ソフトバンクグループ(SBG、9984)の7〜9月期決算は、11月10日火曜の15時30分に出る。なぜこの決算で、あまり話題にならないインテル株の値動きを見ておくべきなのか。答えは、SBGの利益が「保有株の値札の付け替え」で大きく動く仕組みにある。4〜6月期の純利益3,473億円の裏には、インテル株だけで1兆3,329億円の投資利益があった。そのインテル株が、6月末から11月3日までに6割近く下げている。
SBGの株価は11月4日、141円安(3.20%安)の4,269円で取引を終えた。10月1日の6,701円から36.3%の下落である。本稿では、決算を読むための道具として「棚卸しの値札」という一本の比喩を使う。順に見ていく。
比喩:決算日は「棚卸しの日」である
倉庫を持つ商店を考えてみてほしい。3カ月に一度、店主は棚の在庫を数え、その日の相場で値札を付け替える。仕入れ値が100円の商品でも、相場が150円になれば帳簿上は50円の儲け、70円になれば30円の損になる。商品は一つも売っていない。それでも帳簿の利益は動く。
SBGの決算は、この棚卸しに近い。同社が持つ株式の多くは「純損益を通じて公正価値で測定する金融資産」に分類され、四半期末ごとに時価で値札を付け替える。その差額が投資損益として利益に入る。ここが肝心だ。SBGの四半期利益は、会社が稼いだお金というより、四半期末の値札と前の値札の差である。
ただし、棚の中には値札を付け替えない商品もある。英アームのように連結子会社になっている会社は、株価が上がっても下がっても、その変動は連結損益計算書に計上されない。SBG自身が決算短信でそう注記している。つまり、同じ半導体株でも、インテルの値下がりは利益に響き、アームの値下がりは響かない。この違いを押さえるだけで、決算の見え方はかなり変わる。
用語を3つだけ。①公正価値(FVTPL):保有株を四半期末の時価で評価し、増減をそのまま損益に入れる方式。インテル株やソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の上場投資先が該当する。②連結子会社:アームやソフトバンク(9434)など。株価の変動は損益に入らず、事業の利益が入る。③投資利益:①の値札の付け替えで生じた利益。売却していなくても計上される「評価益」を多く含む。
前回の棚卸し:インテルが1兆3,329億円を稼いだ
8月6日に発表された4〜6月期の決算を振り返る。売上高は2兆196億円で前年同期比10.9%増、親会社の所有者に帰属する純利益は3,473億円で17.7%減だった。投資利益は1兆8,594億円。そのうち持株会社投資事業が1兆3,822億円で、内訳の大半がインテル株の1兆3,329億円である。6月末のインテル株の帳簿価額は1兆9,717億円で、3月末から1兆3,582億円増えていた。
値札の付け替えの大きさは、株価を見れば分かる。インテルの終値は3月31日の44.13ドルから6月30日の139.63ドルへ、3倍強になった。棚卸しの日に、棚の商品の相場が3倍になっていたわけだ。一方、オープンAIへの投資は6月末時点で累計446億ドル、公正価値896億ドルで、評価額は前期末から変わっていない。前回の利益を作ったのは、ほぼインテル1銘柄だったことになる。
今回の棚卸し:値札は下がっている
今回、10日に出る7〜9月期の棚卸しの日は9月30日だ。インテルの終値は6月30日の139.63ドルから9月30日の120.23ドルへ、13.9%下げた。同じ期間にドル円は162.63円から157.56円へ円高になっている。6月末の帳簿価額1兆9,717億円に、株価と為替の変化をそのまま当てはめると、9月末の評価額は約1兆6,448億円。差し引き約3,270億円の評価損が出る計算になる。これは保有株数が変わっていないと仮定した本誌の試算で、実際の数字は保有株数の増減やヘッジの有無で変わる。
SBGが持つインテル株の評価額(億円)
読み方:4〜6月期は値札が3倍強になり1兆3,329億円の投資利益を生んだ。7〜9月期は約3,270億円、10月以降は約8,150億円の評価損が出る計算になる。9月末と11月3日は保有株数を一定とした本誌試算。出所:ソフトバンクグループ決算短信、Yahoo!ファイナンス(インテル終値、ドル円)。
そして、本当に重いのは次の棚卸しだ。インテルは10月29日に10〜12月期の見通しを市場予想より低く示し、30日の株価は29%近く下げて1974年以来の下落率を記録したと報じられた。PC向け半導体の不振が理由とされる。11月3日の終値は60.55ドルで、9月30日から49.6%安い。同じ方法で試算すると、9月末の評価額約1兆6,448億円は11月3日時点で約8,302億円まで縮み、10〜12月期に入ってからの評価損はすでに約8,150億円にのぼる。この分は10日の決算には入らない。だが、会見で質問が集まるのはこちらだろう。
棚の残りの商品はどうか。SVF2が持つPayPayなどの上場投資先は、4〜6月期にも株価の下落で評価を下げていた。オープンAIについては、SBGは10月に予定していた第3トランシェの出資が完了すれば累計出資額が646億ドル、持分が約13%になるとしている。評価額が変わるかどうかは、オープンAIの資金調達の条件しだいだ。オープンAIが資金調達の目標額を100億ドル引き下げたとの報道もあり、ここは前回のように「変動なし」で済むとは限らない。
よくある誤解:「評価損が出たら、SBGのお金が減った」。評価損は値札の付け替えであって、現金が出ていったわけではない。逆に、評価益が出ても現金は入っていない。SBGの財務の安全性を見るなら、純利益よりも、手元流動性や、アーム株を担保にした借入(6月末で3兆2,210億円)の条件のほうが重要だ。ただし、担保に入れた株の値段が下がれば借入余力も縮む。値札の付け替えが現金の話に変わるのは、この経路を通るときである。
