パリのホテルに1泊200ユーロ。11月7日朝の為替で円に直すと、およそ3万5,300円になる。同じ部屋を4月17日に予約していたら、3万7,500円を超えていた。半年で2,000円あまり安くなった計算だ。この差の裏には、ユーロ円が年初来高値から6%下げてきた道のりがある。
11月6日の金曜、ユーロ円はニューヨーク市場で176円56銭で取引を終えた。前日比37銭の円高・ユーロ安である。東京株が約6%下げた日にも、円は大きくは買われなかった。本稿では、私たちの財布から見たユーロ円の位置を確かめ、来週以降の見通しと水準を示す。
財布の中の176円:何がいくらになるか
まず身近な支払いに換算する。下の表は、ユーロ建ての支払いを3つの時点のレートで円に直したものだ。4月17日は欧州中央銀行(ECB)の参照レートで2026年の最高値187円72銭を付けた日、10月23日は同じく年初来安値175円51銭の日である。
| ユーロ建ての支払い | 4月17日(187.72円) | 11月6日(176.56円) | 差額 |
|---|---|---|---|
| パリのホテル1泊 200ユーロ | 37,544円 | 35,312円 | 2,232円安い |
| 欧州旅行の予算 1,500ユーロ | 281,580円 | 264,840円 | 16,740円安い |
| 欧州からのネット通販 80ユーロ | 15,018円 | 14,125円 | 893円安い |
| 留学の仕送り 月1,000ユーロ | 187,720円 | 176,560円 | 月11,160円安い |
旅行や仕送りでユーロを使う家計にとって、この半年は追い風だった。ただし、176円という水準は10月23日の年初来安値175円51銭のすぐ上にある。ここから先も円高が進むのか、それとも跳ね返るのか。その答えを探るには、上流をたどる必要がある。
分解:176円は「ドル円×ユーロドル」でできている
ユーロ円は、ドル円とユーロドルを掛け合わせた値に近い。OANDAによると、6日のニューヨーク市場の終値はドル円が158円48銭(78銭の円安・ドル高)、ユーロドルが1.1141ドル(0.0078ドルのユーロ安)だった。158.48×1.1141を計算すると約176円56銭で、ユーロ円の終値と一致する。
この日、円は対ドルで売られ、ユーロも対ドルで売られた。米10月雇用統計が強く、ドルが全面高になったためだ。2つの動きがほぼ打ち消し合い、ユーロ円は小幅な下げにとどまった。言い換えれば、今のユーロ円を動かしている主役は円でもユーロでもなく、ドルである。ドル円の天井の話はこちらの記事で扱った。
6日のユーロ円ができるまで(NY終値)
読み方:ユーロ円の小幅安は、円の強さではなく、ドル高がユーロをより強く押し下げた結果である。出所:OANDA、本誌計算。
上流をたどる:東京、フランクフルト、財務省
東京から見ていく。6日の日経平均は前日比5.96%安の5万7,434円77銭で終わり、高値から2割下げた弱気相場の水準に入った。新発10年国債の利回りは0.120ポイント低い2.635%まで下がった。株安と金利低下が重なる日は、かつてなら円が買われる場面だった。だがユーロ円の6日の安値は、欧州勢が加わった日本時間16時53分に付けた176円16銭にとどまる。円は「逃げ場の通貨」として、以前ほど頼られていない。
理由の1つは日銀である。日銀は10月30日の会合で政策金利を1.25%に据え置いたと報じられている。日本経済新聞によると、12月の利上げを織り込む確率は10月30日の午後に約80%あったが、株安を受けた6日朝には50%台前半まで下がった。株が崩れると利上げが遠のき、円の金利の魅力も薄れる。この連鎖が、株安でも円が買われにくい構図をつくっている。
フランクフルトに目を移す。欧州連合統計局(ユーロスタット)が4日に公表したユーロ圏の10月の消費者物価上昇率(速報)は前年同月比4.0%で、9月の3.8%から高まった。エネルギーが20.8%上がっている。ECBは10月29日に金利を据え置いたと伝えられ、預金金利は2.50%とされる。物価が4%ある以上、ECBが利下げに動く余地は小さい。ユーロの金利面の支えは残っている。
そして霞が関。財務省の公表では、7月30日から8月26日までの円買い介入は15兆3,993億円と、1回の集計期間として過去最大だった。4月28日から5月27日にも約11兆7,300億円を投じている。片山財務相は11月2日、「無秩序な動きや過度に投機的な動きがあれば行動する」と述べた。11月5〜7日に新たな発言は確認できていない。ドル円が158円台にある今、介入の記憶は円安の上値を抑える天井として働いている。
