なぜ同じ日に、JPモルガン・チェースは市場予想に届かず、ゴールドマン・サックスは大きく上回ったのか。答えは、銀行という「二階建ての店」のどちらの階で稼いでいるかにある。13日に発表された米大手銀の7〜9月期決算は、この二階建ての構造を学ぶのにちょうどいい教材だ。結論を先に言えば、JPモルガンの未達は1階の店が弱ったからではない。2階の一部が冷えたことと、自分で選んだ在庫の処分損が重なった結果である。
この記事では、二階建ての店という1本の比喩で最後まで通す。1階は預金を集めて貸し出し、その金利の差で稼ぐ店。2階は株や債券の売買を仲介し、企業の買収や資金調達を手伝う店である。順に見ていく。
1階の店:金利の差で稼ぐ「家賃収入」
まず1階から考えてみてほしい。銀行は預金者に払う金利より高い金利で企業や家計に貸す。この差額が純金利収入である。毎月決まって入ってくる家賃のようなもので、景気や相場の気分で大きくは揺れない。その代わり、金利の水準と、貸出や預金の量で決まる。
JPモルガンの1階は巨大だ。7〜9月期の純金利収入(管理会計ベース)は271億4,500万ドルで、前年同期比13%増えた。このうち2階の売買部門の分を除いた「市場部門を除く純金利収入」でも247億2,600万ドルで、6%増である。平均貸出残高は前年比10%増えた。1階の家賃収入は、むしろ伸びている。
ここが肝心だ。JPモルガンは同日、2026年通年の市場部門を除く純金利収入の見通しを約972億ドルとした。7月時点の約965億ドルから引き上げている。さらに2027年については「中心シナリオ(暫定的な分析)」として約1,070億ドルを示し、増える理由に「バランスシートの拡大と金利の上昇」を挙げた。2026年の見通しとの差は約98億ドルになる。1階の店主は、来年の家賃収入が増えると言っているのである。
2階の店:相場の季節で売上が変わる
次に2階である。ここは顧客の株や債券の売買を取り次ぎ、そのための資金も貸す。企業の買収の助言や、株や社債の発行の引き受けもする。売上は相場の季節に左右される。売買が盛んな季節は繁盛し、静かな季節は客が減る。
今回の決算で、2階の中は二つに割れた。株の売り場は大繁盛だった。JPモルガンの株式部門の収入は49億5,400万ドルで49%増、ゴールドマンの株式部門は64億4,100万ドルで72%増である。ゴールドマンでは、顧客に株の売買資金を貸す「ファイナンス」が33億6,500万ドルと過去最高になった。一方、債券・為替・商品の売り場は冷えた。JPモルガンの債券部門は53億6,600万ドルで4%減。ゴールドマンの同部門(FICC)も34億7,100万ドルで1%減と、ほぼ横ばいだった。
二階建ての店、売り場ごとの前年同期比(7〜9月期、%)
読み方:2階の株の売り場はどちらの銀行も大きく伸び、債券の売り場は小幅に減った。JPモルガンの1階(市場部門を除く純金利収入)は6%増えた。出所:JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックスの7〜9月期決算資料。
つまり、どちらの銀行も2階の中身は似た形をしている。違いは店全体に占める2階の大きさだ。ゴールドマンは2階が本業の店で、投資銀行と市場部門を合わせた収入が134億5,800万ドルと、純営業収益186億7,900万ドルの7割強を占める。JPモルガンの市場部門の収入は103億ドルで、管理会計ベースの収入509億700万ドルのおよそ2割にとどまる。株の売り場の繁盛は、2階の大きい店ほど決算を押し上げる。
用語メモ。純金利収入(NII):貸出や保有債券から受け取る利息から、預金などに払う利息を引いたもの。1階の家賃収入にあたる。FICC:債券(Fixed Income)、為替(Currency)、商品(Commodities)の売買部門。2階の債券売り場である。ROTCE:のれんなどを除いた普通株主の資本に対する利益率。店の元手がどれだけ効率よく利益を生んだかを示す。
倉庫の在庫を損切りした:JPモルガンの「未達」の中身
