9月17日木曜、午前11時ごろのニューヨーク。スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の株価が、前日の終値36.85ドルから一時11%を超えて上がり、41.01ドルを付けた。この日、チャールズ・リャンCEOが率いる同社は何も発表していない。米投資情報サイトの24/7ウォール・ストリートは午前の記事で「けさはスーパー・マイクロからの発表も、当局への開示も、アナリストの評価変更も出ていない」と書いた。
利上げの翌朝、AIサーバー株に買いが一斉に戻った
同じ日、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は7.96%高で引け、デル・テクノロジーズ(DELL)は取引時間中に史上最高値の593.98ドルを付けた。前日の16日、FRBは2023年7月以来となる利上げを決めた。発表前には上げる場面もあった米国株は、ウォーシュ議長の会見中に崩れ、ダウ平均は631ドル安で引けた。一夜明けた17日、米10年債利回りは5%を下回り、原油も下げた。CNBCは、金利と原油の低下を背景に相場が反発したと伝えた。
米ベンジンガは、相場全体の戻りが値動きの大きいAIハードウェア株を押し上げたと書いた。24/7ウォール・ストリートは、メモリーや半導体の銘柄に入った買いがサーバーの組み立て各社に広がったとみた。そのうえで、メモリー価格の上昇はもともと薄いスーパー・マイクロの利幅を圧迫する、とも付け加えている。ただ、いずれも投資情報サイトの解説であり、ロイターやブルームバーグ、CNBCは、この日のスーパー・マイクロの上昇に固有の理由を挙げていない。
3日前の14日、アンソロピックのダリオ・アモデイCEOがAI開発のペースを落とすよう求めた論考を受けて、スーパー・マイクロ株は8.38%下げていた。15日も続落し、16日に3.40%戻した。17日は一時41.01ドルまで上げ、終値は40.35ドルとなった。論考が出る前の11日の終値40.10ドルを、わずかに上回って引けたことになる。ただ、直近1年の最高値である58.68ドル(2025年10月8日の終値)には、なお3割ほど届かない。
2024年秋、監査法人が去った
話は2年前にさかのぼる。2024年8月27日、空売り投資家のヒンデンブルグ・リサーチが同社を批判するリポートを公表した。10月30日、同社は監査法人アーンスト・アンド・ヤング(EY)の辞任を開示した。EYは書簡で、ガバナンスや透明性、内部統制への懸念を挙げていた。株価はその日、33%下げた。同年の終盤には、米司法省と米証券取引委員会(SEC)からも召喚状が届いた。
同社は11月18日、新たな監査法人にBDO USAを選び、ナスダックに上場基準を満たすための計画を提出した。12月には特別委員会が、不正の証拠は見つからなかったとする結論をまとめ、財務責任者の交代を勧めた。ただ、2026年8月の決算説明会でも、デビッド・ワイガンド氏がCFOとして説明に立っている。滞っていた決算書類は2025年2月25日に提出され、翌26日、同社はナスダックの基準を満たしたと発表した。ただしBDOは、2024年度と2025年度の財務報告に係る内部統制について、有効ではないとの意見を付けている。
スーパー・マイクロの2年間
読み方:上から下へ時間が流れる。株価の急落は、会社の外で起きた出来事(監査法人の辞任、起訴、増資)で起き、急伸は受注と見通しの発表で起きてきた。9月17日は、どちらの発表もない日だった。
株価はその後、AIサーバーの需要に乗って持ち直し、2025年10月8日に58.68ドルで引けた。だが2026年に入ると、今度は輸出規制をめぐる刑事事件が、共同創業者という会社の中枢にまで及んだ。
2026年、共同創業者の起訴と巨額の資金調達
3月19日、ニューヨーク州南部地区の連邦検事局は、共同創業者で取締役だったウォーリー・リャウ氏ら3人の起訴を公表した。エヌビディアのGPUを載せたサーバー約25億ドル分を、2024年以降に中国へ不正に流したとする内容だった。会社は被告になっていない。翌20日、株価は33%下げて20.53ドルで引けた。リャウ氏は取締役を退き、無罪を主張している。
6月、同社は普通株と強制転換優先株などで計約70億ドルを調達する計画を示した。実際に売り出したのは、普通株約12.5億ドルと強制転換優先株37.5億ドル(いずれも発行総額)である。残りには、最大12.5億ドルの株式の随時発行(ATM)枠などが含まれる。調達資金は、20社を超える顧客から受けた約390億ドル分のAI受注に向けた部品の購入に充てる、というのが会社の説明だった。株価は6月10日、1日で28%下げた。この日の終値29.27ドルは、奇しくも2025年最後の取引日の終値と同じ数字である。
