長期金利が3%に乗った。ではあなたの100万円は、どこに置くのが正しいのか。答えを先に言う。置き場所そのものより、「水位が変わったときに、その置き場所がどう動くか」を知っているかどうかで結果が決まる。この記事では金利を水位に見立てて、順に見ていく。預金、個人向け国債、債券ファンド。この三つは、水位が上がったときの振る舞いがまったく違う。
まず比喩を決めておく
金利を水位だと考えてみてほしい。水位は上がったり下がったりする。あなたのお金は、その水辺に係留された何かである。
係留のしかたは三通りある。杭に短い綱で結んだ舟、浮き桟橋、そしてすでに買った古い舟。同じ水辺にいても、水位が上がったときの結末は三者三様だ。ここが肝心である。
水位(金利)が上がったとき、三つの係留はどう動くか
同じ水位の上昇でも、係留のしかたで結果が変わる。定期預金は満期まで金利が固定されるため持ち上がらない。個人向け国債の変動10年は半年ごとに見直され、基準金利に0.66を掛けた水準まで追随する。債券ファンドは、より高い金利の新発債が出ることで既発債の価格が下がり、基準価額が目減りする。
原理の分解
1. 定期預金は「杭に結んだ舟」である
1年ものの定期預金に預けると、金利はその時点で決まり、満期まで変わらない。綱の長さが固定されるのと同じだ。水位が上がっても、綱が短ければ舟は持ち上がらない。
メガバンクの1年もの定期預金は年0.400%。普通預金も8月3日から年0.4%になった。2024年3月時点の普通預金は0.001%だったから、たしかに大きく上がっている。だが水位そのものは、10年国債利回りで3%まで来ている。綱の長さは、水位の上がり方に追いついていない。
2. 個人向け国債の変動10年は「浮き桟橋」である
浮き桟橋は水位に合わせて自動的に上下する。個人向け国債の変動10年がこれにあたる。半年ごとに金利が見直され、水位が上がれば受け取る利子も増える。
金利の決め方は決まっている。基準金利に0.66を掛ける。基準金利は10年国債の実勢利回りにあたるので、10年金利が3.00%で推移すれば、掛け算の答えはおよそ1.98%になる。9月発行分の初回金利は年1.87%で、これは基準金利がまだ2.8%台だったころの数字だ。
つまり今回の3%突破は、次回以降の発行分から反映されていく。1年前の変動10年は0.97%、2024年1月は0.46%だった。2年半で約4.1倍である。浮き桟橋は、たしかに水位についてきている。
3. 債券ファンドは「すでに買った古い舟」である
ここが最も誤解されやすい。債券ファンドは、すでに発行された債券を束ねて持っている。あなたが持っているのは古い舟だ。
水位が上がると、新しく造られる舟にはより高い金利が付く。年1%の利子しか生まない古い舟を、年3%の新しい舟が買える時代に、誰が同じ値段で買うだろうか。だから古い舟の値段は下がる。金利が上がると債券の価格が下がるというのは、この一文に尽きる。
下がり方の目安もある。ファンドが持つ債券の平均的な残存期間が長いほど、値下がりは大きい。この感応度をデュレーションと呼ぶ。デュレーションが8のファンドなら、金利が1%ポイント上がるとおおむね8%値下がりする。100万円なら8万円の目減りだ。
用語ボックス(3つだけ覚えればよい)
基準金利=個人向け国債の金利を決める土台になる数字。変動10年ではこれに0.66を掛ける。
デュレーション=債券やファンドの金利感応度。この数字が大きいほど、金利が動いたときの値動きが大きい。
中途換金調整額=個人向け国債を満期前に解約するとき差し引かれる額。直前2回分の各利子相当額に0.79685を掛けた額で、要は直近1年分の利子を税引後で返すという意味である。
現実の数字に当てはめる
100万円を1年置いた場合で並べる。利子には20.315%が課税されるので、税引後も出しておく。
| 置き場所 | 年利 | 税引前の利子 | 税引後の手取り | 比喩 |
|---|---|---|---|---|
| 個人向け国債 変動10年(9月発行分) | 1.87% | 18,700円 | 14,901円 | 浮き桟橋 |
| 個人向け国債 変動10年(次回見込み) | 約1.98% | 19,800円 | 15,778円 | 同上・水位に追随 |
| 個人向け国債 固定5年(8月発行分) | 2.06% | 20,600円 | 16,415円 | 高い位置で固定した足場 |
