10月13日火曜、米国の半導体業界の展示会「セミコン・ウエスト」。アプライド・マテリアルズの投資家向け説明会は、会場が待っていた数字を出さないまま終わった。半導体製造装置の世界最大手は、全体の売上高見通しも、装置市場がどれだけ伸びるかの見積もりも示さなかった。その日、同社株は6.69%安の464.24ドルで引けた。
だが、この日の本当の主役は別の会社だった。エッチング(回路を削る工程)装置の大手、ラムリサーチ(LRCX)である。同社株は10月5日から下げ始め、16日金曜には4.87%安の263.94ドルで引けた。10営業日続けての下落は、本誌がヤフー・ファイナンスの1984年以降の日足で確かめた限り、上場来最長だ。そしてこの会社は、21日水曜の引け後に決算を発表する。
頂上の6月:433ドルの景色
時計を4カ月巻き戻す。6月30日、ラムリサーチの株価は終値で433.33ドルを付けた。過去最高値である。2025年末の171.18ドルから半年で2.5倍。AI向け半導体の工場建設が続き、記憶媒体メーカーも投資を積み増す。装置を売る側にとって、これ以上ない追い風だった。
7月29日、同社は4〜6月期の決算を発表した。売上高は67.2億ドル、1株利益(調整後)は1.82ドル。続く7〜9月期について、会社は売上高を81億ドル(上下4億ドル)、1株利益を2.15ドル(上下0.15ドル)と見通した。数字だけ見れば強気の見通しだった。それでも株価はこの日、終値で252.35ドルまで沈んだ。高値から4割以上の下げである。市場は早くも「装置の需要はいつまで続くのか」と問い始めていた。
8月以降、株価は持ち直した。10月2日の終値は347.49ドル。モルガン・スタンレーは10月5日に目標株価を367ドルから385ドルに引き上げ、装置市場の拡大が続くとの見方を示した。強気派の声は、まだ大きかった。
10日間の転落
ラムリサーチ:頂上から10日続落まで
読み方:最高値から3カ月半。連敗の引き金は自社の業績ではなく、同業最大手が「来年」を語らなかったことだった。出所:同社発表、ヤフー・ファイナンスの日足(本誌計算)、グルフォーカス。
そのモルガン・スタンレーの引き上げと同じ5日、連敗が始まった。最初の数日は小幅だった。345.80ドル、333.89ドル、329.51ドル。流れが変わったのは、冒頭の13日である。アプライドが数字を出さなかったことで、装置株全体に「来年の需要は見えていないのではないか」という疑いが広がった。24/7ウォールストリートは、この日の装置株の下げを「大きな1年の利益確定」と書いた。ラムとKLAも4%前後下げた。
その翌日、米国の9月の消費者物価指数が予想を上回った。前年同月比3.7%上昇。金利の上昇圧力は、株価の割高さを測る物差しを厳しくする。さらに15日から16日にかけて、AI向けクラウドのコアウィーブの社債が売られ、「AIの借金」への不安が半導体株全体を覆った。中国のメモリー大手CXMTがサーバー向けメモリーの投入計画を示したことも、記憶媒体の投資が鈍るとの連想を呼んだ。この週の売りの全体像は米国株の週間番付にまとめた。
14日に286.92ドル。15日に277.46ドルと200日移動平均を割り込んだ。そして16日、263.94ドル。10月2日から24.0%の下落で、最高値からは39.1%下にいる。それまでの最長連敗は、2015年9月28日まで続いた8日間だった。ベンジンガも同じ記録を伝えている。一方で、年初来ではなお54.2%高だ。上りの坂が急だった分、下りも急になった。
強気派と慎重派
この転落を、アナリストたちはまだ「買い場」と呼んでいる。バーチャートの10月10日の集計では、ラムを担当する33人のうち23人が「強い買い」、4人が「やや買い」、6人が「中立」。平均の目標株価は375.62ドルで、16日の終値を4割以上上回る。ベンジンガの集計でも22人中21人が買いで、平均目標は346ドルだ。同社は過去4四半期、いずれも市場予想を上回る利益を出してきた。
慎重派の論拠は、数字そのものより「見えなさ」にある。アプライドが13日に示したのは、2030年までの売上総利益率約54%、営業利益率40%という長期の目標と、装置市場でのシェアを2025年比で2ポイント超高めるという方針だった。どれも長い時間軸の話で、来年の市場規模には触れなかった。業界最大手が来年を語らなかったという事実が、ラムの株価に重くのしかかった。
