今週の番付を発表する。東の横綱はアドバンテスト(6857)——8月26日のエヌビディア(NVDA)決算に対し、日本勢でただ一人、指数まで巻き込んで振れる怪力である。西の横綱は東京エレクトロン(8035)。断っておくが、この番付は勝ち負けの予想ではない。同じAI需要の変化を浴びたとき誰の損益が何倍に増幅されるか、その振れ幅だけを格付けした表である。
編成の出発点は前の場所にある。エヌビディアは2027年1月期第1四半期に売上高816億ドル・非GAAP EPS 1.87ドルを出し、市場予想(売上約788億ドル、EPS 1.76ドル)をいずれも上回った。それでも翌2026年5月21日の終値は前日比約−1.8%の219.26ドル。上回っただけでは勝てない土俵だというのが今場所の前提である(米企業決算のハードル上昇)。日本の読者にとっての論点は、その数字を浴びて誰の利益が最も振れるかだ。
番付発表——「振れ幅」の格付け
評価は◎=最大級、○=大、△=中、×=限定的の4段階。方向ではなく絶対値の大きさへの採点だ。株価・為替は8月21日終値。
| 番付 | 力士 | 8/21終値 | 振れる理由 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 東の横綱 | アドバンテスト(6857) | 35,900円(+1.53%) | 増分利益率63.7%、テストシステムが売上の90.8%。日経構成比12.2% | ◎ |
| 西の横綱 | 東京エレクトロン(8035) | 54,290円(+0.50%) | 増分利益率36.5%。厚みは薄いが売上規模2.17倍、非AIが約半分 | ○ |
| 東の大関 | 日経平均株価 | 66,016.36円(−0.30%) | 10月1日の係数変更まで、1銘柄が指数の約12%を動かす | ○ |
| 西の大関 | ドル円 | 158.94 | 海外売上比率99.1%。会社想定150円との差が上乗せで効く | △ |
| 前頭筆頭 | エヌビディア(NVDA) | 214.72ドル(−0.98%) | 52週高値から−9.2%。期待が剥落した状態で土俵入り | △ |
物言い——「利益率が高いほど振れる」は差し違えである
番付を組む前に、広く流通している説明に物言いを付ける。「アドバンテストは営業利益率44.2%、東京エレクトロンは25.6%。利益率が高いほうが同じ減収で利益を大きく削られる」——この論法は成立しない。営業レバレッジを決めるのは利益率の水準ではなく、増分売上のうち何%が営業利益に落ちるか(増分利益率)と売上規模の組み合わせである。
検算——同じ−10%を当てると振れ幅はほぼ同じ
手順は三行で再現できる。①直近四半期(2026年4-6月期、前年同期比)の増分利益率を出す。アドバンテストは増収1,036.97億円に対し営業増益660.38億円で63.7%、東京エレクトロンは増収1,828.02億円に対し営業増益667.13億円で36.5%。②これを2026年3月期通期の実績に当てる。③両社に同率−10%の減収ショックを掛ける。
アドバンテストは売上1兆1,286億円の10%=1,128.6億円が消え、うち63.7%の718.9億円が営業利益から抜ける。営業利益4,991億円に対し−14.4%。東京エレクトロンは売上2兆4,435億円の10%=2,443.5億円のうち36.5%の891.9億円が抜け、営業利益6,249億円に対し−14.3%。増分利益率は1.7倍違うのに、%で見た目減りはほぼ同じになる。東エレクの売上規模が2.17倍あり、厚みの薄さを分母が埋めるためだ。
図1:増分利益率は1.7倍違う。だが減収ショックはほぼ同じ
読み方:左を見ると、売上が1円増えたときに営業利益へ落ちる割合はアドバンテストのほうが1.7倍高い。ところが右——同じ率で売上が10%減ったときの営業利益の減少率は、両社ほぼ同じ(−14.4%と−14.3%)である。**つまり「営業利益率が44.2%対25.6%だから振れ幅も大きい」という説明は成立しない。**利益率の水準と、変化に対する感応度は別の話だ。振れ幅を決めるのは増分利益率と、固定費の厚みである。
正しい物差しは「1円が生む利益の厚み」
