まず昨日からの動きを整理する。ブレントは23日に一時102ドル・清算値100.69ドルと5月以来の大台に乗せた後、24日は一転して3%超下げ、97ドル前後で推移している。WTIは88ドル近辺まで4%超下げた。軍事情勢は何も好転していないのに、である。フーシ派の紅海封鎖は続き、ホルムズの通航は細いまま、停戦協議に合意の発表はない。それでも売られた——この「悪材料の中の下落」こそ、今の原油を読む最大の手がかりだ。答えを先に言えば、100ドルは需給の値段ではなく恐怖の値段であり、恐怖には賞味期限がある(基準日2026年7月24日。価格は執筆時点の概算値)。
まず1枚目:プロの値付けは「80ドル」で動いていない
スポット97ドル vs 銀行フォーキャスト
読み方:ゴールドマンは100ドルを付けた当日(7/23)に年末80ドル予想を「維持」と明言した。プロは今の値段を恒常状態と見ていない。
出所:BOE Report(GS・7/23)、Invezz集計(JPM・GS・7/1)、Trading Economics(スポット)。
この17ドルの差が意味するものは何か。銀行の予想が楽観的すぎる可能性もあるが、根拠はむしろ具体的だ。第一に供給の回復力。6月の停戦局面では、イラク南部の生産が90万バレルから150万バレルへ、クウェートも58万バレルから260万バレル方向へと、封鎖で止まっていた供給が数週間で戻る実績を見せた。第二に需要側の破壊。100ドルの原油と米国の追加関税(一律10%が今日失効し、対日12.5%の301条が待機中)は世界の消費と成長を削る——JPモルガンが2027年に64ドルという強気派の半値のような数字を置くのは、OPEC+の増産と需要減速の両面を織り込むからだ。第三に先例。6月17日の停戦合意後、ブレントは2週間で100ドル超から70.65ドルまで約3割下げた。恐怖のプレミアムは、剥がれるときは一気に剥がれる。
2枚目:年末までの3シナリオと価格レンジ
年末のブレント:本稿の3シナリオ(確率は編集部試算)
読み方:現在値97ドルは①の上限寄り。つまり「にらみ合い継続」までは織り込み済みで、ここから上は②の拡戦が必要になる。
シナリオ・確率は編集部の整理。②の120ドル台はFOXビジネスで紹介された強気予想と整合、③はGS・JPMの基本線に相当。
各シナリオの中身を数字で置く。①にらみ合い継続(50%):封鎖と航行忌避は続くが、サウジもイランも全面戦争を避ける。実需はイラク・クウェート・米シェールの増産で補われ、88〜102ドルのレンジで神経質な往復が続く。年末は90ドル台前半へ緩やかに軟化。②拡戦(20%):サウジがイランへ直接報復する、またはホルムズが機雷等で物理的に閉じる。スペアキャパシティの大半は湾岸内にあり、使えなくなった瞬間に110〜125ドルへ跳ぶ。③冷却(30%):停戦2.0が成立。6月の前例通りなら2〜4週間で70ドル台へ急落し、銀行予想の80ドルを下抜ける場面もあり得る。合成すると期待値はおよそ92ドル前後——現在値とほぼ同じで、市場の値付けは実は合理的だ。ただし分布の形が「上に細く、下に太い」ことは覚えておきたい。上がるには新しい戦争が要るが、下がるには一枚の合意文書で足りる。
3枚目の代わりに:シナリオを見分ける5つの計器
| 計器 | 何を教えるか | ①→②の警報 | ①→③の合図 |
|---|---|---|---|
| サウジの公式反応 | 拡戦の一次判定。攻撃されたのはサウジ船だ | 報復攻撃・有志連合の結成 | 「自制」表明・調停役への転身 |
| 戦争保険料(船体比%) | 実質封鎖の深度。現在約5% | 7%超えと引受停止の拡大 | 3%台への低下 |
| 先物カーブの形 | 現物の逼迫度。期近高(バックワーデーション)の傾き | 期近プレミアムの急拡大 | カーブの平坦化=恐怖の剥落 |
| 米戦略備蓄(SPR)・護衛艦隊 | 政策の冷却カード | —(不発なら②寄り) | 放出表明・紅海護衛の開始 |
| 停戦協議のヘッドライン | ③への最短経路 | 交渉決裂の公式発表 | ジュネーブ・ドーハ型の枠組み再開 |
日本の投資家への含意と、この見方の無効化ライン
ポジション別に整理する。資源株(INPEX・商社)の保有者:①のレンジ相場は追い風の持続を意味するが、株価は既に原油高をかなり織り込んだ。②への上振れを追って買い増すより、③の急落リスク(2週間で3割)に耐えるサイズかを先に点検したい。ガソリン・電気代が気になる家計:補助金が吸収する間に、③が来れば店頭価格のピークは今四半期で終わる公算。インフレ・金利の観点:①が続く限りFRBのタカ派バイアスと円安163円の構図は不変で、日本の輸入インフレは秋のCPIに乗ってくる。最後に無効化ラインを明示しておく。ブレントが105ドルを終値で超えたら①は死に、②を本線に格上げする。逆に85ドルを割れたら③が進行中であり、資源株の利益確定を機械的に進めるべき局面だ。90ドル時点の整理から変わった最大の点は、価格ではなく「銀行予想との乖離」という物差しが使えるようになったことである。
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。シナリオ・確率・無効化ラインは編集部の分析であり将来を保証しない。軍事情勢は急変し得る。価格は2026年7月24日執筆時点の概算値。投資判断はご自身の責任で行われたい。
















