市場はこう信じている——中東の紛争で原油が高く、円は1ドル158円台(日本時間3日20時時点、取引時間中)と安い。だから総合商社は4〜9月期決算で業績予想を引き上げ、株価もそれに応える。11月4日、三菱商事(8058)、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)、丸紅(8002)の4社が、文化の日の休場明けにそろって決算を発表する。筋は通っている。
だが、本当か。今日はこの通説を2つに分けて尋問する。「上方修正はあるか」と「修正すれば株は上がるか」である。証拠は各社の4〜6月期の進捗、三菱商事が置いた前提、そして過去4回の決算で株価が実際にどう動いたかだ。
通説の陳述:材料はそろっている
通説の側の証拠を、最も強い形で並べておく。株探のデータによると、4社が5月1日に示した2027年3月期の純利益予想は、三菱商事が1兆1,000億円(前期比37.4%増)、三井物産が9,200億円(10.3%増)、伊藤忠商事が9,500億円(5.5%増)、丸紅が5,800億円(6.6%増)である。8月の4〜6月期決算では4社とも予想を据え置いた。三井物産の決算短信にも「直近に公表されている業績予想からの修正の有無:無」とある。
その4〜6月期の純利益は、三菱商事が2,985億円、三井物産が2,941億円、伊藤忠商事が2,938億円、丸紅が1,864億円だった。通期予想に対する進捗率は、本誌の計算で27.1%、32.0%、30.9%、32.1%になる。1年を4つに割れば1四半期あたり25%であり、4社とも3カ月でそれを上回った。
| 会社 | 通期の純利益予想 | 4〜6月期の純利益 | 進捗率 | 11月2日終値 | 2025年8月以降の高値からの下落 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 1兆1,000億円 | 2,985億円 | 27.1% | 4,772円 | −18.9%(5月14日 5,882円) |
| 三井物産 | 9,200億円 | 2,941億円 | 32.0% | 4,917円 | −26.2%(3月18日 6,659円) |
| 伊藤忠商事 | 9,500億円 | 2,938億円 | 30.9% | 2,271円 | −4.2%(10月26日 2,370.5円) |
| 丸紅 | 5,800億円 | 1,864億円 | 32.1% | 4,821円 | −23.5%(2月12日 6,301円) |
出所:株探の業績・株価データ(終値ベース)、三井物産の決算短信。進捗率と下落率は本誌計算。高値は株探で取得できる2025年8月以降の終値の最高値で、上場来高値ではない。
尋問1:上方修正の余地は本当にあるか
証拠を見よう。最もはっきりした材料は三菱商事の前提である。日本経済新聞の5月1日の報道によると、同社は今期の予想を1ドル150円、原油1バレル78ドルで組んだ。1円の円安で純利益が50億円、原油が1ドル上がると24億円増える感応度も示している。中東情勢による300億円の悪化も、9月まで供給網の混乱が続く想定で織り込んだという。
実際の数字と比べる。欧州中央銀行(ECB)の参照レートから本誌が計算したドル円の平均は、4〜6月が159.39円、7〜9月が159.29円、4月から11月2日までで159.12円だった。前提より約9円の円安である。原油については、同じ日に決算を出したサウジアラムコの平均実現価格が4〜6月期108.1ドル、7〜9月期95.2ドルで、いずれも78ドルを大きく上回る。中東産の原油価格の目安として、前提との差は歴然としている。
感応度に当てはめた単純計算では、円安の9円で年450億円、原油が前提を17ドル上回れば年408億円で、合わせて800億円台の上振れ余地になる。三菱商事の予想1兆1,000億円に対して7〜8%にあたる。この説明には穴がある、という反論も公平のために書いておく。感応度は通期で前提がずれた場合の目安で、価格が利益に反映されるまでには時間差がある。為替の予約や価格の契約条件もある。それでも、前提が保守的だったという点は動かない。通説のこの部分は生き残る。
尋問2:好調な数字は株価に届いてきたか
決算をはさむ2日間の株価の変化(%)
読み方:8月の4〜6月期決算では、4社とも進捗率が25%を超えたのに株価は下げた。5月の通期予想の発表でも、三井物産と丸紅は大きく売られた。変化は決算発表日の前営業日の終値から翌営業日の終値まで。出所:株探の日足終値から本誌計算。
ここが通説の弱点である。8月の4〜6月期決算で、4社はそろって進捗率25%を超えた。だが株価は4社とも下げた。決算発表日の前日終値から翌営業日の終値までの2日間で、三菱商事が0.80%、伊藤忠商事が1.69%、三井物産が3.57%、丸紅が5.08%の下落である。5月1日の通期予想の発表でも、三井物産は2日間で5.39%、丸紅は9.50%下げた。
過去4回(2025年11月、2026年2月・5月・8月)の決算で数えると、2日間で上げたのは16回中9回で、勝率は56%だった。ただし上げの多くは2025年11月と2026年2月に集中している。直近の5月と8月に限れば、8回中2回しか上げていない。三菱商事の5月(8.18%高)と伊藤忠商事の5月(3.66%高)だけである。好調な数字が出ても、株価がそれを素直に評価する局面ではなくなっている。
