14日夜の米CPIで投げさせられた向きは、15日の安値2,320ドル台を見て歯噛みしただろう。イーサリアム(ETH)はその後2,400ドル台に戻したが、戻りは鈍い。日本時間17日7時43分の気配は2,422.98ドル、円建てでは38万2,749円だった。同じ時間帯のビットコインは8万1,665ドルで、10月6日の終値から4.5%安にとどまる。一方、イーサリアムは同じ期間に10.2%下げた。下げ幅はビットコインの2倍を超える。
筆者が気にしているのは値幅そのものではない。買い手が一つずつ席を立っていることだ。米国の現物ETFからは9月29日以降、13営業日のうち12日で資金が流出した。最大の買い手だった上場企業ビットマインは「供給量の5%で買いを止める」方針と報じられ、ヴァンエックはステーキング型ETFの申請を14日に取り下げた。本稿では需給の中身を順にほどき、水準の地図と筆者の見立て、撤退ラインまで言い切る。
テープ:CPIの夜、先に崩れたのはイーサリアムだった
米労働統計局が14日朝(米東部時間8時30分)に発表した9月の消費者物価指数は、前月比0.6%上昇、前年同月比3.7%上昇だった。食品とエネルギーを除くコア指数も前月比0.3%上昇。ガソリンは1カ月で9.1%上がり、総合指数の上昇分の半分超を占めた。物価の数字が熱いと、市場は利上げを意識する。中身の詳細は米9月CPIの解説記事で扱った。
そこから約16時間で暗号資産の先物市場は一掃された。コインデスクがコイングラスの集計として伝えたところでは、24時間の強制決済(ロスカット)は全体で約10億ドル。このうちビットコインとイーサリアムの先物が約4億8,300万ドルで、イーサリアムが約2億8,600万ドル、ビットコインが約1億9,700万ドルだった。時価総額でビットコインの5分の1にも満たない通貨が、投げの6割を出した計算になる。
日足で見ると、15日(協定世界時)の安値は2,320.50ドル。8月19日の終値2,251ドル以来の水準まで突っ込み、そこから引けにかけて2,440ドル台まで戻した。下ヒゲの長い足は、投げが出尽くした形に見える。だが翌16日は高値2,486ドルで押し返され、2,400ドル台前半に沈んだ。戻り売りが待っている、というのが正直な読みである。
10月6日終値からの騰落率(10月17日7時43分 日本時間)
読み方:同じ期間にイーサリアムはビットコインの2倍超下げた。比価(ETH/BTC)は0.03153から0.02967へ5.9%低下。10月6日は日足終値(協定世界時)、足元は10月17日7時43分(日本時間)の取引中の気配値。出所:ヤフー・ファイナンスのデータから本誌計算。
需給の解剖:席を立った3つの買い手
1. 現物ETF:流入はたった1日で終わった
ソーソーバリューの集計によると、米国のイーサリアム現物ETFは13日に2,484万ドルの純流入となり、9月29日から続いた10営業日連続の流出をいったん止めた。ところが14日は1億2,951万ドルの流出、15日も6,022万ドルの流出である。15日の内訳はブラックロックのETHAが4,439万ドル、グレイスケールのETHEが1,828万ドルの流出で、流入はフィデリティのFETHの244万ドルだけだった。
米国の現物ETFの日次資金フロー(百万ドル)
読み方:13日の流入は1日で終わり、イーサリアムETFは14日・15日と続けて流出した。ビットコインETFは15日に小幅流入へ戻った。出所:ソーソーバリューの集計を報じたトークンポスト、24/7ウォールストリート。16日分は本稿執筆時点で未公表。
比べるとビットコインの現物ETFは、14日に2億6,146万ドル流出したものの、15日は506万ドルの小幅流入に戻っている。同じCPIを浴びて、ビットコインには買い戻しが入り、イーサリアムには入らなかった。ETFの純資産はイーサリアムが152.9億ドルで時価総額の約5.10%、ビットコインは1,057.1億ドルで約6.41%。器が小さい分、1日数千万ドルの流出でも値動きに効く。
