今週の原油番付を発表する。東の横綱は、サウジアラビアの石油施設と空港を狙ったイエメンのフーシ派の攻撃である。西の序二段(下位)に落ちたのは、ホルムズ海峡の通航が保たれているという米軍の説明だ。23日、米国産のWTI原油先物(12月物)は日本時間23日23時00分ごろに102.55ドル(前日比+3.1%)と100ドル台を回復し、北海ブレント原油先物(12月物)は116.14ドル(同+2.6%)まで上げた(いずれも取引時間中の値)。ロイターによれば、ブレントは日本時間22時までに5月4日以来の高値をつけ、その後も上げ幅を広げた。上げ材料と下げ材料を番付に並べ、どの材料がこの先も効くのかを判定する。
番付発表:上げ材料3、下げ材料3
判定は4段階で示す。◎は「来週以降も相場を動かす力が強い」、○は「効いているが持続性に疑問」、△は「効きが限定的」、×は「材料として弱い」である。
| 番付 | 材料 | 方向 | 判定 | 判定の理由 |
|---|---|---|---|---|
| 東・横綱 | フーシ派のサウジ攻撃、アラムコ本社の退避 | 上げ | ◎ | 世界最大の原油輸出国の中枢に戦火が及んだ |
| 東・大関 | 米・イスラエルの対イラン攻撃再開計画の報道 | 上げ | ○ | 11月3日の中間選挙後という「期日」がついた |
| 東・関脇 | イランの「タンカー7隻被害」主張 | 上げ | △ | 独立した確認がなく、米軍は否定 |
| 西・小結 | 米国が国防生産法を再び発動 | 下げ | △ | 効果が出るのは数年単位 |
| 西・前頭 | ロシア産軽油の対米輸出開始 | 下げ | △ | 軽油の需給には効くが原油全体には小さい |
| 西・序二段 | 「ホルムズの通航は95%」とする米軍の説明 | 下げ | × | 先物の買いを止められていない |
東の横綱:サウジの中枢に戦火 ◎
ロイターによると、サウジアラムコは22日、ペルシャ湾岸ダーランの本社に退避を命じた。フーシ派とサウジ主導の連合軍の衝突が激しさを増したためである。同じ週にはサウジ東部ダンマンのキング・ファハド国際空港が攻撃を受け、サウジの民間航空当局によれば2人が死亡した(アルジャジーラ、初報は死者1人)。米国務省は21日、在サウジの大使館・領事館の緊急要員以外の職員と家族に出国を命じた(AP)。
フーシ派はヤンブーのアラムコ施設や首都リヤドの国防省も攻撃したと主張しているが、サウジ当局は確認しておらず、ロイターも検証できていない。本誌はこの主張を番付の材料に含めていない。それでも横綱に置くのは、攻撃の矛先がホルムズ海峡の外側、つまり海峡が閉じても原油を出せるはずのサウジの代替ルートに向き始めたからだ。UBSのジョバンニ・スタウノボ氏は、市場は「エスカレーションの可能性を懸念し続けている」と述べ、不安定な流れと高い運賃で市場は供給不足にあるとみている(ロイター)。勝ち越しは確定である。
東の大関と関脇:期日のついたリスクと、確認できない主張
大関は「中間選挙後」という期日のついたリスクである。米紙ニューヨーク・タイムズは21日、米国とイスラエルが選挙後の対イラン攻撃再開に向けた計画を練っていると報じ、米NPRやABCも独自の情報源で伝えた。政権は公式には認めていない。トランプ大統領は22日、自身のSNSで「イランは米中間選挙の前に原油価格をつり上げようと、あらゆることをしている」と投稿し、イランが「偽の攻撃や機雷」をでっち上げていると非難した(アルジャジーラ)。イラン軍のハタミ司令官は同日、軍が「非対称戦」に備えていると述べた(イランワイヤー)。期日が近づくほど、売り方は動きにくくなる。判定は○とした。