理由として考えられるのは、市場が「今期の数字」より「来期以降の資源価格」を見ていることだ。三井物産の高値は3月18日、丸紅は2月12日で、そこから2割以上下げている。資源の比重が小さい伊藤忠商事だけが10月26日に高値を付け、高値から4.2%安の位置にいる。資源高の恩恵が大きい会社ほど、株価は先に天井を付けている。
尋問3:下期も資源高は続くのか
上方修正の幅を決めるのは、上期の実績よりも下期(10月〜2027年3月)の前提である。ここに逆風がある。サウジアラムコの平均実現価格は4〜6月期から7〜9月期に12%下がった。さらにアラムコは11月3日の決算資料で、紛争前の生産水準に「数日で」戻せると明記した。海峡の通航が戻れば、原油の供給は一気に増えうる。その分析はアラムコ決算の記事にまとめた。
米国とイランの協議に期待が出た11月2日、原油は急落した。会社側は下期の前提を大きく引き上げにくい。上期の上振れ分だけを通期予想に足す「実績分の修正」にとどまる可能性が高い。その場合、株価が反応する余地は小さい。
もう一つ、4日の東京市場は全体の地合いが重い。休場中の日経平均先物は、祝日取引の15時31分時点で前日の日中終値比910円安だった(松井証券のデータ)。経緯は休場明けの先物を扱った記事にある。商社株の値動きは、決算そのものより相場全体の売りに引きずられる可能性がある。自分の買値から見た騰落率は、パーセント計算ツールで手早く出せる。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 4〜6月期は計画を上回るペースだった | 生存 | 進捗率は4社とも27〜32%で、1四半期分の25%を超えた |
| 三菱商事の前提は保守的だった | 生存 | 前提150円・78ドルに対し、ドル円は平均159円台、中東産原油は95〜108ドル |
| 上方修正すれば株価は上がる | 死亡寄り | 直近2回の決算では8回中2回しか上げていない。8月は4社とも下げた |
| 資源高は下期も続く | 未決 | アラムコの実現価格は前期比12%低下。供給は「数日で」戻りうる |
| 商社株は決算で独自に動く | 死亡寄り | 4日は先物が大きく下げた後の再開日で、全体の売りに巻き込まれやすい |
評決:修正は6割、株高は4割
本誌の評決を出す。4社のうち少なくとも1社が通期の純利益予想を引き上げる確率は60%とみる。最も可能性が高いのは前提の差が数字で確認できる三菱商事で、進捗率が32%台の三井物産と丸紅がこれに続く。伊藤忠商事は資源の比重が小さく、前提の差の効きは弱い。
一方、決算を受けて2日間で株価が上がる確率は、4社平均で40%とみる。過去4回の勝率56%を出発点に、直近2回の弱さ(25%)と、4日の地合いの重さで下に補正した。上方修正が出ても、下期の前提を据え置いた「実績分の修正」なら、売られる筋のほうが強い。株価を動かすのは修正の有無より、自社株買いの追加や下期の資源価格の見方だろう。
| 会社 | 上方修正の確率(本誌) | 2日間で上げる確率(本誌) | 注目点 |
|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 55% | 45% | 下期の為替・原油前提を引き上げるか |
| 三井物産 | 50% | 40% | LNGと北米ガスの利益の持続性 |
| 丸紅 | 45% | 35% | 直近2回はいずれも2日間で5%超の下落 |
| 伊藤忠商事 | 35% | 40% | 非資源の安定感。高値圏で期待はすでに高い |
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- 下期の前提ごと引き上げる会社が出たら。実績分だけでなく先の見通しまで上げれば、株高の確率は上がる。
- 自社株買いの追加や増配が出たら。株主還元の上積みは、利益の上振れとは別の買い材料になる。
- 4日の東京市場が先物ほど下げずに始まったら。全体の売りが軽ければ、決算そのものが値動きを決める。
- 原油が再び100ドルを超えて定着したら。下期の資源価格の見方が変わり、資源の比重が大きい三井物産と三菱商事に有利になる。
今週はこのほか、ソニーグループ・任天堂・トヨタ自動車が5日に決算を発表する。日程と予想変動幅は今週の決算をまとめた記事で扱った。
主な参照
- 4社の業績予想・四半期実績・決算発表予定日・日足終値/株探
- 2027年3月期第1四半期決算短信(業績予想の修正なし)/三井物産
- 三菱商事の業績予想の前提と感応度(5月1日)/日本経済新聞
- ドル円の取引時間中の値(日本時間11月3日20時)/グーグル・ファイナンス
- ドル円の参照レート(4月1日〜11月2日)/欧州中央銀行(フランクファーター経由)
- 三井物産の増益要因(LNG取引、北米シェールガス)/熊本日日新聞(共同通信)
- 原油の平均実現価格と増産余力/サウジアラムコ
データ基準日:2026年11月3日(日本時間20時)。株価はすべて11月2日の終値で、東京市場は3日が祝日のため休場している。決算発表日は株探の予定日によるもので、発表時刻は各社の開示で確認してほしい。過去の値動きは、決算発表日の前営業日の終値から翌営業日の終値までの変化で、発表が取引時間中か終了後かは区別していない。感応度による上振れ額は本誌の単純計算で、会社の見通しではない。アラムコの実現価格は中東産原油の目安として使ったもので、各社の販売価格とは異なる。確率は本誌の判断であり、将来の業績や株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