2. ビットマイン:最大の「買い支え役」が上限を示した
この1年、イーサリアムの下値を支えてきたのは、トレジャリー企業と呼ばれる「財務でETHを積み上げる上場企業」だった。その筆頭がビットマイン・イマージョン・テクノロジーズである。同社の9月28日の発表では、27日時点の保有は600万1,302ETHで、総供給量1億2,210万ETHの4.9%にあたる。その週も1万7,362ETHを買い増していた。
問題はこの先だ。トークンポストは、同社会長のトム・リー氏が10月7日に「5%が上限になる」と述べたと報じている。10月11日時点の保有は602万8,946ETHと報じられており、5%(約610万ETH)までの残りはおよそ8万ETH、現在値で2億ドル弱にすぎない。毎週1万〜2万ETHを買っていた主体が、あと数週間で買いを止める計算になる。会社からの正式な発表は筆者は確認できておらず、ここは報道ベースの話として扱う。
3. ヴァンエック:ステーキングETFの申請を取り下げ
米証券取引委員会(SEC)の開示システムには、14日付でヴァンエックの「リド・ステークド・イーサリアムETF」の登録取り下げ申請(フォームRW)が載っている。文面は「予定していた募集を進める意図はない」とだけあり、理由は書かれていない。登録は一度も有効になっていなかった。
ステーキング(保有ETHを預けて利回りを得る仕組み)付きのETFは、イーサリアムの強気派が「ビットコインにはない武器」と呼んできた商品だ。新しい買い手を連れてくるはずの器が一つ消えた。この1件だけで値段が決まるわけではないが、需給の物語が細ったことは確かである。
水準の地図:2,320ドルと2,535ドルのあいだ
イーサリアムの水準の地図(ドル)
読み方:2,320ドルと2,535ドルの間が今の土俵。下は2,320ドルの終値割れで2,251ドル、上は2,535ドルの終値超えで筆者は弱気を撤回する。出所:ヤフー・ファイナンスの日足(協定世界時)、水準の選定は筆者。
下は2,320〜2,350ドルが最初の砦になる。15日の投げの安値が2,320.50ドルで、コインデスクも底を2,350ドル近辺と書いた。ここを日足の終値で割ると、次は8月19日の終値2,251ドルまで目立った足場がない。8月以降、2,250〜2,320ドルのあいだで引けた日は一度もないからだ。その下の2,000ドルを口にするアナリストもいるが、筆者はそこまでの根拠を持たない。
上は2,500〜2,535ドルが最初の壁だ。13日の終値2,496.6ドル、11日の終値2,534.7ドル、14日の高値2,526ドルが固まっている。今週はこの帯に3回届かずに押し返された。その上の2,700ドル前後は、9月22日から10月6日まで2,668〜2,726ドルで引け続けた「元の床」で、割れた床は天井に変わりやすい。
ビットコインとの比価(ETH/BTC)も見ておきたい。日足終値から筆者が計算すると、足元は0.02967で、8月10日ごろの0.02928以来の低さだ。ただし「数年来の安値」というのは誤りで、1年の安値は6月6日ごろの約0.0258である。比価が0.029を割れば、イーサリアム固有の売りが続いているサインになる。
筆者の見立て:弱気寄り、戻りは2,500ドル台で売られる
結論から言う。今後2〜3週間、筆者はイーサリアムを弱気寄りにみている。中心レンジは2,300〜2,550ドル、2,320ドルの終値割れなら2,250ドルを試すとみる。2,500ドル台は戻り売りの場であって、押し目買いの場ではない。根拠は3つある。
- ETFの資金が戻っていない。13営業日中12日が流出で、ビットコインETFが15日に流入へ戻ったのに、イーサリアムは戻らなかった。資金の行き先が「暗号資産をやめる」ではなく「ビットコインに寄せる」になっている。
- 下値の買い手が減る。ビットマインの5%上限が報道どおりなら、毎週の買い支えが近く消える。下げたところで拾っていた主体がいなくなる相場は、下ヒゲが短くなる。
