2023年7月18日、ユーロドルは1.1276ドルの高値を付けていた。日足RSIは70を超え、市場はドル安トレンドの継続を疑っていなかった。だがそこが天井だった。米長期金利が5%に向けて駆け上がるにつれてユーロは坂を転げ落ち、10月には1.04台——3カ月で7%を超える反転である。一方、その3年前の2020年夏。同じようにRSIが70を超えて失速したユーロは、しかし崩れなかった。数カ月の保ち合いを経て、年末には1.23ドルへ続伸した。同じ「買われすぎからの失速」が、正反対の結末を迎えた二つの夏だ。
2026年8月25日、ユーロドルは三たび同じ分かれ道に立っている。先週の急伸で1.17ドル目前まで買われたユーロは勢いを失い、足元は1.16台半ば(25日欧州時間で1.1661、前日比ほぼ横ばい)へ押し戻された。日足RSIは70前後から下向きに折れ始めた。この失速は2020年型の「踊り場」か、2023年型の「天井」か。本記事のデータ基準日は2026年8月25日(日本時間)。歴史の鏡と、鍵を握る債券市場から読み解く。
現在地:1.17手前の失速と、真下に来た200日線
海外金融機関のFXストラテジーノートは、足元の値動きをこう整理する。ユーロドルの上昇モメンタムは1.1700ドルの上で色あせ、スポットは1.16台半ばへ後退した。ただし目先の下げは利益確定売りとみられ、ドルにとっては「ささやかな息継ぎ」であってトレンド転換の合図ではない。ドルがより持続的な買いを示すには、ドル指数(DXY)が99.40〜45を上回って定着する必要がある——それは8月19日の米財務省による国債買い戻し倍増発表で起きたドル急落の「全戻し」を意味する水準だ。トレーダーの視線は引き続き債券市場に固定されており、米長期金利は直近の高値圏で推移している。下値の目安は、まず1.1631ドル(200日移動平均線)、次いで1.1615ドル。当面は先週の急伸を消化する保ち合い、というのが同ノートの見立てである。
チャートの配置は示唆的だ。半年あまり上値の壁として機能してきた200日線(1.1631ドル)を、ユーロは先週ようやく上抜けた。いまの押しは、その200日線を「天井」から「床」へ塗り替えられるかの試験でもある。上には6月に届かなかった1.1700、その先に2月と4月に跳ね返された1.1830の壁。下は1.1631〜1.1615の帯を終値で割れば、8月の上昇の起点である1.14台後半までの反落が視野に入る。RSIは70前後からの低下——買われすぎの解消それ自体は健全だが、二つの夏が教える通り、この形は天井と踊り場の両方の顔を持つ。
二つの夏の鏡:分けたのはRSIではなく債券市場だった
| 項目 | 2020年夏(踊り場→続伸) | 2023年夏(天井→反転) | 2026年8月(今回) |
|---|---|---|---|
| 直前の上昇 | 約1.12→1.19(コロナ後のドル安) | 約1.05→1.1276(ドル利上げ終了観測) | 約1.13→1.17目前(買い戻しショックのドル安) |
| RSIの形 | 70超から失速 | 70超から失速 | 70前後から低下開始 |
| 米金利の環境 | FRBがQEと事実上のゼロ金利で金利を封殺 | 米10年債利回りが5%へ急騰 | 財務省が買い戻し倍増で長期金利を管理(9/9実施開始) |
| ドルの状態 | 下降トレンドが継続中 | 金利主導で反転上昇 | 3カ月ぶり安値圏。99.40〜45回復が反転の試金石 |
| その後 | 数カ月の保ち合いを経て1.23へ続伸 | 3カ月で1.04台へ約7%超の反転 | ——(保ち合い進行中) |
対照表が示す核心は一つだ。2020年と2023年を分けたのはテクニカル指標ではなく、米債券市場だった。金利が上がれなかった2020年、ユーロの保ち合いは上放れた。金利が走った2023年、保ち合いは崩落に変わった。ストラテジーノートが「トレーダーは債券市場に錨を下ろしたままだ」と書くのは、まさにこの分かれ道の再現を意識しているからだろう。
「今回は違う」論の検証:金利の天井に、管理人がいる
では2026年はどちらの夏に似るのか。決定的に新しいのは、米長期金利の上昇に「管理人」が付いた点だ。2023年型の反転が起きるには米金利が再び暴れる必要があるが、9月9日からは財務省の倍増された買い戻しオペが長期ゾーンで待ち構える。金利の上振れを政権側が抑えに来る市場では、2023年の再現はハードルが上がる——これはユーロの保ち合いが2020年型(上放れ)に解決しやすい環境証拠だ。一方でユーロ自身の燃料にも注意がいる。9月のECB利上げ(預金金利2.50%へ)はほぼ織り込み済みで、市場には2027年3月までの3%到達を25%の確率で見込む声すらある(Trading Economics、8月25日)。織り込みが先に走った通貨は、材料出尽くしに弱い。1カ月前まで市場の主流だったユーロ弱気論が短期間で覆された経緯も、期待の振り子の速さを物語る。
そして今週は、分かれ道の答えを早める日程が並ぶ。あす26日に米PCE(FRBが重視する物価指標)、28日23時(日本時間)にはジャクソンホールでウォーシュFRB議長が就任後初の基調講演に立つ。手掛かりを与えない流儀の議長が沈黙を貫けばドルの反発材料は乏しく、タカ派に振れれば99.40〜45の「全戻しテスト」が現実になる。保ち合いの結末を決める投票日は、もう今週の中に置かれている。
歴史の教訓3つと、監視点
教訓は三つ。第一に、RSI70からの失速は天井の証明ではない——2020年はただの息継ぎだった。第二に、結末を決めるのは債券市場である——金利が封じられれば続伸、金利が走れば反転、というのが二つの夏の答え合わせだった。第三に、結論はレンジの外で出る——上は1.1700の回復から1.1830の壁、下は1.1631〜1.1615の帯。どちらかを終値で抜けるまで、保ち合いの内側の値動きに結論を求めないことだ。
監視点を並べて締める。26日の米PCE、28日のウォーシュ講演、そしてドル指数99.40〜45の攻防。ユーロ側では9月のECB理事会と、来週以降の織り込みの変化。ドル円で日米共同介入の実績公表(8月末)を控える点も、ドル全体の地合いを通じてユーロドルに波及し得る。1.16台の静けさは、2020年の静けさか、2023年の静けさか——債券市場が答えを言うまで、あと数日である。
主な参照資料(本記事で引用した外部ソース)
- 海外金融機関のFXストラテジーノート(2026年8月25日・編集部入手)——1.1700での失速、DXY 99.40〜45、1.1631/1.1615の各水準の出典
- Trading Economics(tradingeconomics.com):ユーロドル当日値(1.1661)・ECB利上げ織り込み(8月25日)
- CNBC(cnbc.com):米財務省の買い戻し倍増(8月19日・9月9日実施開始)
- ECB(ecb.europa.eu):6月の利上げ決定(預金金利2.25%)
データ基準日:2026年8月25日(日本時間)。2020年・2023年の水準は広く報じられた記録に基づく概算であり、チャートは提供データ(EBS・日足)をもとに編集部が再構成した。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨する投資助言ではない。掲載した数値は2026年8月25日(日本時間)執筆時点のもので、為替・金利は経済指標や要人発言で急変し得る。過去の値動きは将来の結果を保証しない。投資判断は自身の責任と判断で行う必要がある。














