市場はこう信じている。売られすぎた株は戻り、買われすぎた株は下がる。その物差しとしてよく使われるのが、14日間の値動きから計算する相対力指数(RSI)だ。30を下回れば売られすぎ、70を上回れば買われすぎとされる。11月2日終値で、この物差しの両端にいる大型株が2つある。建設機械のキャタピラー(CAT)はRSI22.7、小売りのウォルマート(WMT)は77.9である。
キャタピラーは10月に23.2%下げ、6月30日の高値1,073.46ドルから42.8%安い613.62ドルにある。ウォルマートは10月に18.85%上げ、1999年12月以来の大きな月間上昇を記録した。通説に従えば、キャタピラーは買い、ウォルマートは利益確定の場面になる。だが、本当か。今日はこの通説を尋問する。
尋問1:RSIの両端は、その後の値動きを当ててきたか
証拠を見よう。本誌は2000年以降の日足終値で、キャタピラーのRSIが25を下回った局面と、ウォルマートのRSIが75を上回った局面を数えた。同じ下げや上げが続く間の重複を避けるため、一度条件を満たしたら40営業日はあけて数えている。
キャタピラーは20回あった。20営業日後に株価が上がっていたのは10回で、ちょうど半分だ。上昇率の中央値は1.5%にとどまる。2009年2月のように20営業日で18%戻した例もあれば、2008年10月のように20.7%さらに下げた例もある。60営業日後で見ても、上がっていたのは20回中10回だった。
ウォルマートは28回あった。20営業日後に下がっていたのは15回で、上がっていたのは13回。騰落率の中央値はマイナス0.5%だ。60営業日後は上昇と下落が14回ずつで並ぶ。買われすぎの後に下がりやすいとは言えない。
RSIが極端な値を付けた後、20営業日後に予想どおり動いた割合
読み方:「売られすぎは戻る」「買われすぎは下がる」が当たった割合は、どちらも5割前後にとどまる。2000年以降の日足終値、RSIは14日ワイルダー方式、重複を避けるため条件成立後40営業日は除外。出所:Yahoo Financeのデータから本誌計算。
この説明には穴がある。RSIの極端な値は、それだけでは次の1カ月の方向を当てていない。2銘柄とも、結果はほぼ硬貨を投げた確率に近い。公平のために言えば、過去の回数は20回と28回と少なく、統計として強い結論を出せる数ではない。それでも、「売られすぎだから買い」と言い切れる根拠は、過去のデータからは出てこない。
尋問2:キャタピラーの下げは、行き過ぎか
次に中身を見る。ロイターによると、キャタピラーが10月29日に発表した7〜9月期決算は、調整後1株利益が7.20ドルで市場予想の7.08ドルを上回った。売上高は17%増の207億ドル、受注残は過去最高の781億ドルだった。数字だけ見れば悪くない。
だが株価は発表当日に9.3%下げた。理由は二つある。一つは、2026年の売上高見通しを「10%台半ばから後半の増収」に据え置いたことだ。アナリストは18%前後を見込んでおり、上方修正を期待していた。もう一つは、受注残の積み上がりが年前半より鈍ったことである。関税による年22億ドルのコスト見通しも据え置かれた。
キャタピラーは2026年、データセンター向けの発電設備で買われてきた。株価が8月以降に2割以上下げていたのは、その需要がいつまで続くかを市場が疑い始めたためだとロイターは伝えている。つまり今の下げは、決算の悪さではなく、AI投資の勢いに対する見方の変化を映している。この見方が変わらない限り、RSIが低いことは反発の理由にならない。株価は50日移動平均の779ドルと200日移動平均の810ドルをともに大きく下回っている。
尋問3:ウォルマートの上げは、過熱か
ウォルマートの10月の18.85%高は、月間では1999年12月の20.0%以来の大きさだ。生活必需品株のETF「XLP」も10月に10.9%上げ、Yahoo Financeでさかのぼれる1998年以降で最大の月間上昇となった。11月2日終値は過去1年の高値圏にある。
この上げは、ウォルマート固有の材料よりも資金の逃げ場として説明できる部分が大きい。ハイテク株のETF「XLK」は逆に、11月2日時点で10月6日の高値から14.3%安い。AI関連株から抜けた資金が、景気に左右されにくい銘柄へ移った。ウォルマートの株価は50日移動平均の110.71ドルを15%上回っており、この離れ方は確かに大きい。