強制転換優先株は2029年6月ごろに普通株へ転換される。条件どおりなら、約1億1,400万〜1億3,600万株の普通株が新たに生まれる。7月末の発行済み株式(約6億5,700万株)の17〜21%に相当する(本誌試算)。引受会社の追加購入枠が行使されていれば、さらに増える。
夏の反転:「600億ドル」という数字
流れを変えたのは、夏の2つの発表だった。7月21日の取引終了後、同社は4〜6月期の粗利率見通しを15〜17%に引き上げ、この四半期に600億ドルを超える新規受注を得たと明らかにした。翌22日、株価は19.8%上げた。
8月11日の本決算で、リャンCEOは「600億ドルを超える新規受注を獲得し、過去最高の受注残を抱えて2027年度に入った」と述べた。4〜6月期の売上高は111億ドルで、ロイターが伝えたLSEGの市場予想115.5億ドルには届かなかった。一方で粗利率は17.5%と、前の四半期の9.9%から大きく上がった。調整後の1株利益は1.70ドルで、プロアクティブ・インベスターズが伝えた市場予想の0.92ドルを大きく上回った。2027年度(2027年6月期)の売上高見通しは650億〜720億ドル。ロイターによると、市場予想は525億ドルだった。翌12日、株価は19.0%上げて37.61ドルで引けた。
顧客の顔ぶれも広がった。ロイターによると、2026年度に10億ドルを超えて購入した顧客は9社で、前年度の4社から増えた。製品面では、エヌビディアの「GB300 NVL72」を量産出荷しており、次世代の「Vera Rubin」向けの準備を進めている。リャンCEOは、全体の生産能力が月6,000ラックを超える見通しで、そのうち液冷ラックは月3,000台を超えると説明した。
同じ決算説明会の、2つの声
ただ、同じ決算説明会で、ワイガンドCFOは別の数字を口にしていた。「粗利率は10.4〜10.8%の範囲を見込む」。7〜9月期の見通しである。4〜6月期の粗利率は、前の四半期から約7.5ポイント上がって17.5%になった。同氏によると、その改善幅の約4分の3は、想定より良かった顧客と製品の構成によるものだった。複数の契約が7〜9月期以降にずれ込んだことも、この構成の変化に含まれる。残りの約4分の1は、関税コストと在庫評価引当金の減少によるものだという。受注が膨らんでも、1台あたりの利幅は薄い。そこに、メモリー部品の値上がりが重なる。
資金繰りについては、リャンCEOが「現時点で、ATMプログラムを使う計画はない」と述べた。調査をめぐっては、8月に明暗の分かれる2つの動きがあった。取締役会が外部の法律事務所に依頼した独立調査は8月20日に完了した。現経営陣が起訴で指摘された横流しを知っていた証拠は見つからず、過去の財務諸表が信頼できないとする証拠もなかったとした。会社は、複数の従業員を解雇した。米バーンスタインのマーク・ニューマン氏はフォーチュン誌に「要するに『何も問題はない』と言ったわけだ」と語った。
その5日後の8月25日、台湾の基隆地方検察署は、AIサーバーの中国への不正輸出に関わったとして9人を起訴した。この中には、スーパー・マイクロの台湾法人に在籍していた2人が含まれる。同社は「捜査の対象ではなく、不正を指摘されてもいない」との声明を出した。米国では、SECの調査が続いている。リャウ氏の公判は、同社が大陪審の召喚状を受けていたことが6月の審理で明らかになった後、2026年11月から2027年3月に延期された。
市場の見方は定まっていない。ナスダックのサイトに載るザックスの集計(9月17日時点)では、買い推奨が2社、中立が9社、売り推奨が3社。平均目標株価は39.23ドルで、足元の株価に近い。ベンジンガによると、ゴールドマン・サックスは売り推奨を据え置き、シティグループとみずほは中立の評価を続けている。予想PERは9〜10倍程度で、データの提供元によって数字がやや異なる。8月末時点の空売り残高は約9,343万株で、発行済み株式の約14%にあたる。
9月17日、正午から大引けまで
再び17日のニューヨークに戻る。東京では日付が変わり、18日の午前1時を回った頃だ。米東部時間の正午すぎ、スーパー・マイクロは40ドル台で前日比9%高。そのまま16時の取引終了を迎え、終値は40.35ドル、前日比9.50%高となった。年初からの上昇率は37.9%になった。出来高は6,004万株に膨らみ、過去20日間の1日平均(本誌試算で約3,660万株)も、ナスダックが表示する平均出来高(約4,560万株)も上回った。HPEは7.96%高。デルは4.46%高で、終値でも最高値を更新した。フィラデルフィア半導体株指数は3.14%高で引けた。
