9月9日水曜、午前10時。カリフォルニア州クパチーノのアップル・パークで、ジョン・ターナスが舞台に立った。最高経営責任者として臨む、初めての基調講演である。前任のティム・クックは会長に退いていた。その舞台でターナスが手にしていたのは、20年近い歴史のなかで初めて二つに折れるiPhoneだった。名前は「iPhone Duo」。
内側の画面は7.6インチ、閉じたときの外側の画面は5.4インチ。フレームにはグレード5のチタンを使い、心臓部には新しいA20 Proチップを載せた。そして顔認証ではなく、側面のボタンに指紋認証のTouch IDを組み込んだ。アップルは発表資料で、開いていても閉じていても同じ方法で認証できるようにするためだと説明している。
巻き戻し——「Ultra」になるはずだった端末
この日に至るまで、折りたたみのiPhoneには別の名前がささやかれていた。夏のあいだ、多くの報道は「iPhone Ultra」と呼んでいた。流れが変わったのはイベントの数日前である。ブルームバーグのマーク・ガーマン記者が、名前は「iPhone Duo」になり、価格はおよそ2,000ドルになると伝えた。
その予告どおりの数字が、壇上で示された。米国での価格は256ギガバイトのモデルで1,999ドルから、2テラバイトでは3,199ドル。日本では256ギガバイトが36万4,800円、2テラバイトが57万4,800円となる。同じ日に発表された通常の最上位モデル、iPhone 18 Proは1,199ドルからだった。折りたたみの一台は、最上位モデルのほぼ1.7倍の値段で売り出されることになる。
ただし、急いで手に入れる方法はない。iPhone 18 Proは9月18日に発売されるが、Duoの予約受付は10月16日の米太平洋時間午前5時、日本時間で同日午後9時からで、店頭に並ぶのは10月23日である。発表から発売まで、6週間の間がある。
iPhone Duoの3日間と、これからの日付
読み方:上から下へ時間が流れる。発表当日に売られたアップル株は翌日に買い戻された。9月10日の東京はTSMCの8月売上高が相場を押し上げた日でもあり、部品株の上げをアップル単独の効果とは切り分けられない。
ニューヨークの沈黙、そして翌日
ターナスが舞台を降りたあと、市場の最初の反応は冷ややかだった。9月9日、アップル株は0.28%安の315ドル34セントで引けた。新製品の発表日に本体が売られるのは、この会社では珍しいことではない。過去最高の6月期決算を7.4%安で迎えたときにも、良い知らせは売りの口実になった。
だが今回は、その沈黙が一日しか続かなかった。翌9月10日、アップル株は3.56%高の326ドル57セントに跳ねた。さらに11日の米国時間午前10時過ぎには332ドル73セントまで上げ、発表当日の終値から5.5%高い水準に達した。当日に売って様子を見た投資家が、2日かけて買い戻していった形である。
同じ頃、東京では
日本時間の9月10日は、発表のあと最初に開いた東京市場だった。ここで最も大きく動いたのは村田製作所である。前日の7,128円から7,525円へ、5.57%高。TDKは1.35%高の2,850円50銭、ソニーグループは0.41%高の3,640円だった。
ただし、この日の東京市場で相場全体を押し上げた材料として報じられたのは、アップルの発表ではない。日本時間14時半ごろに発表された台湾積体電路製造(TSMC)の8月の月次売上高で、前年同月比53.3%増だった。日経平均は午前に一時956円安まで下げたあと、この発表を境に半導体株へ買いが入り、大引け間際にプラスへ転じている。村田製作所の上げがiPhone Duoによるものか、TSMCをきっかけとした半導体・電子部品株への買いによるものかは、この日の値動きからは切り分けられない。
この並びには前段がある。イベントの3日前、本誌はアップル関連とされる日本株を番付にした。格付けの軸は期待の大きさではなく、取引関係が公開情報でどこまで確かめられるかだった。東西の横綱にTDKと村田製作所を置き、ソニーは一社依存の見直し観測を理由に大関に留めた。発表のあと最初の東京市場で、上げ幅の大きさはほぼその順に並んだ。村田製作所が5.57%、TDKが1.35%、ソニーが0.41%である。ただし前述のとおり、この日の相場を動かした主な材料はTSMCの売上高であり、この並びを番付の正しさの証明とみなすことはできない。
