英国のインフレ統計が予想を上回ったのに、ポンド円はほとんど動かなかった。21日15時、英国家統計局が9月の消費者物価指数(CPI)を発表すると、ポンド円は5分間で211円40銭から211円70銭まで振れ、30分後には211円50銭前後に戻っていた。上にも下にも30銭。指標が「当たり」でも値が飛ばないのは、相場がもう先に動いていたからだ。
結論から書く。筆者は19日の記事で置いた「2〜4週間で213円試し」の見立てを維持する。19日に「一番見る」と書いたサービス価格は3.4%から3.7%へ加速した。強気の条件はひとつ満たされた。ただし211円25銭の上抜けは、まだ終値で確認できていない。撤退線は208円50銭から209円40銭へ引き上げる。
テープ:発表の前に買われていた
ポンドは発表前に買われていた。20日に出た英国の雇用統計で、失業率は6〜8月に4.7%と、前回の4.9%から下がった。英ニュースサイトのパウンド・スターリング・ライブによると、市場予想は5.0%への上昇だった。賃金(賞与を除く)は前年比3.7%増で、予想を0.1ポイント上回った。同サイトは、11月5日の利上げを市場が9割を超える確率で織り込んでいたと伝えている。
その結果がテープに出ている。ヤフー・ファイナンスの日足では、ポンド円は9月末の安値206円90銭から戻り、21日の東京時間には211円83銭まで上げた。9月中旬から続いた207〜211円のレンジの上限、211円25銭を日中は上回っている。15時30分時点は211円50銭前後。ポンドドルも1.3376ドル前後で、19日の記事を書いた時点の1.3330ドルから上にいる。
円の側は静かだった。ドル円は15時30分に158円12銭前後で、前日の東京とほぼ同じ水準にある。今週のポンド円の上げは、ここでも円売りではなくポンド買いで説明がつく。ドル円の見立ては同日のドル円見通しにある。
需給:英CPIの中身
| 指標(前年同月比) | 9月 | 8月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| CPI総合 | 3.5% | 3.1% | +0.4ポイント |
| コアCPI(エネルギー・食品・酒・たばこを除く) | 2.8% | 2.6% | +0.2ポイント |
| サービス価格 | 3.7% | 3.4% | +0.3ポイント |
| 財(モノ)価格 | 3.2% | 2.7% | +0.5ポイント |
| CPIH(持ち家の住居費を含む) | 3.6% | 3.3% | +0.3ポイント |
総合の3.5%は、FXストリートが発表前に示した市場予想3.4%を0.1ポイント上回った。2025年10月以来の高い伸びである。英国家統計局は、上昇への寄与が最も大きかったのは輸送、とくに自動車燃料だと説明している。中東情勢による原油高がそのまま出た形だ。
筆者が見ていたのはサービス価格だ。燃料のような輸入物価ではなく、国内の賃金と需要で決まる部分で、英中銀(イングランド銀行)が一番気にする数字でもある。これが3.4%から3.7%に上がった。前日の賃金3.7%増と並べると、物価の上昇がエネルギーだけの話ではなくなってきたことになる。
では、なぜポンドは飛ばなかったのか。9割を超えて織り込まれた利上げは、統計が良くても上積みの余地が小さい。パウンド・スターリング・ライブは、市場が今後1年で計1ポイント分の利上げを見込んでいるとも伝えている。値幅を生むのは11月の1回ではなく、その先の回数だ。今日のサービス価格は、その回数を減らす材料にはならなかった。ポンドの下値を固める材料ではあっても、上値を一気に広げる材料ではなかった。正直、ここで飛びつく相場ではない。
水準の地図
ポンド円の水準の地図(10月21日15時30分時点)
読み方:日中は211円25銭のレンジ上限を上回ったが、終値での上抜けは未確認。75日線(213円09銭)と200日線(212円96銭)が重なる213円前後が次の目安。出所:ヤフー・ファイナンスの日足から本誌計算。
ヤフー・ファイナンスの日足終値から計算すると、25日移動平均線は209円44銭で、相場はその上にある。75日線は213円09銭、200日線は212円96銭。2本の長い線が213円前後で重なり、上からかぶさっている。19日時点とほぼ同じ配置だ。