ではアドバンテストを東の横綱に据える根拠は何か。増分利益率そのものである。増収100円あたりの営業利益はアドバンテスト63.7円、東京エレクトロン36.5円。同じ1円の売上変化が生む利益の厚みが約1.7倍違う。%の増幅率(増益率÷増収率)はアドバンテスト1.36倍、東エレク1.39倍とほぼ横並びだが、株価が反応するのは%ではなく一株利益の絶対額だ。
会計基準の注記:アドバンテストはIFRS、東京エレクトロンは日本基準。営業利益の定義が一致せず、利益率の直接比較には限界がある。本記事は各社の開示値を用いた。
取組解説——各力士の内容
東の横綱 アドバンテスト——AI一点集中の怪力【◎】
根拠は三つ。第一に事業構成だ。2027年3月期第1四半期の売上3,675億円のうちテストシステム事業が3,336億円、90.8%を占める。会社は成長要因を「AI関連の高性能半導体向けテスタ需要が大幅に拡大」と短信に明記した。第二に収益力の水準が変わっている。第1四半期単独の営業利益は1,900億円、営業利益率51.7%。第三に2026年7月29日、通期予想を上方修正した。売上高1兆7,140億円(前期比+51.9%)、営業利益8,460億円(同+69.5%)、営業利益率49.4%——4月時点の1兆4,200億円/6,275億円(44.2%)からの大幅な引き上げである。
重要な訂正点がある。市場で引用され続ける「営業利益率44.2%」は2026年3月期の実績で、すでに一世代前の数字だ。AI投資が実需かバブルかという問いは、この会社には売上9割の問題である。逃げ場がない代わり、当たれば誰よりも大きい。文句なしだ。
西の横綱 東京エレクトロン——半分は別の土俵に立つ【○】
一段下に置くのは弱いからではない。非対称の本当の理由が事業の分散にあるからだ。同社は2026年7月30日の決算説明資料で、AIデータセンター向けがWFE(前工程製造装置)全体の50%に達する勢いで成長していると示した。裏を返せば市場の約半分は非AI——汎用メモリ、CPU、車載などだ。エヌビディア一社のガイダンスに対する売上見通しの改定幅が、そもそも小さい。
足元の数字も名誉のために添える。2027年3月期第1四半期は売上7,323.88億円(前年同期比+33.3%)、営業利益2,114.07億円(同+46.1%)で営業利益率28.9%。よく引かれる25.6%は営業利益が10.4%減った2026年3月期の数字で、これだけを並べるのは不当に低く見せる。ただし同社には2027年3月期の通期予想が存在しない。開示は中間期のみ(売上1兆6,200億円・営業利益4,580億円=28.3%、4月予想から上方修正)で、通期は第2四半期決算時に出る。通期予想があるかのように語る解説には注意が要る。
東の大関 日経平均——1銘柄で12%を担ぐ構造【○】
「エヌビディア決算で日本株が動く」の最も直接的な経路は、業績連想ではなく指数の構造にある。アドバンテストの日経平均構成比率は2026年7月31日終値時点で12.2%に達し、2022年導入の上限10%ルールに抵触した。日経は2026年10月1日から株価換算係数を7.2から6.4へ引き下げる。逆に言えば10月1日までは、この1銘柄が日経平均の約12%を機械的に動かす。8月21日の日経平均は66,016.36円(−0.30%)、週間では約2,697円安・−3.9%と大きく崩れた。指数を担ぐ少数と担がれる多数という構図は、決算という一点集中のイベントで最も露骨に出る。指数連動のETFや投信の保有者は、意図せず集中ポジションを抱えている。○止まりなのは、横綱に振り回される受け身の立場だからだ。
西の大関 ドル円158.94——利益の共同決定者【△】
為替を脚注に落とす解説が多いが、この会社に限ってはそれが誤りだ。アドバンテストの海外売上比率は99.1%。売上のほぼ全額が外貨建てで、為替は利益の共同決定者である。第1四半期の平均レートは米ドル159円(前年同期146円)。上方修正後のガイダンスは、第2四半期以降9か月について米ドル150円・ユーロ170円を想定している。
8月21日の実勢は158.94、会社前提より約9円の円安だ。決算が中立でも為替だけで上振れ余地がある。158円という帯の上限を巡る攻防は、そのまま装置株の利益見通しの攻防でもある。ただし政策金利1.00%の日銀は9月17〜18日の会合で約8割の利上げ織り込みを抱え、巻き戻しは常にある。方向が読めない以上△が妥当だ。なお東京エレクトロンは短信・説明資料に想定為替レートの明示がなく、「東エレクも同じ前提」とは書けない。
