10月22日木曜の午前11時、東京。ビットコインの画面は8万3,000ドルを割り込んだ。前日の夜には8万4,000ドル台を回復し、本誌も「8.77万ドルの壁」を次の関門として書いたばかりだった。その日のうちに、相場は逆の方向へ歩き出した。日付が変わった23日午前1時(米東部22日正午)、米コインベースの取引画面には8万789ドル61セントという安値が刻まれる。前日の終値8万4,024ドル67セントから、ほぼ4%の下げである。
この1日の物語に、新しい悪材料の主役はいない。登場するのは、原油を押し上げた中東の攻撃、AIへの疑念で崩れたナスダック、そして上昇を信じて借金で買っていた投資家たちである。最後の一群が、いちばん大きな代償を払った。
ビットコインの24時間(10月22日〜23日、日本時間)
読み方:大きな下げは東京の昼と欧州の朝、そしてニューヨークの正午の3回に分かれる。いずれも株安や原油高と時刻が重なる。出所:コインベースの日足・1時間足(ドル建て)、コインデスクのライブ記事、ビットフライヤー。時刻は日本時間。
前夜:8万5,000ドルへの往復
物語は前日に始まる。21日、ビットコインは8万2,938ドルで寄り付き、一時8万4,856ドルまで上げた。米国の現物ビットコインETF(上場投資信託)には、この日5億2,840万ドルの資金が純流入している。ブラックロックの「IBIT」だけで2億3,500万ドルだった。米メディアのザ・ブロックによれば、3営業日の流入額は約10億8,000万ドルに達していた。
買い手が戻ってきた、と多くの参加者が感じた日である。上値を追う買いの一部は、先物の借金を使っていた。米コインデスクが伝えたコイングラスの集計では、この上昇の局面で売り方(ショート)の強制決済が1億7,300万ドル発生している。売り方が焼かれ、買い方が勢いづいた。
だが、上がりきらなかった。暗号資産取引所ビットフィネックスのアナリストは、ETF経由の平均取得単価を8万4,333ドルと推計し、日足の終値で8万4,400ドルを上回ることを上抜けの条件に挙げていた。21日の終値は8万4,024ドル。条件まで、あと400ドル足りなかった。
東京の昼:株と一緒に崩れる
22日、最初に崩れたのはアジアの株式市場だった。米テスラと米ラムリサーチの決算をきっかけに米国で半導体・ハイテク株が売られた流れが、東京とソウルに届いた。日経平均はこの日1,713円下げ、韓国総合株価指数も3%を超えて下げた。
同じ頃、ビットコインも歩調を合わせた。コインベースの1時間足では、日本時間11時台に8万3,000ドルを割り、17時台には8万2,000ドルを割っている。コインデスクは欧州の朝、「AIへの疑念が戻り、ビットコインは8万2,000ドルを割った」と見出しを立てた。暗号資産が株式から独立した避難先として振る舞う場面は、この日もなかった。
日本の投資家には、もう一つの痛みがあった。円高である。リスク回避の円買いでドル円は157円近辺まで下げ、同じ下げでも円建ての損失はドル建てより大きくなった。コインデスクによると、国内大手のビットフライヤーで円建てのビットコインは3%下げ、ドル建ての2.5%を上回った(いずれも米東部時間午前8時時点)。ドルで値下がりし、さらにドルそのものが円に対して安くなる。二重の下げである。
ニューヨークの午前:原油と大統領の投稿
ニューヨークが目を覚ますと、舞台はエネルギーに移った。サウジアラビアへの攻撃と米イランの緊張で、北海ブレント原油は1バレル112ドル台へ上げた。コインデスクの米東部時間午前8時15分の記録では、ビットコインは8万1,650ドル、原油は3%近く高い。
米東部時間の午前11時59分、トランプ大統領が自身のSNSに書き込んだ。「イランは中間選挙の前に原油価格をつり上げようと、あらゆる手を尽くしている」。市場はこの一文を、緊張が当面ほどけない合図として受け取った。ビットコインが日中安値の8万789ドルを付けたのは、その直後の正午からの1時間である。
ただし、ここで一つの通説を正しておく必要がある。「原油高で利上げ観測が再燃し、ビットコインが売られた」という説明が一部の暗号資産メディアに出たが、数字はそう語っていない。コインデスクが引用したCMEフェドウォッチでは、10月27〜28日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが決まる確率は、22日午前10時25分の時点で8%だった。1日前の16%、1週間前の28%から下がっている。米10年債利回りは約1カ月ぶりに5%を割り込み、債券は買われていた。
つまりこの日の売りは、金利の恐怖ではなく、株と同じ「リスクを減らしたい」という手じまいだった。金は2.6%、銀は5.8%下げている。値上がりしていたものから順に売られた、と読むのが素直である。
強制決済の金額(暗号資産市場全体、億ドル)
読み方:前日は売り方、この日は買い方が強制決済された。22日の直近12時間では、強制決済2億2,200万ドルの約95%が買い方だった。出所:コイングラスの集計(コインデスクが米東部時間22日午前5時54分に報道)。集計の時点により数値は変わる。
最大の敗者:借金で買っていた人々
この物語でいちばん大きな代償を払ったのは、前日に買い向かった人々である。コインデスクが米東部時間午前5時54分に伝えたコイングラスの集計では、直近12時間の強制決済2億2,200万ドルのうち、2億1,000万ドル、つまり約95%が買い方(ロング)だった。単独で最大のものは、バイナンスで清算された1,180万ドルのビットコインの買い持ちである。
