2018年10月24日、ニューヨーク。米メモリー大手マイクロン・テクノロジー(MU)の株価は35ドル43セントで引けた。5月29日の終値高値62ドル62セントから43.4%安い。ほんの1カ月前、同社は2018年8月期の純利益が141億ドルと過去最高だったと発表していた。最高益と株価の急落が同じ画面に並んでいたのである。8年後のきょう、東京の画面に似た構図が灯っている。
キオクシアホールディングス(285A)は22日の前引け(11時30分)で1万3,060円、前日比450円(3.33%)安だった。6月22日の終値高値3万6,233円(10月1日の1株→3株の分割を調整)から64.0%安い。4〜6月期の純利益は前年同期の46倍だった。本日の注目株はこのキオクシアと、決算を来週に控えたアドバンテスト(6857)の2銘柄である。結論から言えば、キオクシアは指標の上で「売られすぎ」の圏内にある。アドバンテストはまだそこに達していない。
東証の株価は埋め込みでは表示できないため、アドバンテストは米国ADR(ドル建て)を表示。円建て株価と一致しない場合がある。キオクシアには米国ADRがない。
きょうの動き:買い先行のあと、ラムリサーチの時間外安で失速
朝は買いが先行した。株探によると、キオクシアは9時8分に1万3,775円まで上げたが、10時6分には1万2,970円まで下げた。アドバンテストも9時3分に3万4,980円を付けたあと、11時25分に3万3,500円の安値を付け、前引けは840円(2.44%)安の3万3,600円だった。日経平均は前引けで703円81銭安の6万3,917円43銭である。
失速の引き金として日本経済新聞が挙げたのは、米半導体製造装置大手ラムリサーチ(LRCX)の時間外安だ。同社が21日に発表した7〜9月期の売上高は82億2,000万ドルで過去最高、10〜12月期の見通しは86億ドル(上下4億ドル)と、7〜9月期の実績をさらに上回る。それでも株価は通常取引の終値260.81ドルから、米東部時間21日19時35分の時間外で243.25ドル(6.7%安)まで下げた。好決算で売られた理由は確認できていない。ただ、良い数字に買いで応えない地合いであることは、この1本の値動きが示している。東京エレクトロンとの関係はけさの寄り付き1時間の記事で扱ったので、ここでは繰り返さない。
体温計:売られすぎはキオクシアだけ
2銘柄の「体温」を同じ物差しで測る。指標はヤフー・ファイナンスの日足から本誌が計算した。22日の値には前引けの価格を使っている。目安として、14日RSIは30を下回ると売られすぎ、70を上回ると過熱とされる。25日移動平均からの乖離率(25日線乖離率)は、マイナス10%を超える下方乖離を本誌は売られすぎの目安とする。
| 指標(22日前引け) | キオクシア(285A) | アドバンテスト(6857) |
|---|---|---|
| 株価(前日比) | 1万3,060円(−3.33%) | 3万3,600円(−2.44%) |
| 14日RSI | 32.1 | 42.2 |
| 25日線(乖離率) | 1万6,616円(−21.4%) | 3万5,657円(−5.8%) |
| 終値高値からの下落率 | −64.0%(6月22日 3万6,233円) | −19.7%(10月6日 4万1,850円) |
| 予想PER(本誌計算) | 約5倍(上期予想の純利益を単純に2倍) | 約37倍(会社予想の1株利益911.64円) |
| 判定 | 売られすぎ | 調整中(売られすぎの手前) |
キオクシアの時価総額は、分割後の発行済株式数16億4,405万株で単純計算すると、6月22日の約59.6兆円から前引けの約21.5兆円へ、およそ38兆円縮んだ。日経アジアも、時価総額が高値の3分の1になったと報じている。アドバンテストは高値から2割下げたが、RSIは40台にとどまる。下げのきつさがまるで違う。
過去の場面:2018年のマイクロンと、3カ月前のキオクシア
歴史の鏡は2枚ある。1枚目は冒頭のマイクロンだ。2018年10月24日、同社株の14日RSIは20.1、25日線乖離率はマイナス17.5%と、典型的な売られすぎの数字だった。直前期の1株利益11.51ドルで割ると、株価は利益のわずか3.1倍である。最高益で、しかも利益の3倍。数字の上では、割安の証拠に見えた。
