英国の9月消費者物価指数(CPI)が予想を上回ったのを見てポンドを買った向きは、日本時間22時を回っても1.34ドルの上に定着できない値動きに首をかしげているだろう。ポンドドルは英国時間7時の発表直後に1.3366ドルまで売られ、そこから13時台に1.3403ドルまで戻した。だが日本時間22時(英国時間14時)は1.3397ドルで、前日のニューヨーク終値(1.3373ドル)に比べ0.18%高にとどまる。前日20日の高値1.3408ドルに続き、2日続けて1.34ドル台の前半で上値を止められた。
本誌は前日、CPIを前にしたポンドドル見通し:1.34ドル目前、英CPIが関門で、結果が3.3〜3.5%なら1.33〜1.35ドルのもみ合いが中心になると書いた。結果は3.5%で、値動きもその範囲に収まった。本稿で扱うのは「発表後に何が変わったか」と、その先1〜4週間の水準である。ポンド円の側から見た分析はポンド円見通し:英サービス物価3.7%、213円試しへに譲る。
英CPIが上振れしても1.34ドルを抜けないのはなぜか
英国家統計局(ONS)によると、9月のCPIは前年同月比3.5%上昇し、8月の3.1%から伸びが加速した。ロイター調査の市場予想は3.4%だった。前月比は0.4%上昇。押し上げの主役は自動車燃料で、燃料価格の前年比は8月の23.0%から29.8%に跳ね上がった。食品やエネルギーなどを除くコアCPIは2.8%(8月は2.6%)、サービス価格は3.7%(同3.4%)、財価格は3.2%(同2.7%)である。数字そのものは英中銀(イングランド銀行、BOE)のタカ派に追い風だ。
それでもポンドが走らないのは、利上げがすでに値段に入っているからだ。米CNBCが21日に伝えたLSEGのデータでは、11月5日の会合で0.25%の利上げ(政策金利3.75%→4.00%)が行われる確率は98%。ロイターも、短期金融市場は11月の利上げをほぼ完全に織り込み、2027年半ばまでに4回の利上げを見込んでいると報じた。98%を99%にしても、ポンドを買い上げる新しい理由にはならない。上振れの割に値幅が出なかったのは、この「織り込み済み」の重さである。
同じ朝、もう一つの数字がポンドの足を引っ張った。ONSによると9月の公的部門の純借り入れは245億ポンドで、予算責任局(OBR)の見通しを19億ポンド上回った。公的部門の純債務は国内総生産(GDP)比94.0%である。10月28日にはヒーリー財務相にとって初めての予算案が控える。ドイツ銀行のエコノミストは、控えめな予算が財政の信認を損なわずに済むかが市場の焦点だと指摘している。物価は買い材料、財政は売り材料。2つが同じ朝に出て、値幅を食い合った格好だ。
ユーロに対しては強い。ユーロポンドは日本時間22時45分時点で0.8390ポンドと、ポンド高方向に0.42%動いた。ロイターは、ポンドが対ユーロで17カ月ぶりの強さにあると伝えている。ポンドそのものの買いは続いており、対ドルで伸びないのはドル側の事情も大きい。
ドル側:10月のFOMCで米利上げはあるか
米連邦準備理事会(FRB)は9月16日、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げて3.75〜4.00%とした(12対0の全会一致)。翌17日、英中銀は6対3で政策金利を3.75%に据え置いた。グリーン、マン、ピルの3委員は利上げを主張したが、多数派は動かなかった。ポンドドルは9月15日の高値1.3503ドルから17日の安値1.3338ドルまで下げた。米利上げと英据え置きが2日続いたことによる下げである。いま市場が試しているのは、この時の下げを取り戻せるかどうかだ。
次の連邦公開市場委員会(FOMC)は10月27〜28日。韓国・ソウル経済新聞が引用したCMEのフェドウオッチでは、10月20日時点で据え置きの確率が84.5%、利上げは15.5%だった。13日時点の利上げ確率は22.1%で、そこから下がっている。英国は11月にほぼ確実に利上げ、米国は10月にまず据え置き。目先の金利の動きは、ポンド側に有利に傾いている。今回の会合では経済見通し(SEP)は公表されない。
需給:資産運用会社の売り越し14.6万枚は踏み上げの燃料か
