市場はこう信じている——ビットコインの値動きがここまで細ると、次に来るのは大きな波だ。FOMC(米連邦公開市場委員会)と米中間選挙を目前に控え、「嵐の前の静けさ」という言葉があちこちで使われている。今日はこの通説を証言台に立たせ、過去5年の値動きとオプション市場のデータで尋問する。
先に結論の輪郭を示しておく。「静けさの後に大きく動く」という部分は、実際に動いた値幅で測るかぎり生き残る。だが「オプション市場も嵐を予告している」「上に抜ける」という付け足しは、証拠に耐えなかった。値段の節目を整理した今朝の記事ビットコイン8.4万ドル回復、8.77万ドルの壁と違い、本稿が扱うのは「どれだけ動くか」である。
通説の陳述——静けさは嵐を呼ぶ
通説を最も強い形で要約する。ノルウェーの調査会社K33は10月21日付のリポートで、ビットコインの28日間の実現変動率(実際の値動きの大きさ)が1.2%まで下がり、2026年の最低圏に近づいたと指摘した。前週の値幅は8万〜8万4,000ドルにとどまった。同社のベトレ・ルンデ調査責任者は「圧縮の後には拡大が来るのが通例で、変動率は近く高まるとみている」と述べている(米ザ・ブロック報道)。
材料もそろっている。米連邦準備制度理事会(FRB)のFOMCは10月27〜28日に開かれ、結果は日本時間29日未明に出る。11月3日には米中間選挙がある。米国の現物ビットコインETF(上場投資信託)には、米コインデスクによると今週3日間で10億8,000万ドルが流れ込んだ。値動きは細り、資金は戻り、イベントは迫る。嵐を予想する理由としては十分に見える。
本誌の計算でも足元の静けさは本物だ。デリビットの無期限先物の日足(10月21日までの28日間)で計算すると、日次の変動率は1.30%、年率に直すと約25%になる。K33の数字とほぼ一致する。問題は、この静けさが何を予告しているのか、である。
尋問1:過去の「静けさ」の後、実際に何が起きたか
証拠を見よう。本誌はヤフーファイナンスのビットコイン日足終値(2021年10月〜2026年10月)から、30日間の実現変動率を毎日計算した。そのうえで、変動率が年率25%以下に沈んだ局面を拾い、20日以上空いたものを別の局面として数えた。該当は8回ある。それぞれの30日後の値段と、その30日間に終値ベースでどこまで振れたかを並べたのが次の表だ。
| 静けさの始点 | 30日実現変動率(年率) | 始点の終値 | 30日後の騰落率 | 30日間の最大の振れ | ±10%超え |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年7月23日 | 24.6% | 30,085ドル | −13.5% | −13.5% | ○ |
| 2023年9月30日 | 22.0% | 26,968ドル | +27.9% | +28.1% | ○ |
| 2024年6月21日 | 24.8% | 64,096ドル | +6.3% | −12.9% | ○ |
| 2025年8月9日 | 21.0% | 116,500ドル | −3.8% | −7.1% | × |
| 2025年9月21日 | 24.4% | 115,306ドル | −5.9% | +8.2% | × |
| 2026年1月4日 | 24.8% | 91,413ドル | −17.3% | −17.3% | ○ |
| 2026年5月31日 | 24.5% | 73,580ドル | −20.4% | −20.4% | ○ |
| 2026年8月13日 | 22.0% | 63,402ドル | +21.9% | +28.2% | ○ |
8回のうち6回で、30日以内に終値が始点から10%以上離れた。全期間の平均では、30日後に10%超動いていた日の割合は45%にとどまる。静けさの後に限ると66%まで上がる(実現変動率が下位10%の日で計算)。30日後の値動きの中央値も、全期間の8.8%に対し15.9%と大きい。ここまでは通説の勝ちである。
だが、この説明には穴がある。8回のうち、30日後に下がっていたのは5回だった。静けさの後の30日騰落率の中央値はマイナス4.6%で、上がった割合は36%しかない。嵐は来たが、どちらから吹いたかは毎回違った。公平のために言えば、8回という標本は少なく、日々の計算は期間が重なるので独立した証拠ではない。それでも「静けさの後は上に抜ける」と読む根拠は、この表からは出てこない。
