2011年9月23日、北海ブレント原油のスポット価格は米WTI原油を1バレル29.59ドル上回った。米オクラホマ州クッシングのタンクに原油があふれ、内陸のWTIだけが安く取り残された年である。それから15年後の2026年10月2日、同じ物差しで測った価格差は37.62ドルに開いた。米エネルギー情報局(EIA)の日次データがそろう1987年5月以降で、2020年4月のWTIマイナス価格という異常値を除けば、最も大きな差である。
差はその後縮み、10月14日はブレント126.55ドル、WTI101.91ドルで24.64ドルだった。それでも2011年の最大値に近い。だが、数字が似ていても中身は逆だ。2011年は「WTIが安すぎた」のに対し、2026年は「ブレントが高すぎる」。この違いが、日本の原油調達コストと、これからの値動きの読み方を分ける。
ブレントとWTIのスポット価格差、各年の最大値(ドル/バレル)
読み方:2026年10月2日の差は2011年の最大値を8ドル上回った。※2020年4〜5月のWTIマイナス価格の時期は除く。出所:EIAの日次スポット価格(ブレント、WTIクッシング)から本誌が計算。
当時の場面——クッシングにあふれた原油
2011年の価格差は、パイプラインの問題だった。米国では内陸のシェール油田や、カナダから運ばれる原油の生産が増えていた。ところが、WTIの受け渡し地点であるクッシングから、製油所の集まるメキシコ湾岸へ原油を流す管が足りなかった。行き場のない原油がタンクに積み上がり、WTIの価格だけが押し下げられた。
同じ年、リビアの内戦で地中海の軽質原油の供給が細り、海上で取引されるブレントは買われた。片方は在庫過剰で安く、片方は供給不安で高い。EIAのデータでは、2011年のブレントとWTIのスポット価格差は年平均で16.62ドルに達した。当時の市場では「WTIはもはや世界の原油価格を代表していない」という声が広がった。
対照表——同じ点と違う点
| 項目 | 2011年 | 2026年10月 |
|---|---|---|
| 価格差の最大値(スポット) | 29.59ドル(9月23日) | 37.62ドル(10月2日) |
| 主因 | WTIが安すぎた(内陸の在庫過剰) | ブレントが高すぎる(海上輸送の混乱) |
| ボトルネックの場所 | 米国内のパイプライン | ホルムズ海峡とタンカー |
| クッシングの在庫 | 積み上がっていた | 2,660万バレル、前週比186万バレル増 |
| 米国の原油輸出 | 原則禁止(2015年12月に解禁) | 可能。ただし日量457万バレルに減少 |
| 同じ点 | 世界の原油が「どこにあるか」で値段が分かれた。指標どうしの差が、輸送の詰まりを映す温度計になっている | |
奇しくも、差の大きさはほぼ同じでも、動いている側が違う。2011年は米国の原油が外に出られず安くなった。2026年は米国の原油は外に出られるのに、運ぶ船と保険の値段が跳ね上がり、海の向こうの原油だけが高くなっている。EIAは10月6日の短期エネルギー見通しで、タンカーの運賃が9月に過去最高に達し、保険料の上昇が届け先での原油価格を押し上げていると書いた。9月15日にはサウジアラビアの東西パイプラインへの攻撃を受けて、ブレントのスポット価格が一時1バレル131ドルまで上がったという。
この2週間——差は開き、そして縮み始めた
ブレントとWTIのスポット価格差(2026年9月28日〜10月14日、ドル/バレル)
読み方:10月2日の急拡大の後、1週間は30ドル前後で高止まりし、13日から縮み始めた。それでも2011年の最大値29.59ドルに近い。出所:EIAの日次スポット価格から本誌が計算。
日次の動きを見ると、10月2日にブレントが135.51ドルまで跳ねて差は37.62ドルになった。翌週は30ドル前後で高止まりし、10月13日に24.92ドル、14日に24.64ドルへ縮んだ。縮んだ理由はブレントの下落とWTIの上昇の両方である。WTIのスポットは10月7日の95.02ドルから14日の101.91ドルへ、1週間で7ドル近く上がった。
先物でも同じ方向が見える。10月16日22時44分(日本時間、ニューヨーク時間9時44分)の取引時間中の値で、WTIの11月物は98.06ドル。9日の終値91.85ドルから週間で約6.8%高い。一方、ブレントの12月物は105.81ドルで、9日の104.72ドルから約1%高にとどまる。限月をそろえた12月物どうしの差は約9.6ドルだ。
「WTIが1.8%安」は誤りである。16日は多くの相場サイトでWTIの「期近」が11月物から12月物に切り替わった。表示上は前日の11月物の清算値97.97ドルと、12月物の96ドル台を比べる形になり、1.8%前後の下落に見える。実際には11月物は前日比ほぼ横ばいで、12月物も0.3%安程度にすぎない。期近の切り替え日は、前日比の数字を限月ごとに確かめる必要がある。
当時その後に起きたこと
2011年の価格差は、結局インフラで解消された。メキシコ湾岸へ向かうパイプラインの逆送や新設が2012年以降に進み、クッシングの原油が海へ出られるようになった。それでも差はすぐには消えなかった。2012年の年平均は17.61ドルで、2011年の16.62ドルをむしろ上回り、10月10日には最大24.87ドルを付けた。2013年も2月に23.19ドルまで開いている。年平均が10.58ドルへ縮んだのは2013年で、ピークから解消に向かうまで2年近くかかった。
その後、2015年12月に米国の原油輸出が解禁されると、WTIは世界市場とつながった。2019年の最大値は13.29ドル、ロシアのウクライナ侵攻後の2022年でも14.37ドルにとどまった。教訓は明快だ。価格差は物理的な詰まりが解消されるまで縮まり切らない。そして2026年の詰まりは、パイプラインのように工事で直せるものではない。
