2025年7月31日の午後、東京エレクトロン(8035)は通期の営業利益予想を7,270億円から5,700億円へ1,570億円引き下げた。翌営業日の終値は18.02%安。半導体製造装置の最大手が、1日で時価総額の2割近くを失った。それから15カ月後の2026年10月30日午後3時30分、同じ会社が今度は営業利益1兆1,690億円という過去最高の通期予想を初めて示した。発表は大引けの後で、株価はこの日5.74%安の9,459円で終えたばかりである。市場の答えは、11月2日(月)の寄り付きに出る。
本稿は、過去11回の決算翌日の値動きを鏡にして、月曜の東京エレクトロン株を考える。結論を先に書くと、決算翌日の寄り付きは11回中9回で前日終値を上回ったが、終値まで上げを保ったのは6回にとどまる。今回の数字は強い。それでも「寄り天」の型が過半を占めてきた事実は無視できない。
発表の中身:上期は計画を10%上回り、通期は初の予想開示
会社が7月30日に示した上期(4〜9月)の計画は、売上高1兆6,200億円、営業利益4,580億円だった。実績は売上高1兆6,674億円、営業利益5,067億円。売上高で2.9%、営業利益で10.6%計画を上回った。7〜9月期だけを見ると、売上高は9,350億円で前年同期比48.4%増、営業利益率は31.6%に達した。
通期(2027年3月期)の予想は、売上高3兆7,000億円(前期比51.4%増)、営業利益1兆1,690億円(同87.1%増)、純利益8,650億円(同50.6%増)である。会社は7月の時点で通期予想を出していなかったため、今回が初めての開示になる。下期の売上高予想は2兆325億円で、上期の実績より22%多い。
売上高と営業利益:7月の上期計画・上期実績・下期予想(億円)
読み方:上期の実績は売上高・営業利益とも7月の計画を上回り、下期の予想はさらに上期を上回る。通期は売上高3兆7,000億円、営業利益1兆1,690億円になる。出所:東京エレクトロンの決算説明資料(2026年7月30日・10月30日)。
株主還元も同時に出た。中間配当は1株415円(分割前ベース)と、7月時点の予想384円から31円増やした。通期の配当予想は分割後ベースで191円(分割前に直すと955円)で、前期の628円(分割前)を5割上回る。さらに、11月1日から2027年3月31日までに最大1,500億円・2,500万株(自己株式を除く発行済株式の1.1%)の自社株買いの枠を設けた。なお、同社は10月1日付で1株を5株に分割している。比較のときは、分割前か分割後かを必ずそろえる必要がある。
鏡に映す:2025年7月と2026年7月、そして今回
過去を鏡にする前に、3つの場面を並べておく。2025年7月は下方修正、2026年7月は上方修正、そして今回は計画超過と初の通期予想である。
| 項目 | 2025年7月31日 | 2026年7月30日 | 2026年10月30日(今回) |
|---|---|---|---|
| 発表の性格 | 通期予想を下方修正 | 上期予想を上方修正 | 上期は計画超過、通期予想を初開示 |
| 修正の規模 | 営業益7,270億円→5,700億円 | 上期売上1兆5,700億円→1兆6,200億円 | 上期営業益は計画比+10.6% |
| WFE市場の見方 | 2026年1〜6月はマイナス5%成長に修正 | 2026年1,500億ドル以上、2027年1,900億ドル以上 | 2026年1,600億ドル程度、2027年2,100億ドル以上 |
| 発表日の株価 | 5,466円 | 10,448円(4.48%高) | 9,459円(5.74%安) |
| 翌営業日の寄り付き | −18.29% | +13.40% | 11月2日に判明 |
| 翌営業日の終値 | −18.02% | +6.24% | 11月2日に判明 |
同じ点は一つ、どの回も「装置需要の先行き」が株価を決めたことだ。違う点は、今回の発表が1日の大幅安の直後に来たことである。日経平均はこの日1,369円安で、アマゾンやインテルの決算をきっかけにAI関連と半導体株が売られた。本日の地合いは寄り付き1時間のまとめに詳しい。今回の好決算は、売られた後の株価に届いた。
過去11回の決算翌日:寄り付きは強く、終値は割れる
下の図は、2024年2月以降の決算11回について、発表日の終値から見た翌営業日の終値の変化率を並べたものだ。
決算翌営業日の終値の変化率(発表日の終値比)
読み方:11回中6回が上昇、5回が下落。3%超の上昇は3回、3%超の下落は2回で、最大は2025年7月の下方修正後の−18.02%。寄り付きでは11回中9回が上昇しており、終値までに上げ幅を削る回が多い。出所:stockanalysis.comの日足(分割調整後)、決算日は東京エレクトロンのIR資料、計算は本誌。
数字を整理すると3つの事実が出る。第一に、翌日の寄り付きが前日終値を上回ったのは11回中9回。下回ったのは2025年2月(−2.75%)と2025年7月(−18.29%)だけである。第二に、終値で上げを保ったのは6回で、寄り付きの上げ幅がそのまま残った回は少ない。2024年8月は寄り付き9.13%高が終値0.70%高に、2026年7月は13.40%高が6.24%高に縮んだ。第三に、終値の変化の絶対値の平均は4.91%で、5%を超えたのは4回だった。
