米国のホテルを1泊300ドルで5泊、合計1,500ドル。22日の朝9時のレートで円に直すと23万7,225円だったが、午後3時には23万5,995円になった。6時間で1,230円安くなった計算である。ドル円が約1カ月続いたもみ合いの下限を割り込み、157円台前半まで円高が進んだためだ。
けさ7時台に公開した本誌のドル円見通しでは、200日移動平均と50日移動平均に挟まれた「幅1円弱の膠着」と書いた。その膠着が、東京市場の昼から午後にかけて下に崩れた。新しいのはこの点である。何が崩したのか、私たちの財布にはどう響くのか、そして次にどこで止まりそうかを順にたどる。
結論を先に:ドル円は50日線(157円68銭)を取引時間中に割り込み、一時157円06銭(日本時間15時35分)まで下げた。今後1カ月の基本シナリオは156円00銭〜158円60銭の下寄りのもみ合いで、確率は45%とみる。けさの見通しより円高側の確率を5ポイント引き上げる。短期の分かれ目は157円ちょうど、本誌の撤退線は日足終値で200日線158円56銭の回復である。
きょうの円高は、家計の何をいくら変えたのか
まず身近な金額に置き換える。ロイターが伝えた東京市場の気配値は、午前9時が158円14〜16銭、午後3時が157円32〜34銭だった。中値で比べると158円15銭から157円33銭へ、82銭の円高である。1ドルあたり82銭は小さく見えるが、ドル建ての支払いがまとまると差は目に見える額になる。
下の表は、ドル建ての支払いを円に直したものである。右の2列は、本誌が想定する今後1カ月のレンジの両端(155円30銭と160円00銭)で計算した。同じ5,000ドルの家族旅行でも、両端の差は2万3,500円になる。
| ドル建ての支払い(例) | 9時(158.15円) | 15時(157.33円) | 6時間の差 | 155.30円なら | 160.00円なら |
|---|---|---|---|---|---|
| 100ドル(海外通販の買い物) | 15,815円 | 15,733円 | −82円 | 15,530円 | 16,000円 |
| 1,500ドル(ホテル1泊300ドル×5泊) | 237,225円 | 235,995円 | −1,230円 | 232,950円 | 240,000円 |
| 5,000ドル(家族の米国旅行) | 790,750円 | 786,650円 | −4,100円 | 776,500円 | 800,000円 |
| 10,000ドル(外貨預金の元本) | 1,581,500円 | 1,573,300円 | −8,200円 | 1,553,000円 | 1,600,000円 |
輸入品の値札がきょう変わるわけではない。企業の仕入れは数週間から数カ月前のレートで決まっていることが多く、店頭に届くのはずっと後になる。それでも、海外旅行の予約や外貨預金、海外の動画配信やソフトの月額払いなど、ドルで払うものは「いつ円に換えるか」で負担が動く。家計にとってのドル円は、遠い市場の数字ではない。
なぜ昼から円が買われたのか
上流をたどる。きっかけは為替そのものではなく、株だった。米テスラが設備投資の見通しを引き下げ、米半導体製造装置大手のラム・リサーチが10〜12月期について控えめな見方を示したことで、株安が広がったと外為どっとコムはまとめている。米国のナスダック100先物は時間外で下げ、アジアの株式市場がそれに続いた。
みんかぶによると、日本時間14時23分の時点で日経平均は1,570円36銭安(2.43%安)、韓国総合株価指数は222.80ポイント安(3.88%安)だった。ウエルスアドバイザーは、日経平均が午後に一時1,700円安まで下げ、相対的に低リスクとされる円に買いが集まったと伝えている。同社は午後2時半すぎからドル円の下げが速まったとしている。
金利も円高の側に動いた。ロイターによると、米10年債利回りは5.1%台から5.08%台へ低下した。株が売られて安全とされる米国債が買われ、日米の金利差がわずかに縮んだ形である。あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「これまで株高・円安がスパイラル的に進んできたため、株が下落したところで円買いが強まったのではないか」とロイターに語った。