尋問2:オプション市場も嵐を予告しているか
次に、オプション市場の見立てを呼ぶ。デリビットが公表するDVOL指数は、今後30日にビットコインがどれだけ動くとオプションの売り手と買い手が見ているかを年率で示す、いわば「予想変動率」だ。日本時間22日15時46分時点で37.05だった。データがそろう2023年10月以降の3年間で、これより低かった日は全体の1割にすぎない。最低は今年9月17日の33.59である。
通説が正しければ、DVOLが低い日の後ほど大きく動いたはずだ。結果は逆だった。DVOLが下位10%(37.1以下)だった日の後、30日で10%超動いた割合は34%で、3年間の全日平均41%を下回る。値動きの中央値も5.9%と、全日の8.1%より小さい。オプション市場が「静か」と値付けしたとき、相場はおおむね静かなままだった。
30日以内に10%超動いた日の割合(%)
読み方:上の2本は実際の値動き(実現変動率)で、下の2本はオプション市場の予想(DVOL)で「静かな日」を選んだ。実際の値動きが細った後は大きく動きやすかったが、オプション市場が静かと見た日の後はむしろ動きが小さかった。「10%超」は30日後の終値が起点から10%以上離れた割合。出所:ヤフーファイナンスの日足終値(2021年11月〜2026年10月)、デリビットのDVOL日足(2023年10月〜)から本誌計算。
この矛盾をどう読むか。実際の値動きが細っても、オプションの値段は簡単には下がらない。プロは嵐の前に保険を買っておくからだ。予想変動率までが3年で下位1割に沈んでいるということは、プロの側も目先の大波をそれほど警戒していないことを意味する。現在のDVOL37.05を30日分に直すと、上下約10.6%が「1標準偏差」の幅になる。15時46分のデリビット指数8万2,421.81ドルを起点にすると、およそ7万3,700〜9万1,200ドルだ。この幅を抜ければ、オプション市場にとっても想定外の嵐ということになる。
尋問3:ETFへの資金流入は上放れの証拠か
強気派の最後の証人は資金の流れである。コインデスクは、米国の現物ビットコインETFに今週3日間で10億8,000万ドルが流入したと伝えた(集計はソーソーバリュー)。だが同じ記事は、2024年1月以降の急騰局面では1日平均2億ドル超の流入が続いていたのに対し、7月1日以降の平均は1日約8,600万ドルにとどまると指摘している。3日間の流入は「改善」ではあっても、過去の急騰を支えた流入の速さにはまだ届かない。
オプションの建玉(未決済の契約)も、強気一色ではない。本誌がデリビットの公開データで集計すると、10月30日に期日を迎えるオプションの建玉は13万6,650BTC、想定元本で約112億6,000万ドルと、全期日で最大だ。コール(買う権利)8万7,341BTCに対しプット(売る権利)4万9,309BTCで、比率は0.56とコールが多い。最大の建玉は行使価格9万5,000ドルのコールの約2万BTCにある。ただし買い手が多いのか売り手が多いのかは建玉だけでは分からない。上値のコールを売って利回りを稼ぐ動きなら、9万5,000ドルはむしろ上値を抑える壁になる。
付け加えると、K33は10月28日のFOMCで金利が据え置かれる確率を80%と見積もっている。結果が予想どおりなら、イベントそのものが嵐を起こす力は限られる。嵐の火種になるのは、予想外の利上げか、声明や会見での思わぬ言及だろう。日本の投資家にとっては、発表が日本時間29日午前3時という点も覚えておきたい。翌朝の東京時間には、値動きがすでに終わっている可能性がある。
生き残った主張と死んだ主張
| 通説の主張 | 証拠 | 判定 |
|---|---|---|
| 実際の値動きが細った後は大きく動く | 8回中6回で30日以内に±10%超。10%超動く割合は全期間45%に対し66% | 生存 |
| オプション市場も嵐を予告している | DVOLは3年で下位1割。DVOLが低い日の後に10%超動いた割合は34%で、全日平均41%より低い | 死亡 |
| 静けさの後は上に抜ける | 8回中5回は30日後に下落。中央値はマイナス4.6% | 死亡 |
| ETF流入が上昇を後押しする | 3日で10.8億ドルは改善だが、急騰期の1日2億ドル超には届かない | 保留 |
| FOMCと選挙が引き金になる | 据え置き確率80%(K33)。日程は確かだが、引き金になるかは結果しだい | 保留 |
