10月20日火曜、米東部時間の夕方。ニューヨークの取引が終わってまもなく、カリフォルニア州サンノゼのスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)が短い発表文を出した。7〜9月期の売上高は185億〜195億ドルになる見込みだという。8月に自ら示した見通しは145億〜155億ドルだった。上限どうしで比べても40億ドル上回る数字である。
この日の終値は32ドル47セント。わずか1週間前、同じ株は「AIサーバーの投げ売り」の中心にいた。発表から数時間後、時間外取引の最後の気配は37ドル51セントと、終値から約15%高い水準で止まった。日本時間の21日朝、東京の投資家が目を覚ましたとき、物語はすでに一周していた。
発表の瞬間——たった数行の速報
発表文は驚くほど短かった。売上高の見込みと、売上総利益率(粗利率)の見込み。それだけである。粗利率は12.0〜12.5%で、会社見通しの10.4〜10.8%を上回る。理由は「AIプラットフォームへの需要の高まり」と「顧客と製品の構成」と書かれていた。1株利益の数字も、経営者のコメントも、受注残の数字もない。数字は監査法人のレビュー前のもので、変わりうるとの注意書きが付いている。
それでも市場には十分だった。ロイターによると、LSEGがまとめたアナリスト予想の平均は152億3,000万ドル。見込みの中央値190億ドルは、これを約25%上回る。前年同期の売上高は50億ドルだったので、中央値なら約3.8倍になる計算だ。
スーパー・マイクロの7〜9月期売上高(億ドル)
読み方:見込みの中央値は、会社自身の見通しより40億ドル、アナリスト予想の平均より約38億ドル多い。前年同期の約3.8倍。出所:スーパー・マイクロの発表資料、米証券取引委員会への提出書類、マーケットスクリーナー(ロイター配信)。中央値と倍率は本誌計算。
巻き戻し——「投げ」の1週間
この発表の重みを知るには、時計を少し戻す必要がある。10月9日金曜、スーパー・マイクロ株は41ドル86セントで引けていた。そこから1週間で景色が変わる。
スーパー・マイクロ株の2週間(米国市場の終値ほか)
読み方:1週間で4分の1を失った株価が、業績見込みの発表で一晩のうちに約15%戻した。時間外の値は気配で、終値ではない。出所:Yahoo Financeの日足、CNBC、スーパー・マイクロの発表資料。
14日火曜、英バークレイズがデル・テクノロジーズなどの格付けを引き下げた。企業のAI投資が本格化する時期に疑問を投げかけたもので、デル株は急落し、AIサーバーを手がける銘柄が軒並み売られた。スーパー・マイクロもこの日8.4%安の35ドル78セント。経緯は15日の記事で追った。
同じ週、もう一つの影が市場を覆う。AI向けのクラウド事業者、いわゆるネオクラウドの代表格であるコアウィーブの社債だ。米CNBCによると、2031年償還債の利回りは15%近くまで上がり、信用リスクの保険料にあたるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)も経営危機を示す水準に達した。サーバーを買う側の資金繰りが疑われれば、サーバーを売る側の受注も疑われる。コアウィーブの社債は、AI業界全体の借金の値札になっていた。
16日木曜、スーパー・マイクロ株は9.9%下げて31ドル63セントで引けた。9日からの1週間で24.4%安である。52週の高値54ドル53セントからは4割下の水準だった。
二つの声——需要を信じる側と、資金繰りを疑う側
この1週間、市場では二つの声がぶつかっていた。一方は、AI向けの計算資源への需要はまだ供給を上回っている、という声だ。スーパー・マイクロ自身、8月の決算発表で2027年6月期の売上高を650億〜720億ドルと見通していた。強気の計画を自ら掲げていたのである。
もう一方は、その需要の中身を疑う声だ。サーバーの買い手の一部は借金で設備を積み上げるネオクラウドで、その借金に市場が値札を付け始めている。しかも、スーパー・マイクロには過去がある。2024年には年次報告書の提出が遅れ、特別委員会による調査に追い込まれた。今月も、中国向けのサーバー輸出をめぐる事件で元委託業者が有罪を認めたと報じられた。同社は被告ではないが、こうした話題が出るたびに株価は揺れてきた。