2枚目は、キオクシア自身の3カ月前の姿である。7月29日の終値は1万2,793円で、高値からの下落率は64.7%。中国メモリーの台頭が嫌われた7月の急落の終着点だった。きょうの前引け1万3,060円は、この水準の2%上にある。下落率もほぼ同じだ。株価は、3カ月前と同じ場所に戻ってきた。
キオクシアの株価(2026年6月1日〜10月22日、分割調整後、円)
読み方:3カ月前の底(7月29日の終値1万2,793円)からは8月17日までに61%戻したが、10月の下げで同じ水準に戻ってきた。22日は前引け(11時30分)の値で、終値ではない。出所:ヤフー・ファイナンスの日足(10月1日の1株→3株の分割を調整)。
対照表:同じ点と違う点
| 項目 | マイクロン 2018年10月24日 | キオクシア 2026年7月29日 | キオクシア 2026年10月22日前引け |
|---|---|---|---|
| 終値高値からの下落率 | −43.4% | −64.7% | −64.0% |
| 14日RSI | 20.1 | 30.8 | 32.1 |
| 25日線乖離率 | −17.5% | −46.7% | −21.4% |
| 直近の業績 | 8月期の純利益141億ドルで過去最高 | 2日後に4〜6月期を発表、純利益8,422億円(前年同期の46倍) | 上期の純利益予想2兆1,122億円 |
| 会社の買い | — | 2日後に8,000億円の自社株買い枠を発表、8月10日までに使い切った | 取得は終了。新たな枠は未発表 |
| 個人の買い | — | — | 信用買い残 約9,200億円で全銘柄最大と報道 |
| その後 | 10営業日で+15.5%、その後12月24日に29.02ドルの安値。高値回復は2020年11月 | 8月17日までに+61%(2万613円) | ? |
同じ点は明白だ。最高益、低いPER、そして高値から半分以上の下落。違う点は、表の下の3行に集まっている。3カ月前の底には、2日後に決算と8,000億円の自社株買いという「会社の買い」が控えていた。適時開示によれば、キオクシアは8月3日から10日までの6営業日で1,613万3,500株(分割前)を7,999億9,768万円で買い付けた。7月の反発の燃料の一部は、確かにここにあった。今回はその燃料がない。代わりにあるのは、ブルームバーグが報じた約9,200億円の信用買い残だ。信用倍率は38倍と、1カ月前の約18倍から跳ね上がったという。3カ月前に会社が買った場所で、今回は個人が買っている。違いはそこにある。
当時その後に起きたこと
マイクロンのその後を時系列で追う。売られすぎのサインが出た2018年10月24日から10営業日後の11月7日、株価は40ドル93セントと15.5%戻した。「底入れ」と書くには十分な戻りだった。だが12月18日、同社は2018年12月〜19年2月期の売上高見通しを57億〜63億ドルと示した。直前の四半期の79億1,000万ドルから2〜3割減る計算である。株価は12月24日に29ドル02セントまで下げた。10月の「売られすぎ」の日よりさらに18%安い。高値の62ドル62セントを終値で取り戻したのは、2年半後の2020年11月23日だった。
本当の底を決めたのはRSIではなかった。会社自身が減収の見通しを出し、悪い数字が値段に入り切ったときに、底が来た。この順番が要点だ。
終値高値からの下落率:2018年のマイクロンと今回
読み方:マイクロンは売られすぎのサイン(10月24日)から、さらに10ポイント余り深い底(12月24日)があった。キオクシアはすでに当時のマイクロンの底より深く下げている。アドバンテストは7月の決算前より浅い。出所:ヤフー・ファイナンスの日足終値から本誌計算。マイクロンは2018年5月29日、キオクシアは2026年6月22日、アドバンテストは直近120営業日の終値高値が基準。
「今回は違う」論の検証
今回は違う、という論には根拠が2つある。1つ目は業績の向きだ。マイクロンが減収見通しを出した時点で、メモリーの値下がりはすでに数字に出ていた。キオクシアの会社予想はまだ逆を向いている。上期(4〜9月)の売上収益予想4兆1,571億円から4〜6月期の実績1兆7,671億円を引くと、7〜9月期は約2兆3,900億円になる。前の四半期より35%多い。純利益も同様に計算すると約1兆2,700億円になる。2つ目は需給の追い風だ。日本取引所グループはTOPIXでのキオクシアの浮動株比率を、10月と11月の最終営業日の2段階で、現在の0.15から0.5へ引き上げる。マネーポストWEBは、指数連動の買いが2兆円を超えるとの試算を伝えている。