同じ「AIサーバー株」の上昇でも、2社の立ち位置は違う。デルの上昇は終値での最高値更新であり、スーパー・マイクロの上昇は急落前の水準を取り戻したにとどまる。デルは9月1日の決算で通期見通しを引き上げ、株価の水準を切り上げてきた。スーパー・マイクロの株価は、利益だけでなく、調査の行方と株式の希薄化という別の物差しでも測られる。この違いは、8月の決算前に本誌が確認した粗利率の論点とも重なる。
エピローグ:残された問いと、次の日付
9月30日、スーパー・マイクロの2027年度第1四半期(7〜9月期)が終わる。会社の見通しは売上高145億〜155億ドル、粗利率10.4〜10.8%。同じ日には、メモリー大手マイクロン・テクノロジー(MU)が決算を発表する。メモリー価格は、サーバー需要の強さを示す一方で、組み立て会社の部品代を押し上げる。スーパー・マイクロの7〜9月期の決算発表日は、まだ公表されていない。日本の投資家には、為替も効いてくる。日銀は18日、政策金利を1.25%程度へ引き上げた。だが票決が7対2に割れ、8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)も前年比1.7%上昇と市場予想を下回ったため、ドル円は一時158円台まで円安に振れた。円安は、円換算の損益を押し上げる。
答えの出ていない問いも残る。SECの調査と、会社が受けた大陪審の召喚状は、いつ、どう決着するのか。台湾で起訴された2人の裁判はどうなるのか。2027年3月のリャウ氏の公判で、何が語られるのか。2029年の転換で、株数はどこまで増えるのか。10月8〜9日ごろには、本文で比べた終値ベースの58.68ドル(取引時間中は58.78ドル)が直近1年の集計から外れる。取引時間中の高値は2025年11月の53ドル前後に下がり、「高値からの下落率」という数字そのものが小さくなる。数字が変わっても、会社の中身が変わるわけではない。
14日の急落は、AI開発のペースを落とすべきだという主張に、市場が最初に示した反応だった。その日の売られ方はAIを「作る側」と「使う側」に分けた記事で、メモリー高がサーバーの価格に及ぶ仕組みはエヌビディアのAIサーバー値上げの記事で扱った。発表のない日に一時11%上げた株は、発表のある日にどう動くのか。次の手がかりは、7〜9月期の決算になる。
翌18日、その問いの半分は早くも返ってきた。この日も会社の発表はなく、株価は反落した。スーパー・マイクロの終値は3.12%安の39.09ドル。デルは寄り付き直後に595.51ドルと前日の高値を0.26%上回ったあと下げ続け、安値圏の568.06ドル、3.46%安で引けた。一方、サンディスクは10.99%高、マイクロン・テクノロジーは3.92%高で1,000ドル台を回復した。フィラデルフィア半導体株指数は2.78%高で引けている。資金はサーバーの組み立てから、メモリーと半導体へ移っている。3銘柄が寄り付き近辺で高値を付けて崩れた背景には、約7兆ドルと推計される株価指数と個別株のオプションの同時満期(クアドラプル・ウィッチング)があり、その6割が寄り付きに集中したとシタデル・セキュリティーズは指摘する。ただ、17日と同じく、18日の値動きについても各社の固有の材料は報じられていない。
主な参照
- 2026年度第4四半期決算(2026年8月11日)/SEC(スーパー・マイクロの8-K)
- 決算説明会の発言/The Globe and Mail(Motley Fool提供の記録)
- 2027年度見通しと市場予想、顧客数/ロイター(転載)、1株利益の市場予想/Proactive Investors
- 7月21日の速報と受注/CNBC
- 約70億ドルの資金調達の条件/スーパー・マイクロ
- EYの辞任/CNBC、BDOの選任/Business Wire、召喚状と特別委員会/CFO Dive
- ナスダックの基準充足(2025年2月26日)/スーパー・マイクロ
- 共同創業者らの起訴/CNBC、公判延期と独立調査への評価/Fortune
- 独立調査の完了(2026年8月20日)/スーパー・マイクロ
- 台湾での起訴/Al Jazeera
- 9月17日の値動きの背景/24/7 Wall St.、Benzinga、CNBC
- アナリストの評価/Benzinga、Nasdaq(Zacks)
- 株価・出来高・空売り残高/Nasdaq、CNBC
- マイクロンの決算日/マイクロン・テクノロジー
データ基準日:2026年9月18日。株価は米国市場の終値。41.01ドルと593.98ドルは17日、595.51ドルは18日の取引時間中の高値。会社の見通しは2026年8月11日時点のもの。出来高の20日平均と希薄化の比率は本誌の試算。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