前哨戦:今夜のアーム決算
SBGの決算の前に、もう一つの棚が開く。アームは米国時間11月4日の取引終了後に7〜9月期決算を発表し、説明会は太平洋時間14時(日本時間5日7時)から始まる。アームは連結子会社なので、株価の値動きはSBGの利益には入らない。だが、SBGの株価には効く。市場はSBGを、アーム株とオープンAI持分を詰め込んだ箱として値付けしているからだ。
アームの株価は6月30日の354.57ドルから11月3日の202.49ドルへ、42.9%下げている。今夜の決算でこの下げが止まるかどうかは、5日の東京でSBG株がどこから始まるかを左右する。つまり10日の決算は、5日朝と11日朝の2回に分けて株価に織り込まれる、と考えておくのがよい。
過去8回の決算と、翌日の株価
SBGは取引終了後の15時30分に決算を出すため、株価の反応は翌営業日に出る。過去8回の決算について、発表日の終値と翌営業日の終値を比べた。
| 決算発表日 | 発表日の終値 | 翌営業日の終値 | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| 2024年11月12日 | 2,352.2円 | 2,284.2円 | −2.89% |
| 2025年2月12日 | 2,464.0円 | 2,376.0円 | −3.57% |
| 2025年5月13日 | 1,900.0円 | 1,974.0円 | +3.89% |
| 2025年8月7日 | 3,140.0円 | 3,466.2円 | +10.39% |
| 2025年11月11日 | 5,673.8円 | 5,477.5円 | −3.46% |
| 2026年2月12日 | 4,817.0円 | 4,390.0円 | −8.86% |
| 2026年5月13日 | 6,012.0円 | 5,770.0円 | −4.03% |
| 2026年8月6日 | 5,695.0円 | 5,552.0円 | −2.51% |
8回のうち上げたのは2回だけで、残る6回は下げた。値動きの大きさ(絶対値)の中央値は3.73%。決算の翌日に3〜4%動くのは、この銘柄では普通のことだと分かる。
本誌の見立てを確率で示しておく。11月11日(決算翌日)にSBG株が上がる確率を40%、下がる確率を60%とみる。過去の上昇は8回中2回(25%)で、それより上昇側に寄せたのには理由がある。10月1日からすでに36%下げており、インテルの評価損もある程度は値段に入っていると考えられるからだ。それでも下げを本線に置くのは、10〜12月期に入ってからの約8,150億円の評価損と、オープンAIの評価額という二つの不確実性が、会見を通じて改めて意識されやすいためである。値動きの幅は、過去の中央値に近い上下4%前後を想定する。アームの決算が市場予想を大きく上回り、5日朝にSBG株が戻るなら、この確率は五分五分に近づく。
11月11日(決算翌日)のSBG株:本誌の確率見立て(%)
読み方:過去8回の決算翌日は6回が下落。10月以降の36%安で一部は織り込み済みとみて上昇側に寄せた。確率は本誌の主観。
まとめ:値札を見る人、棚を見る人
棚卸しの比喩に戻ろう。10日の決算で発表される純利益は、9月30日の値札の付け替えの結果だ。インテルの値札が下がった分、前回のような大きな利益は出にくい。だが、株価を動かすのは過去の値札ではなく、次の値札の見通しである。覚えて帰ってほしいのは次の3点だ。
- SBGの利益は値札の差。インテルやSVFの上場投資先は時価で付け替えられ、アームの株価は利益に入らない。
- 今回の評価損は約3,270億円、次回はすでに約8,150億円(いずれも本誌試算)。10日の会見では、10〜12月期の数字に質問が集まりやすい。
- 反応は2回に分かれる。今夜のアーム決算が5日朝に、SBG本体の決算が11日朝に織り込まれる。翌日上昇の確率は本誌の見立てで40%。
インテルの急落が東京の半導体株に与えた影響は、4日の寄り付き1時間の記事と中間選挙の記事でも扱った。今週の他の決算の過去の値動きはトヨタ・任天堂の記事とアーム・ソニーの記事にまとめている。
主な参照
- 2027年3月期第1四半期決算短信(純利益、投資利益、インテル株の帳簿価額、オープンAI投資、借入)/ソフトバンクグループ
- 決算発表日(11月10日15時30分)/ソフトバンクグループ IRカレンダー
- アームの決算発表日と説明会の時刻/アーム
- インテルの10〜12月期見通しと株価急落/日本経済新聞、CNBC(2026年10月29〜30日の報道)
- インテル、アーム、SBGの日足終値とドル円/Yahoo!ファイナンス、Yahoo!ファイナンス(日本)
- 11月4日のSBGの終値/株探
データ基準日:SBGは2026年11月4日の東京市場の終値、インテルとアームは11月3日の米国市場の終値、ドル円は各日のYahoo!ファイナンスの日足終値。インテル株の評価損の試算は、6月末の帳簿価額1兆9,717億円に株価とドル円の変化率を掛けた本誌の計算で、保有株数が6月末から変わっていないことを前提とする。SBGがその後に売却やヘッジを行っていれば、実際の数字は異なる。インテルの下落率が1974年以来とする点と、オープンAIの資金調達目標の引き下げは報じられている内容で、本誌は一次資料で確認していない。オープンAIへの第3トランシェ出資の完了は、本稿執筆時点で確認できていない。決算翌日の上昇確率は過去8回の傾向を参考にした本誌の主観で、8回という少ない標本にもとづく。将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