関脇はイラン革命防衛隊(IRGC)の主張である。22日、ホルムズ海峡で一晩にタンカー4隻が攻撃を受けて炎上し、3隻が機雷で航行不能になったと発表した。2月28日の開戦以来、1日で最多の被害になる。ただし独立した確認はなく、船籍も死傷者も明らかでない。米中央軍の報道官は機雷の主張を誤りとし、船舶の95%が通航していると説明した。主張そのものは事実だが、被害は未確認である。この取組の詳細は22日の記事で扱った。判定は△にとどめる。
商品先物の当日騰落率番付(23日23時00分、取引時間中)
読み方:上げたのは原油2指標が上位で、天然ガスと貴金属は下げた。中東の地政学リスクが原油に集中していることが分かる。原油は12月物、ほかは期近物。出所:TradingViewの気配値(最大10分程度の遅れがありうる)。
西の力士たち:下げ材料はなぜ負け越したか
小結は米国の国防生産法である。トランプ大統領は22日、国内の石油生産・精製・物流能力に関する大統領決定に署名した(ホワイトハウス)。同じ名称の決定は4月20日にも出ており、今回は2度目になる。生産やパイプライン、貯蔵への支援に道を開くが、具体的な事業名は示されていない。製油所や油田が増えるのは数年先の話で、今週の先物には効かない。△である。
前頭はロシア産軽油の対米輸出だ。ロイターによれば、トランプ政権とロシアの合意に基づく最初の軽油が、ニューヨークに向かうタンカーに積まれている。高止まりする軽油価格を下げる狙いだが、原油全体の需給を動かす量ではない。ニューヨーク港の軽油先物は+0.5%と、原油ほどには上げていない(日本時間23日23時00分ごろ)。軽油の需給については灯油と軽油の記事に詳しい。
序二段は「ホルムズの通航は95%」という米軍の説明である。数字としては相場を冷やすはずの材料だが、先物は上げ続けた。理由は先物の期間構造に表れている。ブレントの12月物は116.14ドル、1月物は111.39ドルで、期近が期先より4.75ドル高い(日本時間23日23時00分ごろ)。今すぐ手に入る原油ほど高い「逆ざや」が深いのは、市場が目先の供給途絶を最も恐れている証拠だ。通航の説明はこの恐れを解いていない。×である。
殊勲賞・技能賞・敢闘賞
殊勲賞はブレント原油に贈る。ロイターによると23日の日中に115.16ドルをつけて5月4日以来の高値となり、その後116.14ドルまで上げた。週間では4.4%高の見込みで、3週連続の上昇に向かう(日本時間23日22時時点の集計)。本誌がTradingViewの日足から12月物どうしで計算すると、前週末の終値109.86ドルからの上昇率は+5.7%である。3月9日の取引でつけた52週高値119.50ドルまでは、あと3.36ドルだ。
技能賞はWTI原油だ。ロイターは、WTIの週間成績を0.4%安としている。これは11月物(20日に取引終了)から12月物への切り替わりをまたいだ計算で、期近の価格がつながっていないためである。12月物どうしで比べると、前週末の99.02ドルから+3.6%上げており、12月物としては過去52週の高値圏にある。同じ「WTI」でも、どの限月で測るかで週の成績が逆になる。数字を見るときは限月を確かめたい。
敢闘賞は該当なしとする。下げ材料の側で、相場の流れを押し戻した力士がいなかったからだ。同じエネルギーでも、米国の天然ガス先物は−3.6%と逆に下げている(日本時間23日23時00分ごろ)。中東の地政学リスクは原油に集中し、米国内で完結する天然ガスには波及していない。
来場所の注目取組と、本誌の見通し
11月3日の中間選挙までの約10日間、本誌はブレント12月物の値動きを次のように見る。基本は108〜119.50ドルの高値圏でのもみ合い(確率45%)。52週高値119.50ドルを試す展開が35%、108ドルを割り込んで上げ材料がはげ落ちる展開が20%である。上方向の判定を撤回する目安は、ブレント12月物が終値で108ドルを下回ることに置く。20日と21日の終値(108ドル台後半)のやや下で、ここを割れば今週の上げの大半が消えたことになる。
