データセンターの床下や天井裏には、大量の光ファイバーと電線が張り巡らされている。その光ファイバーを作るフジクラ(5803)は8月7日、今期の営業利益見通しを前期の2.3倍にあたる4,320億円へ引き上げた。理由として同社が挙げたのは、当初計画では想定していなかった巨大IT企業からの光部品の大型受注と値上げだった。その「建てる側」の株が、9月14日にそろって売られた。
その下げは、何の値段だったのか
データセンターを「建てる側」の騰落率(9月14日)
読み方:米国の電力・冷却・配電設備株は6〜9%下げた。日本の電線3社は3%前後の下げにとどまった。東京が引けたのは、米国で「売る側」と「使う側」の選別が本格化する前だった点に注意したい。GEヴァーノバには同日、弱気の新規格付けも重なった。
米東部時間12時56分時点で、発電・送電設備のGEヴァーノバは8.70%安、データセンターの電源と冷却を手がけるバーティブは7.66%安、配電機器のイートンは7.34%安、発電会社のコンステレーション・エナジーは6.63%安だった。データセンター内の通信機器を作るアリスタ・ネットワークスも5.40%安。日本では同日の終値で、フジクラが2.97%安、古河電気工業が3.42%安、住友電気工業が3.37%安と、電線株がそろって下げた。
ただし、すべてが同じ理由ではない。GEヴァーノバには同日朝、米調査会社GLJリサーチが「売り」の新規格付けと目標株価470ドルを付けており、寄り付き前の下げはこの格付けを受けたものと報じられている。バーティブも、9月2日に発表した最大26億ドル規模の買収の負担が売り材料に挙げられた。日本の電線株についても、8月19日には古河電工が一時12%を超えて下げており、今回の下げはそれに比べれば小幅だった。
データセンターを1棟建てるのに、半導体だけでは足りない。発電所から電気を引く送電設備、建物の中で電気を振り分ける配電機器、熱を持つサーバーを冷やす冷却装置、サーバー同士をつなぐ通信機器と光ファイバー。今回とりわけ売られたのは、この「半導体以外」の部分をまとめて供給する企業群である。
上流をたどる——なぜ「建てる側」から先に売られたのか
週末、アンソロピックのダリオ・アモデイCEOが、AIの能力向上のペースを調整すべきだとする論考を公開し、オープンAIのサム・アルトマンCEOらが賛同した。D.A.デビッドソンのギル・ルリア氏はFortuneに対し、AIの進歩が鈍れば巨大IT企業は「データセンターの建設をやめ、すでに持っている分を消化すればよい」と述べている。
「建設をやめる」というのが、この読み筋の核心だ。半導体は既存のデータセンターの入れ替えや増強でも売れるが、発電・送電設備や冷却装置は、新しい建物が建たなければ注文が生まれにくい。市場の一部が「建てる側」を半導体以上に売ったのは、この順番を先回りしたからだと本誌はみている。ただしルリア氏自身は「彼らがそう言うまでは、実際には減速していない」と述べており、論考もデータセンター投資の削減は求めていない。アモデイ氏は、ペースの調整は「モデルの学習や技術の進歩を止めることではない」と明言している。9月14日時点で、論考を理由に発注を取り消したという報道は見当たらない。
現場の制約は、論考が出る前からあった。ブルームバーグは9月8日、グーグルと米投資会社ブラックストーンのデータセンター事業で遅れが出ていると報じ、業界の幹部はいまや計画どおりに稼働する確率を5割程度とみている、3年前は9割だった、と伝えた。変圧器の納入を1年近く待つ現場もあるという。オラクルがニューメキシコ州で進める計画でも、電力用のガスパイプラインの稼働が2027年2月にずれ込んだと報じられた(同社は建設は計画どおりとしている)。建てる側の株価は、需要の天井だけでなく、こうした工期の不確実性も抱えてきた。
家計換算表——100万円持っていたら、1日でいくら減ったか
| 銘柄 | 9月14日の騰落率 | 現地通貨ベースの変化 | 円建ての変化(本誌試算) |
|---|---|---|---|
| GEヴァーノバ | −8.70% | −8万7,000円 | 約−8万2,500円 |
| バーティブ | −7.66% | −7万6,600円 | 約−7万2,000円 |
| イートン | −7.34% | −7万3,400円 | 約−6万8,800円 |
| コンステレーション・エナジー | −6.63% | −6万6,300円 | 約−6万1,700円 |
| 古河電気工業 | −3.42% | −3万4,200円 | 同左(円建て) |
