10月22日の商品市場の番付を発表する。東の横綱は暖房油、1日で3.89%高。西の横綱は北海ブレント原油で、3.60%高の1バレル112ドル74セントまで上げた。そして番付の最下位、西の序二段に落ちたのは銀である。5.82%安の1トロイオンス54ドル58セント。金も2.63%安の4,032ドル28セントと、7月下旬以来の安値圏に沈んだ。原油が勝ち、貴金属が総崩れした一日だった。
この番付が奇妙に見えるのは、教科書どおりなら逆になるはずだからだ。中東で攻撃が続き、原油が上がり、株が売られる。インフレと不安が同時に来る局面は、本来なら金の出番である。それでも金と銀は売られた。しかも米国の長期金利は下がっていた。以下、取組ごとに勝敗と判定理由を付ける。
10月22日の商品番付(前日比、%)
読み方:エネルギー3銘柄はすべて上げ、金属5銘柄はすべて下げた。最も下げたのは銀で、金の2倍以上の下落率だった。出所:トレーディング・エコノミクス(2026年10月22日の米国時間終盤の気配値)。
番付表:10月22日の商品市場
| 番付 | 銘柄 | 価格 | 前日比 | 1カ月 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東の横綱 | 暖房油(米国) | 4.9484ドル/ガロン | +3.89% | +3.60% | ◎ |
| 西の横綱 | 北海ブレント原油 | 112.739ドル/バレル | +3.60% | +9.37% | ◎ |
| 東の大関 | WTI原油 | 98.890ドル/バレル | +1.79% | +7.30% | ○ |
| — | (以下、負け側) | ||||
| 東の幕下 | 金 | 4,032.28ドル/オンス | −2.63% | −5.95% | × |
| 西の幕下 | 銅(COMEX) | 6.3687ドル/ポンド | −2.66% | −4.63% | × |
| 東の三段目 | パラジウム | 1,052ドル/オンス | −3.49% | −17.13% | × |
| 西の三段目 | プラチナ | 1,576.90ドル/オンス | −3.61% | −9.82% | × |
| 西の序二段 | 銀 | 54.585ドル/オンス | −5.82% | −15.29% | × |
表の要点は一つである。エネルギーは揃って勝ち越し、金属は揃って負け越した。同じ「インフレに強い資産」とひとくくりにされがちな二つの仲間が、この日は正反対の土俵に立った。
西の横綱・ブレント原油——◎
ロイターによると、ブレントは5月以来の高値に上げた。きっかけはサウジアラビアへのフーシ派の攻撃である。トランプ米大統領は自身のSNSで「イランは中間選挙の前に原油価格をつり上げようと、あらゆる手を尽くしている」と書いた。緊張がすぐにほどける見込みは乏しい、と市場は受け取った。
東の横綱の暖房油は、この原油高を最も素直に映した一番である。冬を前にした暖房需要の季節でもある。判定は両者とも◎。原油の取組の詳細はこちらの記事にまとめた。
西の序二段・銀——×
5.82%安の54ドル58セント。米キトコは米国時間終盤の現物価格を54ドル44セント、5.90%安と伝えている。米国の銀先物の終値としては、2025年11月以来の安値である。1月29日に付けた最高値121ドル64セントからは55%下にいる。最高値の半分を下回った水準だ。
銀が金の2倍以上下げたのは、銀の性格による。銀は貴金属であると同時に、太陽光パネルや電子部品に使う工業用の金属でもある。株が「AIへの疑念」で売られ、景気の先行きが怪しくなると、工業用の需要を当て込んだ買いが真っ先に外される。上げ相場で主役だった力士は、下げ相場でも先に土俵を割る。判定は×。
東の幕下・金——×(ただし但し書き付き)
金は2.63%安の4,032ドル28セント。キトコの米国時間終盤の現物は4,021ドル20セント、2.88%安だった。ロイターは英国時間の昼の時点で「8月4日以来の安値」と伝えたが、その後も下げ続けた。COMEX金先物の日足では、終値として7月29日以来の安値である。1月29日の最高値5,591ドル61セントからは28%下がった。
但し書きが要るのは、負けた理由が分かりにくいからだ。米10年債利回りはこの日、約1カ月ぶりに5%を割り込んだ。金利が下がれば、利息を生まない金の不利は小さくなる。普通なら金には追い風である。キトコは、金利が下がったにもかかわらず金が売られた理由として、持ち高の偏りの解消と、利上げ観測を挙げた。ロイターは、9月の米消費者物価が3.7%、生産者物価が6.3%と強かったこと、CMEフェドウォッチで12月の利上げ確率が86%に達していることを伝えている。
もう一つの見方は、株安の巻き添えである。英投資情報サイトinvestingLiveのジュゼッペ・デラモッタ氏は、この売りは「株式市場の暴落への恐れとより強く結びついている」と書いた。株で損をした投資家が、換金しやすい資産を売って穴を埋める。金はいつでも売れる資産の代表であり、こうした局面では売られる側に回りやすい。
ここで見落とせない数字がある。世界最大の金ETF(上場投資信託)「SPDRゴールド・シェア」の金保有量は、10月21日時点で1,057.62トンだった。前日から2.56トン減ったが、10月6日の1,059.97トンとほぼ変わらない。ETFの長期保有者は、この下げで逃げ出してはいない。売ったのは先物を使う短期の参加者だったとみるのが自然である。判定は×だが、まわしはまだ締まっている。
最高値からの下落率(2026年1月29日の最高値→10月22日)