筆者が一番気にしているのは持ち高である。米商品先物取引委員会(CFTC)の投資家別建玉(10月13日時点)では、シカゴのポンド先物で資産運用会社・機関投資家の売りが16万4,730枚、買いが1万8,995枚。差し引き14万5,735枚の売り越しで、1枚6万2,500ポンドで換算すると約91億ポンドになる。取組高26万8,532枚の過半が、この層の売りで占められている。一方、短期筋のレバレッジド・ファンドは1万313枚の買い越しにとどまる。
運用会社の売りにはヘッジ目的のものも多く、全部が投げに回るわけではない。それでも売りがこれだけ一方向に偏っていると、上値の節目を抜けた時の買い戻しは速くなりやすい。逆に言えば、1.34ドル台前半で2日続けて押し戻されたのは、この売り方がまだ崩れていない証拠でもある。どちらに転ぶかを決めるのが、次に見る水準である。
水準の地図:1.3414〜1.3433ドルの帯が天井になる理由
ポンドドルの水準の地図(2026年10月21日)
読み方:青が現在値(日本時間22時、取引時間中)、橙が上値の節目と目標、赤が筆者の撤退線。50日線(1.3414ドル)と200日線(1.3433ドル)が0.002ドルの幅に重なり、20日と21日の高値はいずれもその手前で止まった。下は6月24日の1.3143ドルと10月14日の1.3139ドルで二番底を作った。移動平均はヤフー・ファイナンスの日次レート(英国時間0時時点)から筆者が計算した概算。
移動平均は、ヤフー・ファイナンスの日次レート(英国時間0時時点の値)から筆者が計算した概算である。50日線は1.3414ドル、200日線は1.3433ドル、100日線は1.3391ドル、20日線は1.3253ドル。20日と21日の高値(1.3408ドル、1.3403ドル)は、どちらも50日線の手前で止まった。50日線と200日線は0.002ドルしか離れていない。この狭い帯が、9月半ばの下げで買った向きの戻り売りの場所になっている。
下の形は悪くない。10月14日の安値1.3139ドルは、6月24日の安値1.3143ドルとほぼ同じ水準で、二番底の形になった。そこから日々の安値は1.3224ドル(15日)、1.3268ドル(16日)、1.3305ドル(19日)、1.3310ドル(20日)、1.3366ドル(21日)と5日続けて切り上がっている。日柄は短いが、押し目を買う向きが毎日少しずつ上で待っている形である。
筆者の見立て:押し目買い、まず1.35ドルを狙う
筆者は強気である。1〜4週間(11月5日の英中銀会合と翌6日の米雇用統計まで)の目線は上だ。根拠は3つある。第1に、金利の動きの差だ。英国は11月の利上げをほぼ確実視され、米国は10月の利上げ確率が15%台まで下がった。第2に、安値が切り上がっていることだ。二番底から5日続けて安値を切り上げた相場は、帯を一度で抜けなくても崩れにくい。第3に、持ち高の偏りだ。運用会社の大きな売り越しは、帯を抜けた後の踏み上げを大きくする。
シナリオと確率は次のように置く。上抜け(45%):日足終値で200日線1.3433ドルを上回れば、9月のFOMC前の水準である1.3475〜1.3500ドルへ。勢いが続けば1.355ドル前後まで。もみ合い(35%):28日の予算案とFOMCを前に、1.33〜1.343ドルで日柄を消化する。下抜け(20%):日足終値で1.3300ドルを割れば、20日線の1.3253ドル、さらに二番底の1.314ドル台が視野に入る。確率は筆者の主観であり、市場の価格から計算したものではない。
仕掛けの目安は、1.3366ドル(21日の安値)から1.3330ドルにかけての押し目だ。一時的に1.34ドルを抜けた場面を追いかけて買うのは勧めない。この2日間、1.34ドル台は2度とも売りに押し戻されている。判断は取引時間中の一時的な上抜けではなく、日足の終値で行う。
逆になったら:日足終値1.3300ドル割れで撤退
撤退線は、日足終値で1.3300ドル割れとする。19日と20日の安値(1.3305ドル、1.3310ドル)のすぐ下で、ここを割れば安値の切り上げが途切れ、見立ての前提が崩れる。逆になる道筋は3つ考えられる。1つ目は28日の予算案だ。財政の信認が揺らいで英国債(ギルト)が売られれば、利上げ観測があってもポンドは売られうる。2つ目は11月5日の会合だ。98%まで織り込まれた利上げは、決まっても材料出尽くしになりやすい。追加利上げに慎重な声明なら、ポンドは下に振れる。3つ目はドル高だ。米国の物価指標が上振れて12月の米利上げ観測が強まれば、金利の動きの差は縮む。
