10月20日火曜、テキサス州バストロップ。スターリンクの工場を会場にした決算説明会で、最高財務責任者(CFO)のブレット・ジョンセンが用意した原稿の終わり近くを読み上げた。「2027年1〜3月期の全社売上高は330億〜370億ドルの範囲とみている」。その日に発表したばかりの7〜9月期の売上高は145億7,500万ドルだった。2四半期後に、その2倍を大きく超える売上を見込むと言ったことになる。
一夜明けた21日、スペースX(SPCX)の株価は米東部時間9時49分時点で163.41ドル、前日終値147.79ドルから10.57%高で取引されている(取引時間中の値)。売上高、1株利益、人工知能(AI)部門の売上のいずれも、前日に本誌がプレビュー記事で示した市場予想を上回った。ただ、この物語の主役は7〜9月期の数字ではない。説明会で示された「次の2四半期」と、それを支えるための1四半期350億〜400億ドルの設備投資である。
午後3時過ぎ、数字が出た
決算資料が公開されたのは、テキサス時間の午後3時過ぎだった。米証券取引委員会(SEC)に提出された8-K(臨時報告書)によると、7〜9月期の売上高は前年同期比161%増の145億7,500万ドル、営業損益は27億9,100万ドルの黒字(前年同期は2億7,300万ドルの赤字)、純利益は44億400万ドルだった。希薄化後の1株利益は0.35ドルである。調整後EBITDA(利払い・税金・償却前利益)は88億900万ドルと前年同期の約4倍に増えた。
決算資料を読み進めると、会社の重心がどこに移ったかがはっきりする。AI部門は今回から「スーパー・インテリジェンス(SI)」と名前を変え、売上高は75億6,000万ドルと全社の52%を占めた(本誌計算)。スターリンクを含む通信部門の52億4,800万ドルを、初めて上回った。ロケット打ち上げの宇宙部門は17億6,700万ドルである。
巻き戻し——前日、懐疑は65点だった
話を前日に戻す。本誌は10月20日の決算プレビューで、「AI投資がスペースXの株価を支える」という通説に35点、懐疑に65点をつけた。根拠は4〜6月期の数字だった。AI部門は売上高25億6,100万ドルに対し、営業損益は12億5,700万ドルの赤字。黒字に見えたのは、減価償却費を足し戻した調整後EBITDAだけだった。8月4日の初決算では、売上高が予想を上回ったにもかかわらず、翌5日に株価は13.6%下げている。
プレビューは、評決を改める条件も書いていた。「AI部門が営業黒字に転じれば、評決は通説側に大きく傾く」。そして「7〜9月期の設備投資を190億ドル未満に抑えれば、現金流出への懸念は和らぐ」。答え合わせをすると、前者は満たされ、後者は満たされなかった。表にまとめる。
| 項目 | プレビュー時点の予想・条件 | 実績(7〜9月期) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 128億9,000万ドル(ブルームバーグ集計と報道) | 145億7,500万ドル | 13.1%上振れ |
| 1株利益 | 約0.15ドル(調整後、報道) | 0.35ドル(希薄化後、会計基準どおり) | 上振れ(基準の違いに注意) |
| AI(SI)部門の売上高 | 約64億ドル(報道) | 75億6,000万ドル | 18%上振れ |
| AI(SI)部門の営業損益 | 黒字転換なら評決を改める | 4億3,100万ドルの黒字 | 条件を満たした |
| 全社の設備投資 | 196億ドル(予想)、190億ドル未満なら懸念後退 | 195億9,300万ドル | 予想並み、条件は未達 |
| 翌日の値幅 | オプションの織り込み±8.1% | 10.57%高(21日9時49分、米東部時間) | 織り込みを超えた |
本誌はここで評決を修正する。「AIは利益を生んでいない」という懐疑側の最大の根拠は、7〜9月期の数字で崩れた。SI部門の営業利益は4億3,100万ドルで、この中には8月に買収したAIコーディング企業カーソル関連の株式報酬12億1,700万ドルが含まれる。ジョンセンは説明会で、これを除けば同部門の営業利益は「16億ドル」だったと述べた。
3つの部門、3つの温度
スペースXの部門別営業損益(2026年7〜9月期、億ドル)
読み方:AI部門(同社は「SI」と呼ぶ)が会計基準どおりの営業損益で黒字に転じた。8月に買収したカーソル関連の株式報酬12.17億ドルを除くと16.48億ドルで、稼ぎ頭の通信部門に近づく。宇宙部門はほぼ収支均衡だった。出所:スペースXの7〜9月期決算資料(8-K、10月20日提出)、本誌計算。
