11月5日午前7時46分(日本時間)、ビットフライヤーの板に表示されたビットコインの最終取引価格は1,279万9,357円だった。0.01BTCなら約12万8,000円。前日の安値から87万円あまり戻した値段で、ドル建てでも8万ドル台を回復している。ところが同じ夜、ニューヨークではビットコインを掘ってきた採掘会社の株が軒並み売られ、ハット8は23.23%安、サイファー・マイニングは19.89%安で引けた。
コインが上がり、コインを掘る会社の株が下がる。このねじれの原因は、ビットコインそのものではなくテキサス州の知事選にある。採掘会社の多くはこの数年、電力と土地をAI向けデータセンターの貸し出しに振り向けてきた。その電力の多くがテキサスにあり、テキサスの新しい知事はデータセンターの新規承認を止めると訴えて当選した。本稿は円建ての1コマから出発し、この川上の変化が私たちの手元の値段にどう届くかをたどる。
1,280万円の値段を分解する
円建ての値段は「ドル建てのビットコイン×ドル円」でほぼ説明できる。午前7時46分時点のビットスタンプのビットコインは8万846ドル、ドル円は158円35銭前後で、掛け合わせると約1,280万円になる。ドル円は前日比でほとんど動いておらず、この日の円建ての上げはほぼすべてドル建ての上げから来ている。円安で水増しされた上昇ではない、ということだ。
値幅も大きかった。ビットスタンプでは11月4日(協定世界時の1日)の安値が7万5,618ドル、高値が8万1,105ドルで、差は約5,500ドル、円にして87万円規模になる。安値は民主党が上下両院を制す見通しが伝わった深夜に付けた。コインデスクのライブ記事によると、米東部時間9時51分には7万9,500ドル、10時37分には8万500ドルまで戻しており、8万ドル台への復帰は米国株の取引開始直後だった。
誰が買ったのか。デリバティブ取引の仲介を手がけるパラダイムのデータとして、コインデスクは選挙当日のビットコインオプションの大口取引が想定元本で約6億6,000万ドルと前日の2倍超に膨らみ、コール(買う権利)の買いが約4億2,000万ドル、売りが約1億500万ドルだったと伝えている。パラダイムのニコラ・カトラボー氏は「夜間の動きは結果そのものより、不確実性が消えたことによるものだ」と話した。下げを待っていた買い手が、結果判明を合図に戻ってきた構図である。
なお、民主党議会が暗号資産の市場構造法案(クラリティ法案)に冷たいという論点は前日に整理した。詳しくはビットコイン7.8万ドル回復|民主党議会と規制法案を参照してほしい。本稿が追うのは、法案ではなく電力の話である。
川上をたどる:テキサスの電力とAIデータセンター
川上から手元まで:テキサスの選挙が採掘株に届く道筋
読み方:上から下へ、選挙の結果が電力の許認可を通じて採掘株の値段に届く。ビットコイン本体はこの経路の外にあり、同じ日に上昇した。出所:CoinDesk、investingLive、stockanalysis.com、ビットフライヤー。
テキサス州知事選では、民主党のジーナ・イノホサ氏が共和党現職のグレッグ・アボット氏を破った。コインデスクによると、イノホサ氏は電気代と水道代の上昇から住民を守るルールができるまで、新しいデータセンターの承認を一時停止すると訴えていた。米国の金融ニュースサイト、インベスティングライブも、テキサス州とオハイオ州の新しい民主党知事がデータセンターに反対する立場で選挙を戦ったと伝え、全米の地方の住民投票でもデータセンター規制案が相次いで可決されたと集計している。
ここで採掘会社がつながる。ビットコインの採掘は大量の電力を使うため、各社は安い電力と送電網への接続権を確保してきた。その接続権は、AI向けの計算設備を置きたい企業にとっても喉から手が出るほど欲しいものだ。そこでアイレン、サイファー、コア・サイエンティフィックなどは、採掘場の一部をAIデータセンターとして貸し出す事業に軸足を移してきた。株価はビットコインの値段よりも、この「AI向けの貸し出し」の将来像で評価されるようになっていた。
ゴールドマン・サックスは、データセンター規制を強めそうな州が米国の計画容量の約45%を占め、テキサスはそのおよそ4分の1にあたると試算している。全米の約1割がテキサスにある計算だ。一方、バーンスタインのゴータム・チュガニ氏によれば、同社がカバーする「元採掘会社のAI開発業者」が保有・計画する電力容量の半分超がテキサスにある。全米で見れば1割でも、この業種にとっては過半なのだ。
目標株価は最大54%の引き下げ
バーンスタインは11月4日、採掘会社7社の目標株価を一斉に下げた。AI向けの貸し出し事業の評価倍率を、2030年の予想利益を基準にした12倍へ見直したことが理由だという。引き下げ幅は35〜54%に及ぶ。それでも新しい目標株価は、4日の終値をなお大きく上回っている。下の表がその距離である。
