7月14日(米国時間)、米大手銀行5行の決算が出そろった。JPモルガン、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、シティグループ——5行すべてがEPSと売上で市場予想を上回った。テストに例えるなら全員合格、しかも全員が予想点超えだ。ところが株価はゴールドマン+9.00%(終値1,140ドルで上場来高値)、JPモルガン+2.50%、バンカメ+1.88%に対し、ウェルズ・ファーゴ−2.71%、シティ−5.29%。全員合格なのに、半分近くが売られた。この「教室の謎」こそ決算シーズン最良の教材だ。本稿では5行の明暗を素材に、決算で株価が動く3つの法則を整理する(数値は2026年7月15日時点、株価は7月14日終値)。
ビートの大きさと株価反応は比例しない
同じ並び順の2枚のパネル。WFCとシティはJPM・BACより大きくビートしたのに売られた。
出所:各社決算・LSEG等コンセンサス・7/14終値。JPMのビート率は一時要因を除くEPS6.14ドル対コンセンサス約5.7ドルで算出した概算。
法則1:株価は「結果」ではなく「次の約束」で動く
最も鮮烈な反面教師はシティだ。EPS3.15ドルは前年比+61%で予想2.73ドルを大きく超え、売上247.7億ドルは四半期として過去10年で最高。文句なしの好決算に見えるが、株価は−5.29%と5行で最大の下げになった。理由は過去ではなく未来にある。経営陣がROTCE(有形自己資本利益率)目標を10〜11%に据え置き、下期の投資増を示唆したからだ。市場が聞きたかったのは「目標を上げる」という次の約束であって、済んだ四半期の点数ではない。年初来+13.75%と5行で最も期待を織り込んで上がっていた分、材料出尽くしの売り(セル・ザ・ニュース)が直撃した。
ウェルズ・ファーゴも同じ構図だ。EPS2.00ドル(予想1.72ドル)と好結果ながら、通期の純金利収入(NII)ガイダンスを約500億ドルに据え置き、7〜9月期の利ざや縮小まで示唆した。資産上限撤廃後の「解き放たれた成長」を見たい市場の期待に、約束が届かなかった。背景には決算反応の非対称性がある。FactSetによれば直近1〜3月期、予想を上回った企業の株価反応は平均+1.1%、下回った企業は−4.9%。ビートは当然、ミスは重罪——この歪んだ採点基準の下では「合格+現状維持の約束」は実質減点になり得る。
法則2:初動は膝反射——中身の分解が終わるまで答えは出ない
JPモルガンは時間の教材だ。GAAP純利益212億ドルは過去最高(前年比+41%)、EPS7.70ドル。ただしここにはVisa株売却益46億ドルなど一時要因56億ドルが含まれ、除いた実力ベースのEPSは6.14ドル(予想約5.7ドル)。加えて通期経費ガイダンスを1,050億→1,075億ドルへ引き上げたことが嫌気され、場前取引で株価は一時−3%まで売られた。ところが市場が中身を消化するにつれ評価は反転する。株式トレーディング収益+86%、IB手数料+30%(2021年以来の伸び)、NIIガイダンスは約1,055億ドルへ引き上げ、カード貸倒率見通しは3.4%→3.2%へ改善——消費者は健在だ。実力ベースでもビートだと確認され、終値は+2.50%で着地した。
教訓は単純だ。決算直後の初動はヘッドラインへの膝反射であり、一時要因の分解が終わるまで「答え」は確定しない。場前の−3%で狼狽して投げれば、その日の+2.5%を取り逃がす。個人投資家が速報の数分で機関投資家と反射神経を競う必要はない。一晩置いて中身を読むほうが合理的な場面が多い。なおダイモンCEOはこの決算で「リスクは地殻プレートのように水面下で動いている——地政学的緊張と戦争、粘着的なインフレ、巨額の財政赤字、高すぎる資産価格」と警告し、AIで一部部門の人員を既に30〜40%削減したとも語った。好況の数字と同時に発せられた慎重論として記憶しておきたい。
法則3:バーには死角がある——GSの+45%ビートの構造
ゴールドマンのEPS20.98ドルは予想約14.5ドルを約45%上回り、前年比ほぼ倍増。IB手数料34.0億ドル(+55%)、なかでも株式引受9.85億ドル(+130%)だ。なぜアナリストはここまで外したのか。鍵は6月12日のスペースX上場にある。調達額約860億ドル・評価額1.77兆ドルという史上最大のIPOで、ゴールドマンは主幹事の筆頭を務めた(個別案件のフィーは非開示)。規模もフィーも事前に確定しないイベントは、アナリストが予想モデルに織り込みにくい。つまりバーそのものに死角があった。前四半期の決算分析で見た「資産運用シフト」の議論を、投資銀行業務の爆発が一気に塗り替えた形だ。
