市場はこう信じている。半導体製造装置大手のラムリサーチ(LRCX)は、部品とクリーンルームが足りず、売上を伸ばしきれなくなった。成長に天井が見えた以上、株は売るしかない、と。22日の米国市場で同社株は237.61ドル(日本時間22時52分、取引時間中)と、前日比8.90%安で推移している。10月2日の終値347.49ドルからは31.6%安い。
だが、本当か。今日はこの通説を尋問する。証拠は3つ。決算の中身、供給制約という言葉の意味、そして売上の地域の偏りである。日本の装置株を持つ読者にとっても、この評決は来週の決算を読む物差しになる。
尋問1:決算は弱かったのか
証拠を見よう。米証券取引委員会に提出された決算資料によると、9月まで3カ月の売上高は82億2,000万ドルで、前の四半期から22%、前年同期から54%増えた。会社の事前予想81億ドル(中央値)も、市場予想の81億8,000万ドルも上回った。米国会計基準の営業利益率は40.0%で、24/7ウォールストリートは「初の40%」と伝えた。1株利益は調整後2.20ドルで、予想の2.18ドルを上回った。
過去の四半期と比べても、数字は強い。4〜6月期の営業利益率は37.4%だった。現金などの残高は56億ドルから74億5,000万ドルに増えた。ティム・アーチャー最高経営責任者(CEO)は、売上、利益、1株利益がいずれも過去最高だったと述べている。
この説明には穴がある。弱かったのは過去ではなく、次の四半期の見通しだ。10〜12月期の売上高予想は86億ドル±4億ドル。中央値は市場予想の85億4,000万ドルをわずかに上回るが、下限の82億ドルは下回る。前の四半期比の伸びは中央値で4.6%にとどまり、直前の22%から大きく鈍る。株価が反応したのはこちらである。
尋問2:「供給制約」は需要が弱いという意味か
ここが本丸だ。ダグ・ベッティンガー最高財務責任者(CFO)は決算説明会で、目先の供給網の制約がなければ見通しは「もう少し高かった」と述べた。米24/7ウォールストリートが伝えた発言である。アーチャーCEOは、部品の供給元に増産計画の前倒しを求めていると語った。
言葉どおりに読めば、足りないのは注文ではなく、注文をこなす力だ。需要が弱いなら、会社は「顧客が投資を先送りした」と言うはずである。供給が足りないから売上が伸び切らない、というのは需要の弱さとは逆向きの説明である。アーチャーCEOは2026年の前工程装置の市場規模を1,500億ドル台半ばとし、2027年は暫定で2,000億ドル超と見ている。米シーキング・アルファも同じ見通しを伝えた。
公平のために言えば、通説の側にも理がある。クリーンルームの面積は短期では増やせない。24/7ウォールストリートによると、アーチャーCEOは、これが2027年の需要にどこまで応えられるかを縛ると警告した。注文が積み上がっても、売上として計上できる量に上限があるなら、来年の利益予想は削られる。米メディアは、この点を理由に目標株価を引き下げる動きが出ていると報じている。
尋問3:売上の中身に偏りはないか
地域別売上比率の変化(4〜6月期→7〜9月期、ポイント)
読み方:中国が9ポイント増え、台湾が9ポイント減った。最先端向けの穴を中国が埋めた形で、CFOは次の四半期に中国の比率が大きく下がると見ている。出所:ラムリサーチの決算資料(米証券取引委員会への提出書類)。
決算資料の地域別売上を見ると、中国の比率は4〜6月期の26%から35%へ跳ね上がった。逆に台湾は27%から18%に落ちた。最先端の工場を持つ台湾の顧客が減り、中国の顧客が穴を埋めた形である。ベッティンガーCFOは、10〜12月期には中国の比率が「大きく下がる」と見ている。
これは通説を補強する証拠に見える。だが、中国の売上が減っても全体の売上予想は増えている。つまり会社は、台湾や韓国の最先端向けで中国の減少を埋められると見ている。問題は、その最先端向けこそが部品の不足で出荷を絞られている分野だという点だ。ここは通説にも会社にも、決め手がない。
日本の読者向けに1点。日本向けの売上は2四半期続けて9%だった。決算資料によると、日本の顧客向けの出荷は検収まで在庫として計上され、9月末時点で約4億6,800万ドル分の売上が控えている。日本の工場向けの出荷が止まった兆しは、この数字からは読み取れない。
主張の生死:整理表
| 通説の主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 決算そのものが弱かった | 死んだ | 売上、利益率、1株利益とも予想と会社見通しを上回った |
| 次の四半期の伸びが鈍る | 生き残った | 前四半期比の伸びは22%から中央値4.6%へ。予想の下限は市場予想を下回る |
| 需要が弱まった | 死んだ | CFOは制約がなければ見通しは高かったと発言。2027年の市場は2,000億ドル超の見立て |
| 供給の天井が来年の利益を縛る | 係争中 | クリーンルームは短期で増えない。一方でCEOは早期の解消を見込む |
| 中国頼みの売上は続かない | 係争中 | 中国比率は35%に上昇し、次は下がる。穴を埋める先が供給不足の分野 |
評決:売られすぎに60%
本誌の評決は、「供給制約は売上の先送りであり、需要の消失ではない」という見方に60%、通説の「成長の天井」に40%である。決算が弱かったという主張は死に、需要の弱さを示す証拠も出ていない。生き残ったのは「次の四半期の伸びが鈍る」という一点で、これは株価がすでに10月2日から3割下げる過程で相当程度織り込んだと見る。
注目株として見る場合の節目も記しておく。下は22日の日中安値232.20ドル。上は7月29日の終値252.35ドルで、前回の決算発表直前の水準にあたる。翌30日に株価は18%上げた。ここを終値で取り戻せば、今回の下げは「見通しの言い回しへの過剰反応」だった可能性が高まる。232.20ドルを割り込めば、評決はいったん通説の側に傾く。
再審条件と日本株への含意
- 同業の言い回し。アプライド・マテリアルズやKLAが同じ「供給制約」を口にすれば、業界全体の詰まりと判断し評決を維持する。「受注の先送り」を口にすれば通説に傾ける。
- TSMCの設備投資。台湾向けの売上比率が戻るかは、TSMCの投資計画次第である。
- 日本の装置株の決算。東京エレクトロンは30日に決算を出す。同じ制約に触れるかが、ラムの説明の裏付けになる。
22日の米国市場ではアドバンテストの米預託証券(ADR)も6.08%安(22時36分時点)と、ラムに引きずられた。東京の半導体株は22日の取引ですでに大きく売られており、その経緯は東京市場の引けにある。来週の国内装置株の決算日程と過去の値動きの幅は半導体株決算プレビューで整理した。決算前のラムの連続安はこちらで扱っている。
主な参照
- 2026年9月期の決算資料(8-K、別紙99.1)/米証券取引委員会
- 2026年6月期の決算資料と地域別売上/米証券取引委員会
- CFOとCEOの発言、市場予想、前工程装置市場の見通し/24/7ウォールストリート
- 市場予想との比較、CEOの発言/ヤフー・ファイナンス
- 2027年の前工程装置市場の見通し/シーキング・アルファ
データ基準日:2026年10月22日(日本時間22時52分=米東部時間9時52分)。株価は取引時間中の値であり、終値ではない。過去の株価は日足の終値(Yahoo!ファイナンス)。市場予想はヤフー・ファイナンスとインベスティング・ドットコム(24/7ウォールストリート経由)の集計で、集計元により数値は異なる。CFOとCEOの発言は報道に基づくもので、決算説明会の書き起こし全文では確認していない。評決の比率は本誌の判断である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