| 住友電気工業 | −3.37% | −3万3,700円 | 同左(円建て) |
| フジクラ | −2.97% | −2万9,700円 | 同左(円建て) |
ドル円が0.49%の円安に振れたことが、少しだけ緩衝材になった。米国株の下げは、円建てでは0.5ポイントほど小さく見える。それでもGEヴァーノバを100万円分持っていた人は、1日で8万円余りを失った計算になる。日本の電線株の下げが3%前後にとどまったのは、東京が引けた時点ではまだ、米国で「建てる側」を選んで売る動きが本格化していなかったからでもある。私たちが東京で見た3%は、米国の6〜9%の前触れだった可能性がある。
数字の裏側——フジクラの2.3倍は何に支えられていたか
フジクラの今期見通しを改めて見ておく。8月7日の上方修正で、営業利益は前期比2.3倍の4,320億円、経常利益は同2.3倍の4,530億円となり、純利益は2,290億円から3,260億円へ引き上げられた。前期の2026年3月期は、売上高1兆1,824億円、営業利益1,887億円で、いずれも過去最高だった。
修正の理由として同社が挙げたのは、情報通信事業で当初想定していなかった巨大IT企業からの光部品の大型受注と、売価の上昇だ。同日の決算短信によれば、4〜6月期の情報通信事業の営業利益は979億円と、全社の営業利益1,048億円の93.4%を占めた。1年前は82.7%だった。同事業には通信会社向けのケーブルなども含まれるため、すべてがデータセンター向けではないが、同社はデータセンター向け需要の拡大と、米国以外の新規データセンター案件での光部品の大量受注を伸長の理由に挙げている。つまりこの2.3倍は、データセンターの建設が続くことを前提にした数字である。論考が建設の中止を求めていない以上、今の時点で見通しが崩れたわけではない。ただ、株価はその前提が揺らぐ可能性を先に値付けした。フジクラとデータセンター需要の関係を追ってきた読者には、今日の3%安は、その前提の重さを示す数字に映るはずだ。
投資との接点——「建設が止まる」は、どこで分かるか
本誌は、これらの銘柄を買うべきとも売るべきとも言わない。確かなのは、9月14日の値動きが、データセンター投資の「量」ではなく、それが「続く期間」への市場の自信が揺れたことを示した、という点だけだ。建設はまだ止まっていない。オラクルは6〜8月期だけで約285億ドルを設備投資に投じている。止まるかどうかは、株価より先に次の数字に表れる。
- 米大手ITの設備投資計画 例年10月下旬に始まる7〜9月期決算で、通期の計画が据え置かれるか。建てる側の受注の元栓はここにある。
- 受注残の開示 GEヴァーノバやバーティブの受注残が減るかどうか。注文の数字は、株価より遅れて出るが、株価より正直だ。
- フジクラの次の決算 光部品の受注と売価について、説明に変化があるか。
- 減速協定の中身 主要AI企業が合意を発表した場合、対象が計算資源の購入に及ぶかどうか。
次に値段が動く日
最初の関門は9月16日、日本時間では17日午前3時のFOMCだ。米10年債利回りは14日に一時5%台に乗せた。発電所や送電網のように投資の回収に何十年もかかる事業は、金利にも敏感である。続いてマイクロンの次の決算、例年10月下旬に始まる米大手ITの決算が並ぶ。AI向け設備投資が実需か過熱かという問いに、市場は14日、答えが出る前に値段を付けた。答えが出るのは、その数週間後である。
主な参照
- ギル・ルリア氏の見方と、半導体・巨大IT株の選別/Fortune
- アモデイ氏の論考(2026年9月12日)/Dario Amodei(本人サイト)
- GLJリサーチによるGEヴァーノバの新規格付け/Investing.com
- バーティブの買収発表(2026年9月2日)/バーティブ
- データセンター建設の遅れ/ブルームバーグ(Yahoo Finance掲載)、ブルームバーグ(Energy Connects掲載)
- フジクラ 業績予想の修正(2026年8月7日)/PR TIMES(同社発表)、日本経済新聞
- フジクラ 2027年3月期第1四半期決算短信(セグメント利益)/日経会社情報(適時開示)
- 株価・為替・利回り(2026年9月14日)/CNBC Markets、日本経済新聞(8月19日の電線株)
データ基準日:米国株は2026年9月14日12時56分(米東部時間)、日本株は同日の終値。米国株の値は取引時間中のもので、終値ではない。円建ての換算は概算である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。