株式トレーディングも74.2億ドルと3四半期連続で過去最高を更新し、増配+25%(四半期5.00ドル)と40億ドルの自社株買いが加わって、株価は+9.00%で上場来高値を付けた。年初来+29.7%と上げた後でもなお買われたのは、期待の上を「約束ごと」超えたからだ。ソロモンCEO「勢いは全事業で加速している」。
| 銀行 | EPS実績(予想) | 株価反応 | 分岐点 |
|---|---|---|---|
| ゴールドマン | 20.98ドル(約14.5) | +9.00%・上場来高値 | スペースXIPO=バーの死角、増配+25% |
| JPモルガン | 6.14ドル※(約5.7) | 場前−3%→+2.50% | 経費増を NII引き上げ・貸倒改善が上書き |
| バンカメ | 1.21ドル(約1.12) | +1.88% | 株式トレーディング+70%、NII+9.1% |
| ウェルズ・ファーゴ | 2.00ドル(1.72) | −2.71% | NIIガイダンス据え置き+Q3利ざや縮小示唆 |
| シティ | 3.15ドル(約2.73) | −5.29% | ROTCE目標据え置き+下期投資増=出尽くし |
3法則で残りのシーズンを観戦する
整理しよう。(1)株価は次の約束で動く、(2)初動は膝反射で当てにならない、(3)予想のバーには死角がある。この眼鏡をかけると観戦の質が変わる。15日夜(日本時間)のモルガン・スタンレー(予想EPS2.93ドル)は、GS同様にIPO窓全開の追い風をどこまで数字と「来期の約束」に変えられるかが焦点。16日のネットフリックスとTSMCは、S&P500の今期増益予想+23.6%(FactSet・7月10日時点)という高いバーを跳べるかの試金石だ。
背景の割り引きも忘れない。同日朝の6月CPI大幅下振れ(総合−0.4%)が地合いを支えた(S&P500は+0.38%)一方、IBMは利益警告で−25%と1987年以来の下げを演じた。期待の崩れが速い相場で、バーを割った者への罰は容赦ない。5行を貫く共通テーマ——株式トレーディングの爆発(JPM+86%・BAC+70%・GSとシティは過去最高)、IPO窓の全開、そしてNIIの明暗(引き上げたJPM vs 据え置きWFC)——のうち、NIIの分岐線が今回の勝敗そのものだった。最高値圏の相場では、初動で飛びつかない・またぎは小さく・ガイダンスから読む。この3点が今シーズンの実践則だ。
- 決算資料:ゴールドマン・サックスIR、各社リリース・SEC提出書類
- 決算報道:CNBC、Fortune(ダイモン発言)、Bloomberg
- 株価:Yahoo Finance(7/14終値)
- 反応の非対称データ:FactSet(Q1集計)
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。記載の数値は2026年7月15日時点(株価は7月14日終値)。コンセンサスは集計元により幅がある。投資判断は必ず最新の一次情報を確認のうえ、ご自身の責任で行われたい。
好決算なのに株価が下がるのはなぜか?
株価は過去の結果ではなく将来のガイダンス(次の約束)を織り込んで動くからだ。今回のシティはEPS前年比+61%・売上10年ぶり高水準でも、ROTCE目標10〜11%の据え置きと下期投資増の示唆が嫌気され−5.29%となった。期待先行で上がっていた銘柄ほど材料出尽くしの売りが出やすい。
JPモルガンのEPS7.70ドルは実力とみてよいか?
一時要因を除いた実力はEPS6.14ドルだ。Visa株売却益46億ドルなど56億ドルの一時要因を含むためで、除いてもコンセンサス(約5.7ドル前後)は上回った。純利益は一時要因込みで212億ドルと過去最高、除くと169億ドル(+13%)だった。
ゴールドマン・サックスだけ+9%と突出したのはなぜか?
アナリスト予想が6月のスペースX上場(史上最大のIPO・調達約860億ドル)の巨大フィーを織り込めなかったからだ。EPS20.98ドルは予想を約45%上回り、株式引受収益は+130%。増配+25%と自社株買い40億ドルの株主還元も株価を後押しし、上場来高値を付けた。
決算をまたいで買い持ちするのは有利か?
データ上は不利だ。Q1シーズンのFactSet集計ではビート銘柄の平均反応+1.1%に対しミス銘柄は−4.9%で、罰は報酬の約4倍。今回はビートしてもガイダンス据え置きなら売られる例(シティ・WFC)も出ており、またぐならポジションは小さくすべきだ。
今週このあと注目すべき決算はどれか?
日本時間7月15日夜のモルガン・スタンレー(予想EPS2.93ドル)・ブラックロック・BNY・PNC、16日のネットフリックス・ユナイテッドヘルス・TSMCだ。EPSの着地よりも、ガイダンスの引き上げ有無とトレーディング収益の追随を確認したい。