この説明には穴がある。7〜9月期の数字が強いことは、7月末の時点で会社が自ら示していた。市場が知りたいのはその先、10〜12月期の見通しである。マイクロンの底を決めたのも、過去の実績ではなく次の四半期の見通しだった。浮動株比率の引き上げは10月7日に公表済みで、日程も買いの規模も相場には織り込まれている。それでも公表のあと、株価は2割以上下げた。信用買い残を抱えた個人は、指数の買いが入る日を「売り場」と見る可能性もある。構造的に違うのは、業績の向きが今はまだ上だという1点だけである。そしてその1点は、10月30日の決算発表で試される。
もう1枚の鏡:アドバンテストの「決算前の体温」
アドバンテストにも、自分自身の過去がある。決算の前日に株価がどれだけ冷えていたかと、発表翌日の反応を並べると、はっきりした型が見える。過熱で迎えた決算は売られ、冷えて迎えた決算は買われた。
| 決算発表日 | 前日の14日RSI | 前日の25日線乖離率 | 発表翌日の騰落率 |
|---|---|---|---|
| 2025年10月28日 | 65.1 | +8.9% | +22.1%(ストップ高、上場来高値) |
| 2026年4月27日 | 72.3(過熱) | +26.3% | −5.6% |
| 2026年7月29日 | 38.8 | −15.4% | +10.9%(2日間で+29.0%) |
| 2026年10月28日(予定) | 42.2(22日前引け) | −5.8%(同) | ? |
今回の体温は、7月と4月の中間にある。7月の決算で同社は、4〜6月期の売上高が3,675億円(前年同期比39.3%増)、営業利益が1,900億円(53.3%増)だったと発表した。あわせて通期の営業利益予想を8,460億円、純利益予想を6,600億円へ引き上げている。そのときは高値から3割下げてからの発表だった。今回はまだ2割安で、予想PERも約37倍と高い。10月15日には1日で14.96%下げ、日経平均の下げ幅3,318円のうち1,303円を1銘柄で押し下げた(当日の番付)。評価倍率の縮小はまだ途中と見る。決算で求められる上振れの幅は、7月より大きい。
歴史が示す3つの教訓
- 最初の「売られすぎ」は底ではない。マイクロンは10月のサインから15%戻し、そのあと18%下に本当の底があった。RSIが示すのは反発の可能性であって、底の位置ではない。
- 底は会社の見通しが決める。2018年の底は減収見通しの直後に来た。キオクシアなら10〜12月期の見通し、アドバンテストなら受注の数字がそれに当たる。
- 反発の燃料を確かめる。キオクシアの7月の反発には8,000億円の自社株買いがあった。今回の燃料は浮動株比率の引き上げに伴う指数の買いだが、9,200億円と報じられた信用買い残がその受け皿で待っている。
今回固有の監視点:2週間のシナリオ
期間は11月6日までの約2週間とする。両社の決算と、10月30日の浮動株比率の1段階目の引き上げを含む。確率は本誌の見立てである。
キオクシア(285A)
- 反発(40%):21日の高値1万4,145円を終値で超え、25日線1万6,616円をめざす。条件は、10月30日に示す10〜12月期の見通しが7〜9月期を上回ること。
- 底練り(35%):1万2,000円〜1万4,145円で往来する。見通しが横ばいなら、信用買い残の戻り売りが上値を抑える。
- 7月安値割れ(25%):終値で1万2,000円を割る。10〜12月期の見通しが減益なら、2018年12月のマイクロンと同じ型になる。
キオクシアの節目(円)
読み方:終値で1万2,000円を割れば、7月の底も失う。上は21日高値の1万4,145円を終値で超えるかが反発の最初の確認になる。出所:ヤフー・ファイナンスと株探の日足(分割調整後)、25日線は本誌計算。
アドバンテスト(6857)
- 反発(40%):10月28日の決算で通期予想を再び引き上げ、25日線3万5,657円を回復する。
- 往来(35%):3万2,420円〜3万5,657円で推移する。予想の据え置きなら、PER37倍の評価がそのまま残る。
