11月6日金曜、9時。東京証券取引所の売買が始まっても、2つの銘柄には値が付かなかった。電子部品の太陽誘電(6976)と、ソフトバンクグループ(9984)である。売り注文が買い注文を大きく上回り、取引が成立しない時間が続いた。Yahoo Financeの5分足で最初の取引が記録されたのは、太陽誘電が9時20分台、ソフトバンクグループが9時25分台だった。
ようやく付いた値は、どちらもその日の安値になった。太陽誘電は5,776円、前日比12.22%安。ソフトバンクグループは3,350円、同15.83%安で、3月23日に付けた年初来安値3,365円を下回った。2時間後の前引けで、2つの銘柄はまったく違う場所にいた。太陽誘電は3.05%高の6,781円と上げに転じ、ソフトバンクグループは9.27%安の3,611円にとどまった。同じ「AI関連株」として売られた2銘柄が、きょうの注目株である。
太陽誘電とソフトバンクG:夏の高値から6日の前引けまで
読み方:両銘柄とも夏の高値から大きく下げたあと、6日の朝に同じ安値圏で寄り付いた。分かれ目は前日引け後の上方修正の有無だった。アームの騰落率は米国市場の終値ベース。出所:Yahoo Financeの日足・5分足、株探、本誌整理。
巻き戻し:夏の高値から秋の投げまで
話は夏に戻る。太陽誘電の株価は、AIサーバー向けの積層セラミックコンデンサーへの期待で駆け上がった。2025年11月に3,000円台だった株価は、2026年7月1日に終値で2万2,655円の高値を付けた。取引時間中には2万4,065円まで買われている。ソフトバンクグループは6月2日に終値で8,632円の高値を付けた。いずれもAIへの投資が広がり続けるという前提の上に立った値段だった。
前提が揺らいだのは11月の第1週である。3日の米中間選挙で民主党が上下両院の多数派を取り、データセンター建設への逆風を警戒する売りがAI関連株に向かった。ソフトバンクグループの株価を左右する英アーム(ARM)は、米国時間4日に5.28%安、5日には13.08%安の166.72ドルまで下げた。アームが4日の引け後に出した7〜9月期決算は会社予想を上回ったが、市場はロイヤルティ収入の伸びが8%にとどまった点を重く見た。決算の中身はアームの決算とSBGの持分価値の記事で分解している。
5日の東京で、太陽誘電は13.53%安の6,580円まで売られた。7月の高値から7割を超えて下げた水準である。その日の15時30分、取引が終わった直後に、同社は通期の業績予想を引き上げた。
15時30分の上方修正
太陽誘電が5日に開示した内容はこうだ。2027年3月期の売上高を4,240億円から4,360億円へ、営業利益を450億円から540億円へ、純利益を290億円から350億円へ引き上げた。営業利益は前期の約2.7倍になる計算である。会社は理由として、AIサーバー向けなど付加価値の高い製品の需要拡大、メモリーモジュールなど情報機器向けの好調、下期に予定する価格改定を挙げた。4〜9月期の営業利益は181億9,600万円で、前年同期の2倍だった。
数字以上に目を引いたのは設備投資の話である。同社は中期経営計画の設備投資を2年前倒しし、来期にはAIサーバー向けコンデンサーの生産能力を今期の2倍以上に引き上げる方針を示した。株探は「メモリモジュールなど情報機器向けの受注も好調」と報じ、EE Times Japanは「AI需要で営業利益127%増、設備投資も前倒し」と見出しを付けた。会社自身は、AIへの投資が続く側に賭けたことになる。
会社の数字と市場の売り
だが、その夜の米国市場は会社の見方に味方しなかった。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は12.25%安で引け、恐怖指数と呼ばれるVIXは16.61から28.18へ跳ねた。AIへの投資が続くと見る会社の数字と、AIへの投資が止まるかもしれないと見る市場の売り。6日朝の太陽誘電に値が付かなかったのは、この2つがぶつかった結果である。
ソフトバンクグループの側の対立は、もっと分かりやすい。同社が持つアーム株の価値と、同社自身の時価総額の比べ合いだ。本誌は5日、4日終値ベースでアーム持分が約28.0兆円、SBGの時価総額が約24.3兆円と試算した。同じ持ち株数を前提に、アームの5日終値166.72ドルと6日11時42分のドル円157円87銭で計算し直すと、持分は約24.3兆円になる。SBGの時価総額は前引け3,611円で約20.6兆円だ。アームだけで時価総額を2割近く上回る状態が、さらに広がった。それでも株価は戻らなかった。
クライマックス:10時からの2時間
