10月14日の欧州中央銀行(ECB)参照レートで0.8334だったドルスイス(USD/CHF)は、2営業日後の16日には0.8240まで落ちた。わずか2日で95ピップ、10月1日につけた52週高値0.8353からは1.4%の下げである。週明け19日の日本時間19時50分時点は0.8252で、朝からの値幅は0.8233〜0.8253と狭い。筆者の見立ては「0.83は戻り売り」、損切りの線は0.8300の上での定着に置く。
正直、2週間前にこの水準を予想した向きは少なかったはずだ。ドルは10月1日に対フランで1年ぶりの高さにあり、米9月の消費者物価指数(CPI)も上振れた。それでもドルは売られた。なぜ売られたのか、どこまで売られるのか。テープと需給から順に追う。
テープ:強いCPIのあとに、ドルが投げられた
参照レートを日付順に並べると、流れがよく見える。9月22日に0.8194で底を打ったドルスイスは、そこから7営業日で10月1日の0.8353まで駆け上がった。その後は0.83台前半で日柄を消化し、10月14日も0.8334と高値圏にいた。崩れたのは15日の0.8302、そして16日の0.8240である。
16日のニューヨーク時間は下げ足が速かった。市況サービスのトレーディングキーによると、米東部時間10時25分(日本時間23時25分)に0.82206と前日比0.53%安、7日間では0.90%安だった。取引時間中の安値圏であり、終値ではない。週明け19日の東京・欧州時間は0.8233〜0.8253(日本時間19時50分時点、ヤフー・ファイナンスの5分足)と、16日の下げ幅をほとんど埋めていない。戻りが鈍いのは、売りがまだ終わっていない合図とみる。
引っかかるのは順番だ。米労働統計局(BLS)が10月14日に発表した9月CPIは前月比0.6%上昇、前年同月比3.7%上昇で、コアも前月比0.3%上昇・前年同月比2.6%上昇だった。ガソリンは1カ月で9.1%上がっている。普通ならドル買いの材料である。ところがドルスイスは、発表前に決まった14日の参照レート0.8334から、15日0.8302、16日0.8240と高値圏を滑り落ちた。強い数字で買えなかった相場は、弱い。
需給の解剖:金利の下げ、フラン売りの巻き戻し
1.米10年債利回りが2日で10bp超低下
ドルを押し下げた第一の力は米国債の利回りだ。米10年債利回りの終値は10月5日の5.311%から、16日には5.098%まで下がった。14日の5.190%から15日の5.089%へ、1日で10bp超の低下である。米CMEグループは15日までの2日間の低下を、2026年で最大の2日間の低下として紹介した。CPIの上振れにもかかわらず、市場は「10月の利上げはない」という方向に賭け直した格好だ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月16日に政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、3.75〜4.00%とした(12対0)。次の連邦公開市場委員会(FOMC)は10月27〜28日である。CMEのフェドウオッチなどを引用する報道では、10月据え置きの確率は84〜87%とされる。ただし筆者はCMEの数字を直接確認できておらず、ここでは報じられている水準として扱う。
2.フランを借りて売る取引が畳まれた
第二の力はポジションの巻き戻しだ。スイス国立銀行(SNB)の政策金利は0%で、FRBの3.75〜4.00%との差は3.75%ポイント以上ある。金利ゼロのフランを借りてドルを持てば、その差がまるごと手に入る。だからドルスイスの買いは積み上がりやすい。逆に米金利が下がると、この取引の「うまみ」が削られ、ドル売り・フラン買いの決済が一気に出る。トレーディングキーは16日の下げについて、米金利の低下とドル全面安に加え、安全資産としてのフラン需要と、フランを調達通貨にしたキャリー取引の解消を挙げた。
同社は、ハイテク株の割高感と中東情勢の緊張がリスク選好を冷やし、逃避資金が質の高い資産に向かったとも書いている。北海ブレント原油先物は19日19時33分時点で1バレル108.76ドルと高止まりしている。原油高は米インフレを通じてドルの支えにもなるが、16日の相場では株安と金利低下の側が勝った。
