雇用統計の数字が画面に出た瞬間、ユーロの買い方は1.1150ドルの手前で手を離した。11月6日22時30分(日本時間)、米10月の雇用者数が16万5,000人増と予想の6万5,000人を大きく上回ると、ユーロドルは発表直前の1.1167ドルから1.1148ドルまで売られた。22時53分時点では1.1156ドル(取引中の値)で、この日の東京・欧州時間につけた高値1.1237ドルから0.7%下にいる。
筆者が見ているのは、その少し下にある1.1130ドルだ。欧州中央銀行(ECB)の参照レートで見た2026年の最安値で、10月29日につけた。いまの値段から、わずか26ポイントしか離れていない。結論から言えば、筆者はこの線を試しに行く方に張る。ただし、投機筋のユーロ売りが記録的な水準まで積み上がっていることも同時に頭に置いておく必要がある。
テープ:1日で上を消して、下を試した
まず今週の値動きを並べる。ECBの参照レートは11月4日が1.1267ドル、5日が1.1224ドル。4日には1.1265ドルの上値を抜けて「底入れか」と言われたが、5日のうちに行って来いとなった。6日は東京時間に1.1237ドルまで戻したあと、欧州時間にかけてじりじりと売られ、雇用統計で1.1150ドルを割り込んだ。上抜けの形を作りかけた相場が、3日で元の位置まで戻された格好だ。
雇用統計の中身は、ドルの買い材料としては申し分ない。米労働統計局によると、8月分と9月分も合わせて8万4,000人上方修正され、失業率は4.1%と9月の4.2%から低下した。平均時給は前年同月比3.1%増で、事前予想の2.9%増を上回っている。米10年債利回りは発表をはさんで4.872%から4.900%へ上がった(取引中の値)。ドル指数は22時43分時点で102.22と、この日の安値101.55から0.7%近く上げている。
正直、値幅は小さい。発表をはさむ20分で20ポイント前後である。強い雇用統計にしては反応が鈍いと感じた向きも多いだろう。だが筆者は、鈍さの理由はユーロの買い方が強いからではなく、すでに十分に売られているからだと読む。次の節で見る需給がそれを示している。
需給:売り越し14万枚、2016年以来の重さ
米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細によると、10月27日時点のユーロ先物で、投機筋にあたる非商業部門は買い23万646枚、売り37万4,540枚だった。差し引き14万3,894枚の売り越しである。9月15日時点の売り越しは2万6,993枚だったから、6週間で5倍超に膨らんだ。CFTCの公開データでこれより大きな売り越しは、2016年1月の2回しかない。
| 集計日 | 買い(枚) | 売り(枚) | 差し引き(枚) |
|---|---|---|---|
| 10月13日 | 222,929 | 360,502 | −137,573 |
| 10月20日 | 226,421 | 360,945 | −134,524 |
| 10月27日 | 230,646 | 374,540 | −143,894 |
売りがここまで積み上がった相場には、二つの性質がある。一つは、悪材料が出ても下げ幅が小さくなること。売りたい向きはもう売っているからだ。今夜の20ポイントという鈍い反応は、まさにこの性質で説明できる。もう一つは、良い材料が出たときに買い戻しが一気に出やすいこと。いわゆる踏み上げである。4日に1.1265ドルを上抜けた場面は、その予行演習だったとみている。
つまり、この相場は「下げにくいが、下げ止まってもいない」。売り方は利益が乗っているぶん、少しの戻りで買い戻しを急ぐ。その一方で、新しく売りを積む向きは減っている。こういう局面では、節目を割るときは静かに割り、戻るときは派手に戻る。値幅の非対称を前提に、ポジションの大きさを決めておくべきだ。
水準の地図
ユーロドルの水準の地図(2026年11月6日22時53分)
出所:現在値と20日線はヤフーファイナンスの5分足・日足終値から本誌計算。2026年安値は欧州中央銀行の参照レート。節目と損切りは筆者の見立て。
下から見ていく。1.1100ドルは心理的な節目で、10月29日の取引中に一時1.1110ドル近辺まで売られた場面でも割れなかった。その上の1.1130ドルがECB参照レートで見た2026年の最安値である。今夜の安値1.1148ドルは、その18ポイント上で止まった。上は20日移動平均線の1.1195ドル、6日の高値1.1237ドル、4〜5日の戻り高値1.1271ドルと続く。
中長期の線はさらに上にある。本誌がヤフーファイナンスの日足終値から計算した50日線は1.1352ドル、100日線は1.1419ドル、200日線は1.1545ドルだ。3本とも現在値の上にあり、短い線ほど低い。教科書どおりの下げ相場の並びで、1.13ドル台までは戻り売りの場だと筆者はみる。
