ほとんど報じられていないが、日本の輸出企業に直結する2つの期限が今週から来週にかけて到来する。7月24日、米国の一律10%関税(通商法122条)が法律の定めにより自動失効する。そして米通商代表部(USTR)は、その4日前の7月20日頃を目標に、日本を含む約46カ国への12.5%関税(301条)を発動するか判断するとみられる。2月の最高裁判決(IEEPAは関税権限を与えない)で「トランプ関税1.0」が崩れた後、政権は150日限定の122条でしのいできた——その砂時計が尽きるのが来週だ(基準日2026年7月16日)。
結論を先に言う。シナリオは3つあり、どのシナリオでも自動車の15%(232条)は変わらない。動くのは機械・電機・精密・化学などの「一般輸出品」だ。301号が発動されれば約15%(MFN+12.5%)で2025年合意の水準に逆戻り、間に合わなければ一時的にMFNのみ(約0〜4%)という「関税の空白」すら生じ得る。
7月の「関税カレンダー」
7/20は法定期限ではなくUSTRの自主目標——数日の後ズレはあり得る。7/24の失効だけが法律で確定している。
出所:通商法122条(150日上限)、USTR公表資料、法律事務所トラッカー各種。
何が起きているのか:最高裁判決後の「つなぎ関税」が切れる
経緯を整理する。2026年2月20日、米最高裁は6対3で「IEEPA(国際緊急経済権限法)は関税を課す権限を大統領に与えない」と判断し、フェンタニル関税と「相互関税」を無効化した。政権は判決から数時間で通商法122条(国際収支対策の暫定関税・上限15%・最長150日)による一律10%を宣言、2月24日に発効させた。この150日が尽きるのが7月24日である。延長できるのは議会だけだが、11月3日の中間選挙を前に、生活費高騰への不満を抱える議会が延長する公算は極めて低い。
そこで政権が用意した後継が301条だ。3月に立ち上げた「強制労働」調査(約60カ国・地域)で、USTRは6月2日に「輸入禁止措置を導入済みの国には10%、未導入の国には12.5%」という関税案を公表——日本は12.5%の高位区分に明記された。意見公募は7月6日締切、公聴会は7月7日に終了。USTRのグリア代表は「150日の窓内に新関税を発動する用意がある」と述べており、貿易実務家の間では7月20日頃の判断が目標とされる(ただしこれは自主目標で、301条の法定期限は12カ月——数日から数週間の後ズレはあり得る)。別軌道では「構造的過剰生産能力」調査(16カ国・日本含む、自動車・工作機械・半導体・造船など21分野)が進むが、こちらの発動は中間選挙後との見方が支配的だ。
日本への影響:自動車は「動かない」、動くのは一般輸出品
| 品目 | 現在(7/16) | A:301発動(対日12.5%) | B:失効・301間に合わず |
|---|---|---|---|
| 自動車・部品 | 15%(232条) | 15%継続が基本線※ | 15%継続(232条は判決の影響外) |
| 機械・電機・精密・化学 | MFN+10% | MFN+12.5%≒約15%(2025年合意水準へ逆戻り) | MFNのみ(約0〜4%)=一時的な追い風 |
| 鉄鋼・アルミ・銅 | 232条50%(日本は一部15%上限調整・単一ソース) | 変わらず | 変わらず |
| 医薬品 | — | 7/31から232条100%だが、日本は2025年合意の15%上限で概ね遮蔽 | |
日本政府は「2025年7月合意(5,500億ドル投資・15%上限)を誠実かつ迅速に履行してきた」とUSTRに正式意見を提出し、除外または10%区分への配置を求めている。高市首相とトランプ大統領は3月に合意を再確認済みだ。つまり日本側の主張は「合意水準(15%)を超える関税は約束違反」という一点であり、301号が発動されても対日実効税率は約15%止まり——2025年に市場が織り込んだ水準への回帰が本線となる。
市場はどう動くか:2025年4月の教訓
前例は強烈だ。2025年4月の「相互関税ショック」では、日経平均が4月7日に▲2,644円(▲7.83%・史上3番目の下げ幅)、90日猶予の発表で4月10日に+2,895円(史上2番目の上げ幅)——ブランケット関税のヘッドラインは激しい往復を生み、合意で税率に上限が付くと回復した。今回は当時と違い、(1)対日12.5%案は既に公表済みで織り込みが進んでいる、(2)自動車の15%は動かない、(3)円が162円前後と輸出企業の採算を支えている——日経の集計では、161円が続けば大手自動車7社の来期営業利益は合計9,000億円超の上振れ要因になる。トヨタの前期(2026年3月期)の関税影響は約1.38兆円で、株価は52週高値から3割弱下の水準にある。
