9月2日の米国市場引け後、日本時間では3日の朝5時ごろ、ブロードコムが決算を出す。エヌビディアが終わった今、AI半導体の需要を測る最後の大型指標である。今場所の番付を先に発表しておく。東の横綱はアドバンテスト、西の横綱はディスコ。序の口に落ちたのはキオクシアだ。順位の理由は、ブロードコムの数字が「その銘柄の問いに直接答えるかどうか」の一点で決めた。
今場所の番付
最初に断っておく。ブロードコムは取引先の一覧を公表していない。以下の順位は「ブロードコム向けに売っているか」ではなく、「ブロードコムの数字がAIアクセラレータ需要の何を明らかにするか」で付けた。日本企業がブロードコムに納入していると断定するものではない。
| 番付 | 銘柄 | 9月1日終値 | 高値比 | 評価 | 判定理由 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東の横綱 | アドバンテスト(6857) | 33,380円 | −13.8% | ◎ | カスタムAI半導体は必ず検査工程を通る。数量の増減がそのまま試験装置の需要に効く。しかも高値からの下げが最も浅く、失望に対して最も脆い |
| 西の横綱 | ディスコ(6146) | 56,590円 | −38.3% | ◎ | 先端実装の切断・研削を担う。アクセラレータの実装量に連動する。すでに4割近く下げており、良い数字への反応余地が大きい |
| 大関 | イビデン(4062) | 20,545円 | −25.2% | ○ | AI向けパッケージ基板。下げ幅がブロードコム本体(−25.2%)とほぼ同じで、市場は同じものとして扱っている |
| 関脇 | 東京エレクトロン(8035) | 54,980円 | −32.3% | △ | 装置需要はTSMCやメモリー各社の設備投資で決まる。ブロードコム1社の受注では動きにくい |
| 前頭 | 村田製作所(6981) | — | — | △ | AIサーバー向け部品の需要には効くが、ブロードコムの決算日に個別で反応する銘柄ではない |
| 序の口 | キオクシア(285A) | 51,000円 | −54.7% | × | ブロードコムはロジックと通信であり、NANDとは土俵が違う。9月1日に2.02%高と独歩高だったのが何よりの証拠 |
52週高値からの下落率——誰がすでに叩かれているか
下げが浅い銘柄ほど、悪い数字が出たときの下値余地が大きい。アドバンテストは8月14日に52週高値を付けたばかりで、この顔ぶれで最も浅い。逆にディスコとキオクシアはすでに4割から5割下げており、良い数字への反発余地が大きい。イビデンとブロードコムの下落率が一致しているのは、市場が両者を同じ籠で売買してきたことを示す。
土俵の状況——ブロードコム自身が負け越している
順位の話に入る前に、当のブロードコムの成績を見ておく。株価は370.34ドル。6月3日に付けた終値高値495ドルから25.2%安い。年初来ではわずか5.0%高にとどまる。
奇妙に見えるはずだ。同社のAI半導体売上は四半期で160億ドル、前年同期比200%超の成長が見込まれている。2026年度通期のAI売上目標は560億ドル、前年比およそ180%増。それでも株価は年初来5%しか上がっていない。
理由は二つある。第一に、粗利率が落ち続けている。今回の非GAAP粗利率の市場予想は74.1%で、前年同期比4.2ポイント、前四半期比3ポイントの低下となる。これで5四半期連続の前四半期比低下だ。カスタム半導体は数量が出るが、従来の通信用半導体より利益率が低い。
この構図はデルの決算で書いた論点とまったく同じである。AI売上は伸びるが、AI売上は利益率の低い売上だ。売上構成比が上がるほど、全社の利益率は薄まる。
第二に、前回の決算で経営陣が2027年度のAI売上目標を引き上げなかった。目標は「1,000億ドル超」に据え置かれた。決算そのものは市場予想を上回ったにもかかわらず、株価は12.6%下げた。数字が良くても、次の期待値を上げなければ売られる。市場はすでにそれを一度やっている。
東の横綱:アドバンテスト(6857)
評価は◎。ただし「良いから買い」ではなく「最も動く」という意味の◎である。
理屈は単純だ。設計がどこであれ、AIアクセラレータは製造後に検査を通る。検査時間は演算器の複雑さと高帯域メモリーの搭載量に応じて延びる。カスタム半導体の出荷数量が増えれば、試験装置の需要は数量と時間の両方で増える。ブロードコムのAI売上160億ドルという数字は、この数量を測る物差しになる。
ここで番付上の注意がある。アドバンテストの高値比は−13.8%で、この一覧のなかで最も浅い。8月14日に52週高値を付けたばかりだ。ディスコは−38.3%、キオクシアは−54.7%まで叩かれている。下げていない銘柄は、悪い数字が出たときに下げる余地が大きい。失望局面での値幅は、この銘柄が最も出る。
西の横綱:ディスコ(6146)
評価は◎。こちらは「反発余地」の◎だ。
カスタムAI半導体は、複数のチップを一つの基板上にまとめる先端実装を前提にしている。切断と研削の工程はここで効く。実装の量が増えれば装置の稼働も増える、という関係は素直である。