上の関門は2つ。まず211円25銭の終値での上抜け。日中は抜けたが、前日20日の終値は210円台後半で、ここはまだ確定していない。次に213円前後の長期線の束である。7月15日に付けた年初来高値219円52銭は、今回の見立ての外に置く。下は25日線の209円44銭、10月半ばの押し目208円60銭、9月末の安値206円90銭の順になる。
筆者の見立て:213円試しを維持
筆者はポンド円を引き続き強気でみている。根拠は3つだ。1つ目は、サービス価格の加速で、英中銀が11月で打ち止めにする理由が薄れたこと。2つ目は、日英の金利差である。英中銀の政策金利は3.75%、日銀は1.25%程度で、差は2.5ポイントある。11月に英国が上げれば2.75ポイントに広がる。3つ目は需給で、発表を挟んでも211円台を保った。織り込み済みの材料で崩れない相場は、次の材料で上に行きやすい。
| シナリオ(11月5日の英中銀会合まで) | 筆者の確率(19日時点) | ポンド円の目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 上抜け:213円前後を試す | 50%(45%) | 211円25銭を終値で抜け213円前後 | 英予算案を無難に通過、利上げ回数の織り込みが増える |
| もみ合い:レンジにとどまる | 35%(35%) | 209円40銭〜211円80銭 | 28日の英予算案、日銀会合の待ち |
| 下抜け:25日線を割る | 15%(20%) | 209円40銭を割り208円台前半 | 英予算案で財政不安、日銀の12月利上げ示唆、円買い介入 |
上抜けの確率を45%から50%に上げたのは、19日に条件として挙げたサービス価格の加速が実際に起きたからだ。5ポイントしか上げないのは、終値での上抜けがまだ確認できていないからである。指標で上がらなかった相場が、次に何で上がるのかを決めるのは来週の英予算案になる。
逆になったら:209円40銭に引き上げ
撤退線:209円40銭(終値ベース)。19日の208円50銭から引き上げる。25日移動平均線(209円44銭)のすぐ下で、ここを終値で割り込めば、今週の上げは雇用統計とCPIの「期待の先買い」だったことになる。その場合、筆者は213円の見立てを取り下げ、208円台前半までの押しを想定し直す。
崩れる形は2つ考えている。ひとつは28日の英予算案だ。財政の見通しに市場が不安を抱けば、英国債が売られ、ポンドも一緒に売られる。2022年秋の英国債急落は、まさにこの形だった。もうひとつは円の急騰で、29〜30日の日銀会合が12月の追加利上げを強く示唆すれば、クロス円全体が下がる。レバレッジをかけた取引では、予算案の発表時と日銀会合の結果発表時にスプレッドが広がりやすい点にも注意が要る。
監視リスト
| 日時(日本時間) | イベント | 見るところ |
|---|---|---|
| 10月21日の終値 | ポンド円の日足 | 211円25銭の上で引けるか |
| 10月28日 | 英国の予算案 | 財政見通しで英国債利回りが跳ねるか |
| 10月29〜30日 | 日銀金融政策決定会合 | 12月の追加利上げを示唆するか |
| 11月5日 | 英中銀の政策金利発表 | 4.00%への利上げと票割れ、次の利上げの示唆 |
今回の見立ての出発点は19日のポンド円見通し、ポンドドル側から見た英中銀の織り込みは20日のポンドドルの記事にある。FX取引の仕組みや業者選びはFX解説ページにまとめている。
主な参照
- 英国の9月CPI、コア、サービス・財価格、CPIH/英国家統計局
- 英CPIの市場予想(総合3.4%)/FXストリート
- 英雇用統計(失業率4.7%、賃金3.7%増)と11月利上げの織り込み/パウンド・スターリング・ライブ
- 英中銀の金融政策委員会の日程/イングランド銀行
- 日銀の政策金利と会合日程/日本銀行
- ポンド円・ポンドドル・ドル円の日足と5分足/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月21日15時30分(日本時間)。為替レートは取引時間中の値で、終値ではない。移動平均線と高値・安値はヤフー・ファイナンスの日足から本誌が計算したもので、データ提供元によって数銭の差が出る。11月利上げの織り込み(9割超)は報道にもとづくもので、市場の織り込みは日々変わる。シナリオの確率と撤退線は筆者の見立てであり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