もう一つ見逃せないのが、売買の偏りである。外為どっとコムによると、同社の個人投資家の建玉は22日時点で54%が買い(ドル買い・円売り)だった。ドル買いに偏った状態で節目を割ると、損失を限定するための売り注文(ストップロス)が連鎖しやすい。ロイターは、レンジの下限とみられていた157円50銭を割ったところでストップロスを巻き込んだとの声を伝えている。
一方で、新しい材料が出たわけではないという見方も同じ記事にある。来週の日米の会合を控えて様子見の空気が強く、株安という心理の変化が値動きを大きくした面が強い。この点は後で反対の筋書きを考えるときに効いてくる。
ドル円はどこで止まりそうか
ドル円の節目(円)
読み方:青が現在値、橙が本誌が重視する節目、灰色が過去の高値・安値と移動平均。けさまで下値の支えだった50日線を、現在値は下回っている。移動平均と高値・安値はヤフー・ファイナンスの日足(10月21日まで)から本誌が計算した概算。現在値は取引時間中の気配値。
ヤフー・ファイナンスの日足で見ると、10月5日から21日までの値幅は157円45銭〜158円94銭だった。きょうはその下限を割り、一時157円06銭まで下げた。取引時間中の安値としては10月2日(156円99銭)以来の水準である。けさまで下値の支えとみていた50日線157円68銭は、今度は戻りの上値の目安に変わる。
次の節目は157円ちょうどである。諸我氏は約1カ月のレンジの下限にあたるこの水準を挙げ、「割れればもう一段安になりかねない」とロイターに語った。その下は9月30日の安値156円40銭(同日足)、さらに8月3日の安値155円26銭がある。上は50日線、20日線の158円03銭、そして10月の終値が一度も上回れなかった200日線158円56銭が順に控える。
注意したいのは、きょうの値はすべて東京時間の取引中の数字だという点である。ニューヨーク市場の終値で157円を保てば、きょうの下げは「下ひげ」で終わり、レンジの下限が少し広がっただけということになる。判断は日足の終値で行いたい。
円高はクロス円にも広がったのか
広がった。ロイターによると、ユーロ円は午前9時の177円67〜68銭から午後3時には176円99銭〜177円05銭へ下げた。ヤフー・ファイナンスの気配では15時48分に176円59銭で、10月13日の安値176円49銭(日足)が目前にある。外為どっとコムは、個人投資家の間でユーロ円やポンド円の売りの手じまいが進んだと伝えている。
ドルだけでなくユーロに対しても円が買われたことは、きょうの動きが「ドル安」より「円高」だったことを示す。株安で円が買われる、昔ながらのリスク回避の形である。ユーロ円の材料は20日のユーロ円見通しで整理した。
これから何がいつ出るのか
これからの日程(日本時間)
読み方:あすのCPIから日銀会見まで、8日間に円の材料が集中する。出所:総務省の公表予定を伝えたみんかぶ、米連邦準備制度理事会、日本銀行。
最初の山はあすの朝である。総務省が23日8時30分に9月の全国消費者物価指数(CPI)を発表する。みんかぶによると、生鮮食品を除くコア指数の市場予想は前年同月比2.1%で、8月の1.7%から加速し、昨年12月以来の2%超えが見込まれている。中身と家計への影響は全国CPIの予習記事で詳しく扱った。
来週は日米の会合が続く。米連邦公開市場委員会(FOMC)は10月27〜28日で、結果は日本時間29日午前3時に出る。日銀の金融政策決定会合は29〜30日で、30日に結果と展望リポートが公表され、植田総裁の会見がある。みんかぶは18日時点で、短期金利市場が10月の利上げを4%程度、12月までの利上げを約80%織り込んでいると伝えた。10月の据え置きはほぼ前提で、焦点は12月の利上げをどこまで示すかに移っている。
今後1カ月のシナリオ:円高はどこまで進むか
| シナリオ | 確率(本誌) | 想定レンジ | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 基本:下寄りのもみ合い | 45% | 156円00銭〜158円60銭 | 株安は一服。CPIはほぼ予想どおり。日銀は据え置き、12月の利上げは明言しない |