ただし物語は、その翌日に向きを変える。9月11日の東京市場は、原油高と日米の長期金利の上昇を嫌って半導体・AI関連が全面安となり、日経平均は1,259円下げた。村田製作所は2.30%安の7,352円、TDKは1.47%安の2,808円50銭と、前日の上げの一部を返した。折りたたみの一台がもたらした追い風は、金利という向かい風の前では一日しか持たなかった。
二つの読み方
強気の側の読み方はこうだ。iPhoneは20年近く、ほぼ同じ一枚板の形を保ってきた。画面を折るという変更は、新しい製品の枠そのものを作る。価格が高くても、それだけ一台に載る部品の価値は上がる。部品を納める側から見れば、台数が大きく伸びなくても単価で稼げる、という計算になる。
慎重な側の読み方もある。1,999ドルは最上位のiPhone 18 Proのほぼ1.7倍で、数量を大きく伸ばす価格帯ではない。発売までには6週間あり、実際にどれだけ売れるかは予約が始まるまで誰にも見えない。9月10日の上げは、まだ確かめようのない将来の数字への期待にすぎない、という見方である。
ソニーグループの控えめな動きは、この二つの読み方のあいだにある。0.41%高という上げ幅は、村田製作所の10分の1にも届かなかった。本誌の番付でソニーを横綱に上げなかった理由は、iPhoneの画像センサーをめぐって一社依存を見直す動きが観測されていたことだった。ただしこの日の値動きには他の材料も大きく働いており、ソニーの控えめな上げをこの観測だけで説明することはできない。
価格が語る、数量ではなく単価の物語
1,999ドルという値札は、この端末の性格をはっきり示している。数量を稼ぐための製品ではない。部品メーカーにとって、Duoは台数の話ではなく、一台あたりに載る部品の多さと単価の話になる。二つの画面、折れ曲がる機構、両面に分かれた基板。部品点数は通常の端末より増える。
だが同時に、発売は10月23日である。部品各社の売上に数字として表れるのは、早くても次の四半期以降になる。9月10日の村田製作所の5.57%高は、アップルとTSMCのどちらをきっかけにしたにせよ、決算の数字ではなく将来の数字への期待に対する反応である。そして期待は、翌日の金利上昇ひとつで、その一部を簡単に手放してしまう種類のものでもある。
エピローグ——次の舞台は10月16日の夜
ターナスにとって、9月9日は就任後の最初の舞台だった。前任者から引き継いだ会社で、彼が最初に選んだのは、画面を折るという20年来で最大の形の変更だった。その評価を決めるのは、壇上の拍手ではなく、6週間後の予約の数である。
その日は近づいている。9月18日にiPhone 18 Proが店頭に並び、10月16日の日本時間午後9時にDuoの予約が始まる。部品を送り出す日本の工場にとっても、その夜の数字は他人事ではない。9月10日の上げには、アップル以外の材料も混ざっていた。部品株にとっての本当の答えは、来月の予約画面の向こう側にある。
主な参照
- iPhone Duoの仕様・色・予約開始日・発売日/Apple Newsroom
- ジョン・ターナスCEOの初の基調講演/CNN、NPR
- 米国と日本の価格、予約時刻/MacRumors、The Mac Observer
- アップルの日次終値/stockanalysis.com
- 日本の部品株の終値(2026年9月9〜11日)/CNBC Markets
データ基準日:2026年9月11日10時6分(米東部時間)。アップルの9月11日の株価は取引時間中の値であり、終値ではない。日本の価格は報道にもとづく。部品各社とアップルの取引関係は各社の公表情報と報道にもとづくもので、取引の有無や規模を保証するものではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













