2012年1月13日の金曜日、欧州の市場が閉まったあとで、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はフランスの長期格付けを最上位のAAAから1段階引き下げた。週明けの欧州中央銀行(ECB)の参照レートは1ユーロ=1.2669ドル。前年10月末の1.4160ドルから、2カ月半で約1割下げていた。14年後のきょう、フランスの国債がふたたび為替市場の主役になっている。
10月21日、フランス10年国債の利回りは取引時間中に一時5%台に乗せた。ロイターなどによると2002年以来の水準である。ユーロドルは22日朝の時点で1.1233ドル(日本時間7時52分)と、1.12ドル台で踏みとどまっている。歴史は繰り返さない。だが韻は踏む。2011〜12年の局面を鏡にして、ユーロドルの次の1カ月を考える。
当時、何が起きていたのか
2011年の秋、欧州債務危機はギリシャからイタリア、スペインへ広がり、ついにフランスに届いた。フランスとドイツの10年債利回りの差(スプレッド)は11月に急拡大した。AFP通信は11月10日に164ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と過去最大を伝え、MNIによれば15日には一時190bpまで開いた。奇しくも11月10日には、S&Pがフランスを格下げしたとの誤った通知を配信し、慌てて訂正する騒ぎもあった。
ユーロドルは、この不安を素直に映した。ECBの参照レートは10月28日の1.4160ドルから、11月15日に1.3532ドル、年明けの1月16日に1.2669ドルまで下がった。そして本当の格下げが来たとき、市場はほとんど動かなかった。発表後の最初の取引でフランス10年債の利回りはむしろ下がり、3.03%を付けたと当時の報道は伝えている。格下げはすでに値段に織り込まれていた。
ユーロドルのECB参照レート(2011年10月〜2012年8月)
読み方:仏独スプレッドの拡大局面でユーロドルは下げ、S&Pの格下げ(2012年1月13日)の時点ではほぼ織り込み済みだった。2月の戻りのあと、7月24日に1.2089ドルの底を付け、2日後にドラギ総裁の「何でもする」発言が出た。出所:欧州中央銀行の参照レート(Frankfurter経由、約1週間ごとの値と主要日)。
当時その後に起きたこと
流れを変えたのは格付けではなく、中央銀行だった。ECBは2011年12月8日、期間3年の大規模な資金供給(LTRO)を打ち出した。銀行が国債を買う資金を手当てできるようになり、仏独スプレッドは縮んだ。MNIによれば2012年2月上旬には106bpと、1月6日から45bp縮小していた。ユーロドルも2月27日に1.3388ドルまで戻した。
だが、それは底ではなかった。春以降はスペインの銀行不安とギリシャの選挙で危機が再燃し、ユーロドルは2012年7月24日に1.2089ドルまで下げた。この局面を終わらせたのは、2日後の7月26日にドラギECB総裁がロンドンで述べた「ユーロを守るためなら何でもする」という一言である。当時の教訓は、底を決めたのが財政の改善ではなく、中央銀行の明確な意思表示だったという点にある。
2011年と2026年:同じ点と違う点
| 項目 | 2011年11月〜2012年1月 | 2026年10月 | 同じか違うか |
|---|---|---|---|
| 仏独10年債スプレッド | 11月15日に一時190bp | 約150〜160bp(10月21日の報道) | 同じ方向、水準はまだ下 |
| フランス10年債利回り | 格下げ後に3.03% | 一時5%台(2002年以来) | 違う:水準ははるかに高い |
| フランスの格付け | AAA(2012年1月にAA+へ) | ムーディーズAa3・見通しネガティブ、S&PはA+ | 違う:すでに最上位ではない |
| 不安の中心 | ユーロ圏の銀行と南欧の債務 | フランスの予算と少数政権 | 違う:危機はフランス固有 |
| ECBの姿勢 | 利下げと3年物の資金供給 | 中銀預金金利2.50%、利上げ局面 | 違う:逆方向 |
| 米国の金利 | ゼロ金利 | 政策金利3.75〜4.00%、10年債5.13% | 違う:ドル側の引力が強い |
| ユーロドルの出発点 | 1.4160ドル(10月28日) | 1.12ドル台 | 違う:すでに大きく下げた後 |
読み方:同じなのはスプレッドが開く方向だけで、ほかの多くの条件は違う。とくに大きいのは、ECBが金融を引き締めている点である。2011年のように中央銀行が資金をばらまいて火を消す選択肢は、物価が高い今回は取りにくい。
「今回は違う」論を検証する
「今回はフランスだけの問題だから、ユーロ全体は崩れない」という見方がある。半分は正しい。2011年は銀行と南欧の債務が絡み合った危機だったが、今回の不安の発火点はフランスの予算と少数政権である。ユーロドルが1.11ドル台で下げ止まっているのは、市場がこの違いを認めているからとみることもできる。
だが残り半分には穴がある。今回のECBには「何でもする」と言いにくい事情がある。ラガルド総裁は10月中旬、「第一の解決策はフランス国内にある」と述べたとAFP通信は伝えた。国債の買い入れで特定国の利回り上昇を抑える仕組み(TPI)は一度も使われておらず、アナリストの間ではフランスは発動の条件を満たさないとの見方がある。つまり、2012年7月のような天井知らずの安全網は、いまのところ見えていない。