アナリストの見方も割れたままだった。マーケットスクリーナーによると、発表前の時点で同社を担当する18人の評価は平均すると「中立」で、目標株価の平均は約42ドル27セント。株価はその水準を大きく下回っていた。
クライマックス——数字が出た夜
20日の夕方に発表が出ると、時間外取引でスーパー・マイクロ株は買い気配から一気に駆け上がった。報道によって時点が異なり、上昇率は11%から16%まで幅がある。米東部時間19時59分の最後の気配は37ドル51セント。終値から15.5%高い。
波は同業にも及んだ。investingLiveによると、時間外でデルは6%、ヒューレット・パッカード・エンタープライズは5%上げた。1週間前にAIサーバー株をまとめて売った手が、今度はまとめて買い戻している。需要を疑う声に対して、少なくとも一つの会社が数字で答えた形だ。
時間外取引が最後の気配を付けた米東部時間19時59分は、日本時間21日の8時59分にあたる。その1分後に始まった東京では、日経平均が前日比1,100円を超える上げで始まっていた。共同通信によると9時15分時点で6万5,214円98銭、1,139円56銭高である。米国のAI関連株高が、東京の朝にも届いていた。寄り付き後の流れは寄り付き1時間の記事にまとめている。
エピローグ——11月3日に残された問い
物語はまだ終わっていない。今回出たのは売上高と粗利率の幅だけで、利益の数字はない。正式な決算発表と説明会は11月3日、米東部時間17時。日本時間では11月4日の朝7時になる。
残された問いは三つある。一つ目は、通期見通しが引き上げられるかどうか。7〜9月期だけで190億ドル前後を売るなら、通期650億〜720億ドルの見通しのうち、すでに4分の1を超える。残り3四半期の平均は150億〜180億ドル弱で足りる計算になり、据え置きなら「この先は減速する」と読まれかねない。
二つ目は、粗利率の改善が続くかどうか。前年同期の9.3%から12%台への改善は、構成の変化によるものと会社は説明している。どの顧客、どの製品が利いたのかは、11月3日に初めて語られることになる。三つ目は、買い手の顔ぶれだ。売上高の伸びが、借金で設備を積み上げるネオクラウドに頼ったものなら、コアウィーブの社債が投げかけた問いは消えていない。
1週間で24%売られ、一晩で15%買い戻された株である。9月にも、発表のない日に9.5%上げたことがあった(9月の記事)。この銘柄の物語は、いつも振れ幅とともに語られてきた。11月3日の夕方、サンノゼから再び発表文が出る。
主な参照
- 7〜9月期の業績見込み(2026年10月20日)/スーパー・マイクロ、米証券取引委員会への提出書類
- 8月の決算発表と見通し/米証券取引委員会への提出書類
- 前年同期の実績/ビジネスワイヤ
- アナリスト予想(LSEG・ファクトセット)と目標株価/マーケットスクリーナー(ロイター配信)
- 時間外の同業の値動き/investingLive
- コアウィーブの社債とCDS/CNBC、CNBC
- 元委託業者の有罪答弁/データセンター・ダイナミクス
- 21日朝の日経平均/共同通信(Yahoo!ニュース)
- 株価の日足と時間外の気配/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月20日の米国市場の終値と、同日米東部時間19時59分の時間外取引の気配。時間外の値は取引時間中の気配で、終値ではない。21日の通常取引で値動きが変わる可能性がある。業績の数字は会社が公表した見込みの幅で、監査法人のレビュー前のものであり、11月3日の正式発表で変わることがある。前年比の倍率と、売上高見込みの中央値と予想平均の比較は本誌の計算。アナリスト予想は集計会社によって異なる(LSEG 152億3,000万ドル、ファクトセット149億4,000万ドル)。時間外の上昇率は報道の時点によって11〜16%と幅がある。日経平均は21日9時15分時点の値。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















