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原油高はどこまでなら株高と共存できるのか——ホルムズ封鎖宣言と80・100・126ドルの水準別シナリオ【2026年7月】

Takashi Suzuki Takashi Suzuki
2026年7月16日
商品・貴金属
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原油 × 日本株 ・ 2026年7月12日
ホルムズ「封鎖宣言」——原油高はどの水準から株式市場を壊すのか
ブレント(7/10終値)
約76ドル 週+5%超
週末の封鎖宣言
未織り込み 月曜ギャップ注意
2026年世界需要(IEA)
−100万b/d 2020年以来の減少
日本の備蓄
254日分

原油価格は世界経済の「血圧」だ。高すぎれば輸送・電力・素材というあらゆる血管に負荷がかかり、低すぎれば産油国と資源企業が立ちゆかない。その血圧計が、再び危険域へ向かい始めた。

7月12日(土)、イラン革命防衛隊(IRGC)海軍がホルムズ海峡の「封鎖」を宣言し、警告射撃を行ったとCNNが報じた。米軍は1週間で3度目となる約140目標への攻撃を実施したと同局は伝える。問題は、金曜(7月10日)の清算値——ブレント約76.0ドル、WTI約71.4ドル——がこの週末の展開を一切織り込んでいない点だ。月曜の寄り付きは金曜の延長線上にはない。ただし結論を先に言えば、月曜の寄り付きで慌てて売買する必要はない。必要なのは「どの水準で何を点検するか」を今のうちに決めておくことだ(基準日2026年7月12日)。

「需要は減るのに、価格は上がる」の逆説

直感に反する事実から始めたい。IEAは7月10日の月報で、2026年の世界石油需要を前年比100万バレル/日の減少と予測した。年間の需要減は2020年のコロナ以来初めてだ(OPECは逆に97万b/d増を予想し、両機関の差は約200万b/dに開く)。需要が減る見通しなのに、なぜ価格は上がるのか。

答えは、原油価格が「今の需給」だけでなく「届くかどうかの確率」を織り込むからだ。中東湾岸の原油の出口はホルムズ海峡という一本の水路であり、ここは高速道路の料金所に似る。料金所が閉まる「かもしれない」というだけで、通れた荷物にも保険と運賃という見えない料金が上乗せされる。実際、戦争保険料率は通常の0.15%から0.8〜1.5%/航海へ、米英イスラエル関連船では2.5〜5%へ跳ね、中東→中国のタンカー運賃は約3ドルから約11ドル/バレルに上がった。ブルームバーグによれば海峡の通航はほぼ停止し、国連は約6,000人の船員が足止めされていると集計する。日本関連船も7月7〜9日に22隻が湾外へ退避し、湾内残留は4隻だ(保険業界情報)。

もう一つの罠は「予備能力の場所」にある。OPECプラスの増産余力は名目約500万b/dだが、即応できるのは150〜250万b/dとの試算がある(Energy Aspects・Rapidan)。しかもその大半は湾岸の内側、つまり料金所の内側だ。門が閉じれば、余力はあっても外に出せない。供給はすでに戦前比940万b/d減っており、IEAの見通し自体が「速やかな緊張緩和」を前提としていた。その前提が、週末に崩れた。各社が見通しを上方修正した6月の局面と同じ構図が、より高い緊張度で戻ってきた形だ。

水準というものさし:80・100・126ドルの意味

ブレント原油の「ものさし」

現在はピーク比約4割低い位置にいる。だが週末の封鎖宣言は金曜の値段に入っていない。

共存可能 警戒圏 利上げ観測強化 警告ライン超 $60 $70 $80 $90 $100 $110 $120 $130 ゴールドマン警告ライン $100 戦時ピーク $126.41(4/30) 現在 ブレント約$76(7/10終値・封鎖宣言は未織り込み)

出所:価格はTrading Economics等(7/10終値)、警告ラインはゴールドマン・サックス予想(7月末までに正常化しなければ年末100ドル超)、ピークはCNN/CNBC(4月30日)。