そのうえで、株価は6月23日の高値9万1,680円から38.3%下げて5万6,590円。9月1日も2.63%安で、この日の主要銘柄では最も売られた部類だ。すでに悪材料を相当織り込んだ位置にいる。ブロードコムがAI売上を上振れさせ、かつ2027年度目標を引き上げた場合、最も戻り幅が出るのはこの銘柄とみている。
大関から序の口まで
イビデン(4062)は○。高値比−25.2%は、ブロードコム本体の−25.2%と小数点まで一致している。偶然だが、市場が両者を同じ籠に入れて売買してきたことは示している。AI向けパッケージ基板は数量に連動しやすく、決算翌日の値動きは素直に出やすい。
東京エレクトロン(8035)は△。装置需要を決めるのはTSMCやメモリー各社の設備投資であり、ブロードコム1社の受注ではない。9月1日は2.59%安と大きく下げたが、これは金利上昇による高PER株の売りであって、AI需要の評価ではない。決算翌日に指数寄与度の高さから機械的に動く点だけ注意したい。
キオクシア(285A)は×。ブロードコムの土俵はロジックと通信であり、NANDフラッシュとは競技が違う。証拠は9月1日の値動きそのものだ。東エレクが2.59%安、ディスコが2.63%安となった日に、キオクシアは2.02%高と独歩高だった。動く材料が別にある銘柄を、同じ番付で上位に置く理由はない。メモリー株の値動きは別の軸で整理したとおりである。
三賞
殊勲賞:キオクシア(285A)。半導体関連が総じて売られた9月1日に、ひとり2.02%高。番付では序の口に置いたが、それは連動しないという意味であって、弱いという意味ではない。連動しないこと自体が今は価値になる。
敢闘賞:アドバンテスト(6857)。高値比−13.8%は、この顔ぶれで唯一の1桁台に近い。6月から7月にかけて日本のAI関連が総崩れになったなかで、8月14日に高値を更新している。ただし前述のとおり、この健闘は下値余地の裏返しでもある。
技能賞:ブロードコム自身。AI売上を200%伸ばしながら株価を5%しか上げられなかった。これは失敗ではなく、市場が「成長」と「利益の質」を切り分けて値付けするようになった証拠である。同じ物差しが日本の関連銘柄にも当てられる。
来場所の注目取組——水曜夜に見る3つの数字
| 順番 | 見る数字 | 強気に働く | 弱気に働く |
|---|---|---|---|
| 1 | 2027年度のAI売上目標(現行「1,000億ドル超」) | 引き上げ。前回できなかったことをやれば、番付上位に戻り買いが入る | 据え置き。前回はこれで12.6%下げた |
| 2 | 四半期のAI半導体売上(会社計画160億ドル) | 上振れ。数量の証明になり、検査・実装に効く | 未達。カスタム半導体の勢いに疑問符が付く |
| 3 | 非GAAP粗利率(市場予想74.1%) | 74%台を維持。利益率の低下が止まる | 6四半期連続の低下。AI売上は薄利という見方が固まる |
順番が大事だ。1番の目標引き上げが、2番と3番より重い。前回は決算内容が予想を上回ったのに、目標を据え置いただけで12.6%下げた。数字の良し悪しではなく、期待値を更新できるかどうかで判定が決まる場面である。
日本時間の段取りも書いておく。発表は9月3日(木)の朝5時ごろ。東京市場が開くのは同日9時で、反応を織り込む最初の場は木曜の東京になる。前日の火曜引け後にはデルの決算も出ており、AIサーバーとAI半導体の答え合わせが2日続けて並ぶ週だ。
番付が崩れる条件:2027年度のAI売上目標が引き上げられ、かつ粗利率が74%台を維持した場合、この番付は上位から順に買い戻される。逆に目標据え置きで粗利率が73%台へ落ちた場合、下げ余地が最も大きいのは高値比−13.8%のアドバンテストであり、東の横綱がそのまま最大の負け越し銘柄になる。
この記事で分からないこと
- ブロードコムは取引先を公表していない。本記事の番付は取引関係ではなく、AIアクセラレータ需要への連動度で付けた推定である
- 市場予想は集計サイト由来で、提供元により売上・EPSの数値に差がある。会社計画のみが一次情報にあたる
- 前回決算後の12.6%下落は報道による数値であり、下落の要因が目標据え置きのみであったかは確認できない
- 日本の各社の受注に占めるAI関連の比率は、企業により開示の粒度が異なる
主な参照
- 株価・52週高値・時価総額(2026年8月31日および9月1日終値)/CNBC
- ブロードコムの決算予想とAI売上目標/The Motley Fool、Quartr
- 決算日程/ブロードコムIR
- 年初来騰落率の算出/stockanalysis.com の日次終値
データ基準日:日本株は2026年9月1日の東京市場終値、米国株は8月31日の終値。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。決算発表を挟む取引は価格変動が大きい。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














