サウジアラムコが11月3日に発表した7〜9月期決算は、調整後純利益が312億ドルと前年同期比9%増え、市場予想を上回った。だが中身を割ると、稼ぎ頭の原油生産(上流)は実現価格の下落で9%の減益で、利益を支えたのは過去最高となった精製・化学(下流)である。原油の値動きを追う投資家にとって重いのは、むしろ決算資料の別の1行だ。アラムコは、紛争前の生産水準には「数日で」戻せると明記した。
本稿は決算資料の数字を4枚の図に分け、原油価格の上値と下値にどう効くかを読む。まず下の1枚を見てほしい。
1枚目:上流は減益、下流が3.3倍で穴を埋めた
部門別の調整後EBIT(億ドル)
読み方:上流は実現価格の下落で前期・前年同期のどちらも下回った。下流は前年同期の約3.3倍で、上流の減少分(47億ドル)を上回る72億ドル増えた。出所:サウジアラムコの7〜9月期決算説明資料、本誌計算。
アラムコの決算説明資料によると、7〜9月期の上流部門の調整後EBIT(利払い・税引き前利益)は468億ドルで、前年同期の515億ドルから9%減った。4〜6月期の509億ドルと比べても減っている。原油の平均実現価格が1バレル95.2ドルと、4〜6月期の108.1ドルから約12%下がったためだ。総炭化水素の生産量は日量1,100万バレル(石油換算)と前期比17%増えたが、値下がりを打ち消すには足りなかった。
反対に下流部門の調整後EBITは103億ドルと、前年同期の31億ドルの約3.3倍に膨らんだ(会社発表では234%増)。前期比でも65%増で、会社は過去最高と説明している。全体の調整後純利益312億ドルは、CNBCが伝えたアナリスト予想の中央値306億6,000万ドルを上回った。なお、一時的な項目を含む報告ベースの純利益は1,359億4,000万リヤル(362億5,000万ドル)で34%増だったと、アラブ首長国連邦(UAE)紙ザ・ナショナルが報じている。基本配当は219億ドルと前年同期比3.5%増やした。
2枚目:精製マージンは紛争前の5倍以上
地域別の精製マージン(1バレルあたりドル)
読み方:ホルムズ海峡の閉鎖を境に、精製マージンはアジアで約5倍、北西欧州で12倍強、米国で約7倍に広がった。出所:S&Pグローバルの集計(サウジアラムコの決算説明資料に引用)。
下流が稼いだ理由は、ガソリンや軽油など石油製品の値上がりにある。アラムコが資料に載せたS&Pグローバルの集計では、精製マージン(製品価格と原油代の差)の平均は、ホルムズ海峡が閉ざされる前の1〜2月にアジアで1バレル4ドル、北西欧州で2ドル、米国で4ドルだった。閉鎖後の3〜9月平均は、それぞれ21ドル、25ドル、27ドルである。原油よりも製品のほうが足りていない、ということだ。
この構図は日本にも関係する。アジアのマージンが1〜2月の5倍に広がっている以上、国内で原油を精製する石油元売りにとっても、製品価格の上昇が原油高の負担を相殺しやすい局面になっている。一方で家計には別の形で響く。原油が急落した日にもガソリン価格が下がりにくかった理由は、補助金の仕組みを扱った記事で整理した。米石油大手の精製益については、エクソンとシェブロンの決算記事も参照してほしい。
3枚目:減った生産と「数日で戻せる」余力
アラムコの液体生産と最大持続生産能力(日量・万バレル)
読み方:生産は回復途上だが、紛争前を約2割下回る。能力との差は300万バレルを超え、会社は紛争前の水準へは数日、能力いっぱいへは3週間未満で戻せるとしている。出所:サウジアラムコの決算説明資料。
ここが本稿の核心である。7〜9月期の液体(原油と液化ガスなど)の生産は日量870万バレルで、前年同期の1,080万バレルを約2割下回る。総炭化水素でも1,100万バレルと、前年同期の1,330万バレルに届かない。ザ・ナショナルによると、10月にはフーシ派のミサイル攻撃で東部ダーランの本社施設の管理棟が火災となり、ここ数週間には西部ジーザーンと首都リヤドの製油所も攻撃を受けた。イラク領内から発射されたミサイルでポンプ場が損傷し、紅海側へ原油を運ぶ東西パイプラインが一時止まったとも伝えている。
それでもアラムコは資料で、紛争前の生産水準には「数日で」、最大持続生産能力(MSC)の日量1,200万バレルには「3週間未満で」到達できると書いた。7〜9月期の液体生産870万バレルとの差は単純計算で330万バレルあり、原油に限れば差はさらに大きい。会社の目安では、原油を日量100万バレル増やすごとに営業キャッシュフローが年120億〜140億ドル増える。ナセル最高経営責任者(CEO)は「主要なエネルギー施設への攻撃が世界のエネルギー供給危機を増幅させ続けた」と述べ、海外の貯蔵能力の追加と代替の輸出ルートを探っているとした。