| 銘柄 | 旧目標 | 新目標 | 引き下げ率 | 11月4日終値 | 終値から新目標まで |
|---|---|---|---|---|---|
| サイファー・マイニング(CIFR) | 23ドル | 15ドル | −34.8% | 6.505ドル | +130.6% |
| アイレン(IREN) | 100ドル | 55ドル | −45.0% | 21.715ドル | +153.3% |
| テラウルフ(WULF) | 36ドル | 20ドル | −44.4% | 11.69ドル | +71.1% |
| コア・サイエンティフィック(CORZ) | 32ドル | 19ドル | −40.6% | 12.75ドル | +49.0% |
| ライオット・プラットフォームズ(RIOT) | 35ドル | 18ドル | −48.6% | 15.39ドル | +17.0% |
| MARAホールディングス(MARA) | 17ドル | 10ドル | −41.2% | 6.875ドル | +45.5% |
| クリーンスパーク(CLSK) | 24ドル | 11ドル | −54.2% | 6.805ドル | +61.6% |
読み方として大事なのは、引き下げても「上値余地あり」の数字が並ぶ点である。証券会社の目標株価は、株価が先に崩れた後で追いかけて下がることが多い。この表は割安の証明ではなく、評価の土台そのものが揺れていることの記録と受け取るほうが安全だ。
同じ「ビットコイン関連」で明暗が分かれた
11月4日の騰落率:ビットコインと関連銘柄
読み方:ビットコインを「持つ」銘柄は上がり、電力をAI向けに「貸す」ことに賭けた採掘会社は下がった。米国株は11月4日の終値ベース、ビットコインはビットフライヤーの11月4日(UTC)の前日比で、計測時間帯は一致しない。出所:stockanalysis.com、TradingView。
図の通り、ビットコインを保有する企業やETFは上がり、AI向け貸し出しに賭けた採掘会社は下がった。ストラテジー(MSTR)は5.02%高、ブラックロックの現物ETF(IBIT)は2.86%高。値動きはほぼビットコインに連動している。反対にハット8、サイファー、クリーンスパークは2ケタの下落だった。
例外がライオットの9.77%高だ。モルガン・スタンレーのスティーブン・バード氏らは、ライオットを「判断が難しい」銘柄としつつ、コーシカナとロックデールで既に持つ送電網への接続は価値が上がりうると指摘している。新規の承認が止まるなら、すでに手にしている接続権は希少になるという理屈だ。同じ証券会社は、テキサスへの依存が小さいテラウルフや、ルイジアナへの計画移転で恩恵を受けうるハット8を相対的に有利とみていた。それでもハット8がこの日最大の下げになった事実は、市場がまだ銘柄ごとの差を測りかねていることを示している。
10万円で持っていたら:家計への換算表
私たちの手元に引き直してみる。前日の終値で各10万円分を持っていた場合の、1日の増減である。米国株は為替の変動を除いたドル建ての騰落率で計算した。この日のドル円はほぼ横ばいで、円換算への影響は小さい。
| 保有していたもの | 1日の騰落率 | 10万円あたりの増減 | 何に連動したか |
|---|---|---|---|
| ビットコイン現物(円建て) | +4.49% | +4,490円 | ビットコイン価格 |
| ストラテジー株 | +5.02% | +5,020円 | 保有ビットコインの価値 |
| ビットコイン現物ETF(IBIT) | +2.86% | +2,860円 | ビットコイン価格 |
| ライオット株 | +9.77% | +9,770円 | 既存の送電網接続の希少性 |
| アイレン株 | −11.22% | −1万1,220円 | AI向け貸し出しの将来像 |
| サイファー株 | −19.89% | −1万9,890円 | 同上(テキサス案件の比重大) |
| ハット8株 | −23.23% | −2万3,230円 | 同上 |
ビットコインが上がった日に、「ビットコイン関連株」を10万円持っていた人は最大で2万3,000円を失った。採掘株はもはやビットコインの代わりではない。電力と許認可に賭ける別の資産だと考えたほうが、損益の振れを読み違えずに済む。
ビットコインの見通し:8.2万ドルの壁と3つの筋書き
ビットコイン本体に戻る。8万ドルを回復したとはいえ、50日移動平均はまだ上にある。ビットスタンプの日足で約8万2,000ドル、コインゲッコーの日次データから編集部が計算した値でも約8万1,900ドルだ。10月下旬にも8.2万ドルの壁に押し返された経緯がある。下は200日移動平均の約7万3,200ドルが長期の支えになる。円建てではビットフライヤーの50日線が約1,294万円、200日線が約1,163万円である。
| 筋書き | 編集部の確率 | 条件 | 次の目安 |
