の差、そして株価を押し下げている要因の中身の3つである。結論を先に書けば、本誌は翌日の値幅が5%を超える確率を65%、上昇で終える確率を55%とみる。通説は半分だけ生き残る。
尋問1:上方修正すれば、株価は本当に上がるのか
アドバンテスト:決算翌日の騰落率(終値ベース、過去12回)
読み方:期中の上方修正(8回)の翌日は7回上昇し、本決算(3回)と下方修正(1回)の翌日はすべて下落した。今回の第2四半期は期中の決算にあたる。出所:アドバンテストの決算発表資料、stockanalysis.comの日足終値から本誌計算。
証拠を見よう。2023年10月から2026年7月までの12回の決算について、発表日の終値と翌営業日の終値を比べた。上昇は7回、下落は5回。変動幅の絶対値の平均は7.36%で、5%を超えたのは12回中8回にのぼる。この銘柄の決算は、方向はともかく大きく動く。
通説に有利な事実もはっきりしている。期中に通期計画を引き上げた8回のうち、翌日に上がったのは7回。下げたのは2025年7月30日の1.06%安だけだ。2025年10月29日は22.08%高で、終値と高値が同じ2万2,120円だった。前日比4,000円高は、この価格帯の値幅制限いっぱいにあたる。2026年7月30日も10.85%高で、日本経済新聞は「一時16%超」の上昇と伝えた。
この説明には穴がある。下げた5回のうち3回は、新年度の計画を初めて示した本決算の翌日で、−7.29%、−4.83%、−5.56%だった。残る1回は計画を下方修正した2023年11月1日の−5.90%である。今回は期中の第2四半期だから、この点は通説に有利だ。ただ、2026年1月29日は寄り付きで13.5%高まで買われたあと、終値では5.17%高まで上げ幅を縮めた。上方修正が出ても、その日のうちに利益確定売りが出る形は、相場の地合いが弱いときに目立つ。
尋問2:上方修正は「サプライズ」になるのか
会社は7月29日、2027年3月期の通期計画を大きく引き上げた。売上高は1兆4,200億円から1兆7,140億円へ、営業利益は6,275億円から8,460億円へ。当時、QUICKがまとめた市場予想の営業利益は6,911億円(7月23日時点、18社)だったから、新計画は予想を大きく上回った。翌日の10.85%高はこの差への反応である。
| 項目(2027年3月期) | 会社計画(7月29日) | 市場予想(IFIS、10月26日時点) | 差 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆7,140億円 | 1兆7,707億円 | 予想が3.3%上 |
| 営業利益 | 8,460億円 | 8,863億円 | 予想が4.8%上 |
| 純利益 | 6,600億円 | 6,735億円 | 予想が2.1%上 |
今回は事情が違う。市場予想はすでに会社計画の上にある。営業利益で約400億円の差だ。つまり、会社が8,800億円台まで計画を引き上げても、市場にとっては「予想どおり」にとどまる。驚きを生むには、それを明確に超える数字が要る。
公平のために言えば、上積みの材料はある。会社は第2〜4四半期の想定為替レートを1ドル=150円に置いている。欧州中央銀行(ECB)の参照レートで計算した7〜9月の平均は159.29円で、想定より円安だった。第1四半期の営業利益は1,899億円で、通期計画の達成に必要な残り3四半期の平均約2,187億円を下回るが、同社は推論向けAIの検査需要が4月時点の想定を大きく上回るとして、生産能力の増強を前倒ししている。上方修正そのものの可能性は高い。問われるのは幅である。
尋問3:下げの原因は、決算で解消できるのか
株価を見よう。10月6日の終値4万1,850円から、15日に1日で14.96%安の3万4,340円まで下げた。日経ヴェリタスは、この日の下げを「AI関連の設備投資の先行き不安」によるものと伝え、同時に検査需要は「底堅いとみられている」とも書いた。株探によると、この日の15時時点で日経平均は3,339円安となり、うちアドバンテスト1銘柄の押し下げが1,281円に達した。その後も22日に6.01%安、26日に3.93%安と下げが続いている。
