レギュラーガソリン1リットル170.0円。原油が1日で8%下げた週も、全国平均の店頭価格は前週から0.1円しか動かなかった。下げの波を受け止めたのは私たちの財布ではなく、別の2つの場所だ。1つは国の補助金、もう1つは東京市場の石油株である。5日、INPEX(1605)は7.85%安の3,579円と、この日の最安値で取引を終えた。
だが、売られたINPEXの足元を見ると、景色は違って見える。会社が業績予想の前提に置いた10〜12月期のブレント原油は1バレル70ドル。急落後の今も、相場はそれより約27ドル高い。店頭から海峡まで、原油の値段をさかのぼってみる。
店頭の170.0円は、なぜ動かないのか
資源エネルギー庁が5日に公表した11月2日時点の調査では、レギュラーガソリンの全国平均は170.0円だった。前週の170.1円から0.1円安く、2週連続の値下がりである。軽油は159.5円だった。
動かない理由は、補助金の仕組みにある。国は店頭価格が「基準価格」の170円程度に収まるよう、石油元売りに1リットルあたりの補助を出している。原油が下がれば、店頭価格ではなく補助額のほうが減る。5日から11日までの支給額は51.9円と、前週の過去最大52.4円から0.5円縮んだ。補助がなければ、店頭価格は222円前後になっていた計算だ。原油安の恩恵は、まず国の財政負担の軽減として表れる。
原油の下げはどこで受け止められたか(川上→川下)
読み方:川上の原油が8%下げても、川下の店頭価格はほぼ動かない。差は補助金の縮小と石油株の下落で吸収された。出所:CNBC、ロイター、Yahoo!ファイナンス(11月5日終値)、資源エネルギー庁(11月2日調査、11月5日公表)。
川上へ:8%安と、翌日の反発
原油の急落は4日に起きた。CNBCによると、ニューヨークのWTI原油先物は8.3%安の88.12ドル、ブレントは8.7%安の94.62ドルで取引を終えた。ロイターによると、いずれも8月31日以来の安値である。週初からの下げは14%を超えた。
きっかけは、米中間選挙での共和党の大敗だ。バンス副大統領はXに「負けた理由は戦争だ」と投稿し、トランプ大統領も敗因にガソリン価格を挙げたと報じられた。市場は、イランとの戦争が早期に終わる方向に賭けた。
ところが5日は反発している。日本時間22時57分(取引時間中)にブレントは96.63ドル、WTIは89.31ドル。イラン革命防衛隊が、ホルムズ海峡で「許可のない航路を使おうとした」タンカー2隻とタグボートが火災を起こしたと主張したと、ロイターが伝えた。独立した確認はない。調査会社ユーラシア・グループは、米国による攻撃の確率を65%から60%に下げた一方、合意の確率も20%から10%に下げたという。戦争終結への賭けは、まだ一方向には進んでいない。
東京の現場:INPEXは会社前提より27ドル上
東京市場の取引は、原油が反発する前の15時半に終わっていた。INPEXは前日比305円安の3,579円。始値3,753円から一度も戻らず、安値引けだった。株探によると3日続落である。石油元売りのENEOSホールディングス(5020)は4.66%安の1,278.5円、出光興産(5019)は4.69%安の1,363円だった。
INPEXが8月7日に公表した決算短信を開くと、今期(2026年12月期)の純利益予想は5,100億円。その前提は、7〜9月期のブレントが80ドル、10〜12月期が70ドル、下期の為替が1ドル=160円である。急落後の96ドル台でも、10〜12月期の前提を約27ドル、率にして4割近く上回る。10月下旬のブレントは110ドルを超える日もあった。為替は前提より円高だが、その差は2円程度にとどまる。
つまり、今週の下げは「今期の利益が減る」ことよりも、「来年以降の原油高が続かない」可能性を織り込んだ動きと読むのが自然だ。会社の前提は保守的で、実際の油価との差が上方修正の余地として残っている。一方で、販売する原油の値段は油種によってブレントと差があると会社自身が注記しており、前提との差がそのまま利益になるわけではない。
私たちの家計への換算表
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ガソリン月50リットル(店頭) | 170.0円×50リットル | 月8,500円 |
| 同、補助金がなかった場合 | 約222.4円×50リットル | 月約1万1,120円 |
| 12月の補助縮小(基準価格5円上げ) | 5円×50リットル | 月250円の負担増 |
| INPEX株100株の購入額 | 3,579円×100株 | 35万7,900円 |
| 同、年間配当(会社予想112円) | 112円×100株、税引前 | 1万1,200円(利回り約3.1%) |
補助金は12月に縮小が始まる。報道によると、基準価格は第1週と第2週に2円ずつ、第3週に1円上がり、計5円引き上げられる。原油が下がっても、年末にかけて店頭価格はむしろ上がる方向にある。1月以降は原油価格と中東情勢をみて決めるとされる。
生活防衛と投資の接点
家計の側から見ると、原油安の恩恵が店頭に届くのは補助金がなくなった後になる。年末のガソリン代は、原油の値段より補助縮小の日程で決まると考えておくのが現実的だ。
投資の側では、選択肢は3つに分かれる。INPEXのような開発会社は油価そのものに、ENEOSや出光のような元売りは在庫の評価や精製の利ざやに左右されやすい。もう1つは何もしない選択で、イランをめぐる見出しが1日で8%の値動きを生む局面では、それも立派な判断である。本誌の見立てでは、今後2週間のブレントは90〜100ドルでのもみ合いが45%、合意期待が強まり85〜90ドルへ下げる確率が35%、攻撃再開で105ドルを超える確率が20%とみる。
4日の急落の背景は1991年の湾岸戦争と比べた記事で、補助金が原油安を吸収する仕組みは原油先物の期間構造の記事とあわせて読むと分かりやすい。
次に店頭と株価へ届く日付
- 11月12日(木):資源エネルギー庁の次の店頭価格調査と、12日からの補助額。原油の4日の急落が補助額にどこまで反映されるかが分かる。
- 11月中旬:INPEXの7〜9月期決算。例年この時期で、2025年は11月13日だった。油価前提の見直しと、通期予想の修正の有無が焦点になる。
- 12月第1週:補助金の縮小が始まり、基準価格が2円上がる。
- 随時:ホルムズ海峡のタンカー被害の続報と、米国とイランの協議の行方。
主な参照
- 石油製品価格調査と補助額(11月5日公表)/資源エネルギー庁 燃料油価格定額引下げ措置
- 店頭価格の推移(PDF)/資源エネルギー庁
- INPEX 2026年12月期 第2四半期決算短信(8月7日)/INPEX
- 11月4日の原油先物の終値とバンス副大統領の投稿/CNBC
- タンカー火災に関するイラン革命防衛隊の主張(ロイター配信)/Business Recorder
- 8月31日以来の安値と各社の見方(ロイター配信)/Finwire
- INPEX・ENEOS・出光の株価/Yahoo!ファイナンス
- 補助金縮小の日程(10月29日発表)/石油業界紙(netdenjd.com)
データ基準日:2026年11月5日。INPEX・ENEOS・出光の株価は東証の終値(15時30分)。原油先物の88.12ドル・94.62ドルは11月4日の清算値、96.63ドル・89.31ドルは日本時間5日22時57分の取引時間中の値で終値ではない。ガソリン価格は11月2日時点の調査値。補助金縮小の日程は報道ベースで、資源エネルギー庁のサイトにはまだ掲載されていない。タンカー火災はイラン側の主張で、独立した確認はない。INPEXの決算発表日は未確認で、例年の時期を示した。家計換算と配当利回りは本誌の概算、確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