前頭筆頭 エヌビディア本人——剥落した期待で土俵入り【△】
「決算前の株価にはすでに期待が入っている」も点検が要る。8月21日終値214.72ドルは、2026年5月14日の52週高値236.54ドルから−9.2%、前回決算翌日の終値219.26ドルからも−2.1%。PERは32.88倍だ。時価総額のAI集中を検証した稿で見た熱狂からすると、この3か月はむしろ横ばいから下落である。「期待が入っている」より「一度剥落した状態で決算を迎える」ほうが実態に近い。△にとどまるのは、増幅装置ではなく発生源だからだ。
取組を読む——910億ドルは通過点にすぎない
会社ガイダンスは売上高910億ドル±2%(891.8億〜928.2億ドル)、粗利益率はGAAP/非GAAPで74.9%/75.0%(±50bp)。対象は2026年7月26日に終了した2027年1月期第2四半期だ。市場コンセンサスは集計元により差があり、売上はおおむね917〜919億ドル、非GAAP EPSは2.07〜2.09ドルに収まる。単一の数字で断定する解説は疑ったほうがいい。注目すべきは水準ではなく傾きだ。910億ドルは前四半期816億ドルに対し前期比+11.5%——前四半期の+20%から明確に減速する前提を、会社自身が置いている。
| 項目 | 実績・前提 | 読み方 |
|---|---|---|
| 会社ガイダンス | 売上910億ドル±2%(891.8〜928.2億ドル) | 前期比+11.5%。前四半期+20%から減速前提 |
| 市場コンセンサス | 売上917〜919億ドル/EPS 2.07〜2.09ドル | 集計元により差。上限寄りを織り込み済み |
| 前四半期実績 | 売上816億ドル、データセンター752億ドル | 予想超えでも翌日−1.8% |
| EPSサプライズ率 | 4四半期連続プラス(+6.12%→+6.56%→+8.00%→+6.25%) | 6〜8%の上振れが定常化。超えても材料にならない |
| 中国の扱い | データセンター計算基盤の中国売上をゼロ前提 | 政策変更は上振れ要因 |
図2:会社は減速を織り込んだ数字を出している
読み方:左は四半期売上で、会社ガイダンスの910億ドルは前期比+11.5%——直前四半期の+20%から明確に減速している。市場予想はそれをわずかに上回る918億ドル前後にある。**会社が減速を示し、市場がそれより少し上を見ている構図だ。**右は過去4四半期のEPSサプライズ率で、すべてプラス。上回ること自体は織り込み済みであり、だからこそ前回は上回っても株価が下げた。見るべきは超えるかどうかではなく、超え方の幅である。
市場が見るのは「910億ドルを超えるか」ではなく次の四半期(2027年1月期第3四半期)のガイダンスである。上振れが定常化した以上、超えることはもはやニュースにならない。前四半期に予想を超えて売られた理由はそこにある(前回のプレビュー)。
三賞選考
殊勲賞:東京エレクトロン——「振れにくさ」に賞を出す
WFE市場の約半分が非AIという構成は、AI相場が続く限り物足りなく映る。だが同じ構成が、疑念の差した日には唯一のクッションになる。同社の見立てではWFE市場はCY2026に1,500億ドル超、CY2027に1,900億ドル超。分母が伸びている以上、AI依存度の低さは分散の維持である。
敢闘賞:ドル円——会社前提150円との9円
アドバンテストが置いた米ドル150円という前提に対し、実勢は158.94。この9円は決算内容と独立した上振れ余地だ。決算後に株価が動いたとき、その何割が事業で何割が為替か。切り分けられる者だけが次の四半期を正しく見積もれる。
技能賞:時価総額の逆転——売上2.17倍でも下位
8月21日基準の時価総額はアドバンテスト26兆2,788億円、東京エレクトロン25兆4,095億円。売上規模は東エレクが2.17倍あるのに、時価総額はアドバンテストが上回る。予想PERも39.2倍対33.6倍。市場がAI集中度に払うプレミアムが、これ以上なく可視化されている。ちなみにエヌビディア本人は32.88倍で、3者の中で最も低い。
