米国のレギュラーガソリンは、全米平均で1ガロン4.17ドル。米自動車協会(AAA)の11月1日の数字で、前年の同じ時期より4割近く高い。1リットルに直し、日本時間3日23時40分のドル円158.26円で円に換算すると、約174円になる。米中間選挙で有権者が見ているのは、この値段と、カードの金利と、医療保険の保険料である。その請求書の先に、株式市場の勝ち組と負け組がいる。
予測市場ポリマーケットは、民主党が上下両院を取る確率を75.5%としている(日本時間3日23時41分)。本稿は家計の請求書から業種をたどり、選挙の結果で値動きが分かれそうな銘柄を並べる。
請求書から株価へ:4つの経路
家計の請求書から株価への4つの経路
読み方:左が家計の請求書、右が影響を受けやすい銘柄である。民主党は「暮らしやすさ」の成果を示すため、請求書に近い分野から手を付けるとみられている。出所:CNBC(エバコアISI、ウルフ・リサーチ、ゴールドマン・サックスなどの見方)。
CNBCによると、エバコアISIのアクス氏は、民主党は「暮らしやすさ」で目に見える成果を示したがると指摘した。カード金利の上限のような法案を通し、トランプ大統領に署名か拒否権かを迫る筋である。拒否権を覆すには両院で3分の2の賛成が要るため、法律になるとは限らない。それでも議題に上るだけで、関係する銘柄は売り買いされる。
医療保険料:病院株は追い風、保険株は二面性
米国では、個人で入る医療保険の保険料を、医療保険制度改革法(ACA)の補助金が支えてきた。CNBCによると、民主党は期限が切れたACAの上乗せ補助金の復活や、2025年成立の大型減税・歳出法によるメディケイド(低所得者向け医療保険)改革の巻き戻しを狙う。ウルフ・リサーチのマーカス氏は、ヘルスケアが「最大の焦点」になるとみる。
CNBCが名前を挙げたのは、病院運営のHCAヘルスケア(HCA)とテネット・ヘルスケア(THC)、保険のユナイテッドヘルス(UNH)とセンティーン(CNC)である。補助金で無保険の患者が減れば、病院の未収金は減る。保険会社は加入者が増える一方、薬価やメディケア・アドバンテージ(民間運営の高齢者医療保険)への監視も強まりうる。インベスティング・ドットコムによると、ヘルスケア株は年初から19%を超えて上げており、期待の一部はすでに値段に入っている。
カードの金利:カード会社と銀行株に重し
カードの支払いを分割にすると、米国では高い金利がかかる。トランプ大統領は1月、カード金利を10%に抑えるよう議会に求めた。CNBCによると、これを受けて金融株は年初にS&P500で最も弱い業種となり、年初来の上昇率はいまも約3%にとどまる。民主党が議会を取れば、この話が再び議題に上る。
影響を受けやすいのは、カード事業の比重が大きいキャピタル・ワン(COF)やシンクロニー・ファイナンシャル(SYF)である。3日の米国市場では、両社とも寄り付き後に1%前後下げている。大手銀行のJPモルガン(JPM)は事業が分散しており、影響は相対的に小さい。インベスティング・ドットコムは、モルガン・スタンレーの見方として、規制緩和の流れは鈍っても止まらないと伝えている。
電気代とデータセンター:AI株の新しい論点
CNBCによると、ワシントン・アナリシスのレインズ氏は、民主党の勝利が州レベルで出ているAIインフラ慎重論を固めると指摘した。一方でゴールドマン・サックスは、民主党の議会はデータセンターの税優遇を絞るかもしれないが、全国的な建設停止は「どの結果でも起きにくい」とみる。
選挙当日の3日、関連株はむしろ買い戻されている。日本時間23時42分時点で、データセンター向け電源・冷却のバーティブ(VRT)は5.67%高、電力会社のコンステレーション・エナジー(CEG)は2.52%高、エヌビディア(NVDA)は3.27%高だった(取引時間中)。シティは、AI関連の立法リスクから、半導体株は共和党の議会のほうが有利とみている。開票で民主党が予想以上に強ければ、この戻りは試される。
防衛予算とガソリン:防衛株と石油株
CNBCによると、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのサガル氏は、民主党の大勝は国防費の実質的な伸びを抑えうると述べた。ただし同氏は、防衛産業の業績見通しは「安定からやや改善」とみる。インベスティング・ドットコムは、イランとの紛争で受注残が過去最高にあると伝えた。ロッキード・マーチン(LMT)、ノースロップ・グラマン(NOC)、ゼネラル・ダイナミクス(GD)は、3日にそろって小幅安で推移している。