| 円高:156円40銭割れ | 30% | 155円30銭〜156円40銭 | 日米の株安が続く。CPIが2.3%以上。植田総裁が12月の利上げに含みを残す |
| 円安:200日線の回復 | 25% | 158円60銭〜160円00銭 | 株が切り返す。CPIが2.0%以下。FOMCが利上げに前向きな姿勢を示し米金利が上昇 |
円高の確率を上げた理由は二つある。一つは、きょうの下げで約1カ月の値幅の下限を割り、テクニカルの形が崩れたこと。もう一つは、ドル買いに偏った建玉が残っており、もう一段の下げで投げ売りが出やすいことである。
それでも基本シナリオをもみ合いにとどめたのは、反対の材料も強いからだ。米10年債利回りは5%を超え、日本との金利差は大きいままである。きょうの円高に新しい政策の材料はなく、株が戻れば円も売り戻されやすい。円安シナリオに25%を残したのはこのためである。
個人投資家向けチェックリスト:見方を変える分かれ目
| 確認すること | 円高の続きを支持 | 円安への戻りを支持 |
|---|---|---|
| 日足の終値 | 157円00銭を割って終える | 50日線157円68銭の上で終える |
| 日米の株価 | 日経平均とナスダックの下げが続く | 半導体株が切り返す |
| 全国コアCPI(23日8時30分) | 2.3%以上 | 2.0%以下 |
| FOMC(29日3時) | 追加利上げに慎重 | 追加利上げに前向き |
| 日銀会見(30日) | 12月の利上げに含み | 時期をぼかす |
本誌の撤退線は、日足の終値で200日線158円56銭を上回った時点とする。そのときは円高寄りの見方を捨て、円安シナリオに切り替える。外貨預金や海外旅行の両替を考えている人にとっては、一度に全額を換えず、何回かに分けて換える方法がレートの振れを和らげる現実的な選択肢になる。これは売買の推奨ではなく、時期の分散という考え方の紹介である。
FXで取引する人は、CPIやFOMCの発表直後に値が飛びやすく、節目を一時的に抜けてもすぐ戻る「だまし」が多い点に注意したい。会合の週は売値と買値の差(スプレッド)も広がりやすい。レバレッジを抑え、損切りの水準を先に決めておくことが基本になる。21日時点の節目の考え方は前日のドル円見通し、取引の基本は本サイトのFX解説ページにまとめている。
主な参照
- 東京市場の9時・15時の気配値、米金利の低下、ストップロス、諸我氏の発言/ロイター(ヤフーニュース配信)
- テスラとラム・リサーチをきっかけにした株安、個人投資家の建玉/外為どっとコム
- 14時23分の日経平均と韓国総合株価指数/みんかぶ
- 日経平均の一時1,700円安と円買い/ウエルスアドバイザー(ヤフー・ファイナンス)
- 全国CPIの市場予想と利上げの織り込み/みんかぶ
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
- 金融政策決定会合の日程/日本銀行
- ドル円・ユーロ円の日足と取引時間中の値/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月22日(日本時間15時50分ごろ)。ドル円とユーロ円の値はすべて取引時間中の気配値で、終値ではない。9時と15時の値はロイター、157円06銭(15時35分)と176円59銭(15時48分)はヤフー・ファイナンスの5分足による。移動平均(20日158円03銭・50日157円68銭・100日159円43銭・200日158円56銭)と過去の高値・安値は、ヤフー・ファイナンスの日足を基に10月21日の取引までで本誌が計算した概算値で、算出元によって差が出る。家計換算は中値による例示で、手数料を含まない。株安の理由は各社の報道にもとづく整理で、ドル円の下げとの因果を断定するものではない。利上げの織り込みは10月18日時点の報道値である。シナリオの確率と撤退線は本誌の判断であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