3.SNBはフラン高を止めに来ていない
第三に、売り方を止める者がいない。SNBは9月24日の金融政策判断で政策金利を0%に据え置いた。声明は、インフレ率が6月以降、主にエネルギー価格の上昇で一段と上がったとしたうえで、為替市場には「必要に応じて」介入する用意があると書くにとどめた。条件付きインフレ予測は中期的にやや上方修正され、その理由のひとつにフランの下落を挙げている。フラン安が物価を押し上げる局面で、SNBがフラン高を本気で嫌う理由は乏しい。0.82台への戻りは、SNBにとって不都合な水準ではない。
需給の要点:米金利の低下でキャリーのうまみが削られ、決済のフラン買いが出た。安全資産としての買いもそこに重なった。止め役のSNBは0%に据え置いたまま、介入は「必要に応じて」と書くだけである。3つの力が同じ方向を向いている間は、戻りは売られやすい。
水準の地図:0.8300と0.8194のあいだ
移動平均はECBの参照レートで計算した(10月16日まで)。20日線が0.8297、50日線が0.8181、100日線が0.8118、200日線が0.7979である。いまの0.8252は20日線を下回り、50日線の上にある。要するに、短期の上昇トレンドが崩れ、中期の上昇トレンドの内側まで戻ってきた位置だ。
ドルスイスの水準の地図(10月19日時点)
読み方:いまの0.8252は20日線(0.8297)を下回り、50日線(0.8181)の上にある。上は0.8300が戻り売りの水準で、ここを2日続けて上回れば弱気の見立てを撤回する。下は0.8181〜0.8194の帯が10月後半の分岐点。出所:ECB参照レート(Frankfurter経由、10月16日まで)から算出、19日の値はヤフー・ファイナンスの取引時間中の値。0.8150は筆者の試算。
上は0.8300が最初の関門になる。20日線の0.8297とほぼ重なり、10月15日の参照レート0.8302もここにある。その上は10月1日の52週高値0.8353だ。下は9月22日の参照レート0.8194、さらに50日線の0.8181が控える。0.8181〜0.8194は、9月の上昇の起点と中期の平均値が重なる帯で、ここで下げ止まるかどうかが10月後半の分岐点になる。ちなみに52週安値は2026年2月10日の0.7670で、いまの水準より7%以上低い。
筆者の見立て:短期は弱気、0.83は戻り売り
筆者はドルスイスを短期で弱気とみる。根拠は3つだ。まず、上振れたCPIの直後に高値を更新できず、逆に下げたこと。材料に反応しない相場は、ポジションが一方に偏っている。次に、米10年債利回りが5.3%台から5.1%割れまで下がり、フランを借りる取引のうまみが削られ続けていること。最後に、SNBがフラン高を止める動機を持たないことだ。
- 短期(1〜2週間、FOMCまで):0.8190〜0.8300のレンジを想定する。中心はやや下で、0.8300近辺への戻りは売り場。SNBの議論の要旨(22日)では動かず、FOMC前の持ち高調整で0.8194を試す展開を本線に置く。
- 中期(12月10日のSNB会合まで):0.8150〜0.8350の幅で、中心は0.82前後とみる。FRBが10月に据え置き、12月の判断を先送りするなら、0.8181の50日線を割り込んで0.8150まで下がる余地がある。
水準を数字で決めておくのは、見立てが外れたときに迷わないためだ。0.8150は筆者の試算で、100日線0.8118の手前に置いた。100日線まで一直線に下がるには、米金利がもう一段下がる材料が要る。それが10月29日のGDPとPCEだ。
逆になったら:0.8300の上で2日続けば撤退
損切りの線ははっきりさせておく。ECB参照レートか米国時間の終値で、0.8300を2日続けて上回ったら、この弱気の見立ては撤回する。20日線を取り戻すことは、16日の投げが一時的だったことを意味するからだ。その場合の上値メドは52週高値の0.8353になる。
逆回転の引き金で一番大きいのはFOMCだ。報道ベースで1割台とされる10月利上げが実際に起きれば、フランを借りる取引のうまみは再び厚くなる。そうなれば0.8353の高値更新もありうる。もうひとつは原油だ。ブレントが再び110ドルを大きく超え、米インフレ懸念で長期金利が5.3%台に戻るなら、ドル買いの側が息を吹き返す。筆者はこの2つの可能性を合わせて3割程度とみている。