11月3日までのブレント12月物:シナリオ別確率(本誌の判断、%)
読み方:上げ材料の横綱と大関が健在なため、下落シナリオの確率は最も低い。ただし価格には供給途絶のリスク分が上乗せされており、和平報道ひとつで崩れうる。確率は本誌の判断。
| 日付(米東部時間) | 取組 | 見どころ |
|---|---|---|
| 10月28日(水)10時30分 | 米エネルギー情報局(EIA)の週間石油統計 | 原油・軽油在庫の減り方。軽油の逼迫が続くか |
| 11月1日(日) | OPECプラス主要国のオンライン会合 | 12月の生産目標。11月分は10月4日に据え置き |
| 11月3日(火) | 米中間選挙 | 報道された対イラン攻撃再開計画の「期日」 |
| 随時 | サウジ・フーシ派の衝突 | アラムコ施設に生産上の被害が確認されるか |
参考になる外部の見通しもある。ロイターによれば、米ゴールドマン・サックスは20日、ブレントの基本シナリオを年末90ドル、2027年平均80ドルとし、運賃の高騰を上振れリスクに挙げた。現在の価格はこの基本シナリオを大きく上回っている。言い換えれば、今の価格には「供給がさらに途絶える」リスクの上乗せ分が20ドル以上含まれている。この上乗せ分は、和平の報道が一つ出れば短期間で消えうる。番付の横綱は強いが、土俵は狭い。
日本の読者にとっての意味
日本は原油輸入の大半を中東に頼っている。ブレントが115ドルを超える水準が続けば、ガソリンや灯油、電気料金への波及は避けにくい。為替の面では、原油高は日本の貿易赤字を広げ、円の重しになりやすい。ただ今週は、人工知能(AI)関連株の急落を受けた安全資産の買いで円が強含む場面もあった。原油高と円高が同時に進むなら、輸入物価への影響は一部相殺される。円相場の見通しは23日のドル円見通しを参照してほしい。
番付の結論をもう一度まとめる。上げ材料は横綱と大関が健在で、下げ材料は序二段まで負け越した。目先の勝ち越しは原油の買い方にある。ただし、その強さは「戦火が広がる」という一つの筋書きに依存している。選挙をまたぐ来場所は、番付が一夜で入れ替わりうる場所である。
主な参照
- 原油価格、アラムコ本社の退避、UBSの見方、ロシア産軽油(2026年10月23日15時17分=中欧時間)/ロイター(ユーロネクスト掲載)
- IRGCのタンカー被害の主張、トランプ大統領の投稿、米中央軍の説明(10月22日)/アルジャジーラ
- キング・ファハド国際空港への攻撃(10月22日)/アルジャジーラ
- 米外交官の退避命令(10月21日)/AP
- ハタミ司令官の発言(10月22日)/イランワイヤー
- 国防生産法に基づく大統領決定(10月22日)/ホワイトハウス
- ゴールドマン・サックスの見通し(10月20日)/ロイター(BOEレポート掲載)
- EIA週間統計の日程/米エネルギー情報局
- 先物価格(12月物・1月物)と日足/TradingView
データ基準日:2026年10月23日(日本時間23日23時00分)。先物価格は取引時間中の値で、TradingViewの気配値は最大10分程度遅れている可能性がある。週間の騰落率は本誌がTradingViewの日足終値(12月物)から計算したもので、取引所の公式清算値とは小さな差がありうる。米・イスラエルの攻撃再開計画は匿名の情報源にもとづく報道で、政権は認めていない。IRGCのタンカー被害とフーシ派の一部攻撃の主張は、独立した確認が取れていない。シナリオの確率と判定は本誌の判断である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の売買を推奨するものではない。投資判断は各自の責任において行われたい。
