評決——値幅は「大」に65%、方向は五分
評決を出す。本誌は、11月21日ごろまでの30日間でビットコインの終値が足元から10%以上離れる場面がある、という見方に65%傾く。過去の実績66%から、標本の少なさを割り引いた数字だ。値段にすると、8万2,400ドル前後を起点に下は7万4,200ドル、上は9万700ドルあたりが10%の線になる。円に直すと、22日15時42分のドル円157円19銭で1BTC約1,296万円、その10%は約130万円にあたる。
ビットコインの節目(ドル)
読み方:オレンジは本誌がDVOL37.05から計算した30日の「1標準偏差」の幅(上下約10.6%)。灰色はオプション建玉と前週の値幅の節目。出所:デリビット公開API(2026年10月22日15時46分取得)、K33リポート(ザ・ブロック報道)、本誌計算。取引時間中の値で終値ではない。
方向については評決を五分とする。過去8回は下げが5回と多いが、偏りを主張できるほどの数ではない。言えるのは、「静けさ=上昇の準備期間」という読みは証拠に支えられていない、ということだ。オプション市場は今のところ嵐を値付けしておらず、どちらに抜けても売り手の想定を超える動きになりやすい。個人投資家にとっての実務的な意味は、方向を当てることより、どちらに10%動いても困らない持ち高にしておくことにある。
関連して、下落を一定幅で止める仕組みのETFについてはブラックロックが申請した新型ビットコインETFの記事で、長期の期待リターンについてはJPモルガンの年10%予想を尋問した記事で扱っている。
再審条件——評決を覆すデータ
- DVOLが45を超える:FOMC前にオプション市場が嵐を値付けし始めた合図になる。2026年のDVOLの中央値は40.16で、45超えは静けさの終わりを意味する。値幅「大」の評決は70%台に引き上げる。
- ETF流入が1日2億ドル超で1週間続く:コインデスクが示した急騰期の流入ペースに届けば、方向の評決を上向きに改める。
- 8万ドルを終値で割り込む:K33が示した前週の値幅の下限であり、下向きの嵐が始まった最初の証拠になる。
- 10月30日のオプション期日を過ぎても値幅が8万〜8万4,000ドルに収まる:静けさが期日を越えて続くなら、評決の65%は55%に引き下げる。
日程を確認しておく。10月28日(日本時間29日午前3時)にFOMCの結果、10月30日(日本時間同日17時)にデリビットの月末オプション期日、11月3日に米中間選挙がある。静けさの真偽は、この12日間で判定が下る。
主な参照
- K33の28日実現変動率1.2%、前週の値幅、据え置き確率80%、ルンデ氏の発言(2026年10月21日)/The Block
- 現物ビットコインETFの3日間の流入10.8億ドル、急騰期の1日2億ドル超と7月以降の約8,600万ドル(2026年10月22日)/CoinDesk
- FOMCの2026年の日程(10月27〜28日)/米連邦準備制度理事会
- DVOL指数の日足、BTC無期限先物の日足、オプション建玉、デリビット指数(公開API、2026年10月22日15時46分取得)/Deribit
- ビットコイン(BTC-USD)の日足終値、ドル円(2026年10月22日15時42分)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月22日。DVOL(37.05)とデリビット指数(8万2,421.81ドル)、オプション建玉は日本時間15時46分時点、ドル円(157円19銭)は15時42分時点の取引時間中の値で、終値ではない。過去の局面の分析はヤフーファイナンスの日足終値(協定世界時ベース)、足元の28日実現変動率はデリビットの無期限先物の日足終値(10月21日まで)を使った本誌の計算で、データ元によって数値に差が出る。30日後の騰落率は日々の計算期間が重なっており、統計的に独立した標本ではない。DVOLのデータは2023年10月以降の3年分である。建玉の想定元本は15時46分のデリビット指数で本誌が換算した。ETFの流入額はコインデスクの報道(ソーソーバリュー集計)にもとづく。評決の確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、暗号資産の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