|---|---|---|---|
| A:上抜け | 35% | 日足終値で8万2,000ドル(50日線)を上回る | 10月上旬の水準の8万6,000ドル台 |
| B:もみ合い | 45% | 7万5,600〜8万2,000ドルの範囲で推移 | 8万ドルの攻防が続く |
| C:反落 | 20% | 選挙夜の安値7万5,618ドルを割り込む | 200日線の7万3,200ドル前後 |
Bを最も高くみる理由は二つある。一つは、反発の燃料が「不確実性が消えた安心」であり、新しい買い材料ではないこと。もう一つは、民主党議会のもとで暗号資産の法整備が遅れるとの見方が残ることだ。Aへの道は、ドル安と米金利の低下が続き、オプション市場で積み上がったコールの買いが現物の買いに波及するケースである。本稿の見方を撤回する線は、日足終値で7万5,618ドルを割り込んだ場合とする。その場合、選挙をめぐる反発は一夜の買い戻しにすぎなかったことになる。
生活防衛と投資の接点
日本の個人投資家がとりうる現実的な選択肢を並べておく。推奨ではなく、判断の材料である。
- 現物と採掘株を分けて数える。国内取引所のビットコインと米国の採掘株を同じ「暗号資産枠」に入れていると、この日のように逆に動いた時にリスクを見誤る。
- 採掘株は「電力株」として見る。テキサス依存の大きさ、既存の送電網接続の有無、AI向け契約の相手先が、ビットコイン価格より株価を左右する局面に入った。
- 円建ての値段はドル円も含む。今回はドル円が横ばいだったが、円高に振れればドル建てで上がっても円建ての利益は削られる。
- 撤退線を先に決める。上の筋書きでいえば7万5,618ドル(円建てで約1,193万円)がひとつの目安になる。
データセンターをめぐる選挙の影響はAI半導体株にも及んでいる。株式側の整理は米中間選挙、民主党が両院奪還|AI株売りは本物かにまとめた。
次に値段へ届く変化
テキサス州議会の第90回通常会期は2027年1月12日に始まり、5月31日まで開かれる。データセンター承認の一時停止を法律として定めるかどうかは、ここが主戦場になる。もっとも、バーンスタインのチュガニ氏は「データセンターの停止は続き、関連法案は膠着したままだろう」とみており、決着が長引くこと自体が採掘株の重荷になりうる。ゴールドマンのエコノミストは、テキサス、ジョージア、ミシガンで一時的な停止はあっても長くは続かないと予想している。
モルガン・スタンレーは、サイファーのコルキス計画、ギャラクシー・デジタルのヘリオスII計画、MARAの拡張計画を見直すとしている。各社が次の決算や開示で、テキサス案件の着工時期や契約相手をどう説明するか。ビットコインの値段より先に、そこが採掘株の向きを決める。ビットコイン本体については、8万2,000ドルの日足終値と7万5,618ドルの攻防を、毎朝の円建て価格と合わせて確認したい。
主な参照
- 円建てビットコインの最終取引価格(11月4日22時46分UTC=11月5日7時46分JST)/ビットフライヤー公開API
- ビットコイン・イーサリアムのドル建て価格、日足の高値・安値、50日・200日移動平均、ドル円/TradingView(ビットスタンプ、ビットフライヤー)
- ビットコインの日次価格(移動平均の照合)/CoinGecko
- 選挙夜の値動き、8万ドル回復の時刻、オプション取引(パラダイム)、市場関係者の発言/CoinDesk(ライブ更新、11月4日)
- テキサス州知事選の結果、バーンスタインの目標株価、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスの見方/CoinDesk(11月4日11時08分ET)
- テキサス・オハイオの新知事のデータセンター反対姿勢/investingLive、地方の住民投票の集計/investingLive
- 米国株・ETFの11月4日終値と騰落率/stockanalysis.com
- テキサス州議会第90回通常会期の日程/テキサス州立法参考図書館
データ基準日:ビットコイン・イーサリアムの価格とドル円は2026年11月5日7時46分(日本時間)時点の取引時間中の値であり、終値ではない。米国株とETFの価格・騰落率は2026年11月4日(米東部時間)の終値である。ビットコインの騰落率は協定世界時の1日を基準にしたもので、米国株の取引時間とは一致しない。移動平均は情報源により数十ドルの差がある。テキサス州知事選の結果とイノホサ氏の公約はコインデスクの報道にもとづき、正式な認定前の結果である。目標株価の変更はバーンスタインのリポートをコインデスクが報じたもので、本誌はリポート原本を確認していない。筋書きの確率は編集部の見立てであり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