水準(ブレント)世界への含意日本への含意実証・根拠
80ドル未満株式と共存可能日経は7/8の−1,437円を2営業日で回復7/10時点で実証済み
80〜90ドルインフレ再加速、FRB利上げ観測強化GDP−0.09%・CPI+0.16%(+10ドル時)、ガソリン180円/L超NRI試算
100ドル超2カ月継続で世界GDP数十bp減(後退は回避)GDP−0.18%・CPI+0.31%(+20ドル時)、ガソリン200円/L視野Oxford Economics・ゴールドマン警告ライン
126ドル再テスト140ドル×2カ月なら米経済「ほぼ停止」・米CPI約5%戦時中は原油輸入が半減した前例Oxford Economics最悪シナリオ
シナリオはいずれも試算・予想であり、実際の展開は情勢次第で大きく変わる。

原油の影響:4本のパイプ

① ガソリン
+10ドルで180円/L超、+20ドルで200円/L超が目安。補助金(2.8円/L+調整4.9円/L)込みでこの水準。円安162円台が上乗せ。
② 電気代
燃料費調整制度を通じ数カ月遅れで検針票に。電力会社は転嫁しきれない逆ざやを抱えやすく、東京電力は業績見通しを示せていない。
③ 企業コスト
タイヤ・化学は原料高、空運は燃料高が直撃。資源・元売り・商社には追い風。株式市場は業種ごとにこのパイプの向きを値付けし直す。
④ 金利
インフレ再加速がFRBの利上げ観測を強める。金利は株式全体の割引率であり、この1本だけは業種を選ばず全銘柄に効く。

原油高の日本経済への感応度

1本ずつのパイプは細くても、4本同時に流れれば無視できない。

-0.2% -0.1% +0.1% +0.2% +0.3% -0.09% +10ドル -0.18% +20ドル 実質GDPへの影響 +0.16% +10ドル +0.31% +20ドル CPI(物価)への影響

出所:NRI(野村総合研究所)試算。原油価格が+10ドル/+20ドル上昇した場合の影響。

日本株の勝ち負けマップ

日本は原油の95%超を中東に依存し(過去最高)、輸入の9割超がホルムズ海峡を経由する。戦時中には原油輸入が半減した(主要国で最悪・日経)。円安が円建てコストに上乗せされる分、打撃は米国より重い。ただし国家・民間備蓄は254日分あり、供給が即座に途絶える話ではない。

追い風(受益側)
  • INPEX・JAPEX(石油開発)
  • ENEOS・出光・コスモ(製油)
  • 資源を持つ商社
  • 住友金属鉱山(金)・防衛関連
  • 海運:タンカー運賃急騰(3→11ドル/バレル)の追い風、ただし自社燃料費は逆風の二面性
逆風(負担側)
  • JAL・ANA(燃料費+中東路線)
  • HISなど旅行
  • ブリヂストンなどタイヤ・化学
  • 電力(燃料費調整の逆ざやリスク、東電はFY3/27見通し「未定」)
  • 両義:自動車——円安メリットと原材料・輸送コスト増が相殺し合う

個人投資家のチェックリスト:月曜朝と、その後

  • 月曜朝:①ブレント先物の寄り付き——80ドル未満なら先週の延長線、80ドル台なら警戒圏入り。②ドル円——リスクオフの円高か資源高の円安かで日本株への効き方が変わる。③日経平均先物のギャップ幅——7月8日の−2.1%が目安。
  • 80ドル台に定着したら:エネルギー・資源のウェイトなど資産配分を確認。保有銘柄が4本のパイプの上流(受益側)と下流(負担側)のどちらにいるかを整理する。
  • 100ドル接近なら:ガソリン・電気代など家計側の影響も含めて防御を検討。
  • やってはいけないこと:寄り付きの成行売り。7月8日の急落は2営業日で埋まっており、地政学ショックのギャップは寄り付きが最悪値になりやすい。逆に「封鎖なら急騰」と決め打ちの飛び付き買いも危うい——6月には停戦観測で月間20%超の大幅安になった。事態はどちらにも急転する。