注意:スイスフランは有事に一方向に動きやすい通貨である。中東情勢の急変やハイテク株の急落では、数時間で50ピップ以上動くことがある。指値を置かずに持ち越すのは避けたい。
円から見たフラン:191円台、9月末の安値から反発
日本の個人投資家にとってはスイスフラン円(CHF/JPY)のほうが身近だろう。19日19時50分時点で191円67銭(ヤフー・ファイナンス、取引時間中)である。ECB参照レートから計算した過去1年のレンジは、9月30日の188円09銭から4月21日の204円04銭まで。ドル円が158円台で膠着するなかでドルスイスが下げたため、フラン円は9月末の安値から3円強戻した計算になる。フラン円の行方はドルスイスとドル円のかけ算で決まる。ドル円の見立ては同日のドル円見通しに書いた。
明日からの監視リスト
| 日時(日本時間) | イベント | 見どころ | 筆者の構え |
|---|---|---|---|
| 10月22日(木)16時30分 | SNB金融政策の議論の要旨 | 9月会合でフラン相場と介入がどう議論されたか | 介入に前向きな記述が増えれば0.83方向 |
| 10月23日(金) | 米10月PMI速報値 | 景気の減速感が金利低下を後押しするか | 弱ければ0.8194を試す |
| 10月29日(木)3時 | FOMCの結果発表 | 据え置きか利上げか、12月への言及 | 利上げなら損切り線を見直す |
| 10月29日(木)21時30分 | 米7〜9月期GDP速報値・9月PCE物価指数 | インフレの粘りと景気の強さ | 弱い数字なら0.8150が視野 |
| 10月30日(金)15時15分 | SNB四半期決算(9月末時点) | 外貨準備の評価損益 | 相場への影響は限定的 |
| 12月10日(木)17時30分 | SNB金融政策判断 | 0%据え置きの継続と為替への言及 | 中期レンジの見直し点 |
ユーロ圏側の材料はユーロドル見通し、9月CPIの中身は米9月CPIの記事、FRBの利上げの経緯は9月の利上げの記事にまとめている。通貨ペアの基本や取引の仕組みはFX解説ページを参照してほしい。
主な参照
- ドルスイス・フラン円の参照レートと移動平均の算出(2025年10月17日〜2026年10月16日)/Frankfurter(ECB参照レート)
- 10月19日の取引時間中の値(日本時間19時50分)、米10年債利回りの終値、ブレント原油先物/ヤフー・ファイナンス
- 10月16日のドルスイスの下落要因(米東部時間10時25分)/トレーディングキー
- 米10年債利回りの2日間の低下(2026年10月15日)/CMEグループ
- 米9月消費者物価指数(2026年10月14日発表)/米労働統計局
- 米7〜9月期GDP速報値と9月個人所得・支出の公表日(10月29日8時30分=米東部時間)/米経済分析局
- FRBの利上げ(2026年9月16日)とFOMC日程/FRB、FOMCカレンダー
- SNBの金融政策判断(2026年9月24日)/スイス国立銀行
- SNBの公表予定(議論の要旨、四半期決算、12月10日の会合)/スイス国立銀行
データ基準日:2026年10月19日(日本時間19時50分)。日々の比較にはECB参照レート(中欧時間14時15分ごろ)を使い、10月16日分までを反映した。10月19日の値はヤフー・ファイナンスの取引時間中の値であり、終値ではない。トレーディングキーの0.82206は10月16日の取引時間中の値である。米10年債利回りは米国時間の終値。10月FOMCでの据え置き確率(84〜87%)は報道に引用された水準で、CMEのデータを編集部が直接確認したものではない。0.8150、0.8190〜0.8300などの予想レンジと損切り水準、逆回転の可能性「3割程度」は筆者の見立てであり、予測を保証するものではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。外国為替証拠金取引はレバレッジにより元本を超える損失が生じる可能性がある。投資判断は各自の責任において行われたい。アイキャッチ画像:szeke(Flickr、CC BY-SA)。
