では、なぜJPモルガンは予想に届かなかったのか。1株利益は5.57ドルで、前年同期の5.07ドルから10%増えた。だがFactSetの集計による市場予想は5.93ドルだった。差のうち0.18ドル分は、店の倉庫にあたる保有債券の売却損である。JPモルガンは本社部門で6億5,800万ドル(税引き後4億9,800万ドル)の投資有価証券の売却損を計上した。発表資料はこれを「裁量的な」損失と書いている。売却の狙いを会社は詳しく書いていないが、こうした売却損は一般に、金利上昇で値下がりした利回りの低い債券を売り、利回りの高い債券に入れ替えるときに出る。目先の損を出して、先の家賃収入を厚くする操作だと考えればいい。
JPモルガンの1株利益と市場予想の差を分解する
読み方:予想との差0.36ドルのうち半分は会社が自ら選んだ債券の売却損で、残る半分は債券部門の減収や経費増によるとみられる(本誌の推定)。出所:JPモルガン・チェースの決算発表、FactSetの予想はInternational Business Timesの報道による。
ただし、売却損を除いた1株利益5.75ドルでも、5.93ドルの予想にはまだ0.18ドル届かない。残りの差は、債券売り場の減収と、前年比12%増えた273億ドルの経費に求めるのが自然だろう。ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、市場部門と投資銀行の手数料はいずれも10%台半ばで伸びたとしたうえで、顧客の取引は「四半期の間にいくらか落ち着いた」と述べた。2階の客足が、7〜9月の後半に細ったということだ。
ダイモン氏はもう一つ、自社株買いを今期は意図的に減らしたと明かした。純額の買い戻しは6億6,400万ドルにとどまる。理由は「この資本をいずれ非常に魅力的なリターンで使える」からだという。景気については、大きな財政赤字、根強いインフレ、高い資産価格、金利の上昇、地政学が「水面下で動き続けている」と述べ、「幅広い結果に備えている」と結んだ。株主への還元を絞ってでも、手元の資本を厚くしておく構えである。
よくある誤解:「予想未達」は「業績悪化」ではない。JPモルガンの純利益は153億500万ドルで前年比6%増、純金利収入は13%増えた。届かなかったのは、アナリストが事前に置いた数字のほうである。逆に、ゴールドマンの1株利益17.01ドルは前年の12.25ドルから39%増えたが、4〜6月期の20.98ドルからは減っている。「予想を上回った」も「前の期より良かった」とは限らない。もう一点。一部の報道は来年の純金利収入が「100億ドル増える」と書いたが、JPモルガン自身は増加額を示していない。約98億ドルは、同社の2026年見通しと2027年の中心シナリオから計算した差である。
ほかの2行と、株価の反応
同じ日に決算を出した2行も、二階建ての比喩で読める。シティグループは収入が238億4,500万ドルで8%増、1株利益は2.85ドルで、市場予想の2.65ドル(Investing.comの集計)を上回った。ウェルズ・ファーゴは2階が小さい1階中心の銀行で、純金利収入は125億1,700万ドルで5%増、1株利益は1.87ドルと予想の1.84ドルを上回った。ただ、収入は218億7,000万ドルで予想の223億1,000万ドルに届かず、貸倒引当金の繰入額は前年の6億8,100万ドルから10億2,900万ドルに増えた。
株価の反応は、米東部時間13日9時58分(日本時間22時58分)時点で次のとおりである。ゴールドマンは903.82ドルで前日終値比1.1%高。JPモルガンは寄り付き直後に344.36ドルまで上げたが、334.64ドルとほぼ前日並み(0.04%高)まで押し戻された。シティは1.5%安、ウェルズ・ファーゴは2.1%安である。いずれも取引時間中の値で、終値ではない。7月の4〜6月期決算でも、全行が予想を上回ったのに半分が売られた。そのときの値動きの法則はこちらの記事で整理してある。
日本の読者へ:3メガバンクも二階建てである