水準の地図:175円の買い支えと183円の200日線
ユーロ円の水準の地図(11月6日NY終値時点)
読み方:175円台に買い注文と年初来安値が重なり、上には178.30円、さらに75日線・200日線が控える。出所:OANDA(移動平均・注文情報、6日朝)、ECB参照レート、本誌。
OANDAが6日朝に示した日足の移動平均は、20日線が176円77銭、75日線が180円37銭、200日線が183円05銭だった。足元の176円台は20日線とほぼ重なり、長い移動平均線はすべて上にある。中期の流れは、まだユーロ安・円高の側にある。OANDAの注文情報では、175円ちょうどに最も大きな買い注文の塊がある。10月23日の年初来安値175円51銭と合わせて、175円台が下値の目安になる。
見通し:2週間は175〜178円、確率50%
本誌の見立てを示す。今後2週間のユーロ円は、175円00銭〜178円30銭の往来が本線で、確率は50%とみる。上限の178円30銭は4日のECB参照レートの水準で、外為どっとコムの小野直人氏も来週の予想レンジの上限を178円30銭としている。175円を割り込み173円台へ下げる確率は30%、178円30銭を超えて180円台をうかがう確率は20%とする。終値で178円30銭を上回った場合は、この見立てを上向きに切り替える。
| シナリオ | 確率(本誌) | ユーロ円の目安 | 条件 |
|---|---|---|---|
| 往来 | 50% | 175.00〜178.30円 | 米CPIが予想どおりで、ドル全面高が一服する |
| 円高 | 30% | 175円割れ、173円台へ | 株安が続き、ユーロドルの下げが続く。日銀の利上げ観測が戻る |
| ユーロ高 | 20% | 178.30円超、180円台へ | ユーロ圏の物価高でECBの利上げ観測が出る。株が落ち着く |
生活防衛と投資の接点
ユーロでの支払いを控えている家計には、いくつかの現実的な選択肢がある。一度に両替せず、数回に分けて換える方法は、レートの上下をならす効果がある。外貨預金や外貨建ての資産でユーロを持つ人にとっては、175円台が年初来安値の近くにあることを知っておく意味は大きい。どの方法にも手数料と為替の変動リスクがあり、どれが正しいかは使う時期と金額で変わる。本稿は特定の方法を勧めるものではない。
次に店頭のレートへ届く日付
- 11月10日 8時50分:日銀の金融政策決定会合(10月29〜30日)の主な意見。
- 11月10日 22時30分:米10月の消費者物価指数(CPI)。ドルの方向を決める最大の材料。
- 11月13日 19時:ユーロ圏の7〜9月期GDPの改定値。
- 11月16日 8時50分:日本の7〜9月期GDPの1次速報。
- 12月17日:ECBの理事会。12月17〜18日:日銀の金融政策決定会合。
時刻はすべて日本時間。ユーロ円の前回の見通しは11月4日の記事にある。為替取引の基本はFX解説ページにまとめている。
主な参照
- 11月6日のニューヨーク市場の終値と米雇用統計/OANDA(NYマーケットダイジェスト)
- ユーロ円の移動平均と注文情報(11月6日朝)/OANDA
- ユーロ円の6日の安値/みんかぶFX
- ECB参照レート(2026年)/Frankfurter(ECBのデータ)
- 日銀の利上げの織り込み(11月6日)/日本経済新聞
- 新発10年国債利回り(11月6日)/日本経済新聞
- ユーロ圏の10月の消費者物価(速報)/ユーロスタット
- 外国為替平衡操作の実施状況(7月30日〜8月26日)/財務省
- 片山財務相の発言(11月2日)/みんかぶFX
- 来週のユーロ円の予想レンジ/外為どっとコム
- 日銀の会合日程と公表予定/日本銀行
データ基準日:2026年11月6日(米東部時間)のニューヨーク市場の終値。ユーロ円・ドル円・ユーロドルの終値はOANDAの集計で、ECBの参照レート(中欧時間14時15分)とは時点が異なる。2026年の最高値・最安値はECBの参照レートに基づく。日銀の10月の決定内容、ECBの預金金利は報道ベースである。日銀の利上げの織り込み確率は日本経済新聞の報道による。外為どっとコムの予想レンジは同社の見解で、本誌のシナリオとは独立している。家計への換算は本誌計算で、手数料を含まない。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の為替水準を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