市場は6月17日の覚書で「危機は終わった」と値付けし、7月2日には開戦前の71ドル割れまで戻した。それが2週間で覆った。教訓は明確だ——地政学リスクは「解消」ではなく「休止」として扱う。一時119ドル超えの乱高下局面やゴールドマンの見通し上方修正で見た振れ幅は、今回も起こり得る。血圧計の数字に驚く前に、自分がどの血管につながっているかを知っておく。それが、この局面で最も実用的な準備だ。

主な参照(データ基準日:2026年7月12日)
  • 週末の情勢:CNN(封鎖宣言・攻撃は同局報道)
  • 需要見通し:IEA 7月月報、CNBC
  • 価格・海運:Trading Economics、Bloomberg
  • 日本の感応度・構造:NRI試算、日本経済新聞、燃料油価格激変緩和事業(補助金)

免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。記載の数値は2026年7月12日時点(価格は7月10日終値)のものであり、情勢は極めて流動的で実態と大きく異なり得る。水準別シナリオは各機関の試算・予想に基づく整理である。投資判断の際は必ず最新の一次情報を確認し、最終的な判断はご自身の責任において行われたい。

需要が減る見通しなのに、なぜ原油価格は上がるのか?

価格が「今の需給」ではなく「届くかどうかの確率」を織り込むからだ。戦争保険料の急騰(通常0.15%→0.8〜1.5%/航海)や運賃上昇という見えないコストに加え、OPECプラスの即応余力150〜250万b/dの大半が湾岸の内側にあり封鎖時に出せないため、IEAが需要100万b/d減を見込む中でも価格は上がる。

月曜の寄り付きで株を売るべきか?

基本は売らないのが合理的だ。7月8日の日経平均−2.1%急落は2営業日で回復しており、地政学ショックのギャップは寄り付きが最悪値になりやすい。判断すべきは資産配分の点検であって、成行での即断売買ではない。ただし「封鎖なら急騰」の決め打ち買いも危うい——6月には停戦観測で月間20%超の大幅安になった。

ガソリン価格はどこまで上がる可能性があるか?

原油+10ドルで全国平均180円/L超、+20ドルで200円/L超が目安だ(NRI試算)。3月に過去最高の190.8円/Lを付けて補助金が再導入されており(補助単価2.8円/L+7月調整単価4.9円/L)、上昇はいくらか緩和されるが、転嫁自体は避けにくい。円安162円台も押し上げ要因になる。

日本の石油供給は止まるのか?

直ちには止まらない。国家・民間合わせて254日分の備蓄という時間の緩衝材がある。ただし日本は原油の95%超を中東に依存し輸入の9割超がホルムズ経由のため、封鎖が長期化すれば主要国で最も影響が大きい——戦時中には原油輸入が半減した前例がある。

原油高の局面で追い風を受ける日本株は?

INPEX・JAPEX(石油開発)、ENEOS・出光・コスモ(製油)、資源を持つ商社、住友金属鉱山(金)、防衛関連が代表格だ。海運はタンカー運賃急騰(約3→11ドル/バレル)の追い風と燃料費増の逆風が同居する二面性、自動車は円安メリットとコスト増の両義に注意したい。

Tags: WTI原油イランブレント原油中東原油日本株
Takashi Suzuki

Takashi Suzuki

大手マーケットメイカーのFXトレーディングデスクで8年以上にわたりキャリアを積み、うち3年は為替フォワードデスク、その後2年は金利(レート)デスクを担当した。さらにシンガポールではアジア・トレーディングデスクのヘッドとして4年間チームを率い、地域全体のフローとリスク管理を統括してきた。 現在もFX・金利・株式など幅広い市場で実際にトレードを行っており、機関投資家の最前線で培った実取引経験は豊富。FX・株式・暗号資産において自己のポジションを保有している。 こうした実務とマーケットでの経験をもとに、金融市場・暗号資産・FX・経済指標について、信頼性・正確性・迅速性の高い情報を届けることを目的としている。記事の内容は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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