2008年7月11日、金曜日。カリフォルニア州パサデナの住宅ローン銀行インディマックが、預金の取り付けの末に当局に閉鎖された。この日、米大手銀行24行で構成するKBWナスダック銀行株指数(BKX)は54.67で週を終えた。5月2日の86.29から、10週連続の下落である。18年後のきょう、同じ指数が再び連敗の記録を刻んでいる。
BKXは10月16日までで6週続落となった。ヤフー・ファイナンスとブルームバーグは、2008年の金融危機以来の長い週間連敗だと報じている。19日も米東部時間15時12分時点で前週末比1.0%安の167.33と、7週目に入りつつある。歴史は韻を踏むのか。それとも、今回は単なる押し目なのか。当時と今を並べて検証する。
2008年の10週:何が銀行株を売らせたのか
KBW銀行株指数の週末終値(2008年3月〜8月)
読み方:5月2日から7月11日まで10週連続で下げ、下落率は36.6%に達した。7月15日のSECの緊急命令を受けて翌週は14.8%反発したが、底ではなかった。出所:ヤフー・ファイナンスの日足から本誌が各週最終営業日の終値を集計。
当時の連敗は、信用不安そのものだった。住宅ローンの焦げ付きが銀行の資本を食い、市場は「次にどこが倒れるか」を探していた。インディマックは2008年3月末時点で総資産320億ドルの銀行だったが、米貯蓄金融機関監督局(OTS)によると、閉鎖前の11営業日で13億ドルを超える預金が流出した。
連敗を止めたのは、銀行の業績ではなく当局の介入だった。米証券取引委員会(SEC)は7月15日、ファニーメイ、フレディマック、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティグループなど19社の株式について、借りる手当てのない「裸の空売り」を禁じる緊急命令を出した。BKXは翌週、62.78まで反発する。1週間で14.8%の上昇である。
だが、それは底ではなかった。9月にはリーマン・ブラザーズが破綻し、BKXの終値は2009年3月6日の18.62まで下がる。7月の反発局面の水準から、さらに7割下である。当時の教訓の一つは、連敗が止まることと、底を打つことは別だということだ。
2026年の6週:連敗の形は似ているが、中身は違う
KBW銀行株指数の週末終値(2026年7月〜10月19日)
読み方:9月4日から6週続けて週末終値が前週を下回った。下落率は10.8%で、2008年の3分の1以下にとどまる。10月19日は取引時間中の値(米東部時間15時12分)。出所:ヤフー・ファイナンスの日足から本誌が集計。
今回の連敗は9月4日の189.57から始まった。10月16日の169.03まで6週で10.8%の下落、8月の最高値からは13%超下げて、調整局面とされる水準に入った。下げ幅は2008年の36.6%の3分の1にも満たない。奇しくも、起点はFRBの利上げと重なる。FRBは9月16日、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げて3.75〜4.00%とした。
ブルームバーグによると、売りの理由として挙がっているのは、債券トレーディングの不振、AIが金融サービスを侵食するとの懸念、そして予想を上回るインフレ指標によるFRBの追加利上げ観測である。ブルームバーグ・インテリジェンスのハーマン・チャン氏は、金利の高止まりが成長を鈍らせ、貸倒損失を増やしうると指摘した。
当時と今の対照表
| 項目 | 2008年5〜7月 | 2026年9〜10月 |
|---|---|---|
| 週間連敗 | 10週(5月2日→7月11日) | 6週(9月4日→10月16日)、7週目に入りつつある |
| BKXの下落率 | 36.6% | 10.8% |
| 主因 | 住宅ローンの焦げ付き、銀行の資本不足 | 利上げ、債券トレーディング不振、AIへの懸念 |
| 銀行の破綻 | インディマック閉鎖(7月11日) | 大手行の破綻はない |
| 大手行の決算 | 損失の計上が相次いだ | JPモルガン純利益153億ドル、シティは7〜9月期として10年で最高の収益 |
| 連敗を止めたもの | SECの空売り規制(7月15日) | 未定 |
同じ点は2つある。連敗の長さが市場の不安を映していること、そして金利の環境が銀行株の評価を押し下げていることだ。違う点は決定的である。2008年の銀行は損失を出していたが、2026年の大手行は稼いでいる。JPモルガン・チェースの7〜9月期の純利益は153億ドル、1株利益5.57ドルで、平均貸出残高は前年同期比10%増えた。シティグループの収益は238億ドルと、7〜9月期として過去10年で最高だった。ゴールドマン・サックスの純収益は前年同期比23%増の186億8,000万ドルである。
「今回は違う」論の検証