ガソリン価格の行方は、イラン情勢しだいである。CNBCは、トランプ大統領が選挙後にイランへの攻撃を再開すれば、エネルギー株が相対的に強くなる可能性を指摘した。エクソンモービル(XOM)のような石油大手は、相場全体が崩れたときの逃げ場になりうる。石油大手の精製益はエクソン決算の記事で扱った。
アナリストの採点:公益とテックが最も弱い
民主党が両院を取った場合の業種別採点(−2〜+2)
読み方:プラスは株価に有利、マイナスは不利という担当アナリストの見立てである。公益が最も悪く、生活必需品だけがはっきりプラス。出所:RBCキャピタル・マーケッツの調査(8月11日公表)、RBCウェルス・マネジメント(9月9日)。
RBCキャピタル・マーケッツは8月、自社の株式アナリストに、民主党が両院を取った場合の業種ごとの影響を採点させた。RBCウェルス・マネジメントが9月9日に公表した結果では、最も悪いのは公益の−2.00、最も良いのは生活必需品の+1.00だった。ヘルスケアは−0.17と小幅なマイナスで、CNBCが伝えた病院株の期待とは食い違う。保険会社への監視と、補助金の復活という2つの力が業種の中で打ち消し合うためと読める。
注目銘柄の一覧と本誌の見立て
| 銘柄 | 株価(3日23時42分) | 前日比 | 民主党が両院を取った場合 | 見るべきもの |
|---|---|---|---|---|
| HCAヘルスケア(HCA) | 464.40ドル | −0.73% | 追い風 | ACA補助金の復活法案 |
| テネット・ヘルスケア(THC) | 267.89ドル | −0.37% | 追い風 | 同上、メディケイドの巻き戻し |
| センティーン(CNC) | 66.88ドル | +0.50% | 追い風と監視の両方 | ACA市場の加入者数 |
| ユナイテッドヘルス(UNH) | 400.62ドル | +0.06% | 逆風寄り | メディケア・アドバンテージへの監視 |
| キャピタル・ワン(COF) | 208.82ドル | −0.93% | 逆風 | カード金利上限の法案 |
| シンクロニー(SYF) | 76.00ドル | −1.05% | 逆風 | 同上 |
| バーティブ(VRT) | 237.01ドル | +5.67% | 逆風寄り | 州のデータセンター規制、税優遇 |
| ロッキード・マーチン(LMT) | 639.25ドル | −0.62% | 小幅な逆風 | 国防予算の協議 |
| エクソンモービル(XOM) | 179.36ドル | −0.23% | 中立 | イラン情勢と原油価格 |
株価と前日比は取引時間中の値。「民主党が両院を取った場合」の列は、CNBC、インベスティング・ドットコム、RBCの見方をもとにした本誌の判断である。
本誌が最も差がつきやすいとみるのは、病院株とカード株の組み合わせである。どちらも議会の法案が直接、収益に響く。ただし大統領の拒否権があるため、法律になるまでの道は長い。選挙直後に大きく動いた場合は、期待の先取りが行き過ぎていないかを確かめたい。資産ごとの年末見通しはこちらの記事に、2018年の中間選挙との比較は前日の記事にまとめた。
次に値段が動く日
- 日本時間4日8時〜15時:米国の投票が順に締め切られ、開票が進む。東京の取引時間と重なる。
- 日本時間4日23時30分:選挙後最初の米国市場の取引開始。業種ごとの反応が最初に出る。
- 日本時間6日22時30分:米10月の雇用統計。選挙より金利が重いかどうかが分かる。
- 2027年1月:新しい議会が始まる。法案が実際に出てくるのはここからである。
主な参照
- ヘルスケア、金融、AI、防衛、エネルギーの見方とガソリン価格(米東部時間11月3日6時37分)/CNBC
- 業種別の採点(9月9日公表)/RBCウェルス・マネジメント
- ヘルスケア株の上昇率、防衛の受注残、金融規制の見方(11月2日)/インベスティング・ドットコム
- 投票の締め切り時刻/270toWin
- 議会の勢力図の予測市場(日本時間11月3日23時41分)/ポリマーケット
- 株価・ドル円の気配値(日本時間11月3日23時40〜42分)/グーグル・ファイナンス
データ基準日:2026年11月3日(日本時間23時42分)。株価とドル円は取引時間中の気配値で、終値ではない。ガソリン価格はAAAの11月1日の全米平均をCNBCが引用したもので、円換算は1ガロン=3.785リットルとして本誌が計算した。RBCの採点は8月時点の調査で、選挙直前の情勢は反映していない。銘柄への影響の判断は本誌の見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