部門ごとの温度差は大きい。SIの売上高は前四半期の25億6,100万ドルから約3倍になった。主因は新しいクラウドサービス契約の稼働で、カーソルの寄与6億800万ドルを除いても、SIのソリューション・インフラ売上は前四半期比192%増だったと会社は説明している。稼働可能な計算能力(ネームプレート容量)は9月末で1.7ギガワットと、6月末の1.4ギガワットから増えた。ジョンセンは「現在の価格なら、新たに稼働させた計算設備は1年未満で投資を回収できる」と語っている。
稼ぎ頭の座を譲った通信部門も、数字は堅い。営業利益は23億6,700万ドルで前年同期比99%増、営業利益率は45%に達した(本誌計算)。スターリンクの個人向け契約者は9月末で1,360万人と、四半期で160万人増えた。月間の契約者1人あたり売上高は69ドルで、前四半期から5%上がった。一方、宇宙部門は売上高が前年同期比6%増にとどまり、営業損益は700万ドルの赤字だった。大型ロケット「スターシップ」の研究開発費が膨らんでいるためである。
強気派の物差し、慎重派の物差し
同じ数字を、2つの陣営が別の物差しで測っている。強気派の筆頭はモルガン・スタンレーだ。同社は目標株価300ドルを据え置き、リポートに「スペースXの物語は、ちょうど面白くなり始めたところではないか」と書いたと報じられている。カンター・フィッツジェラルドは目標株価を246ドルから345ドルに、シティは200ドルから240ドルに引き上げたと伝えられた。いずれも米ストックツイッツが米ザ・フライの集計として報じたもので、本誌はリポート本体を確認していない。
慎重派の物差しは、現金である。7〜9月期の設備投資は195億9,300万ドルで、四半期の売上高を上回った。1〜9月の累計では、営業活動による現金収入130億9,700万ドルに対し、設備投資は480億6,900万ドル。差し引きのフリーキャッシュフローは約350億ドルの流出になる(本誌計算)。そのうえ会社は、10〜12月期の設備投資を350億〜400億ドルと見込む。9月末の現金と有価証券の合計898億5,500万ドルの4割前後に当たる額を、1四半期で使う計算だ。
利益の中身にも注意がいる。純利益44億400万ドルのうち、営業利益は27億9,100万ドルで、残りの約16億ドルは本業以外の項目が押し上げた。受取利息8億7,300万ドル、その他の収益10億2,500万ドル(うち関連当事者分5億6,100万ドル)、税金の戻り3億9,000万ドルを足し、支払利息6億7,500万ドルを引いた額である。全社の売上総利益率は62%と、4〜6月期の55%から上がったが(いずれも本誌計算)、ジョンセンは「一時的な要因と顧客構成」があったとして、10〜12月期は4〜6月期並みに戻るとの見通しを示した。モルガン・スタンレーも、スターリンクの契約者数が予想に届かなかった点を「唯一の明確な傷」と指摘したと報じられている。
朝9時30分、ナスダックの寄り付き
市場は強気派の物差しを選んだ。21日の米国市場で、スペースXは160.56ドルで寄り付いた。前日終値比8.6%高である。その19分後には163.41ドルまで上げ、上昇率は10%を超えた。プレビューで本誌が置いた「上振れ」シナリオ(売上130億ドル超、AI売上が予想超え、全社で営業黒字)は、翌日の値幅の目安を8〜15%高としていた。値動きはその範囲に入っている。同じ時刻、ナスダック総合指数は0.71%高、テスラは3.75%高だった。
同じ頃、東京はすでに1日を終えていた。日経平均は朝方に一時1,329円高まで買われ、半導体株と宇宙関連の中小型株に資金が向かったが、終値は545円高にとどまった。その経緯は東京市場の引け後の記事に詳しい。円建てで見れば、スペースXの7〜9月期の売上高は1ドル157.92円(米東部時間9時49分時点)で約2兆3,000億円、来年1〜3月期の売上見通しの中央値350億ドルは約5兆5,300億円になる。9月末の発行済み株式数(クラスAとクラスBの合計135億7,900万株)で計算した時価総額は約2兆2,200億ドル、約350兆円である。
説明会では、テスラとの統合も話題に上った。イーロン・マスクは両社が特別委員会を設けたと認め、「良い考えだと思うか、と聞かれれば、答えはイエスだ」と語る一方、委員会は条件で合意しておらず、合意する保証もないと述べている。統合の論点は統合とビットコイン保有の記事で扱った。
エピローグ——次の場面は48時間後に来る
スペースXのこれからの日程
読み方:好決算の直後に、上場前株主の売却制限の解除が続く。売上見通しの答え合わせは次の決算になる。出所:スペースXの目論見書(424B4、6月12日)、決算説明会の書き起こし(モトリーフール)。