「今回は違う」と言うのは簡単だ。検証すべきは、信用の質である。ヤフー・ファイナンスによると、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティ、ウェルズ・ファーゴの4行合計の貸倒引当金繰入は76億ドルと前年同期比で約3%減り、純損失額も5%減った。モルガン・スタンレーのアナリストは19日のリポートで、信用状況は一部の商業向けを除けば「穏やか」だとした。シチズンズのブルース・ヴァン・ソーン最高経営責任者(CEO)も、懸念は「行き過ぎ」だと述べている。
一方で、警戒の声もある。国際信用ポートフォリオ管理者協会(IACPM)の調査では、信用ポートフォリオ管理者の約6割が今後12カ月で世界の企業倒産が増えると予想した。4〜6月期の調査では4割だった。ウェルズ・ファーゴの貸倒引当金繰入は10億2,900万ドルと、前年同期の6億8,100万ドルから増えている。2008年も、最初の焦げ付きは「一部の問題」と呼ばれていた。この点で、楽観は検証済みではない。
米大手銀行株:52週高値からの下落率(10月19日、取引時間中)
読み方:JPモルガンの下げは1割未満だが、バンク・オブ・アメリカとゴールドマン・サックスは2割を超える。バンク・オブ・アメリカのRSI(14日)は21.7で、売られすぎの目安の30を下回る。出所:ヤフー・ファイナンス(米東部時間19日15時7分前後の値)、本誌計算。
個別株で見ると、売られ方には大きな差がある。バンク・オブ・アメリカは52週高値から22.7%下にあり、14日間の相対力指数(RSI)は21.7と、一般に「売られすぎ」とされる30を大きく下回る。7〜9月期に12億ドルの規制関連の和解費用を計上した影響が残る。ゴールドマン・サックスも高値から24.2%安い。JPモルガンは8.8%安にとどまる。シティの株価は1株当たり有形純資産101.59ドルの約1.2倍で、本誌の計算では割高とは言いにくい。
歴史が示す3つの教訓
- 教訓1:連敗を止めるのは、多くの場合、外からの出来事である。2008年は割安感ではなくSECの介入が流れを変えた。今回それにあたりうるのは、10月27〜28日のFOMCで追加利上げの観測が後退することだ。
- 教訓2:反発は底の証明ではない。2008年7月の15%反発の後、BKXは2009年3月までにさらに7割下げた。今回も、連敗が止まった直後の上昇だけで判断するのは早い。
- 教訓3:決算と株価の食い違いは、どちらかが修正される。2008年は決算が株価に追いついて悪化した。今回は決算が堅調なまま株価だけが下げている。信用の悪化が数字に表れなければ、修正されるのは株価の側である。
今回固有の監視点と本誌の見方
本誌は、今回の連敗を2008年型の信用危機の入り口ではなく、利上げ局面の評価調整とみる。今後1〜3カ月でBKXが連敗前の水準(9月4日の189.57)の半分以上を取り戻す確率を55%、連敗が10週を超えて2008年の記録に並ぶ確率を15%と置く。見方を取り下げる線は、大手行の貸倒引当金が前期から2割以上増えることだ。注目銘柄は、売られすぎの度合いが最も強いバンク・オブ・アメリカと、高値からの下げが最も大きいゴールドマン・サックスである。
- 地銀決算:ザイオンズが19日の取引終了後、ハンティントンが22日の取引開始前に発表する。商業不動産向けの貸倒の動きを確認する。
- 23日の週末終値:BKXが16日の169.03を下回って終われば7週続落となる。
- FOMC:10月27〜28日。追加利上げの有無と声明の文言。
- 信用スプレッド:低格付け社債の上乗せ金利が広がるかどうか。IACPMの調査では85%が北米で拡大を予想している。
米大手行の7〜9月期決算の内容はこちらの記事で詳しく扱った。FRBの次の一手をめぐる市場の見方はこちらにまとめている。
主な参照
- 銀行株の連敗と信用不安の調査(10月19日)/ヤフー・ファイナンス
- 大手銀行株の連敗と売りの理由(10月16日)/ブルームバーグ
- 9月16日の政策金利決定/米連邦準備制度理事会
- JPモルガン・チェース7〜9月期決算/米SEC提出書類
- 空売り規制の緊急命令(2008年7月15日)/米証券取引委員会
- インディマックの閉鎖(2008年7月11日)/米連邦預金保険公社
- BKXと各銘柄の株価・日足/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月19日(米東部時間15時12分)。BKXの19日の値と個別株の騰落率・52週高値比・RSIは取引時間中の値で、終値ではない。週間の連敗と下落率は各週最終営業日の終値を本誌が集計したもので、2008年の10週連敗も同じ方法による。「2008年以来の長さ」はヤフー・ファイナンスとブルームバーグの報道に基づく。シティの株価純資産倍率は会社公表の1株当たり有形純資産から本誌が計算した。確率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