同じ頃、東京では東京エレクトロンが同じ重力に引かれていた。ヤフー・ファイナンスの終値で計算すると、16日は1万630円で、9日から14.5%安。7月1日の最高値からは32.6%下にある(10月1日の1株を5株にする株式分割を調整した値で比べた)。ラムと東京エレクトロンは、エッチングや成膜の装置で競い合う間柄だ。ラムの決算は、日本の装置株にとっても今月最初の「答え合わせ」になる。日本株の寄与度への影響は寄与度の解説を参照してほしい。
21日の夜に問われること
決算の発表は21日水曜の米国市場の引け後、電話会議は米太平洋時間14時(日本時間22日6時)に始まる。バーチャートによれば、1株利益の市場予想は2.17ドルで、前年同期の1.26ドルから72.2%増。会社の見通し2.15ドルとほぼ同じ水準にある。売上高は会社見通しの81億ドルが目安になる。
だが市場が本当に聞きたいのは、7〜9月期の数字ではない。10〜12月期の見通しと、2027年の装置市場について経営陣が何を語るかだ。アプライドが語らなかった「来年」を、ラムは語るのか。モルガン・スタンレーが描いた拡大の景色を、会社自身が裏付けるのか。株価は10日間で、その答えを悲観の側に寄せて織り込んできた。
値動きの地図も確認しておく。本誌がヤフー・ファイナンスの日足から計算すると、16日時点の相対力指数(RSI、14日)は30.3で、売られ過ぎの目安とされる30に迫る。16日の終値は20日移動平均から2標準偏差下のボリンジャーバンド下限(272.24ドル)を割り込んだ。下には、7月29日の決算日の終値252.35ドルと、2025年11月の安値から6月の高値までの上げ幅の61.8%押し(251.80ドル)が重なる250ドル台前半がある。上には、割り込んだばかりの200日移動平均の約282ドルがある。決算は、このどちらかへ株価を運ぶ材料になる。
エピローグ:残された問い
上場来最長の連敗は、売り手が出尽くしたサインなのか。それとも、まだ始まりにすぎないのか。21日の夜、同じ時間帯にはメタやテスラ、テキサス・インスツルメンツ、IBMも決算を出す。AIに投資する側と、それを支える装置を売る側の声が、同じ夜にそろう。各社の決算の見どころと翌日の値幅の目安は来週の注目決算の記事にまとめてある。
4カ月前、433ドルの頂上で、来年の需要を疑う声はほとんどなかった。今、その同じ問いが株価を4割押し下げている。答えを出せるのは、会社自身の言葉だけだ。日本時間22日の朝、東京の装置株の寄り付きは、その言葉を最初に聞く場所になる。
主な参照
- ラムリサーチの決算発表日と電話会議(2026年9月30日発表)/フィンビズ(PRニュースワイヤー配信)
- ラムリサーチの4〜6月期決算と7〜9月期の見通し(2026年7月29日)/プラセラ(同社発表の転載)
- 市場予想と目標株価(バーチャート、2026年10月10日)/ヤフー・ファイナンス
- 上場来最長の連敗、アナリストの評価、モルガン・スタンレーの目標株価/ベンジンガ(トレーディングビュー掲載)
- アプライド・マテリアルズの投資家向け説明会(2026年10月13日)/グルフォーカス、装置株の下落/24/7ウォールストリート
- 米9月消費者物価指数(2026年10月14日発表)/米労働統計局
- 東京エレクトロンの株式分割(2026年10月1日効力発生)/日本取引所グループ(適時開示)
- 株価の日足(1984年以降)/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月16日(米東部時間)の終値。株価、移動平均、RSI、ボリンジャーバンド、フィボナッチの押し目、連続下落の日数は、ヤフー・ファイナンスの日足から本誌が計算した。前日と同値の日は連続下落を途切れさせるものとして数えた。東京エレクトロンの値は東京市場の16日の終値で、最高値との比較は10月1日の株式分割(1株を5株)を調整したヤフー・ファイナンスの値による。ベンジンガの集計は15日の終値時点のもので、同社が示した15日の終値はヤフー・ファイナンスの値と異なる。市場予想と目標株価は集計元によって異なる。CXMTの計画とコアウィーブの社債をめぐる動きは報道にもとづく。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