ここに通説の最大の穴がある。下げの原因は同社の業績ではなく、顧客であるAI関連企業の投資余力への疑いだ。26日には米国で、データセンター向け計算資源を貸す「ネオクラウド」各社の株がイーロン・マスク氏の発言をきっかけに売られた。その経緯はこちらの記事にまとめた。同社の決算がどれほど良くても、顧客の投資計画を保証することはできない。決算説明で来期の受注の見通しにどこまで踏み込むかが、上方修正の幅と同じくらい重要になる。
通説側の再反論もある。7〜9月期の第2四半期は、過去3回の標本で−5.90%(下方修正時)、+6.43%、+22.08%だった。下方修正がなければ、第2四半期は大きく上げてきた。高値から26%下げた現在の株価は、前回の決算前より悲観を織り込んでいる、という見方も成り立つ。
生き残った主張と死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 決算の翌日は大きく動く | 生存 | 12回中8回が5%超、平均7.36% |
| 期中の上方修正なら上がる | 生存(条件付き) | 8回中7回上昇。ただし2026年1月は上げ幅の6割強を返した |
| 上方修正はサプライズになる | 弱い | 市場予想の営業利益8,863億円がすでに計画8,460億円を上回る |
| 円安が業績を押し上げる | 生存 | 7〜9月の平均159.29円に対し、想定は150円 |
| 決算で下げの原因が消える | 死亡 | 下げの主因は顧客側のAI投資への疑いで、同社の決算では解消しない |
評決:大きく動く確率65%、上昇の確率55%
評決を出す。29日(木)の終値が28日の終値から5%を超えて動く確率は65%とみる。過去12回の67%(8回)をほぼそのまま使い、地合いの悪さで方向の読みにくさが増す点は確率ではなく方向の評価に反映した。上昇で終える確率は55%。期中の上方修正の実績(8回中7回)は強いが、市場予想が計画を上回っている点と、上げ幅を縮めやすい地合いを考え、大きく割り引いた。
具体的なシナリオは3つに分けた。営業利益の計画を9,000億円以上へ引き上げ、受注の見通しも強い場合は5%超の上昇(確率35%)。計画を市場予想並みの8,800億円台に引き上げるだけなら±5%以内(35%)。据え置き、または受注の伸びの鈍化が示されれば5%超の下落(30%)。いずれも本誌の判断で、オプション市場から逆算した予想変動率は、国内の個別株オプションの流動性が低いため示せない。
再審の条件
- 28日までに米半導体株が急反発したら。地合いの悪化という前提が崩れ、上昇の確率は60%台に上がる。
- 同じ週の米大手ハイテク企業の決算で、AI投資の計画が引き下げられたら。顧客側の不安が裏付けられ、上方修正が出ても上昇の確率は50%を割る。
- 会社が上期だけの数字や受注残の詳細を新たに示したら。同社は上期計画を開示していない。開示が増えれば評価の幅が狭まり、値幅の確率は下がる。
同社を含む半導体銘柄の過去の安値局面はキオクシアとアドバンテストの記事で、同じ業界のキオクシアの下げはこちらで取り上げた。26日の東京市場の値動きは引け後の記事にある。
主な参照
- 決算発表予定日(10月28日15時30分)/アドバンテスト IRカレンダー
- 2026年度第1四半期決算短信(通期計画・想定為替レート)/アドバンテスト
- 過去の決算発表資料/アドバンテスト IRライブラリー
- 市場予想(IFISコンセンサス、10月26日時点)/株予報
- 7月の上方修正とQUICKコンセンサス/日本経済新聞
- 10月15日の急落の背景/日経ヴェリタス
- 10月15日の日経平均への寄与度/株探
- 株価の日足/stockanalysis.com
- ドル円のECB参照レート(7〜9月)/フランクファーター(ECBデータ)
データ基準日:2026年10月26日(東京市場の終値)。決算翌日の騰落率は、発表日の終値と翌営業日の終値の比較である(2024年11月以前の発表時刻は15時の取引終了後と仮定した)。2025年10月29日のストップ高は、値幅制限の表と株価からの本誌の推定で、報道による確認はしていない。最高値は2021年10月以降の日足データでの比較である。市場予想はIFISの集計値で、会社の発表ではない。7〜9月期だけの市場予想は確認できなかった。確率とシナリオは本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