もう一つの違いはドル側である。2011年の米国はゼロ金利で、ドルを持っても利息はほとんど付かなかった。いまは米10年債が5.13%(米財務省、21日)の利回りを生む。ユーロを売る理由がフランスにあるだけでなく、ドルを買う理由が米国にもある。ユーロドルの下値が2011年ほど深く掘られない代わりに、戻りも鈍い。これが現在の1.11〜1.13ドルの狭い箱の正体である。
歴史が示す3つの教訓
- 格下げは「噂で売って事実で買う」。2012年1月、格下げの発表後に仏国債は売られなかった。23日に予定されるムーディーズの見直しも、結果より「どこまで織り込まれているか」が問われる。
- 底を決めるのは中央銀行の言葉。LTROもドラギ発言も、財政の改善より先に来た。29日のECB会合で、ラガルド総裁がフランス国債について何を言い、何を言わないかが最大の材料になる。
- 最初の反発は本物とは限らない。2012年2月の戻りは、7月の安値の前触れにすぎなかった。予算の採決が延びるたびに、同じ不安は繰り返し戻ってくる。
今回固有の監視点とシナリオ
フランスの政治日程から確認する。国民議会の公式日程によると、2027年予算案の歳入部分の採決は11月3日の午後に予定されている。もとは10月20日だったが、2,000件を超える修正案が残り延期されたと報じられている。予算全体の採決は11月17日の予定だ。少数与党を率いるルコルニュ首相は、議会の採決を経ずに法案を通す憲法49条3項を使う可能性もあると伝えられる。使えば不信任案の提出を招きやすい。
格付けは、ムーディーズが現在Aa3で見通しはネガティブ、次の見直しは23日(金)と報じられている。S&PはA+で見通し安定、次の見直しは11月27日とされる。金融政策は、米連邦準備制度理事会(FRB)が10月27〜28日、ECBが28〜29日に会合を開く。ECBの中銀預金金利は2.50%で、10月は据え置き、12月に利上げの可能性があるとの見方が多い。
ユーロドルの節目(ドル)
読み方:青が現在値、橙が本誌が重視する節目。現在値は52週安値と10月16日の高値の間にあり、50日線・200日線はともにはるか上にある。移動平均はヤフー・ファイナンスの日足終値から本誌が計算した概算。
| シナリオ(今後1カ月) | 確率(本誌) | 想定レンジ | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 基本:狭い箱の継続 | 50% | 1.111〜1.135ドル | ムーディーズは据え置き。ECBは10月据え置きで12月の利上げを残す |
| 下振れ:1.10ドルを試す | 30% | 1.095〜1.111ドル | 格下げ、49条3項の行使と不信任案、仏独スプレッドが190bpに迫る |
| 上振れ:50日線を試す | 20% | 1.135〜1.145ドル | 11月3日の採決通過、ECBのタカ派姿勢、米金利の低下 |
本誌の見立ては「1.12ドル台を中心とした箱の中で、下抜けのリスクがやや大きい」である。撤退線は日足の終値で1.1270ドル(10月16日の高値)を上回った時点とし、そのときは下振れリスクの見方を改める。逆に1.1114ドル(10月14日の安値、52週安値)を終値で割れば、2011〜12年の局面でいう「11月の段階」に入ったとみる。判断は一時的な値動きではなく、日足の終値で行いたい。格付け会社の発表は欧州の金曜の取引終了後に出ることが多く、週明けに窓を開けて始まる可能性もある。週末をまたぐ持ち高には注意が要る。
前回の採決延期の時点での見通しはこちら、日本の投資家が持つフランス国債の規模はこちらの記事で扱った。ユーロ円の値幅の見方はユーロ円見通しを参照してほしい。FX取引の基本は本サイトのFX解説ページにまとめている。
主な参照
- ユーロの参照レート(2011〜2012年、2026年10月21日)/欧州中央銀行(Frankfurter経由)
- 政策金利と会合日程/欧州中央銀行、米連邦準備制度理事会
- 2027年予算案の審議日程/フランス国民議会
- 仏10年債利回りが2002年以来の5%台/フランス24(AFP)
- 2011年11月の仏独スプレッド(164bp)/アハラム・オンライン(AFP)
- 2011年11月15日の190bpと2012年2月の縮小/investingLive(MNI)
- 2012年1月の格下げと市場の反応/Wealth at Work
- 米国債利回り(10月21日)/米財務省
データ基準日:2026年10月22日(日本時間7時52分)。ユーロドル1.1233ドルは取引時間中の気配値で、終値ではない。2011〜12年の数値はECBの参照レート(中央ヨーロッパ時間14時15分の値)で、取引時間中の高値・安値ではない。フランス10年債の5%台は10月21日の取引時間中の水準で、終値で5%を上回ったかは確認できていない。仏独スプレッドの水準は報道によって幅がある。ムーディーズの見直し日、49条3項の行使の可能性、ラガルド総裁の発言は報道ベースである。移動平均(50日1.1451ドル・200日1.1578ドル)はヤフー・ファイナンスの日足終値を基に本誌が計算した概算値。シナリオの確率と撤退線は本誌の判断であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