シナリオ別の読み(編集部試算・確定的な銀行予想は見当たらない):A(301発動)=一般輸出品は10%→約15%へ微増で織り込み済みの範囲、輸出株は小幅安どまり。ただし付属書で自動車が除外されない「27.5%シナリオ」が表面化すれば自動車株は急落リスク。B(失効・空白)=機械・電機・精密・化学に一時的な追い風、リスクオンだが、後日の301発動リスクが残るため持続性は限定的。C(ズレ込み・長期化)=2025年4月型のヘッドライン乱高下が再来しやすく、ボラティリティ上昇・ディフェンシブ優位。ドル円はいずれのシナリオでも「関税継続=米インフレ・ドル高」の地合いが本線で、日本除外のヘッドラインが出た場合のみ瞬間的な円買いがあり得る。
来週までのチェックリスト
- 7/20前後:USTRの301号発動判断。見るべきは①日本が12.5%区分のままか10%区分/除外へ動くか②付属書で232条対象品目(自動車)が除外されるか。
- 7/24:122条失効。301が間に合わなければ「関税の空白」——機械・電機・精密の初動高に注意(ただし追いかけない。後日発動リスクが残る)。
- 7/31:医薬品232条発効。日本勢は15%上限で概ね遮蔽だが、個別の適用条件を確認。
- 中間選挙後:過剰生産能力301号(自動車・工作機械・半導体・造船)。こちらが対日ではより構造的な脅威。
まとめれば、来週の「関税クリフ」は見出しほど破壊的ではない——自動車は動かず、一般輸出品は最悪でも2025年合意の水準へ戻るだけだ。本当のリスクは①付属書の自動車の扱いという未確定事項と、②中間選挙後に控えるセクター別301号にある。トヨタの円安×関税の綱引きや米インフレの現在地と併せて、ヘッドラインに先回りされない備えをしておきたい。
- 301号の提案内容:USTR(6月2日)、JETRO
- 122条失効の法解釈:Covingtonほか法律事務所トラッカー
- 最高裁判決:最高裁意見書(2月20日)
- 日本政府の対応・市場:首相官邸(2025年合意)、日本経済新聞
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。関税の期限・区分は2026年7月16日時点の公表情報に基づき、シナリオ別の市場影響は編集部の試算・整理である。政策は急変し得るため、投資判断は最新の一次情報を確認のうえご自身の責任で行われたい。
7月24日に何が起きるのか?
米国の一律10%関税(通商法122条)が法律の定める150日上限に達し、自動的に失効する。延長できるのは議会のみだが、11月の中間選挙を前に延長の公算は低い。後継として、日本を含む約46カ国に12.5%を課す301条関税の発動判断が7月20日頃に目される(USTRの自主目標であり数日ズレ得る)。
日本の自動車への関税は上がるのか?
基本線は現行15%(232条)の継続だ。232条は2月の最高裁判決の影響を受けておらず、今回の122条失効とも無関係。最大の未確定事項は、301号が232条対象品目を除外するかどうか(付属書未公表)で、除外されない場合のみ理論上約27.5%まで積み上がるテールリスクがある。
301号が発動されたら日本の輸出品はどうなる?
機械・電機・精密・化学などの一般輸出品がMFN+12.5%=約15%となり、2025年7月合意の水準に実質的に戻る。現行の一律10%からは微増で、市場の織り込みも進んでいる。日本政府は合意の履行を理由に除外・低位区分への変更を求めている。
関税が「消える」シナリオもあるのか?
ある。301号の発動が7月24日に間に合わなければ、一般輸出品は一時的にMFNのみ(約0〜4%)となる「関税の空白」が生じる。機械・電機・精密には追い風だが、後日の301発動で埋まる可能性が高く、初動の株高を追いかける場面ではない。
投資家として何を確認すべきか?
①7/20前後のUSTR判断(日本の区分と自動車の扱い)②7/24の失効時点で301が発動済みか③中間選挙後に控える「過剰生産能力」301号(自動車・工作機械・半導体・造船が対象)——の3点だ。2025年4月の相互関税ショック(日経▲7.8%→+2,895円の往復)が示す通り、ヘッドラインでの狼狽売買が最大の敵になる。
