物語の次の場面は、すぐにやってくる。上場時の目論見書によると、7〜9月期決算の発表から2営業日目にあたる22日から、上場前の株主が持つ最大13億株の売却制限(ロックアップ)が解ける。180日間の制限がかかった株式の28%に当たり、9月末の発行済み株式の約1割に相当する(本誌計算)。さらに24日(土曜)には最大3億2,840万株、12月8日には残りが続く。上場価格135ドルに対し、21日朝の株価は21%高い。含み益を抱えた株主が、決算の好感を売り場とみるかどうかが最初の試験になる。
本誌の見方を示しておく。基本線(確率50%)は、ロックアップ解除の売りをこなしつつ、株価が決算前の水準より高い位置を保つ展開である。来年1〜3月期に330億〜370億ドルという見通しは、契約済みの受注残高630億ドル(うち約420億ドルは1年以内に売上計上の見込み)に裏付けられており、数字の根拠は前回より厚い。次に有力なのは(同30%)、解除の売りと10〜12月期の設備投資の重さが意識され、決算で開けた窓(前日終値147.79ドルと21日安値158.20ドルの間)を埋めにいく展開だ。上振れは(同20%)、11月に予定されるスターシップの第15回飛行で機体とブースターの両方の回収に成功し、宇宙部門の評価が加わる場合である。確率は本誌の判断で、市場の織り込みではない。
この見方を捨てる条件は1つに絞る。株価が終値で前日終値の147.79ドルを下回れば、決算による上げは完全に打ち消されたことになり、市場が見通しよりも現金流出を重く見ていると判断する。逆に、12月の月間売上を年率換算した「年間売上高1,000億ドル」の目標をジョンセンが改めて「達成に向けて順調」と述べた点は、次の決算で答え合わせができる。残された問いは、プレビューで立てた問いと同じ形をしている。伸びた売上が、設備投資と減価償却を上回る日は見えたのか。7〜9月期の数字は、その日が近いことを示した。10〜12月期の350億〜400億ドルは、その日がまだ来ていないことを示している。テスラの数字は21日の米国市場の取引終了後に出る。注目点はテスラ決算のプレビューにまとめた。
主な参照
- 7〜9月期決算(売上高、部門別の売上・営業損益・設備投資、純利益、1株利益、貸借対照表、キャッシュフロー、カーソル買収)/スペースX(米証券取引委員会への提出書類、8-K、2026年10月20日)
- ロックアップの解除日程(決算後2営業日目に最大13億株、10月24日に最大3億2,840万株、12月8日に残り)と上場価格135ドル/スペースXの目論見書(424B4、2026年6月12日)
- 決算説明会の発言(1〜3月期の売上見通し、10〜12月期の設備投資、受注残高、回収期間、売上総利益率、年間売上高1,000億ドル、スターシップ第15回飛行、テスラとの統合)/モトリーフール(書き起こし、10月20日)
- 市場予想(ブルームバーグ集計の売上高、1株利益、設備投資)/テスララティ
- アナリストの目標株価(モルガン・スタンレー、カンター・フィッツジェラルド、シティ)/ストックツイッツ(10月21日8時36分、米東部時間)
- 株価(日足、取引時間中の値)、ナスダック総合指数、テスラ、ドル円/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月21日(米東部時間9時49分、日本時間22時49分)。スペースXの株価163.41ドル、ナスダック総合指数とテスラの騰落率、ドル円157.92円は取引時間中の値であり、終値ではない。前日終値147.79ドルと寄り付き160.56ドル、日中安値158.20ドルはYahoo Financeによる。部門別の比率、上振れ率、営業利益率、売上総利益率、フリーキャッシュフロー、時価総額、円換算、ロックアップ株数の発行済み株式に対する比率は本誌の計算である。市場予想は集計会社によって異なり(売上高127億〜130億ドル)、本稿では前日のプレビューで引用したブルームバーグ集計の報道値を使った。プレビューの1株利益予想は調整後、実績の0.35ドルはGAAPの値である。説明会の発言は第三者による書き起こしにもとづき、同社は誤りが含まれうると注記している。アナリストの目標株価は報道によるもので、本誌はリポート本体を確認していない。ロックアップの解除株数は「最大」の値で、実際に売られる株数を示すものではない。シナリオの確率は本誌の判断である。テスラとスペースXの統合は、本稿執筆時点で決定していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