10時、太陽誘電は6,197円(5.82%安)、ソフトバンクグループは3,539円(11.08%安)だった。その頃、海の向こうで流れが変わり始める。米ナスダック100指数先物は日本時間9時の0.48%安から上げに転じ、11時30分時点では1.30%高まで戻した。東京ではアドバンテストや東京エレクトロンなど半導体株に買い戻しが入り、日経平均は10時25分の安値から1,100円あまり戻した。前場全体の数字は寄り付き1時間のまとめにある。
太陽誘電はその波に最も強く乗った銘柄の一つだった。10時の6,197円から前引けの6,781円まで584円上げ、前日終値を上回った。寄り付き直後の安値からは17.4%の戻りになる。前場の出来高は2,664万株で、5日の1日分2,755万株に迫った。一方、ソフトバンクグループは安値3,350円から7.8%戻したところで止まった。前引けの下落率9.27%は、日経平均の5.27%を大きく上回る。
| 項目 | 太陽誘電(6976) | ソフトバンクG(9984) |
|---|---|---|
| 5日終値 | 6,580円(−13.53%) | 3,980円(−6.77%) |
| 6日の最初の取引(5分足) | 9時20分台、5,776円(−12.22%) | 9時25分台、3,350円(−15.83%) |
| 6日10時 | 6,197円(−5.82%) | 3,539円(−11.08%) |
| 6日前引け | 6,781円(+3.05%) | 3,611円(−9.27%) |
| 終値の高値(過去1年) | 22,655円(7月1日) | 8,632円(6月2日) |
| 高値からの下落率(前引け) | −70.1% | −58.2% |
| 25日移動平均からの乖離(前引けを含む) | −27.9% | −28.3% |
| 14日RSI(前引けで計算) | 30.7 | 26.4 |
| 次の材料 | 上方修正後の評価の定着 | 11月10日の7〜9月期決算 |
数字の上では、2銘柄はほぼ同じだけ売られている。25日移動平均からの乖離はどちらも28%前後、RSIは売られすぎの目安とされる30の近くにある。違いは、手元に新しい材料があったかどうかだ。太陽誘電には前日の上方修正があり、売りが一巡したところで買い手がそれを拾った。ソフトバンクグループの材料は、まだ出ていない。
エピローグ:残された問い
太陽誘電に残る問いは、前場の切り返しが「過熱」か「出直り」かである。7月の高値から7割下げた株が、1日の前場だけで安値から17%戻した。値幅の大きさは、買いが本物かどうかをまだ教えてくれない。会社が示した540億円の営業利益と、2倍に増やす生産能力が、来年のAIサーバー需要とかみ合うか。答えが出るのは数四半期先だ。
ソフトバンクグループの問いには、日付がある。同社のIRカレンダーによれば、7〜9月期の決算発表は11月10日だ。保有するインテル株の値下がりが決算にどう表れるかは、SBG決算の読み方で試算した。プレビューを書いた4日の終値は4,269円。そこから6日の前引けまでに15.4%下げている。決算の数字より先に、株価のほうが答えを出しにいった形である。
今夜22時30分には米国の10月雇用統計が出る。AI関連株の行方は、その後に始まる米国市場の半導体株に再び委ねられる。6日の前場で別々の道を選んだ2つの銘柄が、週明けにどちらへ向かうか。その手がかりは、今夜のSOXの終値にある。
主な参照
- 太陽誘電の通期業績予想の修正と設備投資の前倒し/株探、メディアIR、EE Times Japan
- ソフトバンクグループの決算発表日/ソフトバンクグループ IRカレンダー
- 株価(日足・5分足)、アーム株、米国株価指数先物、ドル円/Yahoo Finance
- 前日の米国市場の終値(SOX、VIX)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年11月6日の東京市場の前引け(11時30分)。最初の取引の時刻はYahoo Financeの5分足にもとづくもので、取引所の公式な初値の時刻とは異なる場合がある。乖離率とRSIは前引けの値を含めて本誌が計算したもので、終値で計算すると変わる。SBGのアーム持分と時価総額は、11月5日の本誌試算と同じ持ち株数・発行済み株式数を前提に、価格と為替だけを置き換えた概算であり、同社の公表値ではない。ドル円と米国株価指数先物は取引中の値。売りの背景に関する記述は報道にもとづく。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