- 続落(25%):19日の安値3万2,420円を終値で割り、9月中旬に付けた3万円前後を試す。
アドバンテストの節目(円)
読み方:19日安値の3万2,420円が当面の下値。決算で25日線の3万5,657円を回復できるかが分かれ目になる。出所:ヤフー・ファイナンスと株探の日足、25日線は本誌計算。
見方を撤回する線は、キオクシアが終値1万2,000円割れ(7月30日の安値1万2,007円を下回る)、アドバンテストが終値3万2,420円割れである。前者を割れば「7月の再現」ではなく「2018年の再現」に移ったと判断する。なお10月16日には25日線乖離率から売られすぎ説を尋問した。きょうの1万3,060円は、そのときの1万3,375円をさらに下回る。昨日の注目株はニデックとサイバートラストだった。
これからの日程(日本時間)
| 日付 | 材料 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 10月28日(水)15時30分 | アドバンテストの7〜9月期決算 | 通期予想の再修正と、テスターの受注 |
| 10月30日(金)大引け | TOPIXでのキオクシアの浮動株比率の1段階目の引き上げ | 指数連動の買いを、信用の売りがどこまで吸収するか |
| 10月30日(金)18時45分 | キオクシアの7〜9月期決算 | 10〜12月期の見通しが7〜9月期を上回るか。反応は11月2日(月) |
歴史は韻を踏むが、同じ詩を繰り返すわけではない。2018年のマイクロンと2026年7月のキオクシアは、同じ「売られすぎ」から正反対の道をたどった。分かれ目は、会社が次の四半期をどう語ったかだった。10月30日の夜、キオクシアがどちらの韻を踏むかが決まる。
主な参照
- 2027年3月期 第1四半期決算短信(売上収益、純利益、上期予想)/キオクシアホールディングス
- 株式分割(1株→3株、分割後の発行済株式数)/キオクシアホールディングス
- 自己株式の取得終了(8月10日)/キオクシアホールディングス
- 決算発表の予定(10月30日18時45分)/キオクシアホールディングス IR
- 2027年3月期 第1四半期決算短信(通期予想)/アドバンテスト(日本取引所グループ)
- IRカレンダー(10月28日15時30分)/アドバンテスト
- 7〜9月期決算と10〜12月期の見通し(10月21日)/ラムリサーチ(米証券取引委員会への提出書類)
- 2018年8月期の決算(9月20日)/マイクロン・テクノロジー
- 2019年8月期第1四半期の決算と第2四半期の見通し(2018年12月18日)/マイクロン・テクノロジー
- 信用買い残約9,200億円、信用倍率38倍/ブルームバーグ(10月18日)
- 時価総額が高値の3分の1に/日経アジア
- 前引けの日経平均とラムリサーチの時間外安/日本経済新聞
- 浮動株比率の引き上げと2兆円超の試算/マネーポストWEB
- 2025年10月29日のストップ高/PayPay証券
- 当日の始値・高値・安値(10月22日前引け)/株探(キオクシア)、株探(アドバンテスト)
- 日足・時間外の株価/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月22日(東京市場の前引け=11時30分)。キオクシアとアドバンテストの22日の株価は前引け値で、終値ではない。RSIと移動平均は前引け値を22日の値として計算しており、大引け後には変わる。ラムリサーチの260.81ドルは21日の通常取引の終値、243.25ドルは米東部時間21日19時35分の時間外取引の値である。マイクロンの株価は2018年当時の終値(分割はない)。キオクシアの時価総額は自己株式を含む発行済株式数による単純計算である。キオクシアの予想PERは上期の会社予想を単純に2倍した本誌の試算で、会社は通期予想を開示していない。信用買い残の金額と信用倍率はブルームバーグの報道によるもので、本誌は日本取引所グループの原データを確認していない。浮動株比率の引き上げに伴う買いの規模は報道された試算である。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