レバレッジをかける個人投資家は、28日(英予算案とFOMC最終日が重なる)と11月5日の前後は持ち高を軽くしておくのが無難だ。指標の発表直後は値が飛びやすく、一時的に節目を割ってすぐ戻るだましも出やすい。損切りの注文は節目の真上や真下に置かず、少し余裕を持たせたい。
監視リスト:次の2週間で見るもの
| 日時(日本時間) | 材料 | ポンド買いを支持 | ポンド売りを支持 |
|---|---|---|---|
| 毎日の終値 | ポンドドル 1.3433ドル/1.3300ドル | 日足終値で1.3433ドル超 | 日足終値で1.3300ドル割れ |
| 10月28日(水) | ヒーリー財務相の予算案、OBRの財政見通し | 借り入れ計画が抑えられ、ギルトが落ち着く | 借り入れ増でギルト利回りが急上昇 |
| 10月29日(木)3時 | FOMCの結果(27〜28日) | 据え置きで、次の利上げにも慎重 | 利上げ、または12月の利上げを強く示唆 |
| 11月5日(木)21時 | 英中銀の政策金利と金融政策報告 | 4.00%へ利上げし、追加利上げにも含み | 利上げでも打ち止めを示唆、または据え置き |
| 11月6日(金)22時30分 | 米10月の雇用統計 | 雇用の伸びが鈍化 | 雇用・賃金が上振れ |
要するに、英CPIの上振れで変わったのは利上げの確率ではなく、ポンドが上に抜ける材料がもう英国側に残っていないという点だ。ここから先は、28日の予算案とFOMC、そして1.3414〜1.3433ドルの帯を日足で抜けるかどうかで決まる。筆者は押し目を拾い、1.3300ドルを割れば素直に降りる。
関連記事
- ポンドドル見通し:1.34ドル目前、英CPIが関門(10月20日、CPI発表前のシナリオ)
- ポンドドル見通し:英利上げは織り込み済み、1.34ドルが壁
- ポンド円見通し:英サービス物価3.7%、213円試しへ
主な参照資料
- 9月のCPI、コアCPI、サービス・財価格、自動車燃料の上昇率/英国家統計局(ONS)
- 9月の公的部門の純借り入れとOBR見通しとの差、純債務のGDP比/英国家統計局(ONS)
- 11月5日の会合日程/イングランド銀行、9月の6対3の据え置き/イングランド銀行
- 9月16日の利上げ(3.75〜4.00%)/米連邦準備理事会、FOMCの日程/米連邦準備理事会
- 11月の英利上げ確率98%(LSEGのデータ)/CNBC
- 市場予想3.4%、2027年半ばまで4回の利上げ観測、対ユーロ17カ月ぶりの強さ、ドイツ銀行の見方/ロイター(Global Banking & Finance Review掲載)
- フェドウオッチの10月利上げ確率/ソウル経済新聞
- ポンド先物の投資家別建玉(10月13日時点)/米商品先物取引委員会(CFTC)
- 予算案の日程(10月28日)/CIPP、米雇用統計の公表日/米労働統計局
- ポンドドルの日次・15分足レート、移動平均の計算元/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月21日、日本時間22時(英国時間14時)。ポンドドルの1.3397ドルはこの時点の取引時間中の値で、終値ではない。前日比はニューヨーク終盤(英国時間23時45分)の1.3373ドルとの比較である。ユーロポンドは日本時間22時45分時点の値。日中の高値・安値と日々の安値・高値はヤフー・ファイナンスの15分足と日足にもとづき、情報ベンダーによって数ピップスの差が出ることがある。移動平均は英国時間0時時点の日次レートから計算した概算である。英利上げ確率98%はCNBCが報じたLSEGのデータで、本誌はLSEGの元データを直接確認していない。フェドウオッチの確率は10月20日時点で、日々変わる。CFTCの建玉は10月13日時点で、その後の変化は反映していない。シナリオの確率と撤退線は筆者の見立てであり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