「今回は違う」論を検証する
今回は違う、と言える点は3つある。第一に、詰まりの場所が政治で決まる。ホルムズ海峡の通航や制裁の行方は、パイプラインの完成日のように予定表に載らない。米財務省は10月15日、イラクの銀行など3行をイラン関連で制裁対象に加えた。ベッセント財務長官は「イラン経済の首は締まりつつある」「イラン政権の金庫が空になるまで手を緩めない」と述べた。制裁の強化は、海上の原油の供給をさらに細らせる方向に働く。
第二に、米国の在庫の中身が分かれている。EIAの週間統計(10月9日までの週)では、商業用原油在庫は前週比855万7,000バレル減の4億1,557万7,000バレルと大きく減った。一方でクッシングの在庫は186万2,000バレル増えて2,660万7,000バレル。全体は減っているのに受け渡し地点は増えている。原油輸出は日量457万バレルと前週の476万5,000バレルから減った。米国の原油が海へ出にくくなっている兆しで、これがWTIを相対的に安く押しとどめている。
第三に、戦略石油備蓄がもう緩衝材として薄い。米国の戦略備蓄は2億8,298万バレルで、1年前より30.6%少ない。国際エネルギー機関(IEA)は残りの放出分約1億バレルを前倒しすると決めたが、これは2022年の放出と比べた記事で書いたとおり、価格の天井を作るほどの量ではない。
歴史が示す3つの教訓
- 差は「詰まり」の温度計である。2011年はパイプライン、2026年は海峡とタンカー。差が縮むのは、詰まりが解消に向かったときだけだ。
- 縮み始めてからが長い。2011年のピークの後も、2012年の年平均はさらに広がり、2013年にも20ドル超の差が再び開いた。一度縮んだからといって正常化とは限らない。
- どちらの指標を見るかで景色が変わる。2011年に「WTIは世界を代表しない」と言われたように、今はWTIだけを見ていると世界の原油高を過小評価する。
日本にとって大事なのは3つ目だ。日本が輸入する原油の大半は中東産で、その価格はWTIではなく、海上で取引される原油の相場に連動する。ニュースで「WTIは100ドル割れ」と聞いても、日本が実際に払う原油代と運賃は、それより高い水準で動いている。ガソリン価格が補助金を入れても高止まりする理由も、ここにある。
今回固有の監視点と本誌の見立て
EIAは10月の短期見通しで、10〜12月期の平均をブレント104.69ドル、WTI97.00ドルと予想した。2027年はブレント83.74ドル、WTI79.74ドルへの下落を見込む。ただしこの見通しは10月1日時点の情報で作られており、翌日のブレント急騰は織り込んでいない。本誌は、価格差の行方を次の3つのシナリオで見る。
| シナリオ | 確率(本誌) | スポット価格差 | WTI11月物・12月物 | 条件 |
|---|---|---|---|---|
| 高止まり | 50% | 20〜30ドル | 95〜102ドル | ホルムズの通航が現状程度、制裁は強化 |
| 縮小 | 30% | 15ドル以下 | WTIは横ばい、ブレントが下落 | タンカー運賃の低下、通航量の回復 |
| 再拡大 | 20% | 30ドル超 | WTIも100ドル超へ | 中東の供給施設への新たな攻撃 |
見立てが外れたと判断する線も置いておく。スポットの価格差が15ドルを下回って1週間定着すれば、詰まりは解消に向かったとみて高止まりシナリオを取り下げる。逆にWTI12月物が終値で100ドルを超えれば、米国の原油も世界の高値に引き寄せられ始めたサインになる。
| 日付 | 材料 | 見るところ |
|---|---|---|
| 10月20日(米国時間) | WTI11月物の取引最終日(取引所規則からの本誌計算) | 受け渡し前の手じまいで値が振れやすい |
| 10月21日 10時30分(米東部) | EIA週間石油統計 | クッシングの在庫と原油輸出 |
| 11月1日 | OPECプラス8カ国の会合 | 12月以降の増産幅 |
| 11月10日 | EIA短期エネルギー見通し | 10月の急騰を織り込んだ予想の改定 |
原油と海上輸送の関係はブレントの現物と先物の乖離でも扱った。今回の記事との違いは、比べている相手だ。前回は同じブレントの現物と先物、今回はブレントとWTIという2つの指標の差である。
主な参照
- ブレントのスポット価格(日次)/米エネルギー情報局
- WTIクッシングのスポット価格(日次)/米エネルギー情報局
- 週間石油統計(2026年10月15日公表)/米エネルギー情報局
- 短期エネルギー見通し(2026年10月6日公表)/米エネルギー情報局、価格予想の表
- イラン関連の制裁とベッセント長官の発言(2026年10月15日)/米財務省
- 原油先物の値動き(限月別)/Yahoo!ファイナンス
- 週間の値動き(ブレントとWTI)/RTÉ(ロイター配信)
データ基準日:2026年10月16日22時44分(日本時間)。先物の価格はニューヨーク時間9時44分時点の取引時間中の値で、終値ではない。前日比と週間の比較は各限月の前日・前週の終値(清算値に近い値)との比較である。スポット価格はEIAの公表値で、最新は10月14日分。ブレントとWTIの価格差、各年の最大値と年平均はEIAの日次データから本誌が計算した。2011年当時の背景とパイプライン工事の時期は当時の報道にもとづく整理。WTI11月物の取引最終日は取引所の規則から本誌が計算したもので、取引所の公表日程では確認していない。OPECプラスの会合日程は報道ベース。シナリオの確率は本誌の見立てであり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