| メガバンク1年定期預金 | 0.400% | 4,000円 | 3,187円 | 杭に結んだ舟 |
| 普通預金 | 0.4% | 4,000円 | 3,187円 | 同上 |
差は税引後で年11,714円。倍率にして4.67倍である。同じ100万円、同じ元本保証、同じ1年でこれだけ違う。
ただし条件がある。個人向け国債は発行後1年間は解約できない。1年を過ぎれば解約できるが、中途換金調整額として直近2回分の利子を返すことになる。1年以内に使う予定のあるお金は、この桟橋には乗せられない。順に見ていくと、選択の分かれ目は利回りではなく、いつ使うお金かという一点にある。
NISAとの関係を整理しておく
ここも誤解が多い。個人向け国債はNISAでは買えない。NISAの対象は株式や投資信託であり、個人向け国債は対象外である。したがって上の表の利子には、20.315%がそのままかかる。
裏を返せば、NISAの非課税枠は課税される商品には使えない以上、株式や投資信託に回すのが筋である。元本を減らしたくないお金は課税口座で個人向け国債、値上がりを狙うお金はNISAで投資信託、という住み分けが自然になる。NISAで何を買うべきかの比較は別稿で扱った。
よくある誤解
「金利が上がったから債券は買いだ」は、半分しか正しくない。正しいのはこれから買う人にとってだけである。すでに債券ファンドを持っている人にとって、金利上昇は基準価額の下落を意味する。古い舟の値段が下がるからだ。同じニュースが、これから乗る人には追い風、すでに乗っている人には向かい風になる。自分がどちらの立場かを先に確かめてほしい。
もうひとつ。変動10年は水位に追随するが、追随の仕方は0.66倍である。水位が3%でも桟橋は1.98%までしか上がらない。全部はついてこない。それでも預金の0.400%と比べれば差は大きい、という話である。
そして水位は下がることもある。日銀が利下げに転じれば、変動10年の金利も下がる。浮き桟橋は、下がるときも一緒に下がる。固定5年の2.06%は、その意味で「今の高い水位を固定できる足場」にあたる。どちらが有利かは、これから水位が上がるか下がるかで決まる。金利水準ごとに資産の並び順が変わるという論点は、ここにも効いてくる。
まとめ:桟橋の話に戻る
水位は30年ぶりの高さまで来た。杭に短い綱で結んだ舟は、そのままでは持ち上がらない。浮き桟橋は半年ごとについてくる。古い舟の値段は、新しい舟が高い金利を付けるぶんだけ下がる。同じ水位の変化が、係留のしかたによって三通りの結果を生む。
覚えて帰ってほしいのは3点だけである。
- 変動10年の金利は「基準金利×0.66」で決まり、半年ごとに見直される。今回の3%突破は次回以降の発行分に効いてくる。9月分は1.87%、その次はおよそ1.98%の計算になる
- 個人向け国債は1年間解約できず、その後も直近2回分の利子を返す。選択の分かれ目は利回りではなく、そのお金をいつ使うかである
- 金利上昇が追い風になるのは、これから買う人だけ。すでに債券ファンドを持っているなら、同じニュースは向かい風として効く
この記事で分からないこと
- 次回の変動10年の金利は、募集時点の基準金利で決まる。約1.98%は現在の利回りが続いた場合の計算値であり、確定値ではない
- 預金金利は銀行により異なる。表の0.400%はメガバンクの1年もの定期の水準で、ネット銀行にはより高い商品がある
- 債券ファンドの値動きはデュレーションのほか、信用リスクや為替の有無によっても変わる。8%という数字はデュレーション8の場合の目安である
- 個人向け国債の最低金利や中途換金の細目は財務省の商品説明で確認してほしい
主な参照
- 個人向け国債の商品概要・金利の決め方・中途換金/財務省
- 10年国債利回り(2026年9月1日)/CNBC
- 個人向け国債の金利推移/財務省 発行条件
- NISAの対象商品(個人向け国債が対象外である点)/金融庁
- 政策金利と金融政策決定会合/日本銀行
- 利子課税20.315%の内訳/国税庁
- 預金金利の水準/各行の公表金利(2026年8月時点)
データ基準日:金利は2026年9月1日時点、個人向け国債は2026年9月発行分。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではない。金利は今後変動する。商品の詳細は必ず発行体および金融機関の説明資料で確認していただきたい。