読み方:金は最高値から3割近く、銀は半分以上下げた。銀の下げは金のほぼ2倍の深さである。出所:最高値はロイター(金、現物)とMetalCharts(銀)、10月22日の価格はトレーディング・エコノミクス。下落率は本誌の計算。
殊勲賞・ニューモント——金が下げた日に、金で稼いだ
番付の外で、この日いちばん良い相撲を取ったのは金鉱株最大手の米ニューモントである。22日の取引終了後に発表した7〜9月期決算は、調整後の1株利益が2.20ドルだった。米キトコが伝えた市場予想は1.94ドルで、これを上回った。売上高は63億6,300万ドル、フリーキャッシュフローは19億1,200万ドル。前回の決算発表以降、自社株買いを中心に19億ドルを株主に還元している。
効いているのはコストである。金1オンスを掘り出して維持するのにかかる総コスト(AISC)は1,454ドル。金価格が4,000ドルなら、1オンスあたり2,500ドル以上の利ざやが残る。同社は通期のAISCの見通しを1,520ドルへ改善した。金価格が最高値から3割近く下げても、掘る側の採算にはなお大きな余裕がある。この数字は、金価格の下値を考えるときの一つの目安になる。
敢闘賞・円建ての金——為替が下げを和らげなかった
日本の個人投資家にとって、この日の取組はさらに厳しかった。いつもなら、ドル建ての金が下がっても円安がその一部を埋めてくれる。だが22日は、リスク回避の円買いでドル円が157円台前半へ下げた。ドル建ての下げに円高が重なり、円建ての金は二重に押し下げられる形になった。
三菱マテリアルが22日13時30分に公表した金の店頭小売価格は1グラム2万3,023円(前日比214円安)だった。これはニューヨークでの大きな下げの前の値である。23日の価格は、本稿の執筆時点ではまだ公表されていない。円建ての金の動きは10月16日の記事でも追った。敢闘賞を贈るのは、円建ての保有者がこの一日を耐えたことに対してである。
来場所の見立て:金は4,000ドルの土俵際
灰色の結論は出さない。本誌の見立ては、今後2週間の金は3,960〜4,200ドルのもみ合いが本線で、確率は50%とみる。4,000ドルという大台は、キトコやキャピタル・ドットコムのモンテ・サフィエディン氏など、複数の市場関係者が下値の支えとして挙げている。その下には、investingLiveが指摘する7月の安値3,960ドル前後がある。
| シナリオ(今後2週間) | 確率 | 金の想定レンジ | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 本線:土俵際で踏みとどまる | 50% | 3,960〜4,200ドル | 28日のFOMCは据え置き。株安が一服し、売りの一巡で下げ止まる |
| 寄り切られる:7月安値割れ | 30% | 3,850〜3,960ドル | 株安が続き、換金売りが再燃。29日のPCE物価指数が強く、12月利上げ観測が一段と固まる |
| 押し返す:4,200ドル回復 | 20% | 4,200〜4,350ドル | ホルムズ情勢が緩み、原油が反落。FRBが利上げ打ち止めを示唆 |
本線を「踏みとどまる」に置く理由は、ETFの長期保有者が動いていないこと、そして掘る側の採算が4,000ドルでもなお厚いことだ。寄り切られる確率を押し返す確率より高くしたのは、この日の売りが株安と連動していたためである。株が下げ止まらない限り、金だけが先に立ち直るのは難しい。銀は金よりも値動きが大きく、同じシナリオでも振れ幅は倍近くになると見ておきたい。
来場所の注目取組
| 日時(日本時間) | 取組 | 見るところ |
|---|---|---|
| 23日 22:45 | 米10月のPMI速報値 | 景気の強さと物価の手がかり |
| 29日 3:00 | FOMCの結果発表 | 12月の利上げをどこまで示すか |
| 29日 21:30 | 米9月のPCE物価指数、7〜9月期GDP速報値 | 物価の加速が確認されるか |
| 30日 | 日銀の結果発表 | 円建ての金を左右する円相場 |
金がなぜ物価高の局面でも下げることがあるのかはこちらの記事で、銀とプラチナの需給はこちらで詳しく扱った。
主な参照
- 商品価格の一覧(10月22日)/Trading Economics
- 貴金属の米国時間終盤の価格と下落の背景/Kitco
- 金・プラチナ・パラジウムの日中の安値、ブレントの5月以来の高値、利上げ確率/ロイター(Kitco配信)
- COMEX金先物・銀先物の日足(終値の比較)/Yahoo Finance
- 金と銀の最高値(2026年1月29日)/MetalCharts
- 株安と金の売りの関係、テクニカルの節目/investingLive
- 米10年債利回りと金の値動き/BullionVault
- SPDRゴールド・シェアの金保有量/SPDR Gold Shares
- ニューモントの7〜9月期決算/米証券取引委員会への提出書類
- 金の店頭小売価格/三菱マテリアル
データ基準日:2026年10月22日の米国時間終盤(日本時間23日朝に取得)。商品価格は情報ベンダーの気配値で、取引所の清算値(決済価格)ではない。COMEXの清算値は本稿の執筆時点で確認できていない。出所によって時刻と価格がずれるため、本文では主にトレーディング・エコノミクスの値を使い、キトコの値は併記にとどめた。「7月29日以来の安値」はCOMEX金先物の終値による比較である。最高値からの下落率は本誌の計算。円建ての金価格は22日の公表値で、23日分は反映していない。シナリオの確率とレンジ、番付と判定は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