歴史には一つ気になる例がある。前回の大きな月、1999年12月の20.0%高の翌月、2000年1月にウォルマートは20.8%下げた。2000年以降の月次で最大の下げである。当時はITバブルの崩壊直前で、今とは状況が違う。1回の例で結論は出せない。ただ、資金の逃げ場として買われた株は、逃げてきた資金が元の場所へ戻ると同じ速さで売られ得ることは覚えておきたい。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| RSIが30未満なら反発しやすい | 死亡 | キャタピラーは2000年以降、20営業日後の上昇が20回中10回 |
| RSIが70超なら下がりやすい | 死亡 | ウォルマートは20営業日後の下落が28回中15回。中央値−0.5% |
| キャタピラーの決算は悪かった | 死亡 | 1株利益7.20ドルは予想超え。受注残781億ドルは過去最高 |
| キャタピラーの下げはAI需要への疑いが原因 | 生存 | 見通し据え置きと受注残の伸び鈍化に反応。8月以降の下げはデータセンター需要への疑いとロイター |
| ウォルマートは資金の逃げ場として買われた | 生存 | XLPは1998年以降で最大の月間上昇。XLKは10月6日の高値から14%安 |
| ウォルマートは急落が近い | 重傷 | 2000年1月の例はあるが1回のみ。RSIの過去データは方向を示さない |
評決
通説は死んだ。RSIの両端は、少なくともこの2銘柄では、次の1カ月の方向を示してこなかった。本誌の評決は、2銘柄の今後1カ月を決める要因のうち、RSIのような値動きの指標で説明できるのは2割程度で、残る8割は「AI投資への資金が戻るかどうか」という一つの問いで決まるというものだ。
この評決は、2銘柄が逆向きにつながっていることを意味する。AI関連株に資金が戻れば、キャタピラーは戻り、ウォルマートは利益確定に押される。戻らなければ、両方とも今の方向が続きやすい。個別に「売られすぎ」「買われすぎ」を判断するより、ハイテク株の動きを見るほうが答えに近い。ハイテク株の売りがどこまで進んだかは10月31日の米国株の記事で整理した。
日本の投資家にとっての接点はコマツ(6301)だ。キャタピラーと世界の建機市場を分け合う同社の株価は、11月2日終値で6,213円。10月5日の高値7,980円から22.1%下げ、RSIは28.2と売られすぎの水準にある。東京市場は4日に祝日明けで再開する。キャタピラーの値動きが、そのまま持ち込まれやすい。祝日明けの東京の見通しは本日の日経平均先物の記事にまとめた。
再審条件
- キャタピラーが50日移動平均の779ドルを回復したら。下げの流れが変わったことになり、売られすぎからの反発という見方に分が出てくる。
- ハイテク株のETF「XLK」が10月6日の高値から5%以内に戻ったら。資金がAI関連へ戻った合図で、ウォルマートの利益確定が始まりやすい。
- キャタピラーの下げが10月30日の安値を割っても止まらない場合。評決どおり、RSIは底の目安にならなかったことになる。
- ウォルマートの次の決算。上げが逃げ場の買いではなく業績の裏付けを伴うものかどうかを、数字で確かめられる。
主な参照
- キャタピラーの7〜9月期決算と株価の反応/ロイター(ザ・スタンダード掲載、10月29日)
- 同決算の利益と需要の内訳/ロイター(WHTC掲載)
- XLPの月間上昇/トレーディングビュー
- 株価の日足・月足(CAT、WMT、XLP、XLK、コマツ)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年11月2日(米国市場の終値、コマツは東京市場の終値)。11月3日の米国市場の値動きは反映していない。RSIは14日間のワイルダー方式で本誌が計算した。過去の局面の騰落率は配当を含まない株価の変化で、条件を満たした日の終値を起点とする。キャタピラーの決算内容と株価下落の理由はロイターの報道によるもので、本誌は同社の開示資料と直接照合できていない。決算発表当日の下落率9.3%はYahoo Financeの終値から本誌が計算した。評決の比率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