この比喩は日本の銀行株にもそのまま当てはまる。三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクも、1階の預金・貸出と、2階の市場・投資銀行業務を持つ。金利が上がる局面で1階の家賃収入が厚くなるという構図は、日米で共通だ。日銀の植田和男総裁が物価目標に「かなり近づいている」と述べた発言の中身はこちらの記事で扱った。国内の銀行株を金利の面から見た整理はこの記事にある。
13日の東京市場では、日経平均が1.82%下げるなかで銀行株は上げた。三菱UFJは3,551円で9日終値比2.57%高、三井住友は2.79%高、みずほは1.97%高、野村ホールディングスは2.22%高である。ただし東京の取引は米国の決算発表の前に終わっている。この上げは米銀の決算への反応ではない。米銀の決算を受けた東京の値動きは、14日の取引で初めて出る。
三菱UFJにとっては、もう一つ見るべき決算がある。同社は米モルガン・スタンレーの株式の24.12%を持つ(米証券取引委員会への7月15日付の提出書類による)。そのモルガン・スタンレーは14日の米東部時間7時30分ごろ、日本時間では同日20時30分ごろに決算を発表する。モルガン・スタンレーは2階の大きい店だ。株の売り場の繁盛がそこにも及んでいるかは、持分法を通じて三菱UFJの利益にも関わる。同じ14日にはバンク・オブ・アメリカも決算を発表する。
まとめ:二階建ての店で覚えて帰る3点
最後に比喩を回収する。13日の決算は、2階の株の売り場が繁盛し、債券の売り場が冷え、1階の家賃収入は伸び続けている店の姿だった。どの銀行が予想を上回ったかは、主に2階の大きさの違いで決まった。
- 1階(純金利収入)は金利で決まる。JPモルガンは2027年に市場部門を除いて約1,070億ドルを見込み、理由に金利の上昇を挙げた。日本の3メガも同じ構図にある。
- 2階(市場部門)は相場の季節で決まる。7〜9月は株が繁盛、債券が低調だった。2階の大きいゴールドマンの決算が最も上振れた。
- 「未達」は中身を分解して読む。JPモルガンの差0.36ドルのうち0.18ドルは会社が自ら選んだ債券の売却損で、本業の弱さを示すものではない。
主な参照
- 2026年7〜9月期決算発表(ダイモンCEOのコメントを含む)/JPモルガン・チェース
- 決算説明資料(純金利収入の見通し)/JPモルガン・チェース、4〜6月期の見通し/同
- 決算補足資料(純金利収入、市場部門の内訳)/JPモルガン・チェース
- 2026年7〜9月期決算発表/ゴールドマン・サックス
- 2026年7〜9月期決算発表/シティグループ
- 2026年7〜9月期決算発表/ウェルズ・ファーゴ
- 三菱UFJによるモルガン・スタンレー株の保有(Schedule 13D/A、2026年7月15日提出)/米証券取引委員会
- 7〜9月期決算の発表日程/モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ
- 米国株・日本株の株価/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:2026年10月13日(米国株は米東部時間9時58分、日本株は東京の終値)。米国株の株価は取引時間中の値で、終値ではない。米国市場の取引終了は日本時間14日午前5時で、その後の変動は反映していない。日本株の騰落率は、12日が祝日で休場だったため9日の終値と比べている。JPモルガンの市場予想5.93ドルはFactSetの集計(International Business Timesの報道による)で、集計会社により5.90〜5.94ドルの幅がある。ゴールドマンの市場予想は集計会社により12.90〜14.84ドルと幅が大きいため、本文では特定の値を使っていない。シティとウェルズ・ファーゴの市場予想はInvesting.comの集計による。JPモルガンの1株利益と予想の差のうち、売却損以外の内訳は本誌の推定である。2027年の純金利収入は同社が「暫定的な分析」と明記した中心シナリオで、確定した見通しではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