- 金利の向かい風が続く。米CPIは前年比3.7%で、米10年債利回りは16日の取引時間中も5.09%台にあった。利回りを生まない資産のうち、値動きの大きい方から売られる局面では、イーサリアムが先に投げられやすい。14日の投げの6割がイーサリアムだったのが、その証拠だ。
もちろん反対側の材料もある。15日の長い下ヒゲは、先物の買い持ちがかなり整理されたことを示す。ポジションが軽くなった相場は、ちょっとした好材料で踏み上げやすい。それでも筆者は、ETFの流入が2日続くのを見るまで、上を追わない。
逆になったら:2,535ドルの終値超えで見立てを撤回
撤退ライン:日足の終値(協定世界時)で2,535ドルを上回ったら、筆者は弱気の見立てを撤回する。今週3回押し返された帯を抜ければ、戻り売りの玉は踏まれる側に回り、2,700ドル前後の「元の床」まで戻る余地が出る。円建てでは、ドル円158円前提で約40万円がその目安になる。
撤退ラインを先に決めておくのは、値幅の大きい通貨ほど大切だ。イーサリアムは1日で5〜6%動くことが珍しくない。国内の取引所で保有している個人投資家なら、円建ての損益だけでなく、ドル円の動きも損益に乗ることを忘れないでほしい。ビットコイン側の大きな地図はビットコインの年末見通しにまとめてある。
来週の監視リスト
| 見るもの | いつ | 筆者が見る数字 |
|---|---|---|
| 米イーサリアム現物ETFの資金フロー | 毎営業日、日本時間の翌朝 | 流入が2日続くか。ETHAの流出が止まるか |
| ビットマインの週次の保有発表 | 直近は月曜朝(米東部時間) | 買い増し量と、5%上限の公式な言及 |
| ETH/BTCの比価 | 日足の終値 | 0.029割れなら固有の売りが継続 |
| イーサリアムの日足終値 | 毎日9時(日本時間) | 2,320ドル割れ/2,535ドル超え |
| 米10年債利回り | 米国の取引時間 | 5.1%台を上抜けるか |
相場は需給で動く。金利でも、技術の物語でもない。今のイーサリアムは、買い手が一人ずつ去り、売り手が戻りを待っている相場だ。その構図が変わるサインは、ETFの連続流入という形で必ず数字に出る。筆者はそれを待つ。量子計算リスクなどビットコイン固有の論点はこちらの記事で扱った。
主な参照
- 米9月消費者物価指数(2026年10月14日発表)/米労働統計局
- 暗号資産の強制決済約10億ドル(コイングラス集計、2026年10月15日0時25分 米東部時間)/コインデスク
- イーサリアム現物ETFの10月15日の資金フロー(ソーソーバリュー集計)/トークンポスト
- ビットコイン現物ETFの10月15日の資金フロー/トークンポスト
- 10月13日・14日のETF資金フロー/24/7ウォールストリート(ヤフー・ファイナンス掲載)、24/7ウォールストリート
- ヴァンエック・リド・ステークド・イーサリアムETFの登録取り下げ申請(2026年10月14日付)/米証券取引委員会
- ビットマインのETH保有(2026年9月27日時点)/PRニュースワイヤー(同社発表)
- 価格と日足(高値・安値・終値)/ヤフー・ファイナンス
データ基準日:2026年10月17日7時43分(日本時間)。イーサリアムとビットコインの価格、円建て価格はこの時点の取引中の気配値で、終値ではない。日足の高値・安値・終値は協定世界時の区切りで、10月16日分は確定前の値である。ETFの資金フローは10月15日分までで、16日分は本稿執筆時点で未公表。ビットマインの10月11日時点の保有量と「5%上限」の発言は報道にもとづくもので、本稿執筆時点で同社の正式発表は確認できていない。ETH/BTCの比価と10月6日比の騰落率は日足終値と上記気配値から本誌が計算した。ヴァンエックの申請取り下げの理由は開示されていない。見立て、レンジ、撤退ラインは筆者の見方であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