筆者の見立て:弱気、1.1100ドルを試す
来週前半までの見立ては弱気だ。まず1.1130ドルの2026年安値を試し、割れれば1.1100ドルの節目を見に行くとみている。確率で言えば、1.1130ドルを試す展開が50%、1.1130〜1.1240ドルのもみ合いが35%、売り越しの買い戻しで1.1240ドルを上抜ける展開が15%と置く。根拠は3つある。
第一に、金利の差がドルの側に開いている。米連邦準備制度理事会(FRB)は10月28日に政策金利の誘導目標を3.75〜4.00%に据え置いたが、採決は10対2で、反対した2人はいずれも利上げを主張した。今夜の雇用統計は、12月8〜9日の会合での利上げを後押しする内容だった。これに対しECBは10月29日、預金ファシリティ金利を2.50%に据え置き、特定の金利の道筋は約束しないとしている。ユーロ圏の10月の物価は前年同月比4.0%上昇と高いが、押し上げているのはエネルギーで、コア指数は2.5%にとどまる。物価の高さがECBの利上げに直結していない。
第二に、ECBのトップ人事という読みにくさがある。ECBは10月29日、ラガルド総裁の退任を発表した。後任と時期をめぐる不透明さは、ユーロを積極的に買う理由を削る。第三に、先ほど見た移動平均線の並びだ。上値の線が3本とも下を向いており、戻りは売られやすい。
逆になったら:終値で1.1240ドルを上回ったら、筆者の弱気の見立ては外れたと認める。6日の高値1.1237ドルを超えるということは、雇用統計の売りがすべて吸収されたことを意味する。その場合は14万枚の売り越しの買い戻しが本格化し、1.1271ドル、さらに1.13ドル台前半までの踏み上げを想定する。逆張りでユーロを売るなら、損切りはこの1.1240ドルの上に置く。
中期、12月の両中銀の会合までを見ると、本誌は1.10〜1.14ドルのレンジのなかで上値の重い展開を本線とする。FRBが12月に利上げし、ECBが据え置けば、金利差はさらにドルの側へ開く。逆にFRBが利上げを見送れば、積み上がった売り越しが一気にほどける。12月は、どちらに転んでも値幅が出やすい月になりそうだ。
明日からの監視リスト
| 日時(日本時間) | 材料 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 11月7日(土)5時30分 | CFTC建玉明細(11月3日時点) | 売り越しが14万枚台から増えたか減ったか。減っていれば買い戻しが始まった合図 |
| 11月10日(火)22時30分 | 米10月消費者物価指数(CPI) | 上振れなら1.1130ドル割れの確率が上がる。下振れなら1.1240ドルの試し |
| 12月8〜9日 | 米連邦公開市場委員会(FOMC) | 利上げの有無と、来年の道筋 |
| 12月16〜17日 | ECB理事会 | 据え置きか、物価4%への対応か |
雇用統計前のユーロドルの論点は1.127ドルの上値を検証した記事に、投機筋の売り越しの読み方は売り越し2016年以来の記事にまとめている。同じ雇用統計で円がどう動いたかはドル円の記事を参照してほしい。取引の基礎はFX解説ページにある。
主な参照
- 米10月雇用統計(2026年11月6日発表)/米労働統計局(BLS)、市場予想はファクトセットとみんかぶ
- ユーロ先物の建玉明細/米商品先物取引委員会(CFTC)公開データ
- ユーロドルの参照レート/欧州中央銀行
- ECBの10月29日の決定と理事会日程/欧州中央銀行、日程
- ラガルド総裁の退任発表/欧州中央銀行
- ユーロ圏10月消費者物価(速報値)/ユーロ統計局
- FOMCの声明と採決(2026年10月28日)/米連邦準備制度理事会
- 米CPIの公表日程/米労働統計局(BLS)
- ユーロドル・ドル指数・米10年債利回りの5分足と日足/Yahoo Finance
データ基準日:2026年11月6日22時53分(日本時間)。ユーロドル、ドル指数、米10年債利回りは取引中の値であり、終値ではない。2026年の最安値1.1130ドルはECBの参照レート(日次の公表値)にもとづく。取引中の安値はこれより低く、配信元により1.1110ドル前後と差がある。移動平均線は本誌がヤフーファイナンスの日足終値から計算したもの。CFTCの建玉は10月27日時点で、最新の公表分ではない可能性がある。シナリオの確率と水準は筆者の見立てである。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨や金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は各自の責任において行われたい。














