米軍がホルムズ海峡のイラン領ケシュム島を攻撃したと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が日本時間3日朝に報じた。前日に7%を超えて下げた原油は、このニュースでわずかに買い戻されただけだ。WTI原油の先物は日本時間3日11時55分時点で1バレル96.86ドル、前日比0.4%高にとどまる。市場は攻撃より交渉の行方を重く見ている。まず下の1枚を見てほしい。
1枚目:攻撃の報道でも、前日の下げの1割も戻していない
前日の急落と、攻撃報道後の戻り(%)
読み方:攻撃の報道を受けた戻りは0.5%に満たず、前日の7%台の下げと比べると1割にも届かない。時刻は日本時間。出所:ロイター(ビジネス・レコーダー、CNBC経由)、トレーディングビュー。10時4分の変化率は本誌計算。
11月2日、北海ブレント原油は8.66ドル(7.63%)安の104.77ドル、WTIは7.66ドル(7.36%)安の96.46ドルで清算した。NBCニュースによると、下落率は7月27日以来、ドル建ての下げ幅は4月17日以来の大きさだった。米国とイランの協議に進展の期待が出たことが理由である。トランプ大統領はSNSに「イランはできるだけ早い決着を望んでいる。実現するかもしれない」と書いた。
その数時間後にケシュム島攻撃の報道が出た。ロイターを引用したCNBCによると、日本時間3日10時4分にブレントは48セント(0.5%)高の105.25ドル、WTIは47セント高の96.93ドルを付けた。その後も上げ幅は広がっていない。7ドル台の下げに対して戻りは0.5ドルに届かず、前日の下げの1割も取り返していない。
2枚目:攻撃は「限定的な防衛措置」と説明された
ホルムズ周辺の動き(10月下旬〜11月3日)
読み方:海峡周辺の事件は続いているが、市場は11月2日を境に「交渉」に重心を移した。攻撃の報道はその重心を動かしていない。出所:ロイター、ジーキャプテン、CNN、フランス24(AFP)。
反応が小さい理由は、米政府の説明にある。CNNによると、米政府高官は今回の攻撃を「米国の資産に地対空ミサイルを使うイラン側への防衛措置」と説明し、規模は限定的で、攻撃の再開や緊張の拡大を意味しないと述べた。別の高官は、イランが米軍機に発砲したとしている。仏AFP通信が引用したWSJの報道では、ここ数週間に非公表で行われた一連の限定的な攻撃の一つだという。イラン国営通信(IRNA)は島で5回の爆発があったと伝えたが、3日昼の時点でイラン政府の公式な反応や死傷者の報道は確認できない。
交渉の窓も閉じていない。ロイターを引用した海事メディアのジーキャプテンによると、イラン外務省のバガイ報道官は2日、仲介者を通じた米国との対話は続いていると述べた。ただしカタールのドーハでの協議は「突破口なし」で終わり、次の協議の日程と場所は決まっていない。ケシュム島はホルムズ海峡で最大の島で、CNNによるとイランの港湾都市バンダルアッバスから約14マイル(約23キロメートル)の位置にある。戦争前には日量約2,000万バレルの原油がこの海峡を通っていた。
3枚目:WTIの水準の地図
WTI先物の水準の地図(ドル)
読み方:現在値は10月30日の清算値と50日移動平均の間にある。104.12ドルの上抜けは戦争の上乗せ分の復活、94.59ドル割れは合意期待の前進を示す。出所:トレーディングビュー(11月3日11時55分、日本時間)、ロイター。10月30日の清算値は本誌計算。
WTIの96.86ドルは、10月30日の清算値104.12ドル(本誌計算)と、50日移動平均の94.59ドルの間にある。上の104ドル台は「攻撃再開の不安」が乗っていた水準、下の94ドル台は「交渉がまとまる期待」が勝つときの最初の目安と読める。2日の安値95.15ドルは、その中間にある短期の支えだ。