読み替えれば、海峡の通航が戻ったとき、供給はゆっくりではなく一気に戻りうる。原油の上値を抑える最大の材料が、産油国自身の決算資料に書かれている。前日11月2日に原油が急落し、WTIが96.46ドルで清算したのは、米国とイランの協議への期待が出たためだった。その日の値動きはケシュム島攻撃の反応を扱った記事にまとめてある。
下値を支える側の言い分
紛争開始以降の世界の供給不足(億バレル)
読み方:30億バレルを超える供給が失われ、約20億バレルの不足が残る。在庫の穴が、供給が戻った後も下値を支えるというのがアラムコの見方である。出所:ケプラー、エナジー・インテリジェンス(11月3日まで、サウジアラムコの決算説明資料に引用)。
公平のために、アラムコが示した強気の材料も載せておく。資料に引用されたケプラーとエナジー・インテリジェンスの集計では、紛争が始まってから11月3日までに失われた供給は30億バレルを超え、戦略備蓄の放出などで埋めた後も累計で約20億バレルの不足が残る。石油製品の商業在庫は取り崩しが続いて市場の余裕を削っており、会社は在庫の積み直しに最長2年かかりうるとみている。冬場は軽油など中間留分の需要が例年ピークを迎える時期でもある。
つまり、供給が戻っても在庫の穴はすぐには埋まらない、というのがアラムコの立場である。原油の上値は生産余力が、下値は在庫不足が抑える。この綱引きを前提に、当面の筋書きを置く。WTIは日本時間3日19時53分時点で97.87ドルと、前日清算値から1.46%高い(取引時間中の値)。
本誌の見立て:今後4週間のWTI
| 筋書き | 確率(本誌) | WTIの目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| A 協議が前進し、海峡の通航が戻り始める | 35% | 85〜92ドル | アラムコなど湾岸産油国が数日単位で増産。在庫不足が下値を支える |
| B 協議は続くが、散発的な攻撃も続く | 45% | 93〜105ドル | 11月2日の急落後のもみ合い。製品マージンは高止まり |
| C 施設や船舶への攻撃が再び拡大する | 20% | 110ドル超 | パイプラインや製油所の停止が長引き、増産余力が使えない |
Bを中心に置くのは、11月2日の急落で市場がすでに「交渉」に重心を移した一方、ケシュム島攻撃のような事件がまだ続いているからだ。Aの確率をCより高くした根拠が、アラムコの増産余力である。供給が戻る速さが数カ月ではなく数日なら、合意の報道ひとつで価格は先に動く。上値を追う買いには、その速さが不利に働く。
個人投資家向けチェックリスト
- WTIが11月2日の清算値96.46ドルを終値で割り込むか。割り込めば筋書きAへの傾きが強まる。
- サウジの増産や輸出再開に関する公式発表。「数日で戻せる」が実際に使われたかどうかの確認になる。
- 精製マージンの縮小。製品の逼迫が和らげば、アラムコの下流利益と元売り株の追い風は細る。
- 東西パイプラインと紅海側の輸出の状況。迂回路が止まれば、増産余力があっても出荷できない。
- 次回のOPECプラス会合。12月の生産据え置きを決めた前回の経緯はこちらの記事にある。
主な参照
- 7〜9月期決算の発表(11月3日)/サウジアラムコ
- 決算説明資料(部門別EBIT、生産量、実現価格、精製マージン、供給不足、増産余力)/サウジアラムコ
- アナリスト予想の中央値と配当/CNBC
- 報告ベースの純利益と施設への攻撃/ザ・ナショナル
- WTI先物の気配値(日本時間11月3日19時53分)と前日の清算値/グーグル・ファイナンス
データ基準日:2026年11月3日(日本時間19時53分)。WTIの価格は取引時間中の気配値であり、終値ではない。11月2日のWTIの清算値は、グーグル・ファイナンスの前日比から確認した。決算の数字はアラムコの発表資料による。下流部門の倍率は本誌の計算で、会社発表の増加率(234%)とは端数処理で差がある。精製マージンはS&Pグローバルの集計をアラムコが資料に引用したもので、本誌は独自に確認していない。施設への攻撃の経緯はザ・ナショナルの報道によるもので、独自の確認はない。筋書きの確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