24時間を通した強制決済は約4億3,100万ドル。前日の上昇局面では売り方が焼かれ、きょうは買い方が焼かれた。コインデスクはこの往復を「双方のトレーダーを焼いた8万5,000ドルへの往復」と表現している。上にも下にも、借金をした側から順に退場させられた2日間だった。
関連株も無傷ではない。米東部時間午前9時43分の時点で、ビットコインを大量に保有するストラテジー(MSTR)は5.6%安、交換業者のコインベース・グローバル(COIN)は4%安だった。イーサリアムも同じ道をたどり、コインベースのドル建てで一時2,357ドルまで下げた。日本時間23日午前7時46分の時点で2,382ドル、前日比3.6%安である。
夜明けの東京:1,274万円
23日午前7時46分、東京。ビットフライヤーの取引画面は1ビットコイン=1,273万9,966円を示していた。コインチェックでは1,274万4,497円、直近24時間の高値は1,335万9,410円である。円建てで見れば、24時間の高値から60万円以上下げたことになる。ドル建てでは8万1,200ドル台。2025年10月6日に付けた最高値12万6,000ドル台から、ほぼ36%下の水準にいる。
相場は「壊れた」わけではない。この1カ月、ビットコインは7万9,676ドル(10月15日の安値)から8万7,282ドル(9月23日の高値)の間を行き来してきた。22日の安値8万789ドルは、その床の少し上で止まっている。前日の記事で、値動きの小ささは「嵐の前の静けさ」なのかを問うた。少なくとも22日の時点で、嵐は来ていない。来たのは、箱の上端から下端への、いつもより速い移動である。
この1カ月の箱と現在値(ドル)
読み方:22日の下げは、1カ月続く箱の上側から下側への移動にとどまった。22日の安値8万789ドルは、10月15日の安値の約1,100ドル上で止まっている。出所:コインベースの日足(ドル建て)、ビットフィネックスの見方はBitcoin.com Newsの報道による。現在値は取引時間中の気配値。
エピローグ:残された問いと、次の日付
残された問いは三つある。一つ目は、ETFの買い手が22日も買い続けたかどうかだ。21日の5億2,840万ドルの流入が「新しい買い手」なら床は上がり、「押し目買いの一巡」なら床は試される。22日分の集計は、本稿の執筆時点でまだ出ていない。
二つ目は、米国の金融政策である。FOMCの結果は日本時間29日午前3時に出る。同じ29日の夜には、米7〜9月期のGDP速報値と9月の個人消費支出(PCE)物価指数が続く。利上げ観測が後退したまま会合を迎えるのか、原油高が再び物価の議論を呼び戻すのか。暗号資産にとっては、株と同じ問いである。
三つ目は、30日の月末である。デリビットのビットコイン・オプションは10月30日に満期を迎える。本誌がデリビットの公開データから集計したところ、22日夜の時点で建玉は約13万6,000BTC、約111億ドル分だった。満期の構図はこちらの記事で詳しく描いた。中国の検察当局が約6.18万BTCの没収を裁判所に申し立てた件の行方はこちらにまとめている。
22日の主役は、ビットコインそのものではなかった。原油と株と、借金をした人々だった。次の場面で主役になるのが誰なのかは、来週の水曜の夜から木曜の朝にかけて、ワシントンで決まる。
主な参照
- ビットコインとイーサリアムの日足・1時間足(ドル建て)/コインベース
- 22日の時系列、強制決済(コイングラス集計)、フェドウォッチの利上げ確率、トランプ大統領の投稿、関連株の値動き/CoinDesk
- 米現物ビットコインETFの21日の資金流入/The Block
- ビットフィネックスのETF平均取得単価の推計と上抜け条件/Bitcoin.com News
- 最高値(2025年10月6日)と最高値からの下落率/CoinGecko
- 円建て価格/bitFlyer、コインチェック
- 中国の没収申し立て/CoinDesk
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会、GDP・PCEの公表日程/米商務省経済分析局
- オプション建玉(10月30日満期)/Deribitの公開データから本誌集計
データ基準日:2026年10月23日午前7時50分(日本時間)。ビットコインとイーサリアムの価格は24時間取引の気配値であり、取引時間中の値で終値ではない。22日の日足はコインベースの協定世界時(UTC)基準で、日本時間23日午前9時に確定する。時刻は特記のない限り日本時間で、米東部時間(夏時間)との差は13時間である。強制決済の金額はコイングラスの集計を報道経由で引用したもので、集計の時点により数値が変わる。22日の米ETFの資金流出入は本稿の執筆時点で未公表である。ETF平均取得単価はビットフィネックスの推計で、本誌は原資料を確認していない。オプションの建玉は本誌の集計による概算である。本記事は情報提供を目的としたものであり、暗号資産の売買を推奨するものではない。暗号資産は価格変動が大きく、元本を失うおそれがある。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