上下どちらに抜けるかで、市場が戦争と交渉のどちらに賭けたかが分かる。104.12ドルを終値で上回れば、2日の下げをすべて取り消し、戦争の上乗せ分が戻ったことになる。94.59ドルを割れば、合意への期待がさらに一段進んだサインだ。
シナリオ:1〜2週間のWTI
| シナリオ | 確率(筆者) | WTIの目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 交渉継続、衝突は限定的 | 50% | 92〜100ドル | 限定的な攻撃が続いても協議は途切れない |
| 交渉決裂、攻撃が拡大 | 30% | 104〜110ドル | イランの報復、タンカーへの攻撃の増加 |
| 合意に向けて前進 | 20% | 88〜92ドル | 次回協議の日程が決まり、海峡の通航が増える |
本線は「交渉継続」に置く。市場の反応の小ささは、米政府の「限定的」という説明をひとまず受け入れたことを示している。ただし確率の3割は決裂側に残した。10月29日にはオマーン沖でタンカーが吸着機雷の被害を受け、10月下旬にはイエメンの親イラン武装組織フーシ派がサウジアラビアの製油所への攻撃を主張している。海峡周辺の事件は、交渉の期待とは関係なく続いている。
日本への影響:原油の93%がホルムズを通る
内閣官房が3月の中東情勢の関係閣僚会議に出した資料によると、2025年の日本の原油輸入のうち中東産は94.0%、ホルムズ海峡を通る分は93.0%で、日量約236万バレルにあたる。海峡の緊張は、ほぼそのまま日本の調達リスクになる。
ただし給油所の価格には、すぐには表れない。いまのガソリン価格は国の補助金で1リットル170円前後に抑えられているからだ。原油が下がっても上がっても、まず動くのは補助額のほうである。その仕組みは原油7%安でもガソリン170円の記事で詳しく扱った。10月末に機雷が問題になった経緯はこちらにまとめている。
チェックリスト:次に見るもの
- イラン政府の公式な反応:報復を示唆するか、沈黙を保つか。報復の示唆が出れば決裂シナリオの比重を上げる。
- 次回協議の日程:日程と場所が決まれば合意シナリオに傾く。
- 11月3日(火)の米中間選挙:結果は日本時間4日の日中に判明していく。選挙後の対イラン方針が焦点になる。
- 11月5日(木)0時30分(日本時間):米エネルギー情報局(EIA)の週間石油在庫統計。
- WTIの終値:104.12ドルを上回るか、94.59ドルを割るか。
主な参照
- 11月2日の清算値と下げ幅/ビジネス・レコーダー(ロイター配信)
- 7月27日以来の下落率、トランプ大統領の投稿/NBCニュース
- 3日アジア時間の原油の反応(10時4分)/CNBC(ロイター配信)
- 米政府高官の説明、ケシュム島の位置/CNN(KVIA配信)
- IRNAの爆発報道、WSJの報道内容/フランス24(AFP)
- イラン外務省の発言とドーハ協議/ジーキャプテン(ロイター配信)
- タンカーの吸着機雷被害(10月29日)/ジーキャプテン
- 日本の原油輸入の中東・ホルムズ依存度(2025年)/内閣官房
- 週間石油在庫統計の公表日程/米エネルギー情報局
データ基準日:2026年11月3日(日本時間11時55分)。WTI・ブレントの現在値と移動平均はトレーディングビューの取引時間中の気配値(遅延あり)で、終値ではない。11月2日の値はニューヨーク・ロンドン市場の清算値である。10月30日の清算値は、2日の清算値と下げ幅から本誌が計算した。攻撃の時刻と標的の詳細は公表されておらず、本記事は米政府高官の説明と報道に基づく。イランの機雷やタンカー被害に関する一部の主張は独自に確認されていない。シナリオの確率と水準は筆者の見立てで、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。アイキャッチ画像:Ben Sutherland/Flickr(CC BY)。