来場所の取組表——日本時間で追う
時間軸を正しておく。「8月26日にエヌビディア決算とPCEが出る」は米国基準では正しいが、そのまま受け取ると誤読する。東京市場が両方を織り込んで売買で反応するのは、木曜8月27日である。
| 日本時間 | イベント | 番付への影響 |
|---|---|---|
| 8/26(水)21:30 | 米7月PCE(米東部時間8:30) | 東京は引け後。金利観に効く |
| 8/27(木)5:20頃 | エヌビディア決算リリース | 本場所の立ち合い |
| 8/27(木)6:00 | 決算説明会(米東部時間17:00) | 次四半期ガイダンスの言い回しが出る |
| 8/27(木)9:00 | 東京市場が寄り付く | 日本の投資家が反応する唯一の場面 |
| 8/28(金)朝 | 外国為替平衡操作の実施状況・東京都区部CPI・失業率 | ドル円の前提が動く |
| 8/28(金)23:00 | ウォーシュFRB議長の就任後初の基調講演 | 会議は8/27〜29。金利観の再設定リスク |
観測トリガーと無効化ライン
再現可能な観測手順は四つ。①次四半期ガイダンスの前期比伸び率を自分で計算する。910億ドルの+11.5%より高ければ減速前提の撤回、低ければ減速の追認だ。②粗利益率。会社前提74.9%/75.0%(±50bp)の下限を割るなら、価格か製品構成に変化が起きている。③中国の扱い。ガイダンスは中国のデータセンター計算基盤売上をゼロ前提としており、変われば上振れ要因になる。④ドル円。150円に接近するなら、装置株は決算内容と無関係に利益前提の切り下げが要る。
この番付の無効化ライン:①次四半期ガイダンスが+11.5%を明確に上回り、かつ日本の装置株が反応しない場合——「増幅装置」の前提が崩れる。②東京エレクトロンが第2四半期決算で通期予想を開示し、AI比率が想定より高いと判明した場合——非AIがクッションという読みが外れる。③ドル円が150円を割る場合——為替が振れ幅を上書きし、増分利益率の議論が意味を失う。
誤解されやすい点をひとつ。次の米CPIは9月11日で、来週ではない。26日に出るのはPCEだ。直近6月分(7月30日発表)はPCE価格指数が前年同月比+3.7%、コアが+3.3%とFRB目標の2%を大きく上回り、前月比はPCE−0.1%、コア+0.1%だった(9月の大幅利下げというテールリスク)。
この番付で分からないこと
格付けを出した以上、限界も同じ精度で書く。第一に、増分利益率が示すのは振れ幅であって方向ではない。アドバンテストの厚みは、需要が伸びれば利益を最も膨らませ、鈍れば最も削る。◎は「買い」の意味を一切持たない。
第二に、増分利益率は直近1四半期から出した1点の推計にすぎない。固定費、製品構成、価格改定で次の四半期には別の値になる。−10%ショックの検算も増分利益率が一定という単純化の上に立っており、現実の減収局面では低下しやすい。
第三に、裏が取れず本記事が書かなかった数値がある。アドバンテストのAI関連売上比率の具体的な%、東京エレクトロンの第1四半期におけるDRAM・不揮発性メモリ・非メモリの構成比、東エレクの想定為替レート、エヌビディアのデータセンター部門の市場コンセンサス。一次情報で確認できないものは記載していない。
第四に、装置株は為替の影響を同時に受ける。決算後の株価変動を「AI需要への評価」と一括で読むのは危険で、ドル円を必ず並べる必要がある。第五に、決算結果と決算後の株価方向は未確定であり、本記事は一切予断していない。半導体関連が一斉に崩れた局面の採点表が示す通り、同じ材料でも傷の深さは事前の立ち位置で決まる。この番付は、その立ち位置だけを測ったものだ。
主な参照:NVIDIA(決算日程)/NVIDIA(前四半期・ガイダンス)/アドバンテスト 第1四半期短信/同 2026年3月期通期短信/東京エレクトロン 第1四半期短信/同 決算説明資料/BEA(6月PCE)/日本経済新聞(株価換算係数)/CNBC。データ基準日:2026年8月22日(株価・為替は8月21日終値)。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任で行っていただきたい。