当時と今回で決定的に違うのは、下方修正という「悪い驚き」がないことである。終値が3%超下げた2回のうち、2025年7月は通期予想の大幅な引き下げ、2025年2月は寄り付きから売られた回だった。今回の発表には、計画の引き下げにあたる材料が見当たらない。
「今回は違う」論を検証する
強気の側は、通期予想の高さを根拠に挙げるだろう。売上高3兆7,000億円は、7月に会社自身が「3兆円以上」と掲げていた中期目標を、単年で上回る水準である。WFE市場の見方も、7月の「2027年1,900億ドル以上」から「2,100億ドル以上」へ引き上げた。下期の装置売上は1兆5,600億円を見込み、通期の装置売上は前期比59%増になるという。
一方で、韻を踏みそうな点もある。7〜9月期の地域別売上で中国は3,399億円と全体の36.4%を占め、4〜6月期の2,229億円から1.5倍に増えた。中国向けの比率が高まる局面は、輸出規制の議論が出るたびに売り材料になりやすい。また、7月の上方修正のときも寄り付きは13.40%高まで買われたが、その後10月26日には終値9,110円まで下げている。好決算が株価の高値を保証しなかった前例は、わずか3カ月前にある。
バリュエーションを確かめておく。通期予想の1株利益381.69円に対し、株価9,459円の予想PERは約24.8倍である。自社株買いの上限1,500億円は、自己株式を除く発行済株式に終値を掛けた時価総額約21兆4,700億円の約0.7%にあたる。還元策は株価を支える材料だが、相場の方向を決めるほどの規模ではない。
月曜のシナリオ:確率はこう置く
過去11回の翌日終値は、3%超の上昇が3回(27%)、±3%以内が6回(55%)、3%超の下落が2回(18%)だった。今回は計画超過と初の通期予想がそろった一方、前日に米ハイテク株の決算で地合いが崩れている。この2つを踏まえ、本誌は次のように置く。
11月2日(月)のシナリオ確率(本誌の判断)
読み方:過去の分布を土台に、計画超過と初の通期予想(上振れ要因)、前日の米ハイテク株安(下振れ要因)を加味して本誌が置いた確率。基準は10月30日の終値9,459円。
- シナリオA(35%):寄り付きから買われ、終値も3%超高い。9,459円の3%上は約9,743円。10月29日の終値10,035円の回復が次の目安になる。
- シナリオB(45%):高く寄るが上げ幅を削り、終値は±3%以内。過去の多数派の型である。寄り付きで買うと、その日の高値をつかみやすい。
- シナリオC(20%):米ハイテク株安が続き、3%超下げる。9,459円の3%下は約9,175円で、10月26日の終値9,110円が下値の目安になる。
確率は過去の分布に本誌の判断を加えたもので、計算で導いた値ではない。なお、11月3日(火)は文化の日で東京市場は休場になる。月曜の値動きを見た後、次の売買の機会は11月4日(水)まで空く。週末と祝日を挟む持ち越しには、その分の値動きの幅を見込んでおきたい。
歴史が示す3つの教訓
- 決算翌日の寄り付きは強く出やすい。11回中9回で前日終値を上回ったが、終値まで上げを保てたのは6回だった。
- 株価を最も大きく動かしたのは、業績の水準より会社の予想の向きだった。2025年7月の18%安は通期予想の引き下げから生まれた。
- 好決算の後でも高値は保証されない。2026年7月の上方修正の後、株価は3カ月で10月26日の9,110円まで下げた。
今回固有の監視点
まず、月曜の寄り付きで10月29日の終値10,035円を回復するかどうかである。回復すれば、30日の下げは決算前の手じまい売りだったと読める。次に、米国の装置株と半導体株の動きだ。今回の下げのきっかけは東京の外にあり、週明けも米国市場の地合いが寄り付きを左右する。三つ目は中国向け売上の行方で、10〜12月期にも3割を超える比率が続くかを見ておきたい。同じ日に決算を出したキオクシアや、前日に上方修正したイビデンの動きも参考になる。イビデンの決算の詳細はイビデン上方修正の記事にまとめた。
30秒まとめ:東京エレクトロンは上期の営業利益が計画を10.6%上回り、通期では営業利益1兆1,690億円という過去最高の予想を初めて示した。過去11回の決算翌日は、寄り付きが強く終値で上げ幅を削る型が多い。月曜は10,035円の回復が試金石で、3%超の上昇を35%、±3%以内を45%、3%超の下落を20%と置く。
主な参照
- 2027年3月期第2四半期(中間期)決算短信、配当、自社株買い枠/TDnet(東京証券取引所の適時開示)
- 決算説明資料(2026年10月30日、2026年7月30日、2025年7月31日)と過去の決算短信/東京エレクトロン IRライブラリー
- 株価の日足(分割調整後の始値・終値)/stockanalysis.com
- 10月30日の日経平均の終値と下げ幅/日本経済新聞、財経新聞(フィスコ)
データ基準日:2026年10月30日(金)の東京市場の終値と、同日15時30分に公表された会社資料。株価は10月1日の1対5の株式分割を反映した調整後の値で、配当は分割前と分割後を明記した。決算翌日の変化率は、発表日の終値を基準に本誌が計算した。本稿の公開時点で夜間の私設取引システム(PTS)の値動きは反映していない。市場予想(コンセンサス)は一次資料で確認できなかったため使っていない。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















